2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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中井圭氏(以下、中井):この間ね、僕らジャコヴァン・ドルマルの話をしたりとか、あるいは『裸足の季節』の監督とも話をさせてもらったりしたんです。
やっぱり、ヨーロッパの監督のほうが、地続きだという問題があったりする。人種がいろいろ混じっているのもそうかもしれないですけど。
その社会性というか、固有の問題というか、今まわりで起きていることに対する意識が、やっぱり日本の映画監督と比較すると海外のほうが高いのかなというのをすごく感じることが多いんです。この作品とかを見ると、まさにそれを思うんですよね。
向こうはある種のタブー領域のこととかもわりと踏み込んで描いたりすることもあると思うんですけど、この辺りってどう考えていらっしゃるんですか?
矢田部吉彦氏(以下、矢田部):やっぱり映画祭のような場に行くと、どうしても社会性みたいなものが反映されている作品が断然多いですよね。そうは言っても、フランスでも商業映画もいくらでもありますし、映画館でヒットしているような作品はまったくアクチュアリティのない作品もたくさんたくさんありますけれども。
意識的な監督になればなるほど、やはりどこかで今の時代というのを反映していっているというのは間違いないと思います。うーん、数を単純に比較してしまうと、ちょっと日本は少ないかもしれないですね。確かにね。
中井:健夫さんこの辺はどうお考えですか?
松崎健夫氏(以下、松崎):僕は矢田部さんの意見と本当に一緒なんですけども、映画祭に集まってくる作品を監督している人はそういう意識が高いというのはもちろんあると思います。
日本の監督がそういう意識が低いわけじゃないけれども、作れるものの内容が、やっぱりそういうアクチュアルな題材を作れない。お金を出してくれる人がいないという……。
中井:日本ではそういうのが難しい。
松崎:そういう問題もあるので、意識があってもそういう作品は作れないというのも、同時にあるかなって気がする。
中井:でもね、そういうのがあってもね、僕、最近思うのが、合作が多いじゃないですか。ここ最近。日本でも合作ありますし、ヨーロッパももちろん合作がすごく増えているという印象があるんですけど。日本も合作になっていけば、そういう作品を作れるということなんですかね?
松崎:うーん。
矢田部:あの、僕が話している間に健夫さん考えておいてもらいたいんですけど。
カンヌの話に戻すと、今年、日本人として非常にうれしかったのが、深田幸司監督の『淵に立つ』という作品が「ある視点」部門で受賞したんですね。本当に日本の若い監督がカンヌでスポットライトを浴びるのは、もう10年振りくらいかそれ以上と言われているくらいで。その『淵に立つ』という作品はフランスとの合作だったんですね。
フランスとの合作ということで、フランスのお金が入って、より作りやすくなったという。オリジナル脚本をより進めやすくなったという実態は間違いなくあると思いますね。
『淵に立つ』という作品は、社会性というよりも、より精神性、宗教性、死とか罪と罰とか、そういうところを深くえぐりこんでいく作品で、カンヌで評価されました。フランスとの共同制作が作品の幅を広げたということは言えると思います。
中井:なるほど。
松崎:ヨーロッパに関しては、『ぷらすと』でも何度も話していることなんですけど、1つの国の人口が少ない。
日本みたいに、島国で狭い国なんだけど1億何千万もいるような国ではなくて、3,000万とか4,000万しか人口がいない国だとすると、逆算した時に、これぐらいの予算でしか作れないという事情がある。
映画の規模が決まってしまうので、合作でいろんな国で作って、いろんな国で公開するということでしか、映画を製作できないという事情があると思うんですよ。
ところが日本は、1億3,000万くらいの人口があるので、国内でなんとかなってしまう。日本はつい最近まで世界の2位の市場だったんですね。今は中国に追い抜かれて3位になっちゃいましたけど。
だから国内でなんとかなるということ自体が、合作までしなくていいんじゃないかということになっていて。しかも、ドメスティックな内容だけでいいんじゃないかということになっているので、国際的にも通用する作品を製作するということがなかなか問題にはならないという事情があるということですね。
中井:確かにそうですよね。邦画のメジャーの大作だとすると、例えば、学園物とかを撮っていて、2~30億円の興業成績を上げておけば、とりあえずペイもするし、マーケットとしてもそこそこ儲かっていくというのがある。
矢田部:輸出する必要がないんですよね。
中井:だから、よくアジアに輸出されてますけど、あれは結果的に輸出されているわけであって、輸出する前提で作っているわけでは基本的にないということですよね。
矢田部:そうですよね。映画祭で作品を選ぶ時に気をつけていることがあって。やっぱりどこかで「社会性があるほうがいいかな」と思っちゃうこともあるんですけど。「映画の内容は映画のできを正当化するか?」という問いがいつもあります。
要は、すっごく重要なテーマを扱っているからいい映画ということではないわけですよね。やっぱり、どんなに重要なテーマを扱っていても、映画がつまらなかったら、それはつまらない。
中井:そうですよね。
矢田部:なので、映画のテーマが重要だから選ぼうってことは絶対しないようにしようと思っています。
中井:ただ、映画がおもしろいということが前提にあった上で、矢田部さんが作品を選ぶ時というのは、TIFFに関していうと、世界中の映画をいろんな地域からひっぱってくるじゃないですか。それは、世界で今なにが起きているのかということを伝えたい、という想いがあるということですよね。
矢田部:それは結果的にはありますね。やっぱり、チリの映画でただ単におもしろいチリ映画よりは、やっぱり見て、「あっ、チリってこういうことになってるんだ」って思ったほうがより見る価値がありますよね。そこは中井さんに言われて今そうだなと思ったんですけど、ありますね。
中井:それは、基本的に、その世界が知れるからということではなくて、“おもしろい”が前提になければ意味がないであろうということですよね。
矢田部:それはもう大原則だと思う。
中井:なるほど。そういう意味で言うと、この作品、『奇跡の教室』も、基本はおもしろいが前提になっているということですね。
スタッフ:圭ちゃんね、「シンクル」さんで、この『奇跡の教室』に関してのコメント、これに関連したコメントがいっぱい来てますよ。
中井:(コメント「あ、クルド人部隊のドキュメンタリーをbhl(注:ベルナール=アンリ・レヴィ)が撮ったね。peshmerga」に対して)あーありましたね。はいはいはい。
松崎:(コメント「幼稚園児に哲学の授業するドキュメンタリーを思い出しました」に対して)パルムドールを獲った『パリ20区、僕たちのクラス』。
中井:(コメント「ちいさな哲学者たち」に対して)『ちいさな哲学者たち』ね。
矢田部:ありましたね。
中井:こういう感じで盛り上がっていくんですね。
スタッフ:これを起点にしていろいろと。なんかね、「メガネが好き」とかという意見もありましたよ。
中井:メガネが好きって、メガネ女優とかですか?
(コメント「『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』、フランス人のメガネセンスが好きすぎるー。」に対して)あー。はいはいはい。
松崎:メガネかわいいですね、という。
中井:すごいメガネ盛り上がり。こっちのメガネは大したことないですけどね(笑)。
スタッフ:2人もいるけどね、こっち。
中井:申しわけない限りで。なるほど。という盛り上がりを見せているわけなんですけども。じゃあ、次いきますか。
スタッフ:お願いします。
中井:じゃあ、矢田部さん、次お願いします。
矢田部:それでは、先に予告を見ていただきましょうか。僕がお勧めしたいのは、『アスファルト』という作品です。
(予告編が流れる)
中井:おもしろそうですね。
矢田部:これはいい予告ですね。とても雰囲気が伝わりますね。なにから話そうかな。本当に大好きなんですけど。
出ていたように、郊外の団地が舞台で、3つのエピソードが並行して進んでいくんですね。車椅子の男性と看護婦さんの話と。あと宇宙飛行士と。
中井:宇宙飛行士が落ちてきたんですね?
矢田部:そうなんですよ。
中井:なんか矢田部さんの前、『ロブスター』の話をしたときも、突飛な物がポンとあるの好きですよね?
矢田部:あー、そうですね。やっぱり、スタイルが独特のものに目が惹かれるというのがちょっとありますね。その内、宇宙飛行士と現地のおばさんの話。そして、イザベル・ユペールと少年の話。という3つのエピソードが並行して進んで。
まず本当にスタイルが独特で、ちょっとオフビートなユーモアがあって、ちょっと奇妙なトーンなんですね。ただ結局描かれているのは、人の孤独であり、その孤独がどうやって、人の優しさによって癒されるかという。おもしろいのは見た目が殺風景なんですね。団地で。
見た目がすっごい殺風景なんですけども、観終わると、すごい心が温かいという。その優しさみたいなのが、滲み出るんですね。これは本当に巧みな作品だなと思いました。今予告見て、またちょっといいなと思っちゃいました。
中井:あの若者、ジャン=ルイ・トランティニャンの孫なんですか?
矢田部:あっ、そうなんですか?
中井:はい。
矢田部:しまった。
中井:ちょっとびっくりして。
矢田部:そうでした、そうでした。
中井:めっちゃイケメン。
福永マリカ氏(以下、福永):美しいですよね。
矢田部:すごくいいですね。
中井:そうなんですね。でも、まだフランスでもそんな有名になっていないということですよね?
矢田部:そんなでもないですね。
松崎:顔がそんな似てない。
中井:ねっ。
松崎:でも、ちょっと似てるかもな。若い頃『暗殺の森』とかの頃の。
矢田部:彼とイザベル・ユペールとの絡みが絶妙にいいですね。ユペールさんは女優という役で出ているんですけど。疑似親子みたいな関係になるんですけど。そこは見物ですね。
中井:なるほど。これね、舞台、団地じゃないですか。健夫さん、最近、団地の映画けっこう多いんじゃないかなと思っているんですけど。
松崎:日本はとくに今年、団地の映画ブームじゃないかと言われていて。
中井:団地まみれですよね。
松崎:まさに、『団地』って映画もありましたし。『海よりもまだ深く』とかもそうだし。『桜の樹の下』というドキュメンタリーとかもあるし。
2本の劇映画に関して僕が思ったのは、団地って高度経済成長の時にできてから50年くらい経っていて。今でこそ、みんなそれぞれの生活があっていいんじゃないかと思うけども、当時はやっぱり貧しかったので、みんなが均等にいい生活したいという時代だったので、憧れの的だったわけ。
中井:団地がね。
松崎:だから、部屋があって、お父さんお母さんがいて、団欒できる。団地の中で同じような年齢の人たちが住んでいるのが特徴だったのが、同じような年齢の人が一気に入って高齢化してしまって。
今住んでいる70、80代の方々が20代の時に買ったんだけど、当時はエレベーターもないので、階段登るのも大変だとか、ニュースなどではわりと悪く描かれていることが多いんですけども。
でも、その2本の映画は、それでも人は生きていて、継承すべきものがあるんじゃないかという前向きに描いているのが特徴だと思っていて。僕はそこがすごくいいと思ったんですね。
しかも、それを阪本順治さんとか是枝裕和さんというあの世代の人たちが自分の親世代ぐらいの人たちのことを描いているのがおもしろいなと思いました。これも今じゃないとダメだったのかなって気がしました。
中井:なるほどね。一方、フランス映画における団地。
矢田部:そうですね。団地的なものとしては、若干日本で言われるものとは少し象徴しているものが違って。ちょっとその低所得者用住宅であったり、郊外にある、まあ、パリ近郊ですね。あるいは、そのアフリカ系ですとか、そういった人たちが多く住んでいるというような、ちょっと象徴的に使われていますね。
『最強のふたり』でオマール・シーが実家に戻るとウワーッて家族がいたじゃないですか。あんな雰囲気のところですよね。だから、今の多人種パリを象徴するような場所として、団地はよく使われますよね。
中井:なるほど、なるほど。けっこう団地映画ってあるんですか? フランス映画って。
矢田部:僕は、やっぱり、『憎しみ』という作品がけっこうその先駆けとなったような気がしますね。あそこから、いろいろな社会問題といいますか、とても強烈な映画でしたけれども、その系譜ってあると思います。
中井:やっぱり、映画ってなにを撮るかということによって、別に声高に語らなくても、裏側から近づいてくるものっていっぱいあると思うんですけども。
そういう意味で、健夫さんがおっしゃったように、日本における団地という位置付けというのも、それまでの高度経済成長というのも含めた背景も全部見えてくるであろうと。
フランスにおいても団地という問題が、低所得の問題であったり、いろんな問題が見えてくるであろうと。その背景に語られているものがけっこうあるのかと思いますよね。
矢田部:ありますね。ただ、今回の『アスファルト』の場合は、あまりちょっとそういう側面がないですね。もうちょっと『アスファルト』の場合は、無国籍感というか、どこか不思議な場所というような感じですが。
中井:それは、装置としての、いわゆるその3組のカップルというか、6人が、そのある一定のエリアに留まっているということなんですか? 装置としての団地というか。
矢田部:そうですね。装置としての建物、団地。エレベーターでの爆笑エピソードが一番最初に出てくるんですよ。一番最初なので、ネタバレじゃないんで、ちょっと。
一番最初に、エレベーターが壊れちゃって。でも、修理をしてくれないから、住民たちがみんなで一同に集まって、エレベーターの修理にみんなお金を出し合おうと会議やるんですよ。1人だけ金を出さないやつがいて、「なんでお前出さないんだ?」って。「住んでいるのが2階なんで、エレベーター使わないから」って。
中井:なるほど。
矢田部:「じゃあ、お前はエレベーター使わないっていうことで、金出さなくていい」って許されるんですけど。その日の夜に、彼は怪我して車椅子になっちゃって、エレベーター乗らざるをえなくなっちゃって。「乗ってるの見られたらやばい」というところから始まるんですよ。
福永:おもしろい。
矢田部:おもしろいでしょう?
福永:はい。
中井:けっこうユーモアたっぷりの映画。
矢田部:そのちょっと外したユーモア、すごいおもしろいです。
中井:なるほど。
福永:これ、原題も『アスファルト』なんですか?
矢田部:原題も『アスファルト』なんですよね。これが。
福永:この色味を象徴している感じがありますよね。映画のね。
中井:なるほど。わかりました。これ、6月の25日に、21時から土曜日ですね。21時から日劇で上映されますので、興味ある方は。
松崎:イザベル・ユペールという、今回の……。
中井:そうですよ。
松崎:団長(注:イザベル・ユペールは、フランス映画祭2016の団長を務めている)って言えば? 団長の主演作という。
中井:要チェックでございます。
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