CLOSE

Co-Innovation Base 対談編!『起業の科学』著者に学ぶスタートアップ成功の秘訣とは?(全4記事)

“虚栄の指標”とは? 『起業の科学』著者が語る、スタートアップが犯しがちな失敗

2018年2月20日、ランドロイド・ギャラリーにて、初のトークイベントが開催されました。『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP社)の著者で、自らも起業の経験をされている田所氏をゲストに迎え、セブンドリーマーズCEOの阪根氏、地引氏を交えた3名のスタートアップ経営者が登壇。パネルディスカッション形式でイベントを行いました。本パートでは、田所氏のシリコンバレーでの起業の経験談や、地引氏のライブドア買収の舞台裏などが明かされます。

起業家の強みはモチベーション

田所雅之氏(以下、田所):シリコンバレーでやったスタートアップは、今思うと起業家としてやってはダメなことのトップ10を、たぶん10位まで全部やってたと思うんですよ。そもそも「今なんでシリコンバレー?」みたいなことになりましたし、一緒に創業した人選びもそもそも間違いでした。

取締役とか共同経営者は、ビジョンにはすごく共感している必要があるんですけど、スキルは補完関係である必要があると思います。株を割った人がエンジニアの人ではなくて、僕と同じビジネスの人でした。外部のCTOとか採用しました。そういうチーム構成だと、初期のスタートアップにとって重要な「チームとしての学習」ができなくなります。

先ほど事業転換(pivot)の話もありましたけど、外部の人がいたら、事業転換しにくくなります。また、やったとしても中途半端になってしまいます。直近のスタートアップも、僕が100パーセントコミットしていませんでした。起業家は120パーセントコミットする必要があります。この中に起業家の方もいらっしゃると思うんですけど、起業家はやっぱりこれと決めたら副業はダメかなと思うんですよね。

僕は2013年から、前のスタートアップをやったんですけど、2014年にシリコンバレーのVCに誘われてしまって、それが魅力だったんですね。毎日ピッチする側にいるけど、ピッチされる側に立ちたいという。片足はそっちに突っ込んでしまいました。

僕がVCを始めた時点で、IPOを目指すのは非常に難しくなったなと思いました。当時は年間200社くらいピッチされていました。VC2社がピッチして、また同じ日に別のスタートアップからVCにピッチされたこともありました。

僕はピッチしながら「さっきピッチしたスタートアップの方が、自分の事業よりも100倍いけてるな」と思いながらやっていたこともありました(笑)。スタートアップにとって大事なのは「やり切る」「120パーセントコミットする」というモチベーションかなと思います。

起業家の強みって、はっきり言ってモチベーションの高さしかないんですよ。そういう人と一緒にやる必要があります。僕は、起業家によって4つの要素が大事だと思っています。

起業家にとって大事な4つの要素とは

田所:1つ目がcan。できるかどうか、技術力があるかどうかですよね。もう1つがニーズ。セブンドリーマーズさんの場合だと、世の中に「服をたたむのが面倒くさい」という大きな潜在的なニーズがあります。もう1つがget paidですよね。ビジネスモデルとしてちゃんとマネタイズできるかどうか。あと、抜けがちなんですけどwantです。そもそも自分自身や自分のチームが本当にやりたいと思うかどうか。

自分と対話する内省的なプロセスが大事だと思っています。阪根さんもそうですが、優れた起業家の方は、お客さんとも話しますし、投資家ともやっぱり対話します。それにも増して、自分との対話もすごく上手い。自分の心の機微の言語化とかすごく上手いんですね。

僕がシリコンバレーに行った時には、スタートアップに憧れてスタートアップをやったので、そういった内省プロセスはなかったです。なぜそもそも自分がやる必然性があるのかとか。僕の場合は、ストーリーって呼んでるんですけど、そこを深掘りする必要があると思います。

課題に出会ったストーリーが大事です。ベンチャーはいいこともありますが、つらいことの方が99パーセントあります。それでも続けるというのは、自分自身が本当に解決したい課題にフォーカスするのがすごく大事だと思います。

阪根信一氏(以下、阪根):はい、ありがとうございます。モチベーションとストーリーということでした。もう少し具体的な苦かった経験を引き出したかったんですが、じゃあその辺を地引さん。実際に先ほどのような経緯で社長に任命されて、赤字から黒字にして東証マザーズまで持っていったのでしょうか。

たぶん並大抵の努力じゃなかったと思うんですけども、大企業からベンチャー、スタートアップの少し成長した会社の社長になって、その後の苦労について少し教えてください。

訴訟を起こし、お金を回収していった

地引剛史氏(以下、地引):そうですね。ちょっと話が長くなるんですけど、社長になる前から話したいです。買収した会社が訴訟を抱えていたんですね。いわゆるライブドア事件で、まず買収するのが大変だったんです。

買収するのに1年かかったんですけど、名だたる弁護士事務所同士が、買い手と売り手で直接やり合って、戦略ルームをそれぞれ設けて。それで4時間くらいバトルをするのを経験して、本当になんていうか痺れるような体験をしました。それが最初の買収のところでした。

買収は大変だったんですけど、買収した後もやっぱり訴訟を抱えてるので、いろいろあるんですよね。買収する時に、株券を発行する会社なのに株主にちゃんと渡ってないらしくて、「株主は本当にいるんだろうか」みたいなことを(調べたり)。

ライブドア事件に出てくるような人たちが株主名簿に名前を連ねてるんですけど、そこの人が本当に(株を)持ってるのかを、中国に探偵を送って確かめさせに行ったっていう。

それで、クロージングの日が株主総会になってるんで、その日の朝までに全部やらなきゃいけないんですけど、そういう情報が最後まで入ってこなくって。徹夜して「本当にこれできるのかな」みたいに朝まで待ってるような。そんなことをやって、買収がすごい強烈だったのが、最初に大変だったところです。

その後に買収してみたら、売りが立ってるんだけど取りっぱぐれてるみたいな案件がいっぱいあったんですね。なので、まず最初にやったことは訴訟です(笑)。少額ではありますが、訴訟をいくつか起こしました。それで取り損ねてるお金を回収して、すごい生々しいことをやって。やっぱり会社って、登記簿にそういう歴史とかどんどん載ってきちゃうんで、ある意味で傷がついちゃってるんですよね。

その時に原体験として、会社を買う時にはちゃんときれいな会社を買わなきゃいけないし、会社を汚しちゃいけないなと思いました。その後、事業を見てみるとけっこう痛みまくってまして。もうしょうがないので、そういうリストラクチャリングの常套手段で、不採算で成長性の見込めない事業をどんどん切っていったんですね。

そうしたら、ほとんどの事業が不採算で成長性もないので、事業クロージングしようみたいなことをやってたら、売上が2割くらいになっちゃうというので、もう「何のために買収したんだろう」と。そういうことがあって、「なんでこんな会社買ったんだ」と上司に責められました。

新しい波に乗るために業態転換

地引:そんなこともあったんですけど、営業の会社をテクノロジードリブンの会社に切り替えようってことで、ソネットやソニーからいろいろ人を送り込んでもらいました。いわゆるデータサイエンティストとか、(データを)ちゃんと分析して、テクノロジーでいい行動ターゲットに広告を打つ方に業態転換をしました。

ちょうど新しい波がアメリカに来ていたので、それを見て、もう絶対に業態転換した方が勝ちだと思いました。日本にはまだその波が来てなかったので「日本で最初になります」と言って、投資をソネットの上層部に認めてもらいました。当時大きかったお金なんですけど、3億くらい投資して、業態転換をしたんですね。

その時、ちょっと焦っちゃいまして。売るものがまだちゃんとできてないのに、営業の人をいっぱい雇っちゃったんですよ。もう「人海戦術で売ります!」と。やっぱり、「1番にならなきゃ意味がないんです」みたいなことで。

人を雇ったら固定費がどんどん増えて、売るものもないのでやっぱり売れない。ということで大変な赤字を出しまして、その年に3億くらいの営業赤字を出しました。しかもシステムの減損をしたので、7億くらいの純損失を出してますね。

その時に、ソネットの役員から「もう今年ダメだったら取り潰しだからね」と言われて。それで固定費を下げながら成長もさせるという、二律背反なところを同時にやらなきゃいけない。その過程で早期退職もやらざるを得ないタイミングもあって。

経営者として雇用を切るというのは、本当にやっちゃいけないなと。本当に経営の責任を(社員に)転嫁しちゃうことなんで、絶対やっちゃいけない。一生に一度にしたいと思ってます。

人がハイタッチで運用して、お客様に価値を提供するところでなんとかしのいで、それで黒字化まで持って行ったんですね。でも、それはけっこう功を奏していて、AIってやっぱりまだ未熟な部分があって、当時AIで完全自動にするのはけっこう難しかったんです。なのでそこに行かないで、人の運用もちゃんと入った状態でやったので、パフォーマンスが他社よりすごく良かったです。

阪根:(笑)。

スタートアップが陥りやすい失敗

地引:本当に「災い転じて福となす」で、なんとか黒字化ができて。それで、そのままの勢いで2年かけて上場まで持っていけたという感じです。

阪根:社員数としては何人いたのが何人まで(減って)、また何人になったんです?

地引:そうですね。50人いたところが事業をやめて、ソネットから広告事業を全部並行して、それでも43人くらいに減ったんですね。そこから上場した時は120人くらいになりました。

阪根:なるほど。ありがとうございます。アップアップダウンですね。

地引:アップアップダウンしまくりです。

阪根:じゃあ田所さん。もうちょっとつっこんで、いくつかの会社を起業して、その中で「うわー、この時に一番精神的にきつかったなー」っていうところを(笑)聞いちゃっていいですか。

田所:今、僕は30社くらいを同時にメンタリングしてるんです。メンタルアドバイザーをしてて、あのシードはシリーズAの前くらいですかね。まさにそういった失敗がありました。

シード段階だとそんなに人も雇ってないし、固定(費)もないんですけど、「このままいったらやばいな」というところ。例えば、おっしゃるとおりで、まず資本政策がぐちゃぐちゃだったり。要は株を持っちゃダメな人が株を持ってるとか、プロダクトができてないにもかかわらず人を雇っちゃったり。

あとは、エクイティストーリーって言うんですけど、競合優位性を保ちながら「上場まで成長できますよ」みたいな。その辺のストーリーが書けない状態もけっこうあります。

昨日もまさにあるIoTのスタートアップと話してたんですけど、4人の経営陣がいて、一方は「売り切りでやりたい」。一方、CFOとCTOは「SaaS(Software as a Service)でやりたい」と言ってて、分かれちゃってるんですよね。けっこう悩ましいなと思って。彼らの「人が欲しがるものを作る」ということは、実際もう売り切り型でできちゃったんですよ。

そこからいわゆる定額利用のSaaS型にしてしまうと、バリュー・チェーンという提供の仕方も違いますし、営業の方がお客さんに対して価値提供をする力も違いますし。そこの段階で分かれちゃって、SaaS型にする判断は、僕は「スケールするなら正しい」とアドバイスしました。でも、経営陣で分かれちゃってるんで「まあ検討します」というところで話は終わりました。

KPIの設定を間違えると、雇う人も間違える

田所:スタートアップにはライフサイクル/ステージがあります。僕の本で、5つのライフサイクル/ステージを定義しています。シリコンバレーでやった時も、直近で日本でスタートアップをやった時も、僕はそれが頭に入ってなかったんですね。なので、支離滅裂というか。とりあえず、もう今でいうと恥ずかしいっていう、恥ずかしさもないんですけど。

思いつきや思い込みで商品を作って、見たいものを計測して、それが継続して業績が上がってという話になって、内輪で盛り上がって。投資家にピッチしまくっていたんですけど。今考えると、投資家には「バニティマトリクス(vanity metrics)」、虚栄の指標って言うんですけど、起業家自身が自分たちをよく見せようとして計測する指標があるんですね。

そういうことをしてても投資家はもうわかっちゃうんです。何をKPIとしてるかでその人の経営センスがわかっちゃうんで、「Facebookの“いいね”がたくさんあります」とか「BlogのPVが上がってます」「だから我々はイケてるんだ」、というピッチをしてるんですね。

そのKPIの設定の仕方が間違ってるし、それが間違ってしまうと雇う人も違ってますよね。地引さんもおっしゃってたんですけど、人が欲しがるプロダクトができてから人を雇うべきです。

話の例えとして、ラーメン屋と一緒だってよく言ってるんです。要はラーメン屋で美味いラーメンを作れと。ユーザーエクスペリエンスも大事で、美味いラーメンを食べさせる体験を作って、そこで初めてラーメンの広告を出す必要があると思うんですね。

僕がやってた頃って、不味いラーメンなのに、広告を出してたんです。今から考えると、本当に逆のことをやっていました。エグいところで言うと、共同創業者が逃げてしまいました。本当にきつかったですね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 各地方の豪族的な企業とインパクトスタートアップの相性 ファミリーオフィスの跡継ぎにささる理由

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!