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宇宙ビジネスIPOセッション(全4記事)

宇宙の資源は誰のものか? 専門家が考える宇宙ビジネスの法的課題と日本の挑戦

京都で開催されたIVS2024において、宇宙ビジネスの最前線にいる2人の専門家が、業界の現状と未来について語りました。ispace取締役CFOの野﨑順平氏とTMI総合法律事務所パートナー弁護士の新谷美保子氏が、宇宙スタートアップのIPO、法的課題、そして一般の人々が宇宙ビジネスに関わる方法について洞察を共有。月面探査から宇宙データの活用まで、急速に発展する宇宙産業の多様な側面に迫ります。前回の記事はこちら

ispaceの成長とブレイクスルー

藤井涼氏(以下、藤井):ありがとうございます。すみません、ちょっと私の質問で横道にそれちゃったのですが、ispaceとしてのブレイクスルーポイントをあらためてうかがえたらなと思います。

野﨑順平氏(以下、野﨑):上場する上でのブレイクスルーということでよろしいですか? そうですね、まず会社としては2010年に設立されているんですよね。そういう意味で言うと、けっこう昔なんです。

私は2017年にispaceに入って、その時には会社としてのイメージが、だいたい20人ぐらいの会社だったんですよ。本当に会社も、大学の研究室の一室みたいな、最初ノックするのにすごく勇気が要ったのですが、ちょっと反社会勢力のオフィスじゃないかと思うようなところでして。

藤井:(笑)。

野﨑:そういう状態だったのですが、それまで何をやっていたかというと、ispaceは、四輪車のローバーという月の上で走る四輪車を作っていました。問題は、それを月に持っていく手段がなかったんですよね。もちろん自分たちのロケットもないですし、ロケットの先のランダーですね、月まで行くアポロのような着陸船もないので、そこを他社に頼るしかなかったんですね。

これだとやはりビジネス化がぜんぜんできませんから、それならローバーだけではなくてランダーの開発を始めようと決めたのが、ちょうど私が参加した2017年頃でした。そこから資金調達をして、いろいろ事業を作っていったというタイミングでした。なので、もう今2024年ですから、そこはやはり、会社としての人生の半分ぐらいローバーをやって、もう後半に入ってきているような感じなんですね。

もう1つは、やはりターニングポイントは、その時は、自分たちでミッション1を打ち上げたことですね。開発を2017年から始めて、1号機はだいたい5年ぐらいなんだかんだかかっているんですよ。5年から6年の間ですね。そうすると、その間、やはり実績がないので、なかなか社会に示すことができないのですが、やはり打ち上げでちゃんと月まで行けたのは、最大のブレイクスルーになっていると私は思っています。

宇宙ビジネスの上場

藤井:そうですね。結果で示すというところで。さらに2023年、ちょうど1年ぐらい前に上場されましたけれども、それは、月探査機を作っている会社としては1社目の上場ということで、けっこういろいろなハードルがあったんじゃないかなと思うのですが、上場まで大変でしたか?

野﨑:大変でした(笑)。楽ではなかったですね。これは、とある株主の方に言われたのですが、「上場ってこんな大変じゃないですよ、普通」って言われたんです。もちろん、どの会社も上場すること自体は簡単じゃないんですよ。ただ、その中でもあまりに大変だったということだと思うんですよね。

それは、私もこれ1社しかないので比較はないのですが、2つ理由があって、いわゆる不確定要素が多いんですよ。上場の時にだいたい見られるのは3つありますかね。例えば、会社としての内部管理がしっかりできているかどうかというのはありますよね。そういうところはやるとしても、「じゃあ、本当にこの事業はちゃんとビジネスになるんですか? お客さんはいるんですか?」ということを、最初に東京証券取引所の方々にも、とても冷たいコメントをかけられたんですよね。

やはり「いやいや、そんな予想事業とかって」、そうは言いませんけど「本気ですか?」と。「本当にそんな事業は生まれるんですかね。30年後じゃないですか?」みたいな、そんなところからのスタートだったので、「いやいや、これはもう本当に世の中も含めてどんどん始まることなんですよ。10年どころか5年後にはどんどんお金が動いているので、今やらないと間に合わないですよ」と。そこを説得する旅だった、というのがまず1つですし。

宇宙開発の誤解を解く

野﨑:もう1つが、「いやいや、着陸なんかできないでしょう」というのがあるんですよ。これは、宇宙事業の共通のたぶん一番のハードルじゃないかと思います。うちの社長の……先ほど『Forbes』の写真で一瞬出ていた、社長の袴田がよく言うのですが、「宇宙で実際に一番難しいのは、実は人の思考だ」という話です。

みなさん、いろいろな事業の話をしながらも、宇宙と聞いた瞬間に脳みそが停止してしまうんですよ。「もう難しくて無理、無理、無理」みたいな感じで、よくわからないものになってしまうんです。

ただ、本当に冷静に考えてみると、まず、人類はもうアポロの時代に(探査機を)作っていますよね。あれは1960年代に作ったので、もう4、50年前に開発しているものなんですよ。その一度確立されたものをスタートアップがどうやって安く早いスピードで作るかのチャレンジなので、なにかとんでもない未知なものを作っていると思わないでくださいというのをまず理解していただきたいです。

あと、みなさんはご存じかわからないですけど、意外に宇宙は安定していることを知っていますか? 海の中や地球上のほうがよっぽど不安定なんですよ。雨は降るし風も吹くじゃないですか。宇宙は1度飛ばすと真空の状態なので、もちろん放射線とかそういうのはあるのですが、わりと安定しているんですよ。なので、実はispaceも、2022年の12月に打ち上げてからミッション1は特に長い時間をかけて、5ヶ月間かけて月まで行ったんですよね。

これには、いろいろな原因があって、コスト削減だったんですけども、この5ヶ月の間にいろいろなことがありながらも、基本的にはものすごく安定していたんです。天気の影響などがないので、大きな影響を受けずに安定しながら行くことができるので、そういう意味でも、思っている以上にもっともっと、実は見えやすいところなんですよということを説得する旅が一番大変だったところですね。

上場企業の増加と今後の展望

藤井:ありがとうございます。このあたりは、新谷さん、いろいろ話せることも話せないこともあると思いますが、この1年で一応4社ぐらいが上場しています。月源探査とか、衛星データ活用、宇宙ゴミや人工衛星を打ち上げるベンチャーなど全部違うアプローチで上場しているのですが、そういったところも含めて、宇宙企業が上場する意味も含めて、お考えをいただけますか?

新谷美保子氏(以下、新谷):そうですね、ありがとうございます。宇宙は最初にすごくお金がかかるし、いつ売上が立つかというとけっこう時間がかかるし、基本的には上場していくのがなじみにくい環境であることは、間違いないと思うんです。しかし、このように上場企業が4社も出たのは、やはり民間のスタートアップの流れがだんだんマチュアになってきたことを示しているので、それはすごくいいことなんだと思います。

ただ一方で、やはり日本ができていないと思うのは上場以外のエグジットで、良い事例が出ていないっていうのはすごくもったいないなと思っています。やはりいい技術を持っているところを大きい企業が買うことで生まれるシナジーって、とてもある産業だと思うので、まだそれができていない状態です。だから、もう次は、上場も増えてきているけど、そういうのも出てきてほしいと思っています。

もう1つは、先ほど防衛や安全保障の話をしていたのですが、私は、先ほどの自己紹介で見ていただいた方もいるかもしれないですが、2022年の1月から、ちょうどあのウクライナ危機の直前から、日本の宇宙政策委員会というところで委員を拝命しています。それは何を意味しているかというと、弁護士を入れたのは、日本の宇宙安全保障の中の柱の3つの1つに産業を使おうというのを入れるためだったと理解しています。

2022年から1年半議論して、2023年の6月に、日本国としては初めて、宇宙安全保障構想を出しました。これは、ほかの米国などは出しているのですが、日本としては初めてです。どうやって宇宙を使って日本の安全保障に役立てるかというアーキテクチャを出しています。これはもう公開されているので、もしご興味がある方は見てほしいです。

その中で、民間の宇宙のビジネス、宇宙ビジネスで出来たインフラを使っていこうと書かれていて、とんでもなく莫大な予算がつけられています。ですので、日本も米国も完全にそっちの流れです。民間で作ったものを防衛に使っていこうという流れになっているので、産業が安全保障の面でも大事になってきていると思っています。2点、以上です。

国際条約の限界と各国の国内法整備

藤井:ありがとうございます。けっこう盛り上がったので時間がもう少ないのですが、2つ目のテーマにいきたいと思います。弁護士の新谷さんがいらっしゃるので、宇宙と法律は一見固そうに見えるのですが、けっこうカオスなところもあってそれがおもしろいかったりも、まだまだこれからだったり、決まっているところもあったりとか。私もわからないことが多くて。そのあたりをお願いします。

新谷:簡単に話すと、国境がないから条約が一応あるのですが、条約ではほとんどなにも決まっていないと思ってもらって大丈夫です。原理原則みたいなことしか書いていません。「じゃあ、どうやって宇宙ビジネスをやっているの?」というと、各国が国内法を持っていて、そこで許認可を出して、ロケットを打ち上げたり衛星を管理していいよ、というふうになっています。

法律などがきちんとできることは、規制のほうに傾くんじゃないかと思うかもしれないですが、ルールが決まることで産業は入りやすくなるので、産業振興の意味もあると思っています。(野﨑氏を見て)月資源の法律もできたので、やはりそういうのは、こういうispaceさんらが資金調達をするのにも役に立っているのではないかなと思っています。

藤井:今、月の資源の法律はどうなっているんですか?

新谷:月の資源の法律は、これはすごくおもしろくて(笑)、国内立法を持っているのはアメリカ、ルクセンブルグ、UAEに次いで日本の4ヶ国ぐらいだけですよね。月のような天体は、誰も領有できないんですよ。よく、婚約の時に、月の土地を買いました、あげましたみたいなのをやっていますけれど、あれはパロディにお金を払っているので、領有はできないんです。

だけど、日本やアメリカやルクセンブルクやUAEは、どういう法律を作ったかというと、天体は領有できないけれど、行って、採ってきて占有した資源だけは、自分たちが所有権をもらえますよという国内立法を作ってしまいました。

アナロジーとしてよくあるのは、公の海ですよね。公海に出ていって魚を捕ったら、海は自分のものにならないけど魚は食べていいよねという話で、採ってきた資源はもらっていいよということです。

(次回へつづく)

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