LayerX・代表取締役CTO 松本勇気氏

松本勇気氏(以下、松本):今日は「後悔しないキャリア選択のために私が伝えたい3つのこと」と題して、お話をさせてもらおうと思っています。さっそく、中のほうに入っていきましょう。

ちょっと不思議な肩書きですが、私は、今LayerXという会社の代表取締役CTOをやっています。LayerXはエンジニアにとても力を入れています。エンジニアリング中心の会社として作っていきたいということで、代表が2人います。

代表が2人とも元エンジニアというか、私は現役のエンジニアで開発もしています。今、百数十名ぐらいの……(画面を示して)前歯にカーソルが当たってる。おもしろい、ふふ(笑)。こういった会社をやっています。それ以外に、関連会社で三井物産さんと一緒に、合弁会社をやらせてもらっています。

あと、日本のCTO700人ぐらいが所属している日本CTO協会という協会の理事もさせてもらっていて、日本のCTOのお悩みを解決するということをやっています。その他、delyやプロジェクトカンパニーという会社の社外取締役もしています。

今、会社内でやっている(画面を示して)このお金周り、FintechとPrivacyTechというのも、あとでまた説明させてください。このへんを管掌しています。

趣味は筋トレと料理と書いてあるのですが、最近は筋トレというか肉体改造ばかりです。この半年ずっと減量をしていて、久しぶりに大学生以来の体重に戻りました。でも体脂肪率は落ちましたという、すみません、雑な自慢です。

経理や経費精算の面倒を解決するプロダクト“バクラク”を開発

今日はまず、会社の紹介をします。LayerXのことを知っている人がいたら、とりあえず「はい」なりなんなりちょっとチャットに投稿してもらえるとうれしいです。僕調べでは、まだまだ新卒のみなさんはなかなかご存じない会社だったりすることも多いなぁと思っています。(コメントを見て)そう、もともとはブロックチェーンの会社だったんです。

今、「ブロックチェーンの会社」というキーワードが出たのですが、実は今はぜんぜん違います。ブロックチェーンからいろいろ転換してきて、今やっているのは、バクラク事業という、「バクラク請求書」「バクラク申請」「バクラク電子帳簿保存」「バクラク経費精算」「バクラクビジネスカード」など、“バクラク”というSaaSです。会社のお金周りの事務処理をラクにするプロダクトを作っていて、海外ではこれをBusiness Spend Managementと言いますが、出ていくお金を管理するためのSaaSとなっています。

もう1つがFintech。こちらはまたあとで細かく説明しますが、アセットマネジメントのデジタル化です。PrivacyTech、これは「Anonify」というプロダクトを今は開発していて、個人情報保護とデータ活用のトレードオフをうまく解決しよう、みたいなことをやっています。

せっかくなので、もう少し事業の中身も掘って説明したいのですが、今はバクラクという事業を1つやっていますが、これはやっていることがすごくシンプルです。とにかく使いやすいSaaSを作ろうと。

使いやすいSaaSとは何か。例えばお金を払う時に、今はみなさんPayPayとかでサクッとお金を支払ったり、ユーザー体験がすごく良いプロダクトがtoCでは当たり前になっています。メルカリで物を売ったりすることも多いと思いますし、メルカリのプロダクトもやはりすごく使いやすいです。

でも、みなさんが会社に入社すると、絶望する方もけっこう多いと思うんですよ。「なんだこの経費精算、クッソ面倒くせぇなぁ」みたいな。

それを解決するプロダクト。toCレベルの使いやすさをtoBの世界に持ち込もうということで、機械学習など高度なテクノロジーを見えないかたちで埋め込んでいくということをやっています。それをコーポレート領域、いわゆる経理や経費精算の領域に使っています。

「お金を払う」プロセスを機械学習でデジタルに回す

やっていることは、お金を支払うという領域に関わるプロセスのデジタル化です。簡単に言うと、今までのお金の支払い方は、例えば会計ソフトとか、ソフトウェア的ななにかがたくさん入っているんだけど、実はプロセスはけっこう人手なんですよね。人がこの請求書を回収してきて、それを目で見て、それを別のシステムに書き換えると。

例えば、請求書を見て「いくら払うんだっけ」というのを、会計システムに書いたり、書いたあとに「じゃあ月末にこれを支払わなきゃ」と、今度は銀行のソフトウェアに書いたり、もしくは銀行の窓口に行って書いてもらって、それが終わったら、「支払い完了したよ」と会計ソフトに書いて、それをきちんと保存したりする。

このプロセス、実はデジタル化されていたのですが、紙の時代とあまり変わっていないんですよね。いわゆる機械学習的なものを中心に活用しながら、人間の作業をデジタルに置き換えていこうとやっています。例えばみなさんがお金を使って、そのレシートや請求書を受け取るというプロセスをデジタルに回す。「もう、メチャクチャ扱いやすいです」というサービスです。

データ入力は別に人が書き換える必要がないので、これは機械学習でやってしまおうと。AI、OCR、機械学習でやります。そこからうまくルールを組んでいけば、自動で入力できるじゃん、と。なので、自動入力して会計ソフトに反映したり、支払いをしたりができます。

支払うところも、実はカードでいいじゃんというところは、ビジネスカード(法人向けクレジットカード)というものを作っていて、「いやぁ、もうひたすら日本で一番使いやすいカードを作ってます」とよく言っているのですが、そういったカードで支払ったり。

最後の保管。「紙をきちんと保管しなきゃいけないよね」というのも、無料のプロダクトでカバーできますよ、ということを、今プロダクトとしてやっています。

ラインナップで言うと、(スライドを示して)いわゆるこれは申請や経費精算。これが、みなさんがお仕事するとなったら触ることがあるだろうプロダクトですね。あとは請求書処理、クレジットカード。これはすごくおもしろいです。実はこれは開発期間3ヶ月でリリースしています。

普通こういうのには1年ぐらいかけるんですが、各界のエキスパートを集めて、とにかく開発のスピードを求めて、メチャクチャ穴を潰した新しいプロダクトということでビジネス感を出しています。

ほかには電子帳簿保存というプロダクトですね。こういったプロダクトを通じて、すごく難しい社内の仕事の仕方を変えよう、がんばろう、改革しよう、というわけではなく、使いやすいSaaSでみんなの働き方や会社のデジタル化が簡単に達成される。みんなの仕事が楽になる。バクラクになるというので、このプロダクトをやっています。

不動産ファンドの開発やデジタル化も進めている

(スライドを示して)あと、この物々しい名前ですね。三井物産デジタル・アセットマネジメント。これはなんなのかというと、僕らのミッションには「眠っているお金をもっと投資に回したいよね」というのがあります。

個人金融資産で、今の日本にはだいたい2,000兆円の眠れるお金があります。1,000兆円は少なくとも普通預金で入っています。貯金になっているので、運用されていません。例えば、(スライドを示して)ここに商業施設とか港とか書いてあるんですが、いろいろな資産に投資できる機会をみなさんに提供することで、みなさんは投資ができる。

結果としてその投資が町を豊かにしたり、クリーンなエネルギーを作ったり、そういった人間の生活をより豊かにする方向に投資として回っていくということです。こういった、いわゆる不動産ファンドの開発やデジタル化をやっています。

実は鋭意開発中で、できれば2022年内、2023年の初めにはリリースできたらうれしいなぁと思っているのが、個人向けで投資できるサービスです。すでに一部パイロットプロジェクトで草津の温泉旅館とか、とある飲食業向けの冷凍倉庫とか、あとは東京の銀座にあるマンションとか、そういったものに投資できる仕組みは整えています。

REIT(リート)は何に投資しているかはわからないんですが、「この建物に投資します」という、明確に見えやすいサービスを今、作っています。

その過程になぜこんなこと(運用業務DXプロダクト開発)をやっているのかというと、実はすごくはんこリレーの業界なので、「脱・紙みたいなことをやろうぜ」ということもやっています。一応、それをtoB向けにもやっていますよということです。

PrivacyTech事業ではアセットマネジメントのデジタル化を目指す

PrivacyTechですね。私たちはスタートアップで百数十人ぐらいしかいない会社なのですが、事業もプロダクトも非常に多くて、少数精鋭でそれぞれのプロダクトを作っています。

(画面を示して)ちなみにこの不動産ファンドですが、今1,300億円ほど不動産を運用しています。スタートアップでこんなにお金を調達している会社は見たことがないだろうと思っていて、本当に大きなお金を動かしながら、今お仕事しています。

このPrivacyTech、機械学習の世界でみなさんもいろいろなデータを扱うと思います。その中で体験したことがあると思うんですが、「ひたすら広告が追いかけてくる、気持ち悪い」みたいなことがあるじゃないですか。あれは、プライバシーの侵害につながっているケースもあります。データを使いすぎると人のプライバシーを侵害する。でも、データを使わないと便利にならない、みたいな。この2つを解決する技術を「Anonify」という名前で今開発しています。

松本氏のキャリア変遷

ここまで会社の話をしてきたのですが、今日はこのキャリアの話をしたいと思います。ちょっと僕の略歴も参照いただきながら、どういうキャリアを歩んできたからこんな考え方をしているんだというのを、みなさんにお伝えしていきたいと思っています。

(スライドを示して)これはもうザッとね、ザーッと流していくんですけども、僕は2008年頃に大学に入学しました。実は大学在学中に起業していて、その時に初めてエンジニアリングをやりました。開発したことはなかったのですが、「お前がCEOやるなら俺がCTOやるよ」というジャンケンみたいなノリでエンジニア人生が始まりました。

その時が最初の起業で、AR関連をやっていました。12年前のARってちょっと早すぎるだろうという話はあるのですが、ここで起業してARの会社をやって、その後、人材系とか時間割ですね。「すごい時間割」というプロダクトの開発の起業をやって、そこからGunosyという会社に移りました。これが大学4年生の時です。

大学卒業と前後しているのですが、大学4年の1月にGunosyに入って、そこからひたすら開発をやり、上場して執行役員としてCTOになりました。執行役員になりCTOになり、組織の立て直しをやりました。組織の立て直しについては語るも涙みたいな話がいっぱいあるのですが、今日の主題ではないので置いておきます。

2017年頃に上場して、2年後にR&Dの担当になり、LayerXの前身になるブロックチェーンの研究開発担当をやりました。育休を取りながらブロックチェーンのアルゴリズムの学習をしていて、結果としてそれが今のLayerXにつながったという裏話です。そのほか、機械学習の、今で言うMLOpsみたいな基盤を作ったりしていました。

その後、DMM.comの組織改革やテックカンパニー化ということで、これは「DMM Tech Vision」というキーワードで検索してもらえば、僕が作ってきたことや、やってきたことがいっぱい出てくるので見てください。DMM.comには全社で3,000人ぐらいいるのですが、 29歳でそこのCTOをやっていました。その頃に、CTO協会立ち上げということで、仲間内で集まってCTO協会を作りました。

2020年頃、コロナ禍でみなさんの学び方も大きく変わってきて、日本中が「DXしなきゃ」と言い始めました。これは今動かにゃならんなと、いろいろな業界団体や行政に連携しに行って、御用聞きをしていました。

わかりやすいところだと、デジタル庁の立ち上げの手伝いや、経団連のサポートをしたりしていました。

そこから2021年、日本の生産性向上をやっていきたいというのと、最高のチームとソフトウェアで日本全体を変えたいと考えて、LayerXに転職しました。今はここで代表取締役CTOをやっています。

見てもらうと、僕のエンジニア人生は始まって今12年ぐらいかな。けっこう駆け抜けてきたという思いはあるのですが、まだまだ足りないところもあるなぁと思います。このキャリアの中で、どういうことを考えてきたのかを、お話しさせてください。

(次回へつづく)