都市のリスクをモデル化

セバリン・チャパス(以下、セバリン):ありがとうございました。私の話よりも、ビデオのほうが興味深い内容だったかと思います(笑)。

ここでご説明したいことは、いろいろな応用例についてです。ここでは、具体的には都市計画についてお話をさせていただきたいと思います。

私たちのツールを使うことによって、市当局のいろいろな部署を連携させることができ、一緒にすべての分野のリスクを考えることができます。

いろいろな都市で大きなリスクとして挙げられるものの1つに、洪水があります。私たちが都市の行政をお手伝いできる分野として、どの程度の降雨量があるかといったデータをもとに、適切なインフラを整備していただくといったプロジェクトがあります。

これは、洪水に関する科学的なシミュレーションの例です。例えばダムが決壊した場合にどのようになるかをモデル化しています。非常に先進的な技術で、こういった技術を使うことによって、リスクを軽減する、またはありうるリスクを予想するということを行っています。そして、水の動きをモニタリングして、シミュレーションしています。

もう1つの例ですけれど、これは建築許可の一連のプロセスについてです。日本でもそうだと思いますし、フランスでも実際にそうなんですけれど、こういう建築確認の作業というのは、多くの紙を使っています。

デジタル化したツールを使うことによって、非常に興味深い可能性が広がっていきます。建築家のみなさんが、デジタル化したプロセスを採用することによって、都市計画に関する規則・規制をどんどん取り込みながら、申請することができます。

そしてまた都市側でも、同じプラットフォーム、そして同じデジタル化された文書を使って、いろいろな部署で作業を進めることができますので、建築許可が下りるスピードも早まります。

もう1つ私たちにとって重要な例が、インフラストラクチャーの計画です。ここで示しているのは、よくあることですけれど、今あるインフラの再構築に関する決定を支援するという試みです。

ご覧いただくのは、実際の新しいプロジェクトが、なにか問題を引き起こさないかどうかを、バーチャルに見ることができるということです。そのプロジェクトによって日影ができるといった日照の問題が起きないか、騒音の問題が起きないか、ということを確認することができます。

非常に重要なことは、プロジェクトの進行中に実際に行っていることが、もともと計画したものに沿っているかどうかを確認できる点です。例えば、予算内で収まっているか、期限内にできているかということを、バーチャルの世界と照らし合わせることによって確認することができます。

また、一貫した方法で、地上と地下のプロジェクトを同時に見ることができます。非常に簡単な方法で、ビル全体の状態を確認することができます。

電気・ガス・水道の設備はどうなっているか、地上のスペースはどうなっているかということも見ることができます。そしてまた、地下を深く掘って建設することによって、新たに活用できるスペースを確保する方法もわかります。

都市に住む人々が新たに発明していく

今いくつか例をお見せしたのは、3Dデータのプラットフォームを導入していただくことによって、いろいろなことができるということをご理解いただくためです。

そしてまた、こういった情報を提供することには、他のメリットもあります。情報提供によって、市民の方がいろいろなことを知ることになり、市の活動等への参加もうながせるということですね。

これはレンヌ市で実際に提供しているものです。3Dの情報を提供することによって、より可視性を高めて、市民が現状を理解することができます。都市に関するさまざまなアプリケーションを構築することができる、といった例です。建設関連であったり、それから都市開発、IoT接続のアプリもあります。

右下のほうにデータ分析ということが書かれているかと思いますけれど、3Dデータの背後にあるのは、デジタルのモックアップ(模型)をつくるということだけではなくて、いろいろなデータを分析できるということが挙げられます。

そしてまた、危機分析も行われています。先ほど洪水の例を挙げましたが、それは公害や汚染であったり、いろいろな公益に関する分析も含まれています。

ここに掲げられているのは、シミュレーションの例になります。一度こういったプラットフォームを構築すると、いろいろなシミュレーションができます。1つの例は風の流れのシミュレーションです。

そしてもう1つ大切なシミュレーションは、熱のシミュレーションです。すなわち暑さのシミュレーションですね。気候変動に伴う暑さの変化を見ることによって、1日のもっとも気温の高い時間を避けて活動することもできます。

そして1つ、ウォーカビリティ(歩行可能性)について詳細なことを申し上げます。人々にとって都市がどのように見えるかという、見方の問題ですが、全体を俯瞰することもできますし、人々の視線の高さで見ることもできます。

人を基本にして、ここからここに移動する場合に、(歩行ルートの風景が)どのように見えるかということ、また別の市民にはどのように見えるかということも、シミュレーションできます。

そして、「さらに追加予定」と書かれている理由は、今後、都市に住む人々が発明していくものだと思うからです。どのように都市の中で働くか、どのように都市の中で住んでいくかということに応じて、次々と追加されるものだと私たちは思っています。私たちが提供するものは、そういった将来の可能性を実現するものだと思っています。

ご清聴ありがとうございました。あと15分ほどお時間があると思いますので、なにかみなさまとお話し合いできることがありましたら、ぜひ提示していただきたいと思います。また、ご質問等ありましたら、私と野崎が対応をさせていただきます。

タクシーのGPSをバーチャル・シンガポールに接続

司会者:それではご質問がある方いらっしゃいましたら、挙手をお願いいたします。日本語でけっこうですので、なにかありますでしょうか?

(会場挙手)

質問者1:どうもありがとうございました。楽しいお話をうかがえました。3点ほどおうかがいしたいんですけれども。私、三井物産戦略研究所の〇〇と申します。

まず1つ目として、バーチャル・シンガポールの中の建物の情報です。500平米かなにかで……1,500平米でしたかね、区切られて、3Dデータで建築申請が行われているというのはなんとなく聞いてはいるんですけども。いわゆる電気、ガスとか水道とか、こういったインフラの情報ってどこまで入っているのか、ということが1点と。

あと、説明の中でありましたIoTの情報ですね。リアルタイムのセンサー情報みたいなものをどこまで取り込んで、それをどう活かすことを考えていらっしゃるのか。

あと2018年に公開予定で、ビルの中にどういった方が住んでいるかという情報まで登録されるという話がありましたが、どういうかたちでどこまでの情報が公開される予定なのか、そのあたりがわかりましたら教えてください。

野崎省二氏(以下、野崎):では、今のご質問、私のほうからお答えさせていただきたいと思います。

まず最初の質問ですが、とくにインフラにかかわる電気やガスについては、途中でご覧いただいた地下の情報が、キーだと思っています。

現在バーチャル・シンガポールが対象にしているのは、地上の情報だけですが、実際、シンガポール政府から、私どもに「次は地下をやりたい」と。もう1つ言われているのは海洋、海の底のほうですね。「海洋のデータも3次元化していきたい」というご要望もいただいております。

3つ目の質問にもありましたけど、来年オープンにするのは地上の部分だけになっていまして、次のステップとして、地下と海洋が計画されているというのが、1つ目の質問に対する答えになるかと思います。

2つ目が、IoTのような、いわゆる都市にセンサーを取り付けて、という活動ですけども、これはもうすでにいろいろな取り組みが進んでいます。

例えば簡単なものでいくと、タクシー会社と連携して、タクシーのGPSの情報をバーチャル・シンガポールに接続して、だいたい2分間隔で空車のタクシーがシンガポールのどこにいるかという情報をアップデートするような仕組みであるとか。

それから、バス停ですね。バスの停留所に取り付けたセンサーが、バスと交信して、例えば3番線のバスが何分後に来るか、今そのバスがどこまで来ているかということを、バーチャル・シンガポールの画面上でポインターが移動してくるような見え方でリアルタイムで見られるようにしています。

あと、私のビデオの途中でちらっとだけソーラーパネルの話が出てきましたが、これからはスマートメーターを取り付けて、リアルタイムに電力の発電量と消費量を見ていくような取り組みをするであるとか。

市民に対してどこまでデータをオープンにするか

いろいろありますので、そういったかたちで、いわゆるフィールドの情報と連携させようという……あ、あと1つだけおもしろい事例がありました。

ある地域で、小学生、中学生を中心に学生約3万人に、(首にかけている名札を手に取って)これくらいの大きさのセンサーを2ヶ月間持たせてですね。そのセンサーからは位置情報と温度、湿度、騒音などの情報が取れるんですけども、その情報をバーチャル・シンガポール上で分析する。

例えば人の流れ、子どもたちの通学や、放課後の行動がどうなっているか。もしくは子どもが動くことによってその場所の騒音や温度の情報も取れますので、そういった情報をバーチャル・シンガポール上で見ながらいろいろな分析をしたり、ということもしています。

3つ目の質問ですけれども、来年、オフィシャルにオープンにする予定です。実際、もうほとんどできあがっているんですけど、いろいろなシミュレーションは今も続けています。

世界都市サミットというのが2年に1回あって、来年の夏にもあります。そこでオフィシャルにオープンにする予定で、シンガポール政府は動いています。

現状では、バーチャル・シンガポールは、完全にインターネットからも閉じられたクローズドな世界で開発を進めています。住民情報も一部入っていますが、どこまで市民に対してオープンにするかということは、まだ決まっていません。もちろん将来的には、先ほどのバス停の情報であるとか、タクシーの情報みたいなものをオープンにして、市民サービスにつなげたいと思っています。

その場合は、いわゆるオープンにできる情報だけを取り出した別のサーバーをインターネット上に用意して、それを使って市民に公開する。政府内で使うようなコンフィデンシャルな情報に関してはもちろんオープンにはできませんので、市民向け、民間企業向けにオープンする部分と、政府内で使う部分を分けて運用していくかたちになるかな、と思います。

以上、3点のご質問に対してのコメントです。

質問者1:ありがとうございます。イメージとしては、その公開される部分はAPIも公開されて、「自由にアプリケーションつくってください」ということまで考えていらっしゃるんでしょうか? まだそこまでは決まってないんですか?

野崎:そうですね。アプリケーションの作成自体は、おそらく今のところはまず政府のほうでやりたいことを決めて、私どもを含めた民間のITベンダーや、地場のSI企業とつくっていくかたちになるかと思います。

例えば民間企業からアイデアを募集したり、市民から募集したりということはありえると思いますけども、APIまで完全にオープンにして、「誰でもつくっていいよ」というかたちになるのは、もう少し先じゃないかなと思います。

質問者1:ありがとうございます。

建物の申請を3次元データで提出

司会者:よろしいですか。もう一方いらっしゃったかと思いますが、ご質問ある方いらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

司会者:では、お願いします。

質問者2:建物モデルの話なんですけども。今見せていただいたものだと、駅以外は外形だけしか入っていなかったように見えたんですが。

シンガポールだと、3次元のオブジェクトモデルで建築申請することも、何年か前からやっていて、政府はそういうモデルを持っているので、それをバーチャル・シンガポールの中に入れ込んでいくような計画はあるのかなと。

そうすると、建物には所有者の権利とか、セキュリティの問題とかがあるので、今度公開する時にすごいハードルがあるんじゃないかと思うんですけど。一方で、それが公開されれば、非常に大きなメリットもあると思います。そのへんのことについてなにか聞かせていただけますか?

野崎:おっしゃるとおり、シンガポールでは数年前から、一定以上の建物に関してはBIM(Building Information Mangement)のデータで建築申請するような仕組みが始まっています。

もちろんBIMのデータがあると、バーチャル・シンガポールの中で活用することはできるんですけれども、今現在は全面的に使っているわけではありません。おっしゃるように、いろいろな問題点もありますので、そのまま使うわけにはいかないのかなと考えています。

現在、建物に関しては、多くはGISのデータの高さ情報だけを使って、まず白無垢の箱を立ち上げます。あとから航空写真等から取ってきた写真をテクスチャとして貼り付けて、先ほどご覧いただいたような外観にしているビルがほとんどです。

ただ、新しい商業施設を建設するときなどは、やはりいろいろなことを検証していきたいということで、一部BIMモデルも活用しています。弊社にもBIMのソフトウェアがありますので、そちらを使いながら、ビルの中の階層構造をつくったり、例えば中にどんなレストラン、ショップがあるのかなどの詳細な情報を付加したりということは行っています。

将来的に、本当に申請されたBIMのモデルをポンと載せていけるかというのは、いろいろな課題もあるので、どうなるかはまだ今のところはわからない状態ですね。

司会者:よろしいでしょうか。

それでは以上をもちまして、この時間のセッションを終了とさせていただきます。本日はダッソー・システムズのセッションにお越しいただきましてありがとうございました。