ネットいじめで命を絶った15歳の少女

──「STOPit」を立ち上げるまでに、ずいぶん苦労されたと聞きました。「ネットいじめ」にまつわるあなたのストーリーを聞かせてください。

Todd Schobel氏(以下、Todd):ある日、私は車を運転していたんです。車内のラジオで、自殺をした15歳の女の子、Amanda Toddのニュースを聞きました。後にとても有名になったネットいじめによる自殺のケースです。Amandaはもう2年間もネットいじめだけでなく、リアルな場においてもいじめを受けていました。

Amandaは死の約1ヵ月前にビデオを作って、YouTubeに投稿していました。9分間のビデオでは、顔の下だけを見せていて、肉声を出さずに、フラッシュカードを使って自分の苦境を訴えていました。

(※動画の後半で、出血を含む自傷行為が映ります。閲覧にご注意ください)

私はそれを聞いたとき、部屋の片隅で、やるせなくてうずくまっている子どもの姿を思い浮かべました。親にも言えない、学校にも言えない、言ってしまうといじめがさらにひどくなるんじゃないかと恐れて、どうしようもなくなってしまっている子どもです。それではダメだと。私はこの問題をなんとかしたいと思いました。

今の時代は、みんなスマートフォンを持っているわけです。この状況を活かして、いじめなど何かしら悪い行為を見聞きした場合、悪い事件に巻き込まれた場合に、もっと簡単に、もっと早く立ち上がれる方法を提供したいと思ったんです。周りで傍観しているbystander(バイスタンダー)ではなくて、しっかりと立ち上がって声をあげてほしかったんです。

「STOPit」は最先端の報告・相談プラットフォーム

──匿名でいじめの報告・相談ができるとのことですが、サービスについて詳しく聞かせてください。

Todd:「STOPit」は簡単にいうと、学校や企業・自治体などの組織に提供しているプラットフォームです。

「STOPit」を導入していただいた学校の生徒や企業の従業員などは、モバイルアプリを使って、匿名で管理者に報告・相談をすることができます。

報告・相談では、動画やスクリーンショット、画像、テキストデータを送ることができます。これをボタン1つで、リアルタイムで送ることによって、プラットフォームの管理者が証拠をもとに調査することができるサービスになっています。

「STOPit」導入によるリスクの低減

──実際に「STOPit」を導入した組織には、どのような効果がありましたか?

Todd:例えば、学校側が「STOPitを使いましょう」ということで、生徒たちにアクセス権が与えられます。すると、みんな本当にすぐに使い出します。

アメリカの子どもたちは、自分たちが受けているいじめ、あるいは目の前で見ているいじめを大人に相談できていないという状況がありました。

いじめられている本人は「ひどい報復を受けるんじゃないか?」とか、周りの人たちは「チクリだ」と言われて、自分がいじめの対象になる恐怖があったためです。

そのようなリスクは、「STOPit」でかなり低減されます。生徒が匿名で自信を持って報告・相談したり、事態が悪化する前に管理者が能動的に調査したりすることで、いじめる側に「これをやったらちょっとまずいかな」という抑止力が働き、実際に学校のいじめが70パーセント減ったという事例もあります。

また、アメリカの学校には、いじめだけでなく、喧嘩やドラッグ、性的なものを含めた教師からの虐待といった問題もありましたが、これらのリスクも低減されました。

「STOPit」というプラットフォームは、警察や自治体、病院、企業、学校などすべての組織が恩恵を受けることができます。

リアルタイムで証拠を報告できて、受け取る側も証拠をすぐに見ることができるので、調査のプロセスがとてもスムーズになります。

例えば、以前アメリカで何週間もかかった末にまったく解決されなかったような調査が改善されて、2日〜4日で一気に解決まで至った事例も出ています。

悪用を防止する管理システム

──シンプルなインターフェースと匿名性によって報告のハードルが下がる一方で、いたずら半分の情報が増えるのではないかと思います。情報の識別・調査はどのように行うのでしょうか?

Todd: たしかに、不適切な写真を送ったり、嘘の報告をしてみたいと思う子どもいるでしょう。ここで1つ大事なことは、「管理者がちゃんと応えること」です。

いたずらに対しては、「どうしました?」「これは不適切な使用ですよ」とメッセージを返します。

いたずらっ子というものは、すぐ返事が返ってくるようだと、抑止力が働いて「これはやばいな」と考えます。万が一改善されない場合には、管理者のほうでユーザーを無効化することもできます。

また、このプラットフォームの鍵となる特徴ですけれども、「STOPit Messenger」という機能があります。

例えば、「ジミーが月曜日に学校に爆弾を持ってくる」という報告があるとします。大きな学校なので、どのジミーかわかりません。匿名による報告の場合、そこで真偽の調査が止まってしまう可能性がありますよね。

しかし、この「STOPit Messenger」という機能があれば、管理者がリアルタイムで「どのジミーですか?」とやりとりをすることができます。

匿名性を保ちつつも、詳しい状況を知ることができるということで、とても重要な要素になっています。

今の時代、子どもたちもテキストを打つことに慣れていますので、対話型のメッセンジャーによって、どんどん情報を出してくれますし、管理側の調査の質もよくなります。それこそが、このプラットフォームが世界中で成功している秘訣です。

当事者に「見て見ぬ振り」は許されない

──日本では、いじめの報告を受けた教師が、実態を把握していながら対応を取らずに、生徒が自殺にいたってしまったというケースがあります。

Todd:それに関しては、STOPitはすべての当事者に責任を持たせるように設計されています。例えば学校だったら、校長先生から教師まで、すべての人がリアルタイムで報告を受けるようにできますので、責任逃れはできません。

すべての報告・相談には日付と時間のスタンプが押してあり、受け取る側すべての人の履歴に残ります。もし当事者全員が何もしないということになると、本当に大問題に直面することになります。

報告者の子どもも管理者の学校も含めて、すべてを巻き込むようにデザインされたプラットフォームですので、もう見て見ぬ振りはできません。

「STOPit」が目指す理想の社会

──「STOPit」の日本展開にあたって、将来の展望はありますか?

谷山大三郎氏(以下、谷山):私は「STOPit」をただの報告・相談ツールだとは捉えていません。これが当たり前のように存在することで、人々のモラルを高めたり、「誰も何も言わないから自分も行動を起こさない」とか、 「友達がやっているから、私も友達に合わせないといけない」という同調圧力に屈せず行動したりする1つのきっかけになってほしいと思います。

もしかしたらToddに怒られるかもしれないですけど、極端な話、同調圧力に屈せず、人々がモラルを持って自発的に立ち上がれるようになれば、「STOPit」がなくてもいいと思うし、私はそのような社会を創っていきたいと思います。

Todd:私は自殺のない社会を創りたいです。そして日本の子どもたちに対しては、お互いを助け合って、思いやりのある社会を創ってほしいと思っています。

そのために、デジタルの世界や大人たちに見えない場所で起こっていることを、シェアして助け合えるようにしたいと思います。それが私のゴールです。

──ありがとうございます。「STOPit」について、「いじめの防止」以外の可能性も感じたのですが、そのあたりのアイデアはありますか?

Todd:「STOPit」は、すべての報告のプラットフォームだと思っています。今の時代、HPの長い問い合わせフォームに記入したり、犯罪の予兆を疑った場合に電話をしたり、ということはあまりしませんよね。

「STOPit」のように即時に報告できるプラットフォームがあれば、自治体、都市、会社、学校などを含めて、社会全体をよりよい場所にすることができると思っています。これはリスクの1歩前を行くためのテクノロジーです。