位置情報ゲームの可能性を探求する

西山哲史氏(以下、西山):そうしましたら、次は、もしかしたら1つのソリューションになるかもしれない、岡部さんの取り組みになります。よろしくお願いします。

岡部典孝氏(以下、岡部):我々は2001年から「現実世界と仮想現実世界の融合」というテーマでやってきたスタートアップが母体になっていまして、いわゆる『Pokémon GO』のような歩く位置情報ゲームを使って人々をもっと歩かせたい。そういう思いでやっているスタートアップでございます。

私がCTOの岡部でございまして、もともと実は引きこもりなんですね。ほとんど歩いていなくて、少しプロフィールにも書かせていただいたんですけど、一番ひどい時ですと、1日16〜18時間ぐらいネットゲームをやって、介護用ベッドで寝起きして、起きたらプログラミング書いて、終わったら寝るみたいな、そういう生活を送ってて。

「これはそのうち若いうちに死ぬかな」みたいに思った時もあったんですけど、まずいなと思っていた時に『Ingress』というゲームに出会いまして、先ほども話題に出たんですけど、『Pokémon GO』のもとになったゲームなんですね。

それがもうとにかく歩くゲーム、歩かないとなにも始まらないゲームで、それでハマった結果、『Ingress』だけで9,000キロぐらい歩きまして、いつの間にか脂肪肝は治るわ、心臓はスポーツ心臓になるわ、いいことづくめで。

(会場笑)

けっこう劇的に自分自身が変わったので、「ああ、もうこれは人の行動を変えるすばらしいツールだ」ということで作り始めたのが4年前ぐらいになります。それで、去年新しい会社つくりまして、人々に健康で充実した毎日を提供できるような、そういったツールを作っていこうと。その会社がリアルワールドゲームスです。

運動不足が引き起こす、さまざまな問題

岡部:やはり現実世界とか仮想現実世界がだんだん融合してきて、区別がなくなってきているのを実感してまして。例えば、『Pokémon GO』をやられた方はどのぐらいいますか?

(会場挙手)

そんな少ないことはたぶんないと思うんですけど……。

(会場笑)

たぶん今やっている人がそのぐらいじゃないかなという気はするんですね(笑)。

実際に『Pokémon GO』をやってみたらわかるんですけど、町にポケモンがいるような気持ちになるわけですけど、実際ポケモンはいないわけで、もはや融合して脳内では区別がついていないんです。そこにポケモンがいるような気になって、ジム戦などでたくさん集まるので。

そういった意味では、だんだん融合してくるので、それに伴って新しい価値が創造できるんじゃないかなと思っています。

うちの会社の行動指針。小さいのであまり言わないんですけど、とにかく現場主義というか「実際にやる」ということをすごい重視してまして、みんなプレイヤー目線でやりまくっているんですね。

なので、『Ingress』や『Pokémon GO』が好きな人が集まっている会社で、社長が1万6,000キロぐらい歩いていて、社長室長も1万キロぐらい歩いていて、『Ingress』で出会った人と結婚しましたみたいな会社です。

いわゆるガチ勢の集まりなんですが、ガチ勢が集まった結果、なにをやろうとしているかというと、やはり大きな問題としては、生活習慣病をどうにかしないといけないと。とくに運動不足は便利になればなるほど、非常に増えていく一方なんですね。これはなかなか普通のやり方では解決できなんじゃないかと思っています。

世界中で4.2億人の糖尿病患者がいて、毎年医療費が90兆円かかっているという、めちゃくちゃな数字が出ているので、これを解決するにはどうしたらいいかと思って、やはりリアルワールドゲームスですね。

これは『Pokémon GO』と『Ingress』のユーザーなんですけど「1年でこのぐらい変わった」と言ってまして、まさに別人のようになっていると。

リアルワールドゲームが人々を健康にする

岡部:弊社の場合は、そのリアルワールドゲームの力と、トークンエコノミーと、そのインセンティブを設計する仕組みを組み合わせてもっと人を歩かせることができるんじゃないかと考えています。

あとは、地図の部分を弊社はけっこう大事にしてまして。もともと地図業界とゲーム業界はあまり関係なかったんですが、『Pokémon GO』でも地図は非常に重要な技術ですね。

弊社の場合は、Google Mapやゼンリンは使わないで、地図を自社で生成しているので、コスト優位性があって、その分ユーザーにたくさん還元できるので、地図の技術にはけっこう自信を持ってやっています。だいたいコストでいうと10分の1以下で提供しても利益が上がるように作っているんですね。

なので、今、市場のポテンシャルが『Pokémon GO』で大きくあるのがもうわかっているので、今ほかの会社がいろいろ似たようなゲームを作ろうとしているんですけど、地図代が高いという問題を解決することで、いろいろな会社様が『Pokémon GO』のような人が歩くゲームを作ってくれれば、みんながもっと健康になる未来を描いています。

ちなみに『Pokémon GO』では、今はもっと多いと思うんですけど、ユーザーが歩いた距離が300億キロという、わけがわからない数字になっていまして、医療費削減効果でも600億円ぐらいあるような数字が出ています。なので、もしかしたら、今まで人を一番健康にしたアプリケーションは『Pokémon GO』なんじゃないかと思いますね。

さらにリアルワールドゲームのいいところは、現実の世界のお店や地域経済などとも密接な関係があるのがわかっていまして。

とくに効果があったのが、伊藤園の自販機のキャンペーンはめちゃくちゃ売上が上がったというのがあって。前年同月比で2桁ぐらい上がったみたいなデータが公開されていましたので、かなり効果があったみたいなんですけど。

我々の周りの『Ingress』のガチ勢の方々だと、『Ingress』の自動販売機で、抽選権がついた「お〜いお茶」のキャンペーンだったんですけど、もう売り切れるまで買うんですね(笑)。

(会場笑)

それをみんな「ガ茶」と言っていたんですけど、そのガ茶を回して、そのお茶を会社に持っていって配るみたいなことが行われた結果、自販機の補充に1日3回は行かないといけないことがあったぐらい効果がありました。

最近は、マクドナルドの前で『Pokémon GO』のユーザーが集まりすぎたぐらいキャンペーンが盛り上がったり。そういうことで、実際に人々の行動を変えて人々を動かすことができることが実証されています。

トークンエコノミーを組み合わせて価値を生み出す

岡部:我々は、それにさらにもう強力な飛び道具を加えようと思ってまして、それがトークンエコノミーです。

トークンエコノミーとはどういうものかを、なかなか説明が難しいんですが、例え話をすると、ドラゴンクエストでいう「ちいさなメダルを集めてください」とか、そういう仕組みですね。

要するに、現金で買えないものを用意して、それを手に入れることができる独自通貨を用意してあげて、それを経済圏で回すのをやることによってインセンティブにする仕組みです。

例えばドラゴンクエストでいうと、最初はスライムが出てきて、それを倒すと2ゴールド手に入ることから始まって、それが貯まると「どうのつるぎ」が買えるみたいに、そういうことでインセンティブである「敵を倒しなさい」と行動を教えるわけです。

例えば、「どうのつるぎ」は100円出しても買えないんですね。100ゴールド出すと変えるけど、100円出しても買えないと。そういうものを用意するとゴールドを集めるようになる。それが進むと、ゴールドはだんだん余っていって価値がなくなるわけですけど、「ちいさなメダル」というのが出てきて、ちいさなメダルを集めると「はやぶさの剣」など強い武器が手に入ると。

それはゴールドをいくら集めても手に入らないけど、世界中をあちこちタンスを開けたり壺を壊したりすると、そういう新しいメダルが手に入ると。それがトークンというやつで、それによって人々の行動を変えることができると。タンスがあったら開けなさいとか、壺があったら壊しなさいと。実際に行動が変わるわけですね。

これを我々は報酬としてあげるので、それを集める。そうすると、歩くようになる、というのが我々の仮説です。

さらに、我々はいま位置情報を集めているんですね。地図の会社でもあるので、地図のデータの中でもとくに必要なデータというのがPOI。「Point of Interest」と言ったりします。

小さなお地蔵さんとか、あとは名もなき神社とか、あとアートオブジェとかですね。そういうデータってなかなか集めるのが大変なんですね。その目の前まで行って写真を撮って、さらに解説とか住所とか書かなきゃいけなかったりするので、すごい手間がかかるんですけど。

それでは、歩く人にそれをやってもらおうということで 、「Proof of Walk」という概念を作りました。「Proof of Work」がビットコインの仕組みで、要するに電力を消費するとビットコインがもらえる仕組みになっているんですけど、我々は、歩いて脂肪が燃焼したらコインをあげるプロジェクトをやっているんですね。

ただ歩くだけじゃなくて、例えば神社の写真と住所を我々に教えてください、審査してOKだったらコインあげます。そうすることで、ある意味、町を新しい宝探しの場所に変えて、神社や公園などに行ってほしいと思っているんですね。そういう歩く目標物になるデータを集めてもらいます。

そういうデータを集めた人に我々はコインをあげて、あとは企業と提携してコインの使いみちを用意して、そのコインじゃないと手に入らないようなものをいろいろ準備していくと。この経済圏を回そうとしているんですね。

経済圏を循環させる仕組み

岡部:さらに企業さんも、お客さんが歩いてきてくれたら、(製品を)買ってもらえる可能性があるので、広告費みたいなかたちでコインでもらえれば、それでコインだけでも経済圏が循環するんじゃないかと。そういうことを今やろうとしています。

これがうまくワークすると、弊社はあまりお金をかけなくてもいろいろな情報が集まって、人々の歩数が増えて、予算も使わなくていいので、自治体さんもハッピー、企業もハッピー、我々もハッピーという関係が築けるんじゃないかと。

ここが今まさに仕掛けているところで、いろいろな困難がきっとあると思うんですが、なんとか成功事例をうまく出して、それをもっといろいろなノウハウを還元してよくしていきたい。いろいろな仕掛けづくりをなるべく予算をかけないでやっていきたいと思っています。

ビジネスモデルとしては、弊社は地図の基盤を提供するので、いろいろな会社さんが簡単に『Pokémon GO』のようなゲームアプリや、あとは健康になるような、歩くスタンプラリーアプリ、走るアプリなどは地図を提供すれば、簡単に作っていただけるようにすると。

その代わり、地図の使用料として一部いただく。そのお金は現金でいただいてもいいですけど、トークン、我々の仮想通貨のようなもので払っていただくと、大幅に割引くビジネスモデルでやっています。

あとは、ソーシャルインパクトボンドが最近だいぶ普及しそうな気配で出てきていますので、まだ時間はかかるかと思うんですが、うまくエビデンスが出たらソーシャルインパクトボンドをやっていって、医療費削減したうちの一部をいただけると、より企業の収益性としては上がるかなと思っています。

実はユーザーが歩くのは経済活動にとってかなり大事なことだなと思ってまして。もちろんAmazonでポチッとやったら届くんですが、歩くと、いろんなお店の前を通って、お腹が空いたりしたら、そこで食べたりするので、けっこう経済活動に結びつくんですね。

実際『Pokémon GO』で試算しても、1キロ歩くと10円ぐらいの経済活動には結びついていると思ってまして、ユーザーが歩けば歩くほど、地域も潤うし、我々のような会社も潤うし、ユーザーさんも健康になるということで良いことづくめじゃないかと思っていますので、我々「歩く」ということ、どれだけユーザーが歩いたかを1つのKPI、ベンチマークにしています。

楽しく健康になれるアプリが持つ価値

岡部:やはりゲーム性があったり、ランキングがあったりすると、一部のガチ勢の方を中心にかなり歩くので。我々もたまたま先日10日間のランキングやったんですけど、やはり上位の方は200キロぐらい1人で歩いていたので、1日20キロということで、やはりかなり歩かれる方もいらっしゃるなと。平均すると1キロぐらいなんですが、1キロ歩くだけでも平均としたら十分かなと思っています。

うちの会社は本当にスタートアップで、今はお金を集めて、ある意味、お金を使いながらエビデンスをこれから出していかなければいけない段階なんですが、比較的良い数値が出てきていますので、これからどんどん広げていきたいなと思っています。

ぜひ業務提携などができる会社さんを募集していますので、何かありましたら、ポスター展示もやっていますので、よろしくお願いします。

あと、NewsPicks。仮想通貨なども絡めているとメディアに取り上げられやすくて。たまたまブックマークサイトとかで2,000ブックマークぐらいされてバズったりして、あまり広告費用をかけなくてもそこそこ宣伝できているというような、いいところがあります。

「実際に『Pokémon GO』みたいなゲームで歩いて、ついでに仮想通貨ももらえて、健康になったら良いことづくめだよね」という感じでわりと好意的な意見が多かったので、手応えを感じています。

「ビットにゃんたーず」というアプリ、先日フィールドテスト開始しまして、リリースしたあと、今はもうすでに誰でもダウンロードできるようになっているので、よかったらぜひやってみてください。

弊社のメンバーとしては、先ほどもお話ししたんですけど、1万6,000キロぐらい歩いている代表と、1万キロぐらい歩いている私、ほかにも1万キロぐらい歩いている中心メンバーがやっているガチ勢の会社ですので。

そういう知見をもとに「もっと健康にしたい」みたいな課題があるところがあったら、ぜひディスカッションをさせていただいて、一緒に新しいことを生み出していければいいなと思っています。よろしくお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)