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集合的無意識の『発見』、クリエイティブの『発明』(全3記事)

企画の仕事は「料理に似ている」 川村元気氏が語る、良い映画を生み出す2つの原則

“知のフロントランナー”と現役大学生が徹底討論する公開型授業『NISSAN presents FM Festival2017 未来授業~明日の日本人たちへ』が、2017年10月15日、東京大学本郷キャンパス工学部2号館212講義室にて開催されました。第8回目となる今回は、松尾豊氏・山極壽一氏・川村元気氏を講師に迎えて、「AIは産業・社会の何を変えるのか?シンギュラリティ後の世界で私たちはどのように生きていくのか。」をテーマに現役大学生と熱い議論を交わします。

映画プロデューサー・小説家・絵本作家

川村元気氏(以下、川村):みなさん、はじめまして。映画プロデューサー・小説家の川村です。僕のテーマは、「集合的無意識の発見とクリエイティブの発明」というテーマです。

ふだん僕は映画とか小説を作ってるんですが、その時にどういう考え方でものを作っているか。まず、おもしろいものを見つけるという作業がきっかけになるんですが、その集合的無意識と呼んでいる、僕のアイデアの見つけ方のことと、あとそれをどうやってクリエイティブにしていくかという、その発明作業についてお話をしていければと思います。

簡単に自己紹介です。映画プロデューサー・小説家・絵本作家です。1979年横浜生まれで、今38歳です。2001年に上智大学文学部新聞学科を卒業して、映画プロデューサーになりました。

映画をいっぱい作ってきてましたが、『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『宇宙兄弟』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』『世界から猫が消えたなら』『君の名は。』『怒り』『何者』。

あと、先ほど予告編流れましたが、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』という作品を今年(2017年)作りました。

小説は3作品書いてまして、『世界から猫が消えたなら』。2作目が『億男』、3作目『四月になれば彼女は』という作品を書いています。

絵本も3冊出しまして、『CasaBRUTUS』という雑誌で連載した『ふうせんいぬティニー』『ムーム』『パティシエのモンスター』という3冊の絵本を描いています。

『ふうせんいぬティニー』は今、NHKのEテレでアニメーションになっていて、『ムーム』という作品は、もともとピクサーにいたアートディレクターの、アメリカ人の2人に短編映画にしてもらいました。

これまで手掛けたエッセイ

対話集、エッセイなどもやっておりまして、『仕事。』『理系に学ぶ』『超企画会議』という3作品を書いています。『仕事。』っていうのは、僕の仕事のスタイルともすごく関係してるのでご紹介しようと思います。

仕事。 (文春文庫)

どういう対話集かというと、「私と同い年の頃、何をしていましたか?」と、いわゆる巨匠たちに聞いて回った対談集です。

僕はこの対談集を作った時が30歳ぐらいで、『UOMO』というファッション誌で連載をしてたんですが、山田洋次さんから始まって、沢木耕太郎さん、杉本博司さん、倉本聰さん、秋元康さん、宮崎駿さん、糸井重里さん、篠山紀信さん、谷川俊太郎さん、鈴木敏夫さん、横尾忠則さん、坂本龍一さんと。

主に50代60代以上の、「レジェンド」と言われてる人たちに、仕事のやり方を聞くというよりは、この人たちも当然、若かった頃があるし、失敗した時もあるし、うまくいかない時代もあっただろうと。

その時に「何をしましたか?」ということを聞いてまいりました。そこである種、壁を乗り越えて1歩抜け出す、仕事術の秘密がそこにあるだろうという対談集です。

僕はなにかアイデアをもらう時に、あまり同世代とか、似たような感覚の人とやるのでなく、なるべく「世代が違う」とか「ジャンルが違う」っていう人たちと話して、なにかをもらうようにしてるんですが、それの第1弾となる対話集です。

理系の人々から学んだこと

第2弾が、「理系に学ぶ」。これも対談集で、先ほど講義された松尾豊さんにも出ていただいているんですが、どういう対談集かというと、僕は生粋の文系でして、数学・物理・化学が苦手で、そこから逃げるように文系の大学にいって、小説を書いたりとか映画を作ったりしているんですが。

理系に学ぶ。

じゃあ、「世界をおもしろくしている人たちは、どういう人だろう?」と思ったら、スティーブ・ジョブズだったりとか、ザッカーバーグだったりとかして、「ああやっぱり理系から逃げちゃいけないんだな」と。

そこで、「僕たちはこれからどう変わっていくんだろう」ってことを、理系と呼ばれる人たちに聞いてみました。そもそも理系・文系を分けるっていうのは、日本の変な習慣だなぁと思うところもありますが。

理系人と呼ばれる人たちに、「この世界はどう変わるのか」「人間はどう変わるのか」「何が必要とされ、何が不必要となるのか」「その時にどんな未来が待っているのか」と。こういう質問をしてまわりました。

聞いた人たちも本当にジャンルはバラバラで、宇宙飛行士の若田光一さんから始まって、ドワンゴの川上量生さん、ピタゴラスイッチとかを作られた佐藤雅彦さん、任天堂の宮本茂さん、Rhizomatiksの真鍋大度さん、人工知能研究者の松尾豊さん。

あとはLINEの舛田さんだったり、最終的には養老孟司さんとか、MITの伊藤穰一さんなど、本当に幅広いジャンルの理系人に話を聞いて。

ここからもらったアイデアとか着想は、ものすごくたくさんありました。主に「人工知能」の話は、松尾さんはもちろんなんですけど、真鍋さんからも聞くことができました。

人間と人工知能の関係は、僕らは文学とかストーリーとかアートで考えてくんですが、彼らは数学とか工学で考えていて、気付けば「人間は何を美しいと思うのか」とか、「人間にとって何が幸せなんだろう」ってことを、別々のルートから同じ山に登っていたような感覚になる対談集でした。

やっぱりそういう発見も、なるべく違うジャンルの人たちと、「集合的無意識」と言われる、「みんなが同じようなことを考えている場所」を見つけることから始まるな、と思っています。

とはいえ、この理系の方々の喋っていることは、なかなか難しくて。僕が言葉の人間なので、「言葉で理系の人たちの考えてることを読み解こう」というのが、この『理系に学ぶ』という企画でした。

巨人たちと空想の企画会議

3冊目の『超企画会議』っていうのも、非常に僕のマインドをそのまま表してるんですが、どういう本かというと、ハリウッドの巨匠たちと「空想会議」をしたらどうなるんだろう、という本です。

超企画会議

いつも僕が考えてることなんですが、最高のものを作って最大にヒットさせたい。つまり、よいものをなるべく作りたい。当たり前ですね。だけど、ただ「ヒットする」ということじゃなくて、きちんとクオリティも保ちつつ、きちんと人に届くものを作りたい。

そのために何をしてるかっていうと、「最高の状況」と「最低の失敗した状況」を交互に往復しながら考える、という作り方をしています。

その「最高の空想」ってどういうことかというと、「もし僕がハリウッドに呼ばれて、スピルバーグと打ち合わせしたら、どういうことが起きるんだろう」という空想を、ふだん本当にしてるんですね。

なので、この本では実際、スティーブン・スピルバーグだったり、ウッディー・アレンだったり、タランティーノだったりジェームス・キャメロンだったり、クリント・イーストウッドなどと、打ち合わせをする、という本です。

それで、この本ってただ打ち合わせをするんじゃなくて、僕は彼らのインタビュー集だったりとか、過去のフィルモグラフィーだったり、生い立ちとか、住んでる家とか、彼の実際の会社を全部Googleマップとかで調べて。

実際に空港から車に乗って、その会社まで行ったらどうなる、ってところまでシミュレーションして、あたかも本当に彼がしゃべった言葉に対して、僕が勝手に会話に参加するという形式で書いた本です。

まあ馬鹿馬鹿しいんですけれども、ただそういうふうにして僕はどこか、人の考え方とか生き方をシュミレーションするところがありまして。その僕のふだんの企画の模様が、非常に如実に出ている、それがこの『超企画会議』という本です。

企画とは料理に似ている

前段はここまででして、「映画の企画って何なのか」という話をしたいと思います。これは映画に限らず、もしかしたら雑誌でもいいかもしれないし、ファッションでもいいかもしれないし。企画という仕事は、すべてのスタートだと思います。

企画の仕事っていうのは、「料理に似ているな」といつも思っています。どういうことかというと、「よい素材を、適切な料理方法と工夫を凝らした盛り付けで、お客さんに届ける」というのが、料理とまったく一緒だなと思います。

よく、「有名原作だからヒットしましたね」とか、「メジャーな俳優が出てるからおもしろくなりましたね」みたいな話をされるんですが、ご存知のとおり、有名原作でもコケてる映画はいっぱいありますし、人気者の俳優が出ていてもつまらない映画がたくさんある。

なのでやっぱり「組み合わせをどう作るか」というのが映画にとってすごく大事だし、ものを作ることは「組み合わせの発明」だといつも思っています。そして、この組み合わせを作るのが、企画ということです。

いい素材を見つける作業というのがまさに、さっき言った「集合的無意識」というところから僕は見つけてくるんですが、この話はぜひ質疑応答で深めたいと思っていますので、僕の講義は半分……まではいかないですけど、1/3が質疑応答です。そこで質問を受けながら、答えをお話しできればと思います。

映画企画の2つの原則

映画企画の原則と言われてるものが2つありまして、1つめをお話したいと思います。「普遍性×時代性」と言われるものです。

昔から、人間の感情に訴える物語やテーマ、「普遍性」と言われるものですね。秋元康さんとかは「笑える・泣ける・怖い、みたいなのは昔から変わんないんだよ」ってことをおっしゃってますけど。この「普遍性」のあるものが、まずベースになければいけないと思います。

その上で、じゃあなんで今、2017年にこの映画が存在する必要があるんだろう、と。今を生きる人とどう繋がるのか、その「時代性」を掛け合わせるというのが、非常に重要だと。ちなみにこれは僕というよりは、スタジオジブリの鈴木敏夫さんがよく言うことなんですが。

やっぱりこう、世の中の企画を見ていると、どちらかだけで作られてしまうようなものが多いように見受けられて。なかなかこれが綺麗に掛け合わされているものは少ないような気がします。

発見だけではない「発明」という作業

2つめは僕のオリジナルなんですが、「発見×発明」と言われるものです。ものづくりのスタートというのは、なにかおもしろいものを「発見」するところから始まると思います。

なにかおもしろいストーリーを見つけた、おもしろいクリエイターに出会った、そういうところが発見なわけですが。

それでいつも僕が思うのは、その「発見」っていうのはあまりにも感動的すぎるので、ほとんどのクリエイティブというのは、その「発見」だけで作られてしまうような気がしています。

「すごいおいしいキノコ見つけたから、もうそのまま生で出してもみんなわかってくれるだろう」と思って出しちゃう。「あれ? でも出したらぜんぜんおいしいって言ってもらえない、おかしい、わかってくれない!」……で、みんな怒ってふてくされる、みたいなものがすごく多いような気がします。

それは料理と一緒で、やっぱりそれをどうやって、映画的な魅力に昇華するための組み合わせを発明するか。この「発明作業」が圧倒的に足りない。ほとんどのものづくりは、この「発見」だけで作られてしまっているな、と思います。

そこにしつこく、どうやったらこのおもしろいものを、人にも「おもしろい」って同じように思ってもらえるよう作っていくか。それはやっぱり「発明作業」が必要だと思っています。

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