平均思考から抜ける

小野陽子氏:(アンケートで)最初にデータを意識したのは大学生の時という回答が多かったのは、成績でしょうか。それとも就職でしょうか。それとも卒業研究だったのかとも思います。そしてこの時、私たちはいったいどこかにデータとして入っているのか。どこにも入っていない可能性もあるんです。

例えば今回のことを、「Women in…」やダイバーシティみたいなかたちで話すと、「女性だからという言い方は、なんだか意識しすぎているような気がして、できません」と、非常に奥ゆかしい方もいるんですが、言わないとデータにならないので、検討されないということを意識していただければと思います。

私が強烈に覚えているのが、とある東南アジアの国の、日本で言うところの統計局の方が日本に来た時に一緒にお仕事をしたことがあるんですが、「日本の戸籍はすばらしい」と言われました。要するに、(おそらく)全員データとして成り立っているから、戦略が立てられる、と。

「あなたの国はどうやっているんですか?」と聞いたら、「実は多様な民族がいて、諸島部や山間部など、いろいろあるので」と。ダーツで旅をするみたいにダーツを立てて、今度行くところはここって行って。本当にみんなすごい衣装を着て、山を登り崖を登り、そこにたどり着いて調査しないとできない。

そうでもしないと、「この人たちは私の国の国民ではない」となり、データに入っていない。これは極端な話ですが、「声をあげるのは意識しすぎててやだな」ではないんだということを、みなさんに少し考えてもらえたらいいと私自身は最近思っています。

その時に大事なことの1つが、平均思考から抜けることだと思います。

(スライドを指して)これも有名な図なので、見たことがある人がいるかもしれません。数千人のデータという時点で、今時「えっ」と思うかもしれません。理想として、平均が美しい、平均こそ美であるとしてコンテストが行われましたが、当然、全部揃った女性は1人もいなかった。そして、「だから女はダメなんだよ。軍隊にも入れないし」と主催者がキレたというオチがついています。

ところが、本当に平均でいいのか。平均で見ることはとても大事ですが、1つの指標でしかないということを、データサイエンスから伝えることは大事かなと思っています。

(スライドを指して)ちなみにNormann君もいますが、このコンテストはなかったらしいです。なぜ。まあ、そんなものでしょうか。

COVID-19が気づかせてくれたこと

適切にバイアスと向き合うことは大事かなと思います。バイアスを不当に助長したり、マイノリティが不利益を被らないようにすることは大事です。そして、だからこそ私たちはデータサイエンスリテラシーや、多様性、包摂性といった観点が非常に重要かなと思っています。

将来、やはりSDGsが大事なんです。これを考えていくことにおいて、今回のCOVID-19によって、私自身少し考え方が変わってきた部分があります。(スライドを指して)これをよく見ると、人が技術を発展させたために起きてしまった問題も、いくつか入っているわけです。

「人が自分で作っておいて撲滅って、なんだそれ」と思わないわけでもありません。そのような観点から、データサイエンス技術がこれからどうなるのかを考えつつ、見てもらえたらと思います。

COVID-19以前は、私たちはおそらく気候変動が危ないということを一番言っていたと思います。今回のCOVID-19が私たちに気づかせてくれたもの、やはりデータサイエンスを含めた科学への正しい知識が大事だということは、みなさん日々テレビやニュースで認識していると思います。

その中で、多様性を認めて集団行動することがどれだけ大事かもわかってきたのではないか。そして、自分事としてその物事をとらえることもやはり必要で、かつ、少し言い過ぎかと思いますが、やはり適切なリーダーシップというものの大切さ。旗振り役が間違った方向に行ってしまうと大変だということを気づかせたのではないかと、今私自身は思っています。

データサイエンスは多様性が非常に重要

みなさん多様性のチームは大事だと思っていると思います。

例えばデザイン・ディスコースにしてもそうですが、多様性は大事だと言われていながら、なぜ今、まだ言うのか。

diversityという事実があって、inclusion(包摂性)という行動がある。diversityは、よく“パーティーに招かれること”だと言われます。パーティーでは人の属性が多様なので、パーティーという場においては事実です。

そして、そのパーティーにおいてinclusionとは、“ダンスに誘われること”だとよく言われます。つまり、どんな属性でも排除されないということです。そして、その先に何がくるかというと、やはりその事実と行動を踏まえた感情による結果なのかなと思うんです。

つまり、belonging(帰属性)ということです。自分を偽らなくても、要するに仮面パーティーみたいなことじゃなくてもいいのではないか。自分はそのままで、安心してパーティーにいて、ダンスが踊りたければ踊る、そうでなければ踊らないということができる。そして、そんなところにbelongingだけでなく、equity(平等ではなく公平)や、integrity(誠実さ)というものがくるのかなと思っています。

私たちがこれからのデータサイエンス技術で考えなければいけないこと。そして、それが世の中に広く使われた時に、私たちが考えて守るべきことは何かということが、今後のdiversity、inclusionの次にくるのかなと思っています。

(スライドを指して)ウェルビーイングとマインドフルネスと書いてありますが、東洋的な考え方や視点だったものを、なぜか西洋に持っていくとこんなかたちになり、おしゃれなだけではなく、どうやらうまく世の中に伝わっているなと最近少し思うんです。

そうやって考えてみると、Yes、Noだけで言うような私たち理系が、求められがちだったものだけでは、やはりデータサイエンスは定着しない。

学問として考えるのなら、データサイエンスは領域の学問なので、やはり多様性が非常に大事です。いろいろなところに、いろいろなデータサイエンスがあっていいと思います。それを認めないとか、「これでなければ」ということではなく、やはり発展していく必要があるのではないかと思います。くどいようですが、遠くの誰かがやってくれるのではなく、自分事として向き合うことが、データに対して大事なのではないかと思います。

そういうわけで、データサイエンスで、ぜひ大事なデータ思考で、みなさんがこの世の中を展開していけたら、データサイエンスからストーリーをつむぐ世界にみなさんで参加できたらと思っています。当然、私も研究の分野、教育の分野で参加できればと思っています。長くなりましたが、どうもありがとうございました。以上で発表を終わります。

質疑応答

司会者:小野さん、ありがとうございました。では、どんなQ&Aが入っているか見てみたいと思います。まず1つ目。「データの見せ方で意識しているこなどがあればうかがいたいです。例えば、棒グラフで視覚的に『多い、少ない』などを表現する際に、縦軸・横軸の幅の取り方によって、グラフの見え方などが変わってくると思います。提示する側が、ある程度、意図を持ってグラフを提示していますか」という質問がいいでしょうか。

小野:そうですね。おっしゃるとおり、本当にこの棒グラフ1つとってみても円グラフをとってみても変わってくるので、このあたりはかなり厳しく指導というんでしょうか、をしています。

学生が社会人になって最初の人たちに教える時に、みなさん経験するかもしれません。円グラフ病、棒グラフ病、折れ線グラフ病と私たちは呼んでいます(笑)。どうしても変に少し凝ったように見せたがる学生が多いです。そうではなく、きちんと軸の意図を伝えなければと思っています。

司会者:ありがとうございます。

小野:(「データサイエンス学部ではAIの多様性などの教育もしていますか」という質問に対し)AIの多様性については、少しずつではありますがやっています。それだけでというと情報倫理みたいなものに入ってしまったりすることがありますが、本学ではプロジェクトベースドラーニング、いわゆるPBLという、データ思考を回すプロジェクトをやっているので、そういったところでも少しずつ入れるように、今は少しずつ自分事でとらえるような研究などもできればと思っています。

その時に、ただ倫理だけではなく、やはりプログラミングで差別が助長されていくようななにかがありましたよね。チャットボットなどで扱っているうちに、差別の言葉を覚えたらずっと毒を吐いたとか(笑)。そういうものを自分で作らせることも必要なのではないかと私自身は思っているので、コラボレーションをしたいという企業の方がいたら、ぜひともご連絡ください(笑)。

司会者:なるほど(笑)。では他の質問、「データは最終的に0と1の世界に落とし込まれますが、曖昧さはどう表現すればいいでしょうか」。こちらはどうですか?

小野:そうですね。曖昧さの表現というのは非常に難しいです。昔、“ファジー”などという言葉が流行りました。いろいろありましたが、その曖昧さの表現は、それこそ今後、計算機がもう少し変わってくるとどうなるかなと私自身は思っていました。量子コンピューターの次に、アメーバみたいなのがきたらいいなと、ずっと思っています。

司会者:アメーバ。

小野:アメーバ型コンピューティング(笑)。そう言うとみんなに「うぇ」と言われてしまうので、難しいところです(笑)。そのあたりの曖昧さをどう実装するのかが難しいです。

司会者:まだまだ難しいと。もう1つ質問が来ていますね。

小野:「ストーリーテリングにするには何から始めるのがよいのでしょうか」。学生にこのような実習をさせても、すごく難しいと思います。解析のプロであると思えば思うほど、おそらく自分の意見や偏りを入れてはいけないと思って解析しているから、難しいと思うのではないかなと私は思うんです。

そうすると、まずはデータに対しての興味、関心の部分のところから入るだけでも、まったく違うのではと思います。ぜひWiDS TOKYO@IBM、@YCUに参加していただいて。アイデア・チャレンジのほかに広島のデータソンやアイデアソンもあるので、いろいろなところに参加するとよろしいのではと思います。

あるいは、データサイエンス主婦という方にも見ていただければ、こんな考え方もできるということもあるかと思います。なにも面倒くさいことはしていないので、発案がよければいいのかというわけでもありません。データをいじっているうちに、こんなこともある、あんなこともあると見ていくということであって。難しく考えすぎないことと、解析者としてプロフェッショナルすぎると難しいので、一度それを取り払うことが大事なのかなと思います。

「紹介されていたLTはどこかで見られますか?」という質問ですが、WiDS TOKYO@YCUのページに動画が出ているので、ぜひご確認ください。

司会者:“データサイエンス主婦”というものがけっこう気になるんですが(笑)。

小野:結局、その新しい働き方というデータは、学生たちが女性はどれだけ大変かという現状を調べて、欧米や世界各国はどうなのか、オランダがすごく大転換したデータを、どこかから取ってきたんです。

私はイクメンという言葉はあまり好きではないですが、それまでそんなことはなかったのに、イクメンを無理やり家事に参加させる(ようにした)みたいな。

司会者:無理やり?(笑)。

小野:無理やり参加させる。16時くらいに帰すなどで。(そしたら)調べた学生が、私は将来オランダに行きたいですと言っていたくらいすばらしかったようです(笑)。

そういう点から見た時に、なぜ日本の女性が困っているかというと、1回家に入って専業主婦になってしまって、例えば、(夫と)別れてしまって子どもを育てることになったり、あるいは子育てが大変すぎて請われて家に入ってしまったけれど、実際もう少し働きたいと思った時に、実はデータサイエンスってけっこういいんじゃないかと(学生は思った様子)。

どこかに行かないで、例えばデータを家に持ってくればいいが、学生なのでまだ荒くて、セキュアでないデータをどうやって家に持ってくるんだという課題はあります。

それを職業訓練校的に、大学のデータサイエンス学部を使うと(学生が)言い出したんです。要するに、データサイエンスの能力がなくても、データサイエンスを教えている大学や講師なんかのところに行って、「コミュニティによって産後うつも解消される」と言われた時に、いやそんなに甘くないってすごく思ったんですが(笑)。

私は司会をしていたので言えませんでした。こうやってコミュニティができて、とか、また学び出して、と。さらにそこで、お金をとってくるみたいなことを言ったんです。

司会者:お金をとってくる?

小野:そう、働くというんでしょうか? プロジェクトごとのなにかにできるようにみたいなことを、すごく言っていました。、逆に働いてしまっている私からすると、「あれが甘い」「これがダメだ」ってすごく言いたくなり(笑)。

でも、「おもしろい。アイデアとしてはなるほど」と思いました。奇抜なというか(笑)。この立場でなければできないこと、思えないことというのはあるんだなと。

司会者:ちなみに横浜市大ではそのような教育を(笑)?

小野:まだデータサイエンス主婦向けのものはないです。

司会者:主婦向けではないですが、社会人とか(はありますよね)。

小野:はい、あります。

司会者:一度仕事を離れたような人向けなどはあるんですか?

小野:そうですね。離れた人向けとは謳っていませんが、「D-STEP」というデータサイエンス教育の外部教育があります。データサイエンス職に転職したい社会人の方、あるいはもう少しスキルをつけたい方、ほかに役所というか官庁の方向けに、そのようなプログラムがあります。

司会者:では、ぜひ主婦向けも。主婦向けというか、主婦に限ってしまうと、と対象が絞られると思うんですが。

小野:そうですよね。そのために学生も、自分でお稽古ごとの先の主婦の方々に聞いてみたりしています。そうすると、そもそもパソコンがないという話のほか、いろいろあったのでどうしたらいいんだろうと。

司会者:iPadでできるように(笑)。

小野:そうですね。その時にちょうど、このWiDSに行って、WiDSのco-directorたちに話したら、いきなり「A社にお願いすればいいじゃない?」と言われて(笑)。どうしよう、話が進んだら素晴らしいけれど誰がやるの?。

司会者:A社が配ってくれるんですかね(笑)。

小野:「その主婦向けのものを、そういう安いラインを作ってもらえばいいんじゃない?」って言ってくれました。聞きながら、私の英語能力が間違っているのかと思いました(笑)。例えば、今なら安価なパソコンを配るとか、そういう話になるのかなと思います。

司会者:なるほど、ありがとうございます。では時間なので、以上としたいと思います。