宇宙ビジネスを専門とする弁護士
藤井涼氏(以下、藤井):ありがとうございます。では、続いて新谷さん、お願いします。
新谷美保子氏(以下、新谷):はい、よろしくお願いします。なぜ弁護士が出てきているのかなと思っている人もいるかもしれないので、私の活動について5分少々ですけれども、話したいと思います。
(モニターを示して)もうメチャクチャ文字が多いのですが、別に読んでもらわなくて大丈夫です。私が所属している事務所は、日本人弁護士だけで600人以上いるような日本の最大手の1つです。(大手の弁護士事務所は)5つあるのですが、そのうちの1つに所属しています。
その中で何十人も、スペースを扱うチームを率いているんですが、それは当たり前のことではぜんぜんなかったです。今日こうして民間でスタートアップに関心がある人が、こんなに宇宙のセッションに集まってくれることは、10年前では到底考えられなかった話です。
私に何があったかという話をさせてもらうと、事務所から米国留学をさせてもらえるので、コロンビア大学に行きました。2年目に、三菱重工で研修をした時に、日本にスペースローヤーがいなくて国益が損なわれているんだ、という話をアメリカに行って初めて聞きました。
アメリカは、当時2013年の段階でもうSpaceXが創業10年だったんですね。もう民間で低軌道はやっていきますと。宇宙飛行士は民間が送るし、国は月や火星を目指すから、低軌道の経済圏は民間でやってよと。「もう出来上がった技術でしょう?」という世界でした。
でも、日本はぜんぜんそうではありませんでした。国が予算を取って衛星を作って、上げていくと。宇宙探査はNHKが特集する話で、ビジネスは関係ないみたいな世界だったわけです。
日本の宇宙ビジネス
新谷:でも、私は、その(アメリカのような)状態が絶対日本にも来ると思って、これは日本のものづくりの世界に、ちゃんと国益を守りつつ、きちんと浸透させるために、弁護士としてこれは絶対やらなければと思って、決意をすごく固めて帰国しました。
何があったかというと。私たちの事務所は、今日のIVSにもすごくたくさん参加しているのですが、メチャクチャスタートアップや新しい産業に得意な……新しいことをとにかくやる大手事務所です。それにもかかわらず、私が帰ってきて「宇宙ビジネスをやりたい」と言った時は、みんなは開いた口が塞がらないという感じでした。
そんなことをやっている弁護士は日本に1人もいないし、それで大手事務所で稼いでいるチームは本当にないし、いや、本当にここに残りたいんだったらよく考えろと言われました。何千万円かけて留学させたと思っているんだとか、期待していたのになあとか言われました。
でも、代表だけが、「10年やるからちょっとやってみろ」と。「宇宙飛行士になるつもりで、宇宙飛行士、10年準備するつもりでやってみろ」と言われたのが、帰国した2015年です。
法律事務所における宇宙ビジネスチームの成長
新谷:まだ10年経っていないのですが、もう今はすごく大きいチームを率いています。パートナーは私だけではぜんぜん回しきれなくて、複数名のパートナーで案件を回すぐらい大きくなっています。
何があったかというと、この10年は、日本でも宇宙ビジネスが民間のビジネスになったということなんです。だから、こうやってビジネスローヤーが活躍する場が生まれました。
その下にいっぱい、政府の委員系のものが出ていますが、これはぜんぜんちゃんと読まなくていいです。何が言いたいかというと、民間ですごくこれが困っているとか、これが課題だと私が外野で思うことを政治にちゃんと還元して、それをルールに入れてもらう。
そのことで産業が活性化すると思うから、政府の委員をやってもぜんぜん儲からないけど、それが今すごく重要で意味があると思うから、私は時間を削ってやっているという経歴になっています。
宇宙ビジネスの可能性と日本の強み
新谷:今、私たちのチームはこんなに大きくなっていて、稼ぎ頭の一つは、スタートアップへの投資です。大きい会社さんはいっぱいプレスリリースされているからわかると思うのですが、(私たちは)CVCなどではなく、事業会社本体からもスタートアップに、時には100億円単位にも上る投資案件に関与しています。特に私たちが最近やっているのは、何件か連続してプレスリリースされたのですが、海外の宇宙スタートアップ投資を扱っています。それに加えて、報道はされないのですが、実はいくつも紛争があります。イメージとしては、ロッキード・マーティン社や、ボーイング社のような海外のレガシー企業と日本の企業が戦う時に、日本側の味方として一緒に闘っています。
それをもう、機微な情報なので絶対に裁判所には持っていけないので、事業会社と私たち弁護士で、ガチンコで交渉するというのが紛争を扱う時の日々の生活です。なので、私は可処分時間の9割はクライアントワークをやっているのですが、残りは政府委員として政策の検討に関与しています。
それから、今出ているいろいろなメディアは、やはり日本のエリート層や知識階級の人に、宇宙ビジネスがちゃんとビジネスになるんだということをわかってほしいので、そういう層に訴えかけられそうなものだけは出るようにしています。
だから、知識階級が読んでくれそうな、『日経ビジネス』や『Forbes』のような媒体に出してもらい、これが世界を変える、少子化していく日本で、技術があるということだけが、たぶん日本が世界の中でなくてはならない武器になる唯一のキーだと思っているので、そこについて発信するようにしています。
宇宙ビジネスの可能性と日本の強み
新谷:やはり米国に留学して思ったのが、日本はものづくりがメチャクチャいいんですよ。だけどそれを外に出していったり、それをルールメイキングの中に落としていくことがすごく苦手だと思うので、私はそこの橋渡しができたらなと思っています。
やはり、どんどん日本人が減っていく中で、日本が世界の中でどういう立ち位置になるかは、ディープテック分野が変えていけるんじゃないかなと思っています。特に宇宙は、まだ覇者が決まっていません。先ほど「宇宙ビジネスをやりたい人」と言った時に手を挙げてくださった方は3、4人だったのですが、もう1回、もうちょっと考えてみてください。データやITをやっている人には、すごく親和性がある産業です。
別に衛星を作って打ち上げなくてもいいので、下りてくるデータを使ってくれてもいいし、通信を使ってくれてもいいし、測位を使ってくれてもいいし、いくらでも使いようがあります。
単に人間の活動領域が陸海空から宇宙も広がってきたよという、行動領域が広がったというだけの話なので、ぜひ今やろうとしていることが宇宙上でもできないかという視点を持ってほしいと思っています。私からは以上です。
宇宙スタートアップのIPOと資金調達の課題
藤井:ありがとうございます。今話していただいたように、このセッションは別に宇宙でビビらせたいわけじゃなくて、実はみなさんで宇宙に取り組めるんだよというのを理解していただきたいというセッションとなっています。
では、さっそく、1つ目のテーマにいきたいなと思います。(モニターを示して)じゃあ、1問目にいきましょう。大きなテーマは、宇宙スタートアップのIPOでいきたいのですが、まず野﨑さんにうかがいたいと思います。
まず、みなさん、ITのスタートアップはイメージできると思うのですが、そもそも宇宙のスタートアップは、当然特殊な環境だったりもするので、まずそこをみなさんをあまり怖がらせない程度に、特殊さみたいなところをぜひ伝えていただきたいです。あと、上場するということは、当然ブレイクスルーのポイントがあったと思うのですが、このあたりを思い出していただくと、いかがですか?
野﨑順平氏(以下、野﨑):はい、ありがとうございます。そうですね。みなさん、上場企業で、宇宙分野で上場している企業が何社ぐらいあるかご存じですか? 日本ではまだまだ本当に少ないんですよね。ispaceは、2023年の4月に東証のグロース市場に上場しました。あと、QPSさんや、それからこの間はアストロスケールさんが上場されましたけれども、なぜ上場するのかということですよね。
やはり上場すると当然大変になるんです。まさに我々もものすごく大変な中にいます。なぜかというと、よりたくさんの株主の方と向き合わなくちゃいけないですし、だけどやっていることは、ものすごく大きな研究開発のベースなので、すべての情報を外に出せないわけですよね。なので、なかなかそこは難しくて、苦労しています。
なぜあえてそんな苦労をするかというと、ひとえに答えはお金です。これは、最初に「怖がらせないでね」という話がありましたけれど、宇宙事業は、いわゆるディープテックです。その中でも、宇宙開発事業は、自信を持って私も投資家に言っているんですけど、一番不確定要素が大きいと思います。これは、否めないと思います。
不確定要素だらけなのですが、ただ、それでも開発を続けなくちゃいけません。これはお金がかかるのですが、それをなんとか説明しなくてはいけません。そのためにも上場して、しっかりといろいろな投資家の方から投資を受けられる環境を作るのが、自分たちが上場した一番の目的でもありますね。
ただ、もちろんそれだけではなくて、上場することによって、やはりいろいろな大企業の方と連携しやすくなったり、いろいろな人に参加していただきやすくなったりするメリットはもちろんあります。最大の理由は、やはり資金調達だと思います。
宇宙ビジネスと軍事安全保障の関係
藤井:宇宙はやはり、基本的には軍事と切っても切り離せないような領域で、アメリカや中国は軍事予算がものすごく投下されているのですが、戦争をしない日本において、そういう調達の難しさって、どう感じているんですかね?
野﨑:「戦争」という言葉はちょっと強いので、(言い換えて)「軍事安全保障」というのはどうしても近いですよね。今、戦争をする際の安全保障上はやはり宇宙のインフラが、実際非常に大事になっています。
軍事衛星や偵察衛星もそうですし、通信もそうです。なので、どうしても切って切り離せないところはあります。しかも、技術力も、打ち上げるロケットと、ミサイルなどはどうしても近しいところがあったりするわけで、そういう意味でも非常に機微に触れる情報が多いことは事実ですよね。ただ、これも会社によって違うと思うのですが、それは日本においても一緒で、やはりアメリカや中国だけではなく、日本も防衛上、非常に重要になっていると思いますね。
ただ、会社ごとにスタンスの違いはあると思っていて、ispaceの場合には、ダイレクトに軍事のところをやろうとしていません。ただ、やはり監視の衛星を持っていきたいとか、カメラをそこに設置したい、そういうニーズはいろいろとあると思うので、そのあたりは、非常に気をつけながら事業をやっています。
(次回につづく)