キャリアの節目で考えていた2つのこと

広木大地氏:このような活動をしていた僕が、キャリアの節目節目でどんなことを考えたかをまとめてみました。誰かに負けたくないという思いから、成長を求めるゲームに参加してきた。それはなにか。自分の信用度合いがそんなに高くない時に、「できます。できます」とビッグマウスでいれば、いい仕事をもらえるかもしれません。

その仕事にきちんと応えていけば、それがまた信頼や信用になり、新たな仕事を得るためのチャンスになるので、さらにレバレッジをかけて、「自分はできます」「自分ならやれます」と見せることが重要だと思っています。

信用の積み重ねはスキルを伸ばしていくし、コネクションを作っていくし、信用やスキルや人脈が伴うとともに結果が伴う。それではじめて意味があると思っています。

もう1つ、“コスパのよさ”は諦めたほうがいいと感じています。最近、コスパのいい勉強方法とか、「コスパのいいなにかないですか?」と聞かれることがありますが、コスパがいいものはみんなやるから、ナンバーワンにならなければいけない。僕はそれほど天才ではないから、コスパが悪いものや基礎をしっかりやろうと考えるようになったんです。

昔のゲームは、ドラクエのようにレベルがスカラーで上がって成長を求める、どんどんレベルが上がっていくものが主流でしたが、最近はマイクラのように探索型のアチーブメントツリーなもののように、自分で好きに探して作っていくゲームが多いと思います。

当然、レベル型のものもありますが、このレベリングの違いは、先ほど話した深化と探索、両利きの経営と少し似ていると思っています。

探索の部分と活用/深化の部分のトレードオフは、機械学習の分野でもよく言われますが、キャリアでも同じことが言えます。残り時間が少なくなったら活用の部分を増やしていくと、探索の価値は時間とともに減衰していきます。

例えば、ヒューリスティックなアルゴリズムなら、アニーリングアルゴリズムに“焼きなまし法”というものがあると思いますが、あちらも最初は探索が強いものの徐々に冷めていき、活用の価値が上がって局所解を探すようになる。

これはキャリアについても言えます。僕自身のキャリアは探索のフェーズだと思っているので、コスパのいいことを探そうとか、自分のできることをやろうと考えるのは、まだまだ先です。人生100年だからもう少し働かなきゃと思っているので、活用のフェーズはまだまだ先だと思っています。

ただ、これはバランスがけっこう重要です。探索(Exploration)は、未経験のことや知らないことをどんどん探していくことですが、それだけだと過去の経験を活かせずスペシャリティが発揮できないかもしれません。逆に深化/活用(Exploitation)は、過去の経験から一番いい行動を取ろうということだと思いますが、それだけではよりよい発見や「もっと活かせるかも」ということがありません。

この深化と探索、探索と深化のトレードオフが、キャリアにおいても重要だと僕は考えています。

名前のついている仕事にこだわらない

僕は、けっこう探索を大事にしているフェーズだと思っています。ソフトウェアは、一度書いたらコピーしてしまえばいいので、本質的に同じものを書く必要がありません。だから、ほかの人とまったく同じ能力は、すごく価値が低いと言えると思います。ブルックスの本にも載っていましたが、ソフトウェアは同じものを作り続けないから、人工構造物の中で最も複雑なんです。

そういうものに相対している時、僕は名前のついている仕事にこだわらないようにしようと思っています。例えばフロントエンドエンジニアやバックエンドエンジニアなど、いろいろな名前がついているけれど、それで規定するはすごくもったいない。

名前がついていると交換可能な仕事だと考えてしまうんです。「フロントエンドエンジニアが5名足りません」の5名に入った時点で、あまりおもしろくない。交換される仕事だ、大事なものになれないという気がします。

要は、流行っているものや名前がついているものに振り回されるくらい、いろいろな情報がある。昔はそれほど名前がなくて、エンジニアとしか呼ばれない時代もありました。わかりやすいのは、その分、学習のためのコストがすごく下がっていることで、その代償として、本当に大事な役割には常にあまり名前がついていません。

僕には、いろいろなエンジニアリングマネジメントのための「Podcast」のようなものを始める前は、エンジニアリングマネージャーという言葉を使っている人はあまりいなかった記憶があります。どんどん名前がつくにつれて、本当に大事な役割には常に名前がついていないと思っています。そのため、こぼれたボールを拾っていこうと考えていました。

キャリアは情報量だとも思っていて、レアなものを組み合わせれば増えていく。情報量の定義は、マイナスのlogを確率に掛けてあげればいい。晴れが80パーセントの時の情報量は8割くらい起こることなので、大した情報量ではなく0.3bitくらいです。ただ、1パーセントくらい雪が降るとして、例えば「明日は雪です」って言われて「ええ、マジで?」ってなるような情報は6bitある。このような計算の考え方があります。

例えば、1,000人に1人の経験であれば10bit、それが2つ重なれば20bitです。キャリアというのはその情報量で、組み合わせ次第で情報量はどんどん増えていく。自分の中でレアな組み合わせを作っていければ、どんどんレアな人材になれるはずです。

データサイエンスとインフラ、データサイエンスとUX、経営とエンジニアリング、数理最適化とプロマネなどいろいろあると思いますが、それらを組み合わせていくとレアな人になります。

名前のついているものは、だいたいが交換可能な“材”です。価格は需要と供給の関係で決まるので、供給が足りないものにみんななろうとしますが、そもそも供給が足りなくなったらそれを増やそうとするんです。エンジニアが足りなくなったらノーコードが流行るのがそうです。

要は、単純で交換可能なものはどんどん置き換えて、需要自体に対して供給量を増やそうとするんです。自分という存在を欲しがる人はただ1人でもよくて、その人にとってレアで交換が利かないなにかになれば、十分な価格になるはずなんです。それができればいい。そういう交換可能なものにならないようにしようと思っていました。

情報量を増やすための行動

情報量を増やすにはどう行動すればいいのか。それはやはり少しずつ自分の環境を変えていくことだと思います。コンフォートゾーンから抜けて、当たり前ではないことをする。機会があればチャンスがあればそれに乗っていく。

たくさんインプットしてたくさんアウトプットしようと思っても、人間はある種の“筒”で、インプットだけしても気持ち悪くなるし、アウトプットだけしても枯れてしまう。たくさんインプットして、たくさんアウトプットしていかないと、人間は育たないと思っています。無理にどちらかだけをするのではなく、インプットしづらいと思ったらアウトプットが足りないと考えるようにしています。

もう1つ、好きなものを好きと認めて、遊び心大事にして遊ぶことが、なかなかやりづらい。キャリアについて考えれば考えるほど、合理性を求められていると感じるようになっています。

例えば、メチャクチャ絵が好きだけれどTwitterでメチャクチャ絵がうまい人を見てへこんで、絵を描くのをやめてしまう人がいるそうです。周りの人がすごいことで、自分が好きなものを好きと言えなくなってしまうのはもったいないなと思います。できるできないではなく、好きだからやる。それが、いつか得意になればいい。得意でなくても好きだと言ったっていいじゃないかと思っています。そういうことをどんどん大事にしていこうと。

最近ワインに興味があって、少しずつ勉強しようと思っています。小野さ(小野和俊氏)はメチャクチャワインが得意というか、ワインが好きな方だから、小野さんの前でワインが好きって言いづらいなって思うこともありますが、最近好きで少しずつ飲んでいます。

自分が楽しいと思うこと自体は悪いことじゃなくて、楽しいからやっていこう、徐々に得意になっていこう。そうしていくと情報量が増えていくと思っています。

それをかっこいい言葉で計画的偶発性理論といいます。少しかっこよすぎるので解説すると、個人のキャリアの8割は予想もしない偶発的なことから決まります。その偶発や偶然を計画的に設計して、自分のキャリアをいいものにしていこうという考え方です。好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心。これらポジティブに新しいものを探して、継続していろいろやって、時代の変化に合わせて柔軟に。そして冒険心を持って、不確実な結果でもリスクを取ろう。

これを見た時に、自分が大事にしていることがたくさんあると思いました。もしかしたらみなさんにとってもヒントになるかもしれないと思って紹介します。

まとめると、僕は不確実性に向き合うことがキャリアの中ですごく大事で、それが僕の中ではものを作ることやエンジニアリングすることにつながっていると思ったので、今日はその話をしました。ご清聴ありがとうございました。