インフルエンサーに褒めさせるだけの広告は全員が損をする

尾上永晃氏(以下、尾上):それから、これはおまけで。

西村真理子氏(以下、西村):ぜひ。

尾上:広告用などの素材を1つ作って、いろいろなメディアへ勝手に流すようなことをやりがちですが、それはすごく迷惑なのでやめましょう、というものです。

(会場笑)

尾上:知ったことではないんですよね。Instagramに、Twitterのほうに投稿するようなものを流されると本当に迷惑なので、やめたほうがいい、といったものですね。インフルエンサーにとりあえず「うまい」などと言わせているのはむちゃくちゃクソだと言われて(笑)。

(会場笑)

尾上:「Absolutely bollocks」というのは審査員長が言っていた言葉で。口が悪くて……。

西村:すごい(笑)。

尾上:「Totally fuckin’ bull shit」など、いろんな悪いことを言いまくる人でして。

(会場笑)

尾上:とにかく、彼ら(インフルエンサー)がタレントではなく、自分たちと同じところでちゃんとのし上がっていくような人なので、彼らの文脈に乗っていって、彼らが進めることで彼らにとっても得になるのかというところや、文化を踏まえてちゃんと意匠を汲んでいかないと、全員が損するというような。

わりとそうした死屍累々のキャンペーンが日本にはいっぱいあるので、気をつけないといけないと思いました、という感じです。

西村:すごい。

尾上:駆け足になりましたが、すみません。

西村:はい、ありがとうございました。

(会場拍手)

“王室”の中の異端、クラフト部門がおもしろい

西村:すでにもういい感じでお腹がいっぱいになってきました。今日のパネルトークの中にも「2019年に向けての傾向と対策」といったようなものも入れようとしたんですが、傾向と対策を考えられるようなものではなくて、審査基準ももちろん違うし、審査員長にもよるものなのかと感じました。

たぶんこの4名の方々も、お話を聞いていてぜんぜん知らないカンヌがあったと思うので、ちょっと横のカンヌを見てみて、感想というかコメント、もしくはこうした気づきがあったというものがあれば、どうだったのかということを聞きたいと思います。

小助川雅人氏(以下、小助川):では僕から。フィルムのオリジナルは映画のほうから来ているので、そういう意味では、FilmとFilm Craftは、すごく古典なんですよ。ある意味、非常に閉じたまま成長した王室のようなところもあるんです。

そのせいか、フィルムそのものの、しかもとくに細分化したものを評価するCraftということになると、さっきのロンドンっ子のものは、そんなに評価は高くなかったんですよね。

でも、切り貼りができるというような全体の構造の中で、フィルムができているということにどんどんなっていくと思っていて、そういう視点(が大事)だったり。

それから、フィルムはトップダウンの、「これ、どうだ!」という、「世界一を決めよう」というようなことなんで、カルチャーを一緒に作るというのは、審査というよりは、なにか広告を作っていく上で、そうしたスタンスに立つべきだと思いましたね。

カンヌの審査員も迷いながら選んでいる

西村:望月さんはどうですか? 今、全体(の話)を聞いていて。

望月良太氏(以下、望月):僕は逆に違わないというか、かなり同じような視点が2つあると思ったんですね。

1つが、さっき日本の作品が13個で、今回はあまり振るわなかったという話をさせていただいたと思いますが、今のソーシャルの話も、フィルムもそうで、良いところまで行けない理由は、アイデアの根源が人類共通の価値観に帰属するものではなく、わりと国やエリアといった、コミュニティに属してる小さいものであったというのが理由かと思いました。

カンヌではよく「Universal Human Truth」という言い方をすると思うんですね。人間の根源的な欲求に根ざしたところをベースにしながら、アイデアを膨らませていく。そういったものでないと、いろんな国から来ているいろんな審査員や消費者に対して、働きかけができない。そこはどの部門においても共通してあると思いました。

もうひとつ、これはテクニック的な話に近くて、クリエイティブデータのところは、サブカテゴリが実は10個あって、サブカテに適応しているかどうかということをかなり緻密に見られたんですね。

例えば、データビジュアライゼーションや、リアルタイムオブデータかな? など、いくつかあって、そのときに、キャンペーンとしてはすごくいい、ビジネスリザルトもすごくいいアイデアではあるけれども、ビジュアライゼーションではないから落とされるようなことがあるんです。それはすごくもったいない。

フィルムの話を聞いていて、クリエイティブデータよりもカテゴリ数が多いと思ったんですが、小助川さんの話を聞いて、カテゴリの審査基準によって外れてしまって賞を取れない、次に進めないものは、わりとどの部門でもあるんだろうと思ったりもしたんですね。

小助川:そうですね、日本からだと『OBSESSION FOR SMOOTHNESS』という(米ロックバンドの)OK Goのものが、いろんなカテゴリで評価が高かったんですが、「これは、本当にこのカテゴリなの?」というような議論があって、いいところまで行けなかったということはあります。

意外とまだそうした迷いは審査員にもあると思います。だから、取れるか取れないかは本当に水物です。

望月:正直、審査員10人が違う10人であれば、違う結果になったのではないかと思います。

関係者以外には見えないカンヌの舞台裏

西村:アホな質問かもしれませんが、尾上さんに聞きたいと思います。尾上さんのソーシャルのコンテンツと、望月さんの先ほどのデータのクリエイティブの観点では、当然ぜんぜん違う視点のコンテンツがグランプリになりますよね。

同じカンヌの中から、そうした違う観点のものがグランプリで出てくると、かなり混乱する人もいるのではと思います。

それはカンヌの良さなのかもしれませんが、せっかくいろいろと一つひとつがすばらしい取り組みであって、それをもってしてグランプリを決めているのに、カンヌではそこでのハプニングが、うまく表に出ていない気がしています。

ここにいるみなさんはご存知なのかもしれませんが、すごく価値があることをやっていたり、多面的に世の中を見ているものについて、(ここにいない方々も)もっとその取り組みを知るべきだと思うんです。どうしたらいいと思いますか? すごくざっくりでごめんなさいね(笑)。

尾上:取り組みというのは、何が取ったかということではなく、裏側のことですか?

西村:そうそう。今日のような話です。

尾上:そうですね……。こういったイベントをやるしかないというか(笑)。

西村:ははは(笑)。

尾上:裏側でやっていることは、いろんなパワーバランスで決まってしまう物事もあって、なかなか言えないことも多いんですよね。僕らが言える限りで、審査員に言うというぐらいしかない。

西村:でも、「ダイバーシティを大切にする」ということが出てきている中で、審査のシーンこそが、今の世の中や、世界のステークホルダーの考えかと思えば、もうちょっとそういうところも見えればいいのにと話を聞いていて思いましたね。

尾上:そうですね。カンヌの審査員による審査が終わったあとに、発表・授賞式が毎夜あって、そこで「この賞を発表します」とやっています。その前に、例えばデータライオンだったら、「データの審査員たちはこんな感じの人で、そこから始まります」というものが毎年流れていたんですが、今年はなかったんですよ。

西村:そうなんですか。

尾上:「あれに出るの、かっこいいな」と思っていたら、なかったので。

(会場笑)

尾上:絶望したんですが、それはさておき。今回は雰囲気でつないでいたんですが、あれをもうちょっとドラマ仕立てにするというか、「ここでこういう話があった」「ここでこういう話をした」というワンカットワンカットを抜いて、コンテンツっぽく表現するようなことをカンヌがやれば、議論がわかりやすいとは思いますね。

クリエイティブが社会に貢献していく未来

西村:ありがとうございます。今日はかなりいろいろと、パネルのトークの内容を持ってきましたが、けっこういい時間になってしまったので、ここで今回のタイトルでもある「カンヌはどう進化した? 変わりゆくクリエイティブの意義」というところを、最後にみなさんに聞きたいと思います。

実際に自分がカンヌに行ってきた経験だったり、横の審査の話を聞いている中で、例えば5年前、10年前の自分に比べてというタイムラインで言ってもいいと思いますし、産業ごと、カンヌのカテゴリごとでもいいかもしれません。

クリエイティブの意味が変わってきているのか、いないのかというところを、一言ずつみなさん方からいただきたいと思います。小川さんから聞いていってよろしいでしょうか?

小川丈人氏(以下、小川):みなさんのお話を聞いていて、本当に思ったのは、確かに今年はデジタルライオンがなくなるということをすごく感じました。

小助川さんの『HOPE』も、結局ハッシュタグで「#NOTATARGET」というように入っていて、普通であれば本当にあれだけ感動するムービーなら、そこですでに感動しているのに、その先、放つという仕掛けになっている。クリエイティブデータのほうも、実際に音声の技術を使って歴史を変える(というところから)、さらに倫理観のようなところまでちゃんと訴えられるようになっているのかという(観点が入っていて)。

小川:ビルドアップ型も、本当にデジタル、SNSがなければできないものだったりしていくので、そのタイミングで、新しいものの見方や技術といったアイデアが開発されていくように、クリエイティブは、本当にどんどん拡張されていくものなので、ただ単純にソリューションするものでもあり、イノベーションするものなのです。

ほとんどがクリエイティブの産業に従事をされていらっしゃる方だと思いますが、僕らはやっぱり本当にクリエイティブ、クリエイティビティを使って、どのように、ビジネスの先、世の中を変えていくのかという領域まで踏み込んできているということを、お三方のお話を聞いていて強く感じました。

西村:それは今の話で言うと、一企業のためというより、社会のために貢献していくのがクリエイティブになっているということですかね? 

小川:そこまでも領域に入るんだなと強く思いましたね。

西村:ありがとうございます。