前田裕二氏の言葉を自分ゴト化する能力
高濱正伸氏(以下、高濱):昨日NHKかなにかで、ちょろっと見たんですが、赤ちゃんにビデオで中国語を見せてもまったくわからないのに、人がしゃべってくれると自然とすごくわかるという。
岡島悦子氏(以下、岡島):だから、私は今すごくシャドーイングをしていますよ。脳科学者に(生後)8ヶ月ぐらいまではすごくシナプスがつながると言われたので。
ただ、確かにYouTubeやNetflixを見せるだけではダメなので、Netflixで見ているドラマのシャドーイングです。彼らがしゃべっているのをそのまま娘にしゃべりかけるというのをひたすらやって、今はいろんな言語を浴びせかけています。
高濱:僕が一番言いたかったのは……。
(会場笑)
岡島:ごめんなさい(笑)。
高濱:人間というのは、横にいる人間の影響をものすごく受け続けながら暮らしている。だから家族というユニットはすごくでかいし、会社も同じで、ずっと机を並べている人から無意識にすごく影響を受けています。
岡島:一方で、私には今かわいがっている経営者がたくさんいるんですけれども、その筆頭にSHOWROOMの前田裕二というのが(いて)、こんなにフィーチャーされる前から、息子のように毎日やりとりをしています。それで私の目利き力がおわかりいただけるかと思うんですけれど。
(会場笑)
ご存じの方もそうではない方もいらっしゃるかもしれませんが、彼はいろいろな不幸があって、お兄ちゃんはいるんですけれども、8歳で天涯孤独という状況なんですね。
ただし、今の話でいうと、言葉の感覚はすごく研ぎ澄まされています。ものすごくメモ魔なんですよ。いろんなところ……NewsPicksなどでメモ術などをやっているのでご存じの方も多いかもしれないですが、彼は日々抽象と具象の行き来ということをすごくやっています。
私は最近、彼のインタビューなどで「これ、私が言ったやつじゃん」というのをよく目にしていて。
(会場笑)
「幸せの定義とか、この間、私が言ったよね?」というように、完全にパクられているんです。私が言ったことをパクっているのは全然いいのですが、秋元康さんが言ったような言葉を自分ゴト化しているということです。
つまり、なにが言いたいかというと、先天的に家族に恵まれていなくても、彼は10歳ぐらいで覚醒して、お兄ちゃんを喜ばせるために自分で稼いできたんです。そういう意味では、後天的にでもきっとそこはできると思っています。
ただ、彼は努力の方法をすごくよくわかっているので、そういうことができるようになっているんだろうなと思いますね。
人間力を磨いていけば生き残れる
中竹竜二氏(以下、中竹):今、メモの話をしていましたが、お二人とも本当にずっとメモを(していて)。私はまったくしていなくて、痛々しくてなんか。
岡島:いやいや(笑)。
中竹:お二人は、ふだん私と対談をやっているときでも、本当にメモるんです。私はそれを見て、「確かにこんなことを言っていたな」と、いつも思うんですよ。
岡島:(笑)。
中竹:やっぱり言葉を大事にされている方は、これから活躍していくのかなと思いました。たぶんこれから激動の時代というか、先が読めない時代になってきています。
実は、スポーツのコーチングの世界にも、AIコーチが出てくるという話が出てくるんですよ。人間の視線で反応するロボットが開発されたという話が確か昨日発表されたので、たぶんもう商品化されます。
そうすると、(人間の)コーチにとったら大事です。この人がなにを見ているか、どこを見ているかによって態度を変えていくロボットが出てくるという、これはほぼAIコーチなんですよ。
そこの領域だけは我々人間が持っていると思っていたら、(そこの領域も)どうなるかわからない時代になってきたときに、この先、たぶんここにいる経営者の方も、多くの方がいろんな不安を抱えていると思います。先の読めない時代のなかでも、とにかくどこを見て、なにをがんばればいいのか、ぜひ最後にお二方からみなさんにエールをお願いします。
高濱:僕からお話しすると、最近はわりとシンプルにまとまってきて、人間の力を自分なりに分類しています。その一番芯になる土台のところは、やっぱり愛情なんですね。そこがないと上に咲かないし、その上に非認知能力がある。これはなにかというと、自分で決めてやり抜くことで身につく、自信や社会性などの伸びにつながるものですね。
馬鹿にしてはいけないのは、その上に、基盤力と呼んでいる「ちゃんと漢字がわかる」ということをやらなければいけない部分がやっぱりある。
その上が今議論されている部分で、1つは人間力勝負だと思うんです。さっき言ったように、人間はどうしても人間が好きだから、「このお医者さんになら診てもらいたいかな」ということは、なくなるわけはない。だから、そういう魅力を磨いていけば絶対に生き残れる。
人生100年時代に最も大事な資質は「変化上等」しかない
高濱:もう1つは、さっき言った専門性です。誰も手を付けていないところをとにかく張っていくというか、そこで勝負してガーッとやると、1つパッと突き抜けていきます。だから、そこの2つかなと思っているんですね。
今まで優秀と言われた枠は基盤力までですが、そこから先の人間力を育てることはものすごく難しいんです。うちは友達申し込みなしの、異学年でサマースクールへ行くような生活経験をさせています。しかも障がい児もいたりする。相当に「ええーっ」という時間なんです。
でも、おもしろいのは、さっき言ったのと同じ効果で、子どもに「あなたは3班だよ」と言うと、絶対に3班を好きになってくれる。これは絶対にそうなる。この家族について、「ちょっと面倒な家族だけど、なんとか一緒にやるしかない」と思うと、「車椅子が通れないじゃん!」と、一生懸命リーダーにも怒ってくれるということがたくさん起こります。
そういった多様な経験を世の中がたくさん与えないといけないので、今はやっぱり逃げているんですね。「なにかあったら困る」ということで、全部わかりやすい文脈だけにしてやってしまっている。そのあたりの多様な経験がこれからの教育には必要だし、意味があるのではないかと思います。
中竹:ありがとうございます。
岡島:ありがとうございます。文化などと言われていますが、本当に時間軸がちょっと伸びてしまっていて。人生100年だし、ここからのリーダーはけっこう長期でやらなければいけないと思っているんですよね。そうなってきたときに、最も大事な資質はなにかというと、「変化上等」というものです。もうこれしかないと思っています。
変化が来たときに「うわー、今までの私のスキルがまったく効かなくなってしまう」と言って守りに入るのは最悪です。なにかちょっとでも新しいことが起きそうなときに、「これに私はなにを足したらいいんだろう?」と言って、変化に適応していかないと淘汰されてしまう。そして、その中で部族争いをする構造になってしまいます。
200人ぐらいの経営者と日々話していることは、当たり前ですが、自分の頭で考えられて変化に適用できる人材をつくることばかりをやっています。その上で、たぶんもっと大事になっていくのは、AIにできないことはなにかを見極めるという話なので、強みの戦いという話になります。