理解をきっちり揃えていく世界を目指そう

曽根原春樹氏:次は、Over-communicateという部分ですね。これもシリコンバレーのPMたちを見ていると、みなさん非常に上手です。これもとても重要なポイントなので、ぜひ聞いてください。

PMとコミュニケーションという話で、日本語ではよく「コミュ力」と言ったりしますが、僕はコミュ力とOver-communicateは、ちょっと違うなと思っているんですね。

(スライドを示して)どういうことか。例えば、この黄色い丸でPMが考えていることを伝えたいと思ったとしましょう。一方、この青の部分が相手の理解です。まだ話す前ですよ? 話す前の相手の理解が青の状態で、これぐらいの大きさであったとします。お互いがコミュニケーションをしていくと、だんだん理解が進んでいくわけですね。交わって円になっていくわけです。

だけど問題は、ここまで進んでおいて「いや、ここはちょっと言いにくいから避けておこうかな」とか、「聞いているとここは触れられていないんだけど、こういう意味かな?」とか「まぁ、YYという意味にしておこうかな」と思ってしまう瞬間ができることです。これが非常に危ないんです。

例えばどういうふうになるかというと、あるPMが「これは技術的にはいけそうかな」と(言った)。ただ、「やる」とは言っていないんですよ? これを聞いた人が「がんばれば、何とかなります」と上の人に言っちゃったとしたら、さらにその上の人は「可能です」と言っちゃう可能性があるんですよ。そうすると何が起こるかというと、「じゃあできるなら、それを最優先でやって」となって、ガラガラポンが起きるわけです。

これでたくさんのPMが涙を流してきたわけです。問題は何かというと、コミュニケーションの中で隙間を作らないということなんですね。プロダクトマネージャーはポジションの特性上、伝えるのがすごく重要な仕事です。伝えるとは、ただ言えばいいかというとそうではなくて、何を目的にコミュニケーションをするかという理解を揃えることなんですね。

シリコンバレーのPMをやっている中で、非常によく聞く言葉に「アライン」という言葉があります。アラインは日本語で言うと「揃える」という意味です。このアラインという言葉は、ありとあらゆる場面で出てきます。これを日本語に訳すと、理解を揃えるという意味が一番しっくりくるかなと思うんです。

覚悟を持っていいことも悪いことも伝えていかないと、先ほど見ていただいたとおり、隙間ができた時にその隙間を相手が勝手に埋めにかかるんですね。「ここはこういう意味だろうな」とか、「こういうふうに取っておこうかな」と。これがいわゆる齟齬なんですよ。この齟齬があればあるほど、生まれれば生まれるほどコミュニケーションのコストがかかり、無駄が発生します。

(スライドを示して)この左側の下に丸の絵が描いてありますが、Under-communicate、齟齬が生まれている。隙間を相手が勝手に埋めている状態ではなくて、Over-communicate、理解をきっちり揃えていく世界を目指していかないと、コミュニケーションに無駄が発生してしまいますよということです。

もちろんこれは、単に口頭で伝えればいいというものではありません。ある時は口頭かもしれないし、ある時はSlackかもしれないし、メールかもしれない、ドキュメントかもしれない。そのコミュニケーションのチャネルは、やはりみなさんの中でうまく考えていただく必要があります。会社のプロセスやカルチャーもあるでしょうから、どういうチャネルで何をどのぐらい伝えるかという部分ですよね。

これはその会社ごとに違うと思うので一概なものはないのですが、目指すべきはOver-communicateの状態です。

得意技はあってしかるべき、ただし依存は避けるべき

次が、Over-indexing状態を避けるということです。Over-indexingという言葉はあまり聞いたことがないと思います。どういうことかというと、たぶんみなさんもご経験があるかと思うのですが、どこからプロダクトマネージャーになるかというのはあまり重要じゃないんですよ。

出自が、「もともとエンジニアでした」とか、「もともとデザイナーでした」とか、「もともと営業でした」というのは、ぜんぜんOKです。どんな出自からプロダクトマネージャーになっていただいても、それはぜんぜんかまわないんですね。それがある種プロダクトマネージャーのいいところでもあるんです。ということは、プロダクトマネージャーの得意技もさまざまになっていくということです。

例えばエンジニア出身の方だったら自分でもコードが書けちゃうし、エンジニアとバンバン話せます。デザイナーだったら、「Figma」はもうお手の物で、どんどんプロトタイプを作れちゃう。営業出身のPMなら顧客ヒアリングがめちゃくちゃ得意で、自分から営業しに行けちゃうよというようなかたちですよね。

逆に、エンジニア出身の方は、営業の得意技や、デザイナーの得意技ができないかもしれないし、デザイナーさん出身の方はやはりコードを書くことができないかもしれません。まぁ、それはいいんですよ。

Over-indexingというのは、みなさんが持っている得意技に依存してしまって、PMとして身に付けなければいけないスキルを隠してしまうという状態です。自ら持っている得意技を否定しているわけではありません。それはどんどん使っていただいてかまわないんです。だけどプロダクトマネージャーと、例えば前職のエンジニア、前職のデザイナー、前職の営業は、まったく別の仕事です。

プロダクトマネージャーを名乗りながら営業時代とまったく同じことをしているとか、デザイナー時代とまったく同じことをしているとか、エンジニアと同じことをしているのは、おかしいんですよね。なので、得意技に依存してしまうことによってPMとして身に付けなければいけないスキルを隠してしまうことを、Over-indexing問題と呼んでいます。

この状態は最初はいいかもしれません。(PMに)なりたての頃や、その会社に移ってDAY1の頃とか。短期的にはいいかもしれませんが、ずっとこれをやっているのは間違いなんですよ。先ほども言ったとおり、強みはあっていいし、みなさんの得意技はあってしかるべきですし、どんどん使っていただきたいんです。

だけれども、その強みを推しすぎて、強みに依存してすべてを自分の強みで解決しようとすると、PMとして育っていかなければならないスキルが疎かになってしまいます。例えば先ほど言ったように、コミュニケーションスキルもそうですよね。冒頭にStep Changeの話をしましたが、あれはどちらかというとプロダクト戦略や、プロダクトビジョンの話です。

こういう考える部分を避けて、エンジニアと過ごす時間ばかりがどんどん増えていくとか、こういうことばかりしていると、PMのスキルセット、PMとしてのスキルのバランスと言ったらいいんでしょうかね。この部分が非常に傾いてしまって、アンバランスな状態になってしまいます。

これも日本のPMのみなさんをコーチングしたり、いろいろな会社にアドバイスしたりする中で見受けられるのですが、自分がプロダクトマネージャーになった瞬間にいろいろな権限が与えられるみたいに考える人がちらほらいます。これは大きな間違いです。プロダクトマネージャーというタイトルが与えられたら、それと同時に権限が与えられるとは思わないほうがいいです。

基本的にPMは、自らスキルの獲得をしに行かないとダメです。初動はいつも自分からになります。自分から、何が足りないとか、こういうことができるようになりたいという能動的な動きを取っていかないと、やはりPMとしての成長はなかなか難しいだろうなというのは、見ていて思います。

(スライドを示して)シリコンバレーのパフォーマンスレビューや、スキルに関する話を聞いていると、よくこんな言葉が出てきます。「Not Given. Earn.」という言葉です。つまり、プロダクトマネージャーになったからといって、スキルやリソースは勝手に与えられるものじゃない、獲得せよという話なんですね。

プロダクトマネージャーという花形のポジションに就いたからといって、そこにあぐらをかかずに、自ら動き出す能動的な姿勢は常に持っていてほしいなと思います。そこに、まさにプロダクトマネージャーの覚悟が現れるということです。

(次回へつづく)