最新鋭のロボティクス技術は産業をどこまで動かすのか。アメリカ・ラスベガスで開催された「CES 2025」の基調講演に登壇したNVIDIA創業者Jensen Huang氏がロボティクスに関連するテクノロジーについてプレゼンしました。KeyonやAccentureといったパートナー企業たちと、工場や自動車を動かす大規模システム。NVIDIAが画策する「産業のデジタル化」についての現在地や将来展望が明かされました。
Omniverse × Cosmosで機械を自律させる
Jensen Huang氏(以下、Huang):本日、当社は「Cosmos」(フィジカル AI システムの開発を促進するプラットフォーム)をオープンライセンスで提供することを発表します。CosmosはGitHub上で公開されます。
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私たちは、大・中・小型の極めて高速なモデル、メインストリームモデルと、基本的に知識移転型ではないティーチャーモデルを提供していきます。
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Cosmos世界基盤モデルをオープンにすることで、Lama 3が企業向けAIにもたらしたのと同じことを、ロボティクスや産業AIにもたらすことを心から期待しています。CosmosをOminiverseに接続したときに魔法が起こります。
その根本的な理由はこれです。Ominiverseは物理的な基盤ではなく、物理学に基づいた基盤を持ち、アルゴリズム的物理学や原理に基づく物理シミュレーションに基づいたシステムです。これはシミュレーターです。
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それをCosmosに接続すると、真実の基盤、Cosmosの生成を制御し、条件付けできる真実の基盤を提供します。その結果、Cosmosから出てくるものは真実に基づいています。
これは大規模言語モデルをRAG、すなわち検索拡張生成システムにつなぐのと同じ考え方です。AIの生成を真実に基づかせたいのです。そしてこの2つの組み合わせることで、物理的にシミュレートされた、現実に基づいたマルチバースジェネレータを実現することができるのです。
その応用可能性と使用例はまさにエキサイティングです。特にロボティックスや産業への応用において、その有用性は明白です。このOmniverseとCosmosの組み合わせは、ロボティックスシステムを構築するのに必要な第3のコンピューターとなります。
NVIDIAは産業のデジタル化にいかに寄与するか
Huang:ロボティクス企業各社は、最終的に3つのコンピューターを構築する必要があります。ロボットシステムは工場かもしれませんし、自動車かもしれません。ロボットかもしれません。3つの基本的なコンピューターが必要です。
1つ目はAIをトレーニングするためのコンピューターです。私たちはこれをDGXコンピューターと呼んでいます。2つ目は、もちろんトレーニングしたAIを展開するためのコンピューターで、これをAGXと呼んでいます。AGXは自動車やロボットの中、AMRやスタジアムなどに設置され、エッジで自律的に動作します。
そしてこの2つをつなぐためにデジタルツインが必要となります。これがシミュレーションのすべてです。デジタルツインは、トレーニング済みのAIが練習を重ね、精緻化され、合成データの生成や強化学習、AIフィードバックなどを行う場となります。これがAIのデジタルツインです。
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これら3つのコンピューターはインタラクティブに動作します。産業界に対する当社の戦略、3つのコンピューターシステムについて話してきました。私たちにあるのは三体問題ではなく、3つのコンピューターによるソリューションです。それがロボティックスにおけるNVIDIAのビジョンです。
製造業の無駄をなくし自動化していく
Huang:さて、ここで3つ例を挙げてみましょう。最初の例は、私たちがこれらの技術を産業のデジタル化にいかに適用しているかについてです。
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世界には何百万もの工場、何十万もの倉庫があります。これが50兆ドルの製造業を支える基盤になっています。そのすべてがソフトウェアデファインドに移行する必要があります。そしてすべてが将来的に自動化される必要があります。そしてすべてにロボティックスが導入されることになります。
当社は倉庫自動化ソリューションの世界最大手Keyon、そして世界最大のプロフェッショナルサービスプロバイダーであるAccentureと提携しています。2社はデジタル製造に大きくフォーカスしており、当社は2社と協力して本当に特別なものを作り出そうとしています。
これについては後ほどご紹介します。当社の市場展開戦略は、開発者やエコシステムのパートナーを通して提供しているソフトウェアプラットフォームや技術プラットフォームのそれと本質的に同じです。
そしてOmniverseに接続するエコシステムパートナーは増え続けています。
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理由は極めて明白です。誰もがデジタル化された産業の未来を望んでいるからです。世界のGDP50兆ドルには多大な無駄と自動化の機会が存在します。
NVIDIA × Keyon × Accentureとの共演で向上をデジタル化
Huang:当社がKeyon、Accentureと連携している一例を見てみましょう。
(映像開始)
映像音声:サプライチェーンソリューション企業のKeyon、プロフェッショナルサービスの世界最大手Accenture、そしてNVIDIAは、フィジカルAIを1兆ドル規模の倉庫・物流センター市場に投入しようとしています。
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高性能な倉庫物流の管理には、絶えず変化する要因に影響される複雑な意思決定の網をうまく繰りぬける必要があります。
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これには日々または季節的な需要変動、スペースの制約、労働力の可用性、多様なロボットや自動化システムの統合が含まれます。そして現在、実際の倉庫の運用KPIを予測することはほぼ不可能です。
これら課題に対処するため、Keyonは産業用デジタルツインを構築し、ロボット群をテストおよび最適化するためのNVIDIA OmniverseのブループリントであるMegaを採用しています。
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Keyonの倉庫管理ソリューションは、まず、デジタルツイン内の産業用AIブレインにバッファーロケーションからシャトル保管ソリューションへの荷物の移動などのタスクを割り当てます。
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ロボットのブレインはOmniverseにおいてデジタル化された物理的な倉庫のシミュレーション内にあります。
ロボットのブレインは、OpenUSDコネクターを使って、CAD、動画、画像からの3DとLiDARからのポイントクラウドとAIが生成したデータを集約します。
ロボット群はOmniverseのデジタルツイン環境を認識し、推論し、次の動作を計画して実行することでタスクを遂行します。
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ロボットのブレインはセンサーシミュレーションを通して結果の状態を確認してから、次のアクションを決定することができます。このループを継続し、その間、Megaはデジタルツイン内のすべての状態を正確に追跡します。
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これにより、Keyonは実際の倉庫で変更を行う前に、スループット、効率性、稼働率などの運用KPIを測定しながら無限のシナリオを大規模にシミュレートすることができるようになりました。
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(映像終了)
NVIDIAの技術による「自動運転革命」が到来した
Huang:NVIDIAと共に、KeyonとAccentureは産業用自律システムを新たに考案しています。これは驚くべきことです。すべてがシミュレーション内で行われているのです。将来的にはすべての工場にデジタルツインが導入されるでしょう。そして、そのデジタルツインは実際の工場とまったく同じように動作します。
実際にOmniverseとCosmosを使用することで、将来のシナリオを多数生成することができ、AIがどのシナリオが任意のKPIに最適かを判断します。
そしてそれが、実際の工場に展開されるAIのプログラミングの基礎となります。次の例は自動運転車両についてです。自動運転革命が到来しました。
長年にわたるWaymoとTeslaの成功により、遂に自動運転車の時代が到来したことは極めて明白です。さて、自動運転業界向けに当社が提供しているのは、3つのコンピューター、AIのトレーニングシステム、シミュレーションシステム、合成データ生成システム、OmniverseとCosmos、そして車両に搭載されるコンピューターです。
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自動車メーカー各社は、これらのコンピューターシステムのうち1つ、2つ、または3つを使ってさまざまなかたちで当社と連携することができます。当社は世界中のあらゆる主要自動車メーカーと協力関係にあります。
WaymoやZoox、そしてもちろんTesla、これらメーカーのデータセンター、世界最大のEVメーカーであるBYD、そして魅力的な新車の発売を控えているJLRなどです。
Mercedezは、NVIDIAのシステムを搭載したモデルの生産を今年から開始します。また、本日、トヨタ自動車とNVIDIAが次世代の自動運転車の開発で提携することを発表できることを大変うれしく思います。
LucidやRivian、Xaomi、そしてもちろんVolvoなど、実にすばらしい多数の企業と協力しています。Wabiは自動運転トラックを開発しています。また今週、Auroraが自動運転トラックの開発にNVIDIAのシステムを採用することを発表しました。
毎年1億台の自動車が生産され、世界の道路には10億台の車両が走り、年間1兆マイルもの距離を走行しています。これらの車両は近い将来、高度な自動運転車か完全自動運転車になっていくでしょう。
そのため、この業界は非常に大きな産業に成長するでしょう。私はこの業界が初の数兆ドル規模のロボティクス産業へと発展する可能性が高いと見ています。
私たちのビジネスを見ていくと、世界で増えつつあるこれら自動運転車のわずか一部だけでも当社のビジネスはすでに40憶ドル規模に達しており、今年は、年間換算で約50憶ドルに達する見込みです。
すでにかなり大規模なビジネスに成長し、さらにその規模は拡大していくことでしょう。
車載用の次世代コンピューター「Thor」の性能
Huang:本日、当社は車載用の次世代プロセッサ、車載用の次世代コンピューター「Thor」を発表します。
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ここに1台持ってきています。少々お待ちください。これがThorです。
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これがまさにロボティクス用コンピューターです。ロボティクス用コンピューターです。膨大な量のセンサー情報を取り込み、処理します。無数のカメラ、高解像度レーダー、LiDARからのデータがすべてこのチップに入力され、処理されます。
このチップがすべてのセンサー情報を処理し、トークンに変換し、Transformerに投入して次の経路を予測します。この自動運転用コンピューターは本格的な生産が始まっています。現在の自動運転車の標準となっている前世代Orinに比べ、Thorの処理能力は20倍です。
これは本当に画期的なことです。Thorはすでに本格生産体制に入っています。このロボティクスプロセッサは、完全なロボットにも搭載可能です。AMRにも、ヒューマノイドロボットにも使用できます。中枢システムにも、マニピュレーターにも使用できます。
このプロセッサは、基本的に汎用ロボティクスンピューターなのです。当社のドライブシステムについて大変誇りに思っているもう一つの点は、安全性への徹底した取り組みです。
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Drive OSはソフトウェアデファインドのプログラム可能なAIコンピューターとして初めてASIL-Dまでの認証を取得したことを発表できることをうれしく思います。
ADSIL-Dは自動車の機能安全性としての最高基準で、唯一かつ最高のものです。私はこれを非常に誇りに感じています。ASIL-D、ISO 26262規格を取得。これは1万5,000人のエンジニアによる一年間の仕事に相当します。
本当に驚異的な成果です。その結果、CUDAは今や機能的で安全なコンピューターとなりました。ロボットを開発するならNVIDIA CUDAです。
合成走行シナリオで自動運転技術を底上げ
Huang:さて、先ほど自動運転車の話の中で、OmniverseとCosmosをどのように使用するかお見せすると申し上げました。
今日は、道路を走る車の動画をたくさんお見せする代わりに……それも一部お見せしますが、AIを使用して自動的にデジタルツインを再構築する方法と、その機能を将来のAIモデルのトレーニングにどのように活用するかお見せしたいと思います。ではご覧ください。自動運転車の革命が始まっています。
(映像開始)
映像音声:自動運転車の開発には、すべてのロボットと同様、次の3つのコンピューターが必要です。AIモデルのトレーニングのためのNVIDIA DGX、テスト、走行、合成データ生成のためのOmniverse、そして車載スーパーコンピューターDrive AGXです。安全な自動運転車の開発では、珍しい状況に対応する必要があります。
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しかしながら実世界のデータには限りがあります。したがってトレーニングには合成データが不可欠です。NVIDIA Omnivers、AIモデル、Cosmosを活用した自動運転車データファクトリーは、トレーニング用データを桁違いに増強する合成走行シナリオを生成します。
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まず、Omni mapが地図と地理空間データを融合して走行可能な3D環境を構築します。走行シナリオのバリエーションは、走行ログの再生やAIトラフィックジェネレーターから生成することができます。
次にニューラル再構築エンジンが自動運転車のセンサーログを用いて精度の高い4Dシミュレーション環境を生成します。過去の走行を3Dで再生し、シナリオのバリエーションを生成してトレーニングデータを増強します。
自動運転車の開発ペースが飛躍的に加速する
映像音声:最後にEdify 3DSが既存のアセットライブラリを自動的に検索、または新たなアセットを生成してシミュレーション用のシーンを作成します。Omniverseのシナリオは、Cosmosを条件付けして大量の写実的データを生成し、シミュレーションと現実のギャップを縮めるのに使用されます。
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そしてテキストプロンプトを使用することで、ほぼ無限の走行シナリオのバリエーションを生成することができます。Cosmos Nemotronの動画検索機能により、大規模に拡張された合成データセットと実際の走行記録を組み合わせ、キュレートして、モデルをトレーニングすることができます。
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NVIDIAのAIデータファクトリーは、数百回分の走行データを数十億マイルの実効データに拡張し、安全で高度な自動運転の基準を確立します。
Huang:これは驚くべきことではありませんか? 当社は数千回分の走行データを数十億マイル分のデータを変換します。自動運転車のために膨大なトレーニングデータを生成することができます。
もちろん実際に道路を走行する車両も依然として必要です。当然ながら私たちは生涯にわたってデータ収集を継続します。しかしながら、このマルチバースを使用した合成データ生成は、物理的な基盤に基づいた能力を持ち、物理的に正確で妥当性のあるAIのトレーニング用データを生成することができます。
これにより、トレーニングに使用できる膨大なデータを手に入れることができるのです。自動運転車産業の時代が到来しました。非常にエキサイティングな時代です。今後数年間が本当に楽しみです。
コンピューターグラフィックスが驚くべきスピードで進化したように、今後数年間、自動運転車の開発のペースが飛躍的に加速するのを目の当たりにすることになるでしょう。