タイトルは、ユーザーとの距離感で決める
川原崎晋裕氏(以下、川原崎):タイトルって流行り廃りがあるんですよね。バイラルメディアが流行った時はバイラルメディアっぽいタイトルが流行ってたし、初期のインターネットのタイトルは2ちゃんっぽかったり、はてなっぽかったり。流行り廃りがあるので、それに合わせて変えていくというのと、あとユーザーとの距離感の問題かな。
ただ僕は、最終的にはいかに正しい距離感で伝えるかがすべてだと思ってるんですよね。例えば僕は川原崎というんですけど、『なぜ川原崎は滋賀県出身なのか』というタイトルがもしあったとしても、川原崎が滋賀県出身であることについて誰も「なぜ?」と思ってないから、そのタイトルの付け方おかしいんですよね。
要は世間の人がその瞬間に僕のことをどれぐらい知っているか、「ログミー株式会社代表の川原崎」じゃないと伝わらないのか、「カワパラ」で伝わるのか、それとも誰も知らないからそもそもタイトルには入れないほうがいいのか。それってユーザーとの距離感なんですよ。
そこを一つひとつ正確に物差しで測るように全部計測をして、それでビシッと作るものが良いタイトルなんです。エモさが求められるようなユーザーとの距離感なのであれば、エモいタイトル付けた方が良いなとか、そういう感じかなと思います。
菅原弘暁氏(以下、菅原):会社のことちょっと知ってる人だったらエモい小見出しで、まったく知らない人だったら「はじめましての人」の興味を引くようなワードが入った小見出しで、とかそういう距離感もあるかもしれない。
川原崎:そうです、そうです。だからターゲットが誰なのかをしぼるのがすごい大事ですね。
菅原:ログミーをもう5年間やられていて、ログミーファイナンスとか新しいことも始められてるじゃないですか。それが必要だなと感じたり、時代の変化って川原崎さんから見てどう見えてるのかなと。5年前と今って何が違います?
川原崎:そうですね……僕自身は10年ぐらい前からWebメディアをやっているので、そこからの感覚で言うと、サイゾーってWebメディアとしてめちゃくちゃ上手くいったんですよね。少なくとも当時は。
これは、当時の責任者である僕がすごく仕事ができるからではなくって、時代がすごく合ってたからなんですけど(笑)。どういう意味かと言うと、インターネットが流行った理由が、マスコミが伝えない本当のことがわかるからなんですよね。だからあれだけ爆発的に流行った。
それこそ週刊文春ですら、利害関係者っているわけですよ。だから出せない情報がある。そういうネタをサイゾーが記事にするわけですね。しがらみがないから、週刊誌さえ取り扱えないタブーを扱えるというのが、サイゾーのすごさなんですよね。それって当時のインターネットのコンセプトと一緒だったんですよ。だから、あれだけたくさん読まれた。
情報があふれる今、若者がリアルを求めている
川原崎:ただ今は、新聞も含めてメディアがめちゃくちゃインターネットに増えてきて、そういう良さが逆になくなってきたので、じゃあ本当の情報って今どこにあるんだとか、ちゃんとファクトの正しい情報ってどこにあるんだ、というとどこにもなかったりするわけですよ。
たまたまそのタイミングでログミーができて、これだけ長い文章なのにみんなけっこう読んでくれるというのは、ぜんぜん予想も何もしてなかったし、意外だったなと思っていて。特に若者が今リアルを求めているというのは、一つの大きな傾向としてあると思っています。
菅原:うん、うん。僕らの感じていることは、ことPRで言うと、これまで商品市場がメインだったんですよね。いかにモノを知ってもらうか、モノを売るかというところでお金をいただいていたんですけど、ここ最近、労働市場の方がけっこう重要視されてるなと感じてまして。
HR領域というんですかね。人材不足が背景だと思うんですけど、採用だったり、社員の方のエンゲージメントを上げることにけっこうお金もかけられてるし。そういう意味ではPRに求められてる機能もだいぶ変化してきたなと感じるんです。これまでいかに機能訴求できるかとか、商品を多くの人に知ってもらうかだったんですけど、いかに人の心をちゃんと動かしたか。
それがPV数じゃなくて、少ない人数だとしてもちゃんと人に届いたかということがけっこう指標として置かれるようになってきたなと。単純にメディアの価値というよりも、社会背景じゃないですけど、最近自社分析をしてみて、そういったところも関係してきてるなという。
川原崎:確かに情報を見るんじゃなくて、好きな物を見るとか好きな人を見るとか。ログミーって採用目的でご出稿いただくことが非常に多いんですよ。企業がエンジニアの採用イベントとか開いたりして、その様子を全文書き起こしでログミーに載せるんですね。なんのためにこれやってるのかというと、タレントを社内に作りたいからなんですよ。
とくに新卒の採用がそうなんですけど、その会社のステータスで学生が選ぶというのはもちろんあるんですけど、「こんなおもしろい人がいるからその会社に入りたい」というのは、すごく強いわけですよね。特に起業志向があるイキの良い学生。彼らにとってのヒーローみたいな人を社内に作り出したいというのが、今新卒採用をやっていらっしゃる会社さんでけっこう増えてきています。
そのためにはイベントがすごく有効なので、肩書きがすごい人よりも話がおもしろいとか、学生が魅力的に思うヒーローみたいな人を登壇させて喋らせる。それをログミーに載せて、より多くの人に届けるといった手法はよく使われていますね。
たくさんのヒーローを生み出すメディア
菅原:確かに、エンジニアの方が話してることって難しかったり、単純に短くしようと思うとちゃんと事実が伝わらなかったりする。だから、全文書き起こせるというのは、そういう意味では良いのかもしれないですね。
川原崎:そうですね。機能だったりスペックよりも、やっぱり人を見て転職をする、就職をするみたいなのが増えてきているし。ログミーでいうと、ユーザーはログミーを見に来ているわけじゃなくて、スピーカーを見に来ていると思っています。
僕らは、ログミーで話してくださっているたくさんのスピーカーがいて、その一人ひとりにファンがついていて、その集合体がログミーのユーザーだと考えているんですよね。だからヒーローをたくさん生み出すメディアというのが、一つのコンセプトになっていると思っています。
菅原:採用目的でのログミーの利用って多いんですね。けっこうそれも意外でした。
川原崎:採用多いですね。広報も多いです。採用広報と呼ばれるもの。
菅原:うちも採用広報の仕事が多いので。やり方は違えど、やっぱりオープンにしましょう、というやり方をとっているんですよ。良い話だけじゃなくて、必ず失敗体験を入れましょうとか。そういうのをやらないと意味ないよというのを聞いて。それも見る側からすると、企業がちゃんと情報開示をしてるという指標になると思うんですよね。
全文書き起こしであれ、都合の良いことを言うのであれ、真摯な姿勢が伝わるとか。そこが編集の意図が入りすぎてしまうと、伝わらないこともあったりするのかな、というのはお話聞いてて(思いました)。ログミーさんを採用に活用されるというのは、やっぱりそこなんですよね。オープンな社風だよ、じゃないですけど(笑)。「なんでも開示してるよ」というのがちゃんと伝わる。
川原崎:某企業さんは、「メガベンチャーに人材を取られまくる」って言ってたんですよ。例えばDeNAさんだったり、まあ楽天さんはちょっとでかすぎるかもしれないですけど、優秀でイキのいい学生ってそういったメガベンチャーに行くんですよね。
会社としての安定度や給料の高さは大企業の方が有利なんですけど、それより自分のやりたいことができる環境とか魅力的な仲間がいるからというのでベンチャーに行っちゃうと。すごく人にフォーカスする時代になったというのは、そういうところに顕著に表れていると思ってますね。
一発の打ち上げ花火よりも毎週の線香花火
菅原:採用広報にお困りの企業さん多いんですよ。1個のやり方として、しっかりとコンテンツを作り込んだ採用イベントをやって、ログミーさんに限らず、そこにメディア誘致をするというのは、今後ありえる一つの手法なんですよね。
川原崎:メディアを呼ぶとやっぱり良いんですか?
菅原:やった感出ますよね(笑)。いや、あの、良いところも悪いところもあるんですけど、総じて言えばポジティブなことの方が多くて。
川原崎:あ、そうなんですね。
菅原:広報側からすると、より多くの人に伝わるのもそうなんですけど、箔がつくんですよ。どこどこに第三者評価をもらったという。ログミーさんの場合、そういう第三者評価を入れないものだと思うんですけど、例えば日経新聞に取り上げてもらったって、認められたことなんですよね。
川原崎:なるほど。
菅原:それが広がろうが広がらなかろうが、「箔がついて信頼される」というのは、やっぱり効果の一つとしてあったりしますね。
川原崎:もちろんたくさんの人に見られることってすごく重要ですよね。ただ有名度合いとかブランドとかだと、最終的に超レッドオーシャンなんで。たまには良いと思うんですけど、ぶっちゃけ勝ち続けられないと思うんですよ。そういうものって継続性がないとあまり僕は意味がないと思っていて、一瞬輝くだけなら誰でもできると思うんですね。
ずっと輝き続ける手段として、毎回日経新聞に取り上げてもらうというハードルって死ぬほど高いじゃないですか。あまりそこに注力して年1回の取材を取るというよりも、なんというか小さなちゃんとした自分たちのブランディングというのを、露出少なくても良いから、頻度を高くしてやる方が成果に結びつきやすいんじゃないかなとは思います。
菅原:継続的に。
川原崎:そうですね、年1回のお祭りだけやっても、そこに1億円突っ込むんだったら、毎月500万使った方が露出も上がるしユーザーの記憶にも残るし、熱量を保ち続けられるので。どでかい打ち上げ花火を一発作るよりは、毎週線香花火やった方が認知も高まるし、理解も深まるんじゃないかなと思っています。
菅原:ありがとうございます。