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中国アリババグループ ジャック・マー会長特別対談(全2記事)

【全文1/2】ジャック・マーが語った「ビジネスの成功に共通する鉄則」 日本の若者たちへ熱きレッスン

2018年4月25日、アリババグループを創業したジャック・マー氏が早稲田大学での特別対談に登壇しました。EAGLYS・CEO今林広樹氏ら早稲田大学の学院生と准教授の3人が、マー氏に質問を投げかけるかたちで対談は進行。マー氏は、若き起業家たちにリーダーシップの理想像やアリババ創業時のエピソードを熱弁しました。特別対談の内容を全文書き起こしでお送りします。(写真提供:早稲田大学)

早稲田の若き起業家たちと対談

司会者:まず簡単に自己紹介をお願いします。それぞれのビジネスの内容について紹介してください。

今林広樹氏(以下、今林):今林広樹です。EAGLYSのCEO・創設者です。AI・セキュリティ関連のリサーチャーとして、AI・セキュリティのリサーチをしていました。AIの時代の技術であるデータセキュリティ、データテクノロジーを専門としています。

EAGLYSには3つキーワードがあります。1つがデータ、1つはAI、そしてセキュリティ、これが3つのキーワードです。これらの関係はなにかと言いますと、料理と同じだと思うんです。料理をするときに、データが野菜のような食材、そしてAIはそのレシピである作り方、セキュリティはお皿そのものです。

ですから、良い野菜や良いレシピがあれば、おいしい料理をすることができますけれども、お皿がなかったらどうでしょう? せっかくの料理が食べられない。床においても食べることはできない。そういう意味ではセキュリティが、このデータ・AIの時代においては非常に重要です。まさにインフラです。

EAGLYSのビジョンは、企業がAIやデータサービスを安心して活用することができるインターネット空間を作ることです。EAGLYSとしては、そのセキュアなAIエンジンを提供し、それを使って企業はデータをセキュアに共有し、またAIモデルをクラウドにおいても安全にセキュアに運用できることを目指しています。

司会者:ありがとうございます。それでは質問をどうぞ。

潜在的なニーズ・問題にどう対応すればいいのか

今林:2問ほど質問を用意しました。今、私が会社経営において直面している問題なんですが、1つは、潜在的なニーズについてです。私の今のビジネスは非常にテクノロジー志向なんですが、短期的な問題を解決するよりも、AIの次世代に絡む長期的な問題を解決したいと考えています。

そして、データ・セキュアなAIということで、それが次のAIのモデルになると思います。いわゆるAIカンパニーの多くは今、データをクラウドにあげています。企業はそのデータをクラウドから使うことになります。ですから、そのセキュリティを確保しなければいけないんです。しかし、今、必ずしも認識されていないのは、そのデータのセキュリティです。まずみんなAIをどう作るかに集中しています。

お尋ねしたいのは、アリババは、初期の段階ではインターネットそのものが知られていなくて、人々の批判も受けたと思います。今、私はこれからやることに、いわば批判の目を感じています。

顕在化していない潜在的なニーズ・問題にどう対応すればいいのでしょうか? 一番いいのは顕在化している問題を解決すればいいんですけれども、そうではなくて、潜在的なニーズになにかソリューションを出すことへの批判に対して、どう対応すればいいのでしょうか?

ジャック・マー氏(以下、ジャック):ありがとうございます。

(会場拍手)

まず、このような機会をいただきまして、本当にありがとうございます。早稲田大学のことは、私は小さい頃から日本のテレビなどを観て、絶えず耳にしておりました。たいへん光栄です。今回、この場を設けていただいたことに感謝いたします。

そして、このすばらしい3人の考え方と夢に、私はたいへん感動を覚えています。

3つの「Q」が必要である

ジャック:最初に、大きな課題がチャレンジとしてあると思います。普通は、すばらしい考えやアイデアを持った人たちは、学問にむしろ邁進したいと思い、起業家にはまずならないでしょう。起業家になるような人は学校の成績がよくない方かもしれません。

(会場笑)

ですので、学業に励んで、学位・修士・博士を取り、成績優秀であれば、大企業に勤めることはたやすいことかもしれません。我々のような者といいますか、私どもは本当に自前の起業家です。もうほかに雇い手がなかったので起業するしかなかったということです。

(会場笑)

私が思っているのは、IQ、EQ(Emotional Intelligence Quotient、心の指数)、それからLQ(Love Quotient、愛の指数)が必要です。愛やハートが大事です。

IQ、頭が抜群によければ、成功はたやすいかもしれません。EQが高ければ、非常に厳しい苦難を乗り越えた上で嫉妬にうまく付き合うことができれば、チャンスも開けるし、成功します。LQがなければ、どんなに成功しても尊敬もされないし、愛すべき人にはなれません。したがってLQも必要です。愛されることも必要。

例えば、博士号を持った若い男性が起業家になるときには注意が必要です。頭のいい人ほど人の言うことを聞かないので、なかなか難しい。本にだいたいの答えが書いてありますからね。

とはいえ、いつもそうとは限りません。ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグを見てください。ハーバードを中退しました。これは少ない例です。(大学を卒業した)私のほうが多数派ではないかと思っています。

なぜ情熱とビジョンが大事なのか

ジャック:起業家には情熱とビジョンが必要です。ビジョンが人と異ならなくてはいけない。つまり、ほかの99パーセントの人とビジョンが同じであれば、みんなが同じことをするので勝算はない。自分が勝てるはずもない。つまり、違うからこそ勝てるんです。そのためには情熱が必要です。

例えば、アリババは創業してから19年やってきました。この19年、毎年、毎月、毎日、いつも「自分たちが正しいことをやっているのか?」「本来、これは仕事と言われるにふさわしいものだろうか?」「本当にそんなことを実現できるか?」と、絶えず自分たちに問うてきました。

自分がやることに対して、確たる信念を持っていなければいけません。ベンチャーキャピタリストが信じてくれるからではありません。資金があるから信じているわけではありません。人が「いい」と言うことを信じてはいけません。

自分なりの方法でしかできないことをできると思うからこそ、自信を持てるのです。人と違うことが起業家なのです。人に対しても、自分を信じてくれという説得力も増します。

最初から、世界中の人々を説得しようと思っても無理です。時間の無駄です。最初は自分の周りのチームの人を説得して引っ張っていけばいいんです。同じビジョンを共有する人たちを、まずチームとして引っ張っていってください。最初からあんまり人と意見が合わなくても心配することはありません。時間と努力が証明してくれます。ビジョンそのものが証明してくれるのです。

これはビジネスの成功に共通する鉄則です。時間は味方してくれますが、明日にすぐ結果が出るとは思わないほうがいいです。明後日や、あるいは来年に勝てると思いますか? 世の中はそんなにたやすくありません。そうだとしたら、ギャンブルと等しいでしょう。

つまり5年、10年先を見越して、心底自分がコミットできることに力を注ぐべきです。人に反対されようが、賛成されようが、好かれようが嫌われようが、「自分はこれだ」と思ったものがあれば、それを向上させることにコミットすべきです。

これは私の生き方そのものです、みなさんも将来そうしてください。

今林:ありがとうございます。非常に参考になるアドバイス、ありがとうございます。

チームと信頼について

今林:IQ、EQ、LQについてです。2つ目の質問ですが、チームのメンバーそれぞれ人生がかかっているなかで、信頼することはとても難しいです。なかなか信頼しづらいこともあります。チームのリーダーとして引っ張っていくなかで、どういうふうに人を信頼していたんですか? 

創業期にどうやって人を信頼することで、チームのメンバーに責任を持ってコミットしてもらったんでしょうか?

ジャック:人を信頼したい場合には、まず自分がチームのメンバーから信頼を得ることが必要です。つまり人が自分を信じてくれること、それがまず最初です。

そのあと自分が信頼できる人でチームを組みます。本当に裏表なく、腹と口が同じ。つまり思っていることをやり、有言実行の人。これはとてもシンプルなことですけれども、裏表のない人を信頼してチームに入れることです。

長年やっていればわかりますが、信用できる人、自分がやっていることのビジョンが見える人。自分が言うことを確実にやってくれる有言実行の人。裏表のない人がとても大事です。

意見が違えども、信頼してもらうためには良いときも悪いときも率直に話さなければいけません。隠し事はいけません。信頼につながりません。みんなが落ち込んでいるときはいい話をする。みんなが浮かれているときには少し釘をさす。

すぐには信頼関係はできません。ただ創業期にチームに加わった人とは、やはりゴール、ターゲット、ビジョンが一心同体です。そこに信頼を寄せてくれれば、容易に引っ張っていくことができます。

愛されることや忠誠心を抱かれなくてもいいです。「チームが一緒に戦おうとしているものを愛して、懸けてくれ」「それを信じてくれ」と言いました。最初は難しいかもしれませんけれども、長くやっていると、そのほうがやりやすいとみんなが言います。

ビジネスは楽しいです。人との付き合いそのものですからね。学問に勤しむ人、ビジネスに携わる人のなかには、あまりにもビジネスモデルや理論、プロダクト、テクノロジーにとらわれすぎている。

創業した起業家ならば、少なくとも30パーセントは、「人」にあてなければいけません。つまりCEOは、雇う人や一緒に仕事をする人の言動によく耳を傾けてください。コミュニケーションをしっかりとってください。

創業当時、仲間をどう説得していったか

今林:ありがとうございます。私が最近忙しくなってきましたので、メンバーとなかなかコミュニケーションが取れなくなってきました。本当はもっとコミュニケーションしたほうがいいとわかりました。

ただ長期的なビジネスでは、会社を辞める人もやはり出てきます。19年ほど前に作られた、ジャックマーさんが一生懸命熱弁しているビデオを見ました。18人の共同創業者を前に話しているビデオです。それはとても好きなビデオで、やっぱり率直なところを話さなきゃいけないと思います。

どのようにして長期的なビジョンを失わずにやってきたんですか? 短期的に考えると、創業当時にインターネットを専門とするには、身近な例がなかったと思います。そういった頃をどう乗り切ったんですか? 例えば、長期的なビジョンと目標に向かって正しい方向に踏み出していることをどう説得しましたか?

ジャック:とてもいい質問をいただきました。正直言って私は大変ツイてると思います。素晴らしい人がついてきたということです。

今はみんながビジネスをスタートしようとしている。その人よりスマートな人を雇おうとします。でもスマートな人はなかなかマネージが難しいです。利口な人は管理が難しい。バカな人のほうが管理はしやすい。

みんなファンシーでいろんなアイデアを持ってますから。それをリードするのは難しい。MBAを持った5人とすれば、みんながCEOになりたいわけですから、その会社のトップになることは難しい。みんながストラテジーを持って議論をする。でも現場ではなかなか仕事しない。

組織の結束力はどのように生まれるか

ジャック:私はラッキーでした。17名のアリババの創業者は私の話を聞いてくれました。私ほど利口でもなかった(笑)。外からの引き抜きもなかった。創業期には18人でしたけれども、誰も我々が利口だと思ってなかった。誰も(外に行くことを)望んでなかった。行き場所がなかった。だから我々は結束しました。

将来をどう信じるかということですが、毎週、毎日、毎時、毎分のようにしっかり語り続ける。彼らも自分と同じ考えを持つようにする。アリババはそうなんです。

みんな若者でした。それぞれ問題も抱えていた。しかし議論しました。問題はオープンかつクリアになりました。それしか方法がなかったんです。でも、それを証明していくと、少しずつ10年先、15年先のビジョンを持つことができ、来月、来年のゴールを設定できます。毎年少しずつ進歩していく。毎月少しずつ進歩していく。

とくに私は人をキープしようとはしません。でも、みんなが信じ合って、みんながエキサイトしてワクワクして、なにかに信念を持てば、みんながそれに向かってフォローする。

ジャックをフォローするのではない。「ジャック、お前は金持ちでもないのに、あなたに従う必要はないじゃないか」と、みんな言います。むしろみんなが一緒に仕事をすることによってビジョンに向けて一緒にやっていく。ですからとくに私は彼らをキープしようとはしない。

でもミッションとビジョン、それを最初からしっかり共有することでみんながとどまる。辞めればそれもいいと思うんです。残ってくれれば、それも私は嬉しい。友達としてパートナーとして仕事ができれば、そして人間としてお互い信頼感を持ってやる。それがすべてじゃないですか?

今林:ありがとうございます。私もそうしていきます。

ジャック:ああ、それでいいんです。

(会場拍手)

ところで私もデータセキュリティは本当に重要だと思います。それは100パーセント確信しています。ポテンシャルがあります。今、データの時代に入っています。

あなたとあなたのチームが成功するか、そのビジョンを効率よくしっかり実現していくということが大事で、そんなに将来のことを気にしてもしょうがないので、今自分がやろうすることをしっかりやっていけばいい。

今林:自信がつきました。ありがとうございます。

(会場拍手)

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