2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
石井遼介氏 プレゼンテーション(全1記事)
提供:株式会社ZENTech
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石井遼介氏:こんばんは、石井遼介と申します。今回は竹林さん(注:オムロン株式会社 イノベーション推進本部 SDTM推進室長の竹林一氏)にお越しいただいたということもあるので、僕もちょっとイノベーション寄りのお話に仕上げてまいりました。3分の1の方がリピーターということなので、前回とあまり被らないようにお話しさせていただければと思っています。
といっても、3分の2の方は私のことをご存知でないと思いますので、簡単に自己紹介から入らせていただきます。行動科学という分野の研究者をしているかたわらで、学生時代から3社を創業してきました。創業といいましても、主にゼロイチでプロジェクトを立ち上げて、なんとか回るようにするところまで、雑用を含めて「なんでもやる」式の、プロジェクトマネージャーとして、いろいろとやらせていただいています。
もともとは東京大学で精密機械工学という分野を専攻しておりまして、基本的に私はエンジニア、工学者でございます。今はプログラミングをする人=エンジニアみたいに言うこともあるんですけれども、ここで言うエンジニアは、もう少し広い意味での「工学」を意味します。工学って基本的には数学と自然科学を使って、同じ条件であれば再現可能な、役に立つものを作るというのがベースです。なので、今回のテーマである「心理的安全性」についても、ふわっとした「いいよね」って話ではなくて、なにか問題解決の役に立つプロセスとしてのお話ができればいいかなと思っております。
「3つの会社を作りました」といったことを(スライドに)書かせていただいたんですけれども、ちょうど3社目の創業直前のお話からさせていただきます。慶應義塾大学に前野隆司先生という、幸福学の分野で有名な方がいらっしゃいまして。たくさんの著書がございますし、このなかにもご存知の方はたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います。その行動科学・ウェルビーイングの研究者である前野先生のもと、の研究員というかたちで研究をさせていただいております。
そこで「メンタルを鍛える計算ドリル」みたいなものを作りました。質問フォームみたいなところに自分でいろいろ書いて質問に答えて埋めていただき、60分から90分くらいこのプロセスをやっていただくと、うつ度とか不安度が統計的有意に改善するプロセスを作りました。ちょうど先週、弁理士さんから連絡がありまして、特許が取れたみたいです。
(会場拍手)
ありがとうございます。(スライドを指しながら)特許文書も内容が難しいので、誰でもわかるようにしたいなということで、本を書かせていただきました。『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』という本です。「私は元気だからあんまり関係ないかな」という方もいらっしゃるかもしれませんが、この本で使っているプロセスは、社会ですでに成果がでている人が、もっと成果を出していくうえでも役に立つと思っています。例えば、オリンピック選手のメンタルをサポートするみたいなところで活用しています。このように、アカデミアの知見と、それを実生活や実ビジネスに活きるようにつなぐ、という領域で、さまざま活動をしてきました。
今回はイノベーションという話なので基礎的な内容は前回の記事に譲るとしまして、イノベーション周りで紹介しますが、シンガポール・スタンフォード・バイオデザインっていう「医療機器にイノベーション起こしましょう」みたいなコースがシンガポールにあります。シンガポール国立大学をはじめ、シンガポール中の大学が集まって、スタンフォード(大学)と共同でやっているプログラムなんですけれども。ちょうどそのチームに12月まで所属して学んでいました。
けっこう医学界の重鎮が勢揃いしている場でして、(スライドの写真の)右側がポール・ヨック先生っていう、血管造影術というんですが、糖尿病になった人の血管にプラークが溜まっているのを、血管を広げてうまく血が通るようにする手術を発明した人です。この先生のおかげで、たぶん数百万人以上の命が救われている。そういうイノベーションをつくる場から学んできたことも含めて、本日はお伝えできればと思います。
最近では、日本版の心理的安全性を研究しようということで、パイロットスタディのようなかたちでなんですけれども、「日本ポジティブサイコロジー医学会」という学会が福岡であり、こちらで発表をさせていただきました。これからこの研究でわかったことを、いくつか紹介させていただこうと思います。
(竹林一氏に向かって)「しーさん」とお呼びしていいんでしょうか、先ほどお話を聞かせていただきまして、1つここでピックアップしたいなと思いました。心理的安全性を確保するには、とくにリーダーの心理的柔軟性、つまり心のしなやかさというパラメーターが大事だってことが見えてきたんですね。われわれは「ACT」という、心理的柔軟性の科学をけっこう深掘りしていて、先ほど(紹介した)書いた本もその科学に基づいていたりするんですね。
心理的柔軟性の基礎って、「Will」、つまり「やりたいこと」が大事だということが、すでに心理的柔軟性の研究からわかっています。言われてみれば、そうですよね。「柔軟にいこう」っていうのは、やりたいことや達成したいことがあるからこそ、柔軟にいろいろ試すのであって。「僕は一生遅刻してはいけない。遅刻しないために生きている。遅刻はなによりも悪!」みたいな意識になっていたら、柔軟ではいられないですよね。
Will、つまり やりたいことがあって、高い目標だから柔軟である必要があるっていう点でも、しーさんのような実践者のお話と、アカデミアの知見が交わるのだな、と感じた次第です。
もうすこし、実践者寄りで言うと、「3社立ち上げました」とか「本を書きました」とか「研究もしています」なんてことを話すと、よく、そんなにたくさんのことができますねって言われるんですね。けれども実は、僕のなかでは「説明する」「プロセスを作る」「リサーチをする」っていう3つのことしかやっていないんです。やりたいこと、Willをやり続けていると、いろいろな未来が、結果として描けている、みたいなところですね。
というわけで、そろそろ本題に入りたいと思います。「チームの心理的安全性の科学」といっても、そもそも「なぜ心理的安全性が必要なんだ?」っていうところですね。原典となる論文を1本だけ引っ張ってきました。(スライドを指しながら)一番重要な、1999年に(ハーバード大学の)エドモンドソン先生が書いた論文がこれです。
「心理的に安全だとチームの学習が促進される。よって、結果として中長期的にチームのパフォーマンスが上がる」という、この一点に尽きるんです。これが本当に、チームの心理的安全性という研究分野で一番大事な論文です。
同じチームを率いるのでも、フォーカスを「成果」に置くのではなく「チームの学習」にシフトするだけでも、心理的安全性な場作りがうまくいきやすそうですよね。
この「心理的に安全だとチームが学習して、パフォーマンスが上がるんだな」ってことを前提に、もう少し安全性とイノベーションの関わりについて、これからお話をしていきたいと思っています。
研究者の間でも「イノベーションとは」については、いろいろな定義があって、すごく複雑なんですね。今は組織イノベーションというところにフォーカスして、定義を2つ持ってきました。1つは「管理的イノベーション」、もう1つは「技術的イノベーション」と呼ばれるものです。
管理的イノベーションとは、いうならばトップからのイノベーションみたいなものなんですけれども。採用とかリソース配分とか、権限、報酬などの管理プロセスとか組織構造の変化をもたらしますよっていうのを「管理的イノベーション」って言います。もう1つ、(スライドを指しながら)現場からのイノベーションって書いていますけど、装置とかシステムとかそういう技術的な変化をもたらすものとして「技術的イノベーション」って書いています。とりあえず今日はこの2軸の話で、今どういう研究が行われているかという話をしたいと思います。
(スライドを切り替えながら)そういったイノベーションを起こすには、「競争」と「協調」のバランスが重要なんですね。競争っていうのは「僕がいっぱい稼いで売上が立ったら、僕に報酬をください。そのかわり、隣の人はあんまりもらえません」っていう、ある種のゼロサムゲームの中で誰がより多く取るかというのを意味します。
一方で協調は、「みんなで焼いたパイだから、みんなで分けようぜ」「全体が増えると、みんなの分け前が増えるからみんな幸せだよね」っていうようなものですね。この2つが競争と協調ですね。競争って、実は業績を阻害する要因にもなるし、向上させる要因にも、どちらにもなりうるんですね。
阻害というのは、競争があんまり激しいと個人的な危機感や不安を膨大させて、同じ会社のメンバーだから情報をシェアしたいのに、人によっては情報を隠す人とかがいたりもしますよね。そういうのが、あまりに競争が激しいところの弊害だったりします。
でも、一方で競争があるからこそ、「一人で勝手にやっといてね」って言われたら諦めてしまいそうな高い目標であったとしても、メンバーを関与させる力があったりもします。良い面と悪い面の両方をうまく見ながら、イノベーションを起こすことに向けていけるといいわけですよね。
元神戸大学で、今は北海道大学にいらっしゃる松尾(睦)先生の「組織内部の競争と協調がイノベーションに及ぼす影響」っていう、まさにドンピシャな論文があって。その先生がどういうことを書いているかっていうのを、1枚の絵にしてきました。(スライドを切り替えながら)それが、これです。
いろんな数字が書いてある図なんですけれども、要は管理的イノベーションであっても技術的イノベーションであっても、競争と協調の両方が大事っていうのが結論のひとつです。
2つ目の結論としては、業績に対する影響というのは管理的イノベーションと技術的イノベーションではどちらか、ではなく、どっちも大事、ということです。
なので、まとめますと、イノベーションを起こすためには競争も協調も、どちらも大事ですよと。そのイノベーションには管理的イノベーションと技術的イノベーションの2種類あって、その両方ともが業績に対して重要ですよ、というものです。
ちなみに競争と協調自体にも、ある程度の関係があるとされています。つまり、そこそこ競争が起きている職場では、そこそこ協調も起きている。なので単にぬるま湯(協調)だけ、単に競争だけということではなくて、よい職場では、競争も協調もどちらも高いレベルで存在して、イノベーションが起きている。
一方で、そうではない職場では、競争も協調も低いレベルで、イノベーションもあまり起きない、という傾向にあるんだ、というのが、この先生の論文から読み取れることなのではないかなと思っています。
これはリピーターの方には再度のお話しになるんですけれども、コンフリクト(衝突)という話をしたいと思います。組織論という学問分野の中で、3種類のコンフリクトが定義されているんですね。
1つ目は人間関係のコンフリクト。「あいつ嫌いやねん!」みたいなやつですね。
2つ目はタスクのコンフリクト。お客様に(ものを薦める際に)「りんごがいいんじゃないか」「いや僕はドーナツがいいと思う」となった場合、どちらも同じくお客様のこと考えていますけど、物の見方が違うわけですよね。そういうことをタスクのコンフリクトと言います。これって、別に相手が嫌いなわけじゃではないですよね。人間関係のコンフリクトではなく、タスクのコンフリクトということです。
3つ目がプロセスのコンフリクトと言いまして、「それはうちの管轄ではありません」みたいなのとか、いかにも儲かりそうなプロジェクトだと逆に「いやいや、その仕事はわれわれのプロジェクトです」って取り合うことで、両方あると思うんです。
この、人間関係、タスク、プロセスっていう、3つのコンフリクトが定義されています。
このコンフリクトは3種類とも、あればあるほど基本的にはチームの業績にネガティブに働くって言われてるんですね。ですが、実はタスクのコンフリクトだけは、心理的に安全な組織であれば業績に繋がるんです。心理的安全性があると、メンバー間の異なる考え方をうまく統合できて、集団がより問題を深く理解するために役に立つ、ということが研究成果として出ています。
これら、コンフリクトも含めて、イノベーションとの関係について調べたのがこちらです。
簡単にまとめますと、健全なコンフリクトは、心理的安全性があることを通じて、イノベーションですとかプロセス変革といったことにプラスの影響があるということです。
今までの話ですが、松尾先生のイノベーションの研究を別にすると、心理的安全性の研究って日本ではほとんどされてないんですね。なのでまずはプロトタイプのスタディなんですけれども、「ちょっと日本で調べてみました」っていうのがここからの話です。欧米と日本の心理的安全性はけっこう違うなと思っていて、例えば日本では「会議では発言できないけれど、課長と直接話して組織に自分の考えをちゃんと伝えることができる」みたいなことがあるんですが、それはそれでいいわけですよね。
でもアメリカの測定尺度とかをみても、こういうことってまったく考慮されていないので。もうちょっと日本人の特性をうまく測れるもの、あるいは日本の組織をうまく測れるものってあるんじゃないかということで、リサーチをはじめました。
今のところの結論としては、日本人の感じる心理的安全性には(スライドを指しながら)この4つ(の因子)があるんじゃないかと思います。もうちょっとデータが増えていくと、5番目の因子が見つかるとか、精度が上がるとかってことは当然あると思っているんですけれども。
1つ目は「助け合い」、2つ目は「話しやすさ」、3つ目は「受け入れ」、4つ目は「新奇歓迎」って書いてあるんですけれども、ちょっと1つずつ見ていきますね。
(1つ目の「助け合い」については)「困ったときはお互い様」因子って書いていますが、(スライドの例を指しながら)この中でいくつかピックアップすると、先ほどの対談のお話にもあったように、チームリーダーが間違いを潔く認めて謝罪することができるかどうかや、つらくてしんどいとき、休みたいとき、それをチームメンバーにうまく共有できるかといったことが「助け合い」、つまり「困ったときはお互い様」因子だと言えるのではないでしょうか。
2つ目の「話しやすさ」。「何を言っても許される」因子って書いていますけれども。気づいたこととか感じたことって、みなさんのチームで自由にシェアできますかってことですね。その感じたこととか気づいたことのなかでも、「それは知らないです」っていうようなことでも、知らないなら知らないって言えるかどうか。
チームに長くいると、だんだん安全になっていくみたいなことってあると思うんですけれども、新しくアサインされた新人だったとしても、「このチームでは自由に発言できる」と感じるかどうか。(スライドに表示された例の)最後のは日本人にとってけっこうハードル高いですよね。けれど実際「部長、僕は違うと思うんですけど」みたいなことが平気で言える組織のほうが、本当は強いですよね。
3つ目の因子にいきたいと思います。「受け入れ」、あるいは「とりあえずやってみて結果は受け入れましょう」ってことですね。(ポイントの)1つは減点主義じゃなくて加点主義かどうか。しーさん のお話にもあった通りで、チャレンジした人を「お前、失敗したじゃないか」って言って切腹せよってかかる組織なのか、あるいは「トライして偉いね」っていう忍者型組織なのか、みたいなところが1つあると思います。
「そんな馬鹿なことを……」って思われそうなことでも、要は業界の常識と反することでも、「ここではちょっと試してみよう」みたいなことができるかどうかが3つ目の因子になります。
最後は、「新奇歓迎」。「問題、異能どんと来い」因子って書いていますけれども、やっかいな問題とか不都合な出来事であったとしても、「これ、われわれの問題じゃないですか?」ってテーブルの上に問題を置くことができるかどうかっていうことですね。「このチームのメンバーと働くことで、私の独自のスキルとか才能が評価されて活用されているかどうか」っていうのが、この4つ目、「新奇歓迎」因子になります。
こういったことを通じていろいろ数値分析をしているので、簡単に紹介をしたいと思います。図にするとこんな感じです。結論としては「日本での『チームの心理的安全性』って、チームの学習を推進しますね」っていうことで、「それを通じてパフォーマンスの向上に繋がりますよ」っていうことがわかりました。つまり、心理的安全性は、アメリカだけで使えるものではなく、日本でも確かに、効果がありそうだ、ということです。
他にもわかったこととしては、話の冒頭で「心理的柔軟性、つまり心のしなやかさって大事ですよね」といった話を少しさせていただいたんですけども、とくにリーダーが心の柔軟性を持っているかどうかが「心理的安全性」にけっこう効いています。1人のメンバーが(心の柔軟性を)持っているかどうかよりも強くインパクトがあります。
また、リーダーが「サーバント・リーダーシップ」という「メンバーを助けるためにそこにいる」というスタイルのリーダーシップスタイルを持っているかどうかということも、「チームの心理的安全性」によく効いていました。
2つ目は、「幸せな社員」と「『うちのチームイケてるやん』と思っている社員」と「心理的安全性の高い社員」っていうのは、仕事にエンゲージしているということ。そりゃそうだろうという感じですけど、それがちゃんと数字でも示せたのは、科学として1つ前進かなと思っています。
今回も、アンケートに回答いただいて、けっこうたくさんのこと聞いているんですが、今回測定したいろんなパラメーターのなかで業績とかパフォーマンスに対して一番有効だったのは「心理的安全性」だということがわかりました。
そういうわけで、この日本版(の心理的安全性)の研究をどんどん進めたいと思っていまして、みなさん一人ひとりが協力者です。そういうわけでみなさんもぜひ、今日サーベイにご協力していただきたいと思っています。結果は、こういったイベントや、例えばログミーさんでフォローいただければ、記事などで、社会に還元していきます。
また、協力していただいた方には、今僕が話した(中で使用した)スライドを共有するっていうことと、個別フィードバックとして、それぞれのパラメーターがどうでしたみたいな、全体の平均値とあなたは今このポジションですみたいなものが、個別にメールで届くっていうのをやります。……ちなみに前回のイベントだと200通くらいメールを送って、ちょっと発狂しそうになったんですけど。
(会場笑)
ちゃんと送り切りました。
みんなで助け合って、「日本の心理的安全性」の研究をぜひ前に進めましょうということで、私のプレゼンを終わらせていただきます。ありがとうございました。
(会場拍手)
株式会社ZENTech
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