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AIG・カルビー・富士通の事例発表「在宅ワークと転勤制度」(全2記事)

コロナ禍のいま、カルビー&富士通の担当者が語る 各社が推進する「新しい働き方」と「転勤制度の見直し」

職場でともに働く部下のワークライフバランスを考え、その人のキャリア・ライフを応援しながら組織の業績で結果を出しつつ、ボス自らも仕事とライフを楽しむことができる上司「イクボス」。これを推進するための意識変革を同盟企業と一緒に啓発してきた、NPO法人ファザーリング・ジャパン。同団体が2020年9月9日、対外向けの勉強会として「社員が働き方を決める時代へ 〜AIG・カルビー・富士通の3社の転勤事例から紐解く〜」を開催しました。本パートでは、カルビー株式会社 石井信江氏と富士通株式会社 猪田昌平氏が、それぞれの会社の事例について解説しています。

カルビーが実践する「New Workstyle」という働き方

川島高之氏(以下、川島):では続いて企業事例を3社、いきたいと思います。まず最初にカルビーの石井さんからお願いしたいと思います。

石井信江氏(以下、石井):よろしくお願いいたします。みなさん、こんにちは。カルビー株式会社の石井と申します。本日は「カルビーはどのようにNew Workstyleに移行したのか」というテーマで、お話をさせていただければと思っております。

まず簡単な自己紹介ですけれども、2018年からダイバーシティインクルージョンと、昨年から働き方を担当しております。10年前に本社移転のプロジェクトに参加をいたしまして、ワークスタイル変革に携わり、また10年ぶりにこのような仕事をやっているという状況でございます。

カルビー株式会社の簡単なご紹介をさせていただきますが、今年71年目を迎える会社でございます。製品はかっぱえびせんをはじめとして、ポテトチップス、じゃがりこ等のスナック類やシリアル商品の製造・販売をしております。

さて、6月25日にNew Workstyleということでニュースリリースをいたしました。全社の約800名のオフィス勤務者の働き方をモバイルワークを標準にいたしました。これに加えて単身赴任の解除、通勤定期代の支給停止等の施策を発表いたしました。

その他、このタイミングでフルフレックスタイム制導入とモバイルワークの手当(一時金)を支給いたしました。単身赴任の解除については、モバイルワークを基本として業務に支障がない場合に限って解除する、という方針です。

モバイルワークが標準になりますので定期代を廃止しまして、交通費を出社日数に応じて日額で支給というやり方をとっております。それ以外に、本社オフィスの出勤管理システムの稼働やオンライン名刺、オンライン契約システム、オンライン請求・精算といった施策を同時進行で行っております。

コロナの感染が拡大し、強制在宅というかたちになったわけですけれども。会えなくなって・見えなくなってということで、人事部門としては社員のみなさんが今何を感じているのかということと、在宅環境下で何が起こっているかを知りたいということで、オンラインのワークショップの開催であるとか、在宅ワークをよりよくするための、マインドフルネストレーニング等の施策を次々にやってまいりました。

モバイルワークを行う従業員へのアンケート結果

石井:社員の変化ということで、4月中旬ですね。緊急事態宣言が出まして、2週間くらい経過したころにワークショップをして。「多少不便はあるけれども、なんとかやってます」「慣れないけど大丈夫。ただ雑談は欲しいな」みたいな声があり。

ゴールデンウィークの直前になると、働く環境についてそれぞれがいろんな工夫をしている状態でした。もちろん仕事面もそうなんですけれども、家族が一緒にいる状態で、どういう工夫をすれば効率的にやれるかと。そんな話が聞けるようになりました。

そんなことを踏まえて、モバイルワークをやっている従業員の方を中心に、アンケートを取りまして。ゴールデンウィーク明け以降、新しい働き方についてもいろいろな意見を社員のみなさんからもらったと。こんな流れになります。

具体的に、ワークショップのコメントだったりアンケートの内容について触れさせていただきたいと思いますが、近況や前後でどう変わったかということを聞く中で、人事の中では薄々「もう完全に元には戻らないのではないか?」という、そんな直感を持つようになりました。これまでは「どういう時に在宅ワークをするか?」という観点でしたけれども「どんな仕事だったら、どうしても出社をする必要があるか?」という、オフィスに行く理由を逆に考えると、そんなフェーズに変わっていったかなと感じています。

またアンケートですけれども、モバイルワークの自宅の仕事環境については、意外に「環境が整っている」という非常に肯定的な意見がほとんどで。「まったく整っていない」と答えている人は、2パーセントくらいしかいなかった。かなりみなさんがんばっているな、という印象を持ちました。同じく「モバイルワークの課題って何ですか?」との質問では、デメリットだったり悩みというものはたくさん感じているけれども、個々が解決に向けたアクションを取っているということで。人事の中では、ある意味、みなさんのアクションに感動したわけです。けっこうすごいことが個々で行われているなぁ、ということを実感いたしました。

「New Workstyle」を実現できた、3つの理由

石井:結局、このような施策がなぜできたのか? ということになりますが、大きく3つ理由があると思っています。1つ目は、もともとカルビーには、モバイルワークやフリーアドレスなどNew Workstyleを実現するための素地があった。フリーアドレスを全面的にスタートして10年が経過して、個人もチームも場所と時間に縛られない働き方だったり、全員が同じところにいなくても仕事が回ると。こんな働き方に非常に慣れていた、というのはあったと思います。

2点目は、強制在宅期間中にそれぞれ働くリテラシーなどがアップできたからだと思います。環境が変わってもまじめに働く、新しいスキルも学ぼうという好奇心、素直さというのがありました。

3つ目はトップの理解、推進があって「いろんなことが整ってからではなくて、まずはやってみようよ」という後ろ盾も、非常に大きかったと思います。トップメッセージ、社長のメッセージをご紹介させていただいきます。

今回社長が一番のポイントと言っていたのは「働き方改革というのは働く側の改革であって、それを会社がサポートするものである」と。「社員起点であるべきなんだ」ということを、非常に強く申しておりました。

今後の課題になりますけれども、やはり働き方改革の目的は生産性向上になるので。「それをどう測っていくか」というところと、どうしても「離れた場所で」というところになる。コミュニケーションの部分ですね。ここについてのケアを、マネジメントが主体になって進めていくということと。その視点軸をタスクにするということ。また、雑談の文化ですね。それをオンラインの場でいかに作っていくか、リアルの場でいかに作っていくかということになります。

最後に個人のレベルアップとしてますが、やはり個々の主体性というのは非常に大事なところだと思ってまして。ここに「圧倒的当事者意識」と書かせていただいておりますが、これが一番重要であると考えています。以上でございます。

川島:ありがとうございます。転勤についてあんまり触れられなかったようですけれども、転勤や単身赴任を減らすということを目的にしているのではなく、10年前からやっていた働き方改革、その一環であるモバイルなり在宅、それがコロナでさらに進んだと。結果的に、転勤や単身赴任が減るだろうと。そんなような感じでしょうか?

石井:そうですね。社員それぞれが自分の生活と仕事の両立を改めて見直す機会を得て、自分たちの価値観や優先順位と働き方とを掛け合わせて、どういう答えを出していくか。そこを会社が一緒になって話していこうと、そういうことになるかと思います。

川島:そういうことですね。だから、一斉に転勤を減らすことが全面に出ている施策なり考え方ではなく、社員の意識を高めたり、社員の意志を優先したりという方向にモバイルワークというツールを使いながらやっていってると。

石井:そうですね。可能性が大きく広がってきた、ということだと思います。

川島:ありがとうございます。

石井:ありがとうございました。

「Work Life Shift」という、富士通のコンセプト

川島:それでは続きまして2社目ですね。富士通の猪田さんお願いします。 

猪田昌平氏(以下、猪田):はい、富士通の猪田でございます。みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。カルビー様に続いて、弊社の事例を紹介させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

弊社も7月6日に「ニューノーマルにおける新たな働き方への変革」ということで、Work Life Shiftというコンセプトを発表いたしました。本日はそちらの説明をメインにさせていただきたいと思います。

まず最初に、弊社は今年5月にパーパス、いわゆる会社の存在意義というものを発表しています。「イノベーションによって社会に信頼をもたらして世界をより持続可能にしていく」ということを、掲げています。

今回こういったコロナ禍の状況において、改めて弊社の存在意義を見つめ直す中で、やはりイノベーションを社会の至るところで起こしていくと考えた時に、より社員の一人ひとりが生き生きと働ける、強みを活かせるような会社になっていく必要があると考えました。

そのためには、働き方も根本から見直していくべきじゃないか? という流れになりまして「Work Life Shift」というコンセプトを7月に発表したというのが経緯です。

「Work Life Shift」が持つ、3本の柱

猪田:Work Life Shiftのコンセプトは、ニューノーマルな世界において働くということだけでなく、仕事ですとか生活をトータルにシフトしてWell-beingを実現していく、ということです。

これを実現していくためには、やはり社員一人ひとりの高い自律性に加え、信頼をベースにして、固定的な場所ですとか時間にとらわれない働き方を目指していくというのが今回の方向性です。

Work Life Shiftには大きく3本の柱があります。Smart Working、Borderless Office、Culture Changeです。1点目のSmart Workingについては、最適な働き方ができるように人事の観点から制度の見直しを行っています。

2点目のBorderless Officeについては、目的に応じて最適な働き方が実現できるように、オフィスの在り方の見直しを進めています。

最後3点目、Culture Changeについては、制度を変えてオフィスの在り方を見直しただけでは、働き方を真に変えるのは難しいと思いますので、社内の風土をしっかりと変革していくことを3点目の柱として挙げています。

新制度になって、なにがどう変わった?

猪田:残りの時間で、この3本柱の詳細を説明します。まず1点目、Smart Workingについてです。こちらについては、時間と場所をフレキシブルに一人ひとりが活用できるようにする、ということです。

これまで弊社は「固定的なオフィスに全員出勤する」ということを前提に、制度設計していたので、そのような勤務制度や、手当、福利厚生、IT環境ということを、このタイミングで全面的に見直しを実施しました。

次のページが具体的に見直した内容ですが、まず1点目はコアタイムの撤廃です。従来は、限られた社員のみコアなしのフレックス勤務が適用されていましたが、これを全社員を対象にしたということです。

あと、カルビーさんと同様ですが、基本的には固定的なオフィスに出社するという概念をなくしましたので、通勤定期券を廃止いたしました。

また、テレワークをベースにすると、やはり転勤・単身赴任という考え方も見直していく必要があるだろうということで、単身赴任解消に向けたトライアルを、順次進めているという状況です。

従って、弊社としては単身赴任を一律解消して戻ってきてもらうというわけではなく「原則テレワークと月数回の出張で、単身赴任での仕事内容を生産性を落とさずにできるのであれば、単身赴任を解消していこう」ということで、段階的に進めている状況です。

あと環境面というところで、やはりテレワーク原則となると、テレワーク環境を整備するためにかかる費用の補助も必要かなということで、全社員に毎月5000円の支給を始めています。

また、弊社はまだ全社員にスマートフォンの配布ができていないので、そういったところをしっかりと行うことで、離れていてもコミュニケーションが取れるとか、会社に行かなくても業務システムが会社支給のスマホを使って申請・承認できるとか。そういった効率化の観点から、スマホを徹底的に使っていこうという取り組みも進めています。

個人の事情に合わせて、社員が働く場所を自律的に選べる

猪田:今、説明したのが人事面の観点です。続いて、オフィス面の取り組みも説明します。Borderless Officeというコンセプトを掲げていますが、大きく3つ、オフィスとしてのコンセプトを掲げました。Hub Office、Satelite Office、Home & Shared Officeの3つです。

固定的なオフィスに出勤するのではなく、会社に行く場合は業務の目的に合わせて自由に選択できるというのがBorderless Officeのコンセプトです。例えばHub Officeというのはコラボレーションを目的にしたオフィスとして活用してもらい、チームのメンバーとしっかりコネクトするのが目的なのであればSatlite Officeを使っていただく。

あとは、自分自身の作業を集中して進めていただく場合は、家や主要な駅の近くにあるShared Officeを使っていただく。そのような働き方を目指していくということです。従って、固定的なオフィスに決まって行くのではなく、一人ひとりの事情に合わせて社員が働く場所を自律的に選ぶ、そういった流れを作っていこうとしています。

このような取り組みを進めながら、しっかりとカルチャーを変えていく取り組みを進めていこうとしており、これが3つ目のCulture Changeです。

テレワークがメインになると、やはり従業員のマネジメントが難しくなってくるかと思いますが「難しくなるから、さらにガチガチに管理をする」のではなく、社員が高い自律性を持って働けるということを信頼したうえで、Trustに基づくプロセスや制度設計を改めて進めていきたいと考えています。

また、コミュニケーションの側面では、1on1ミーティングを今年から正式に導入していますので、これを定期的に活用し、しっかりコミュニケーションを取るという流れを作っていきたいと考えていますし。

あわせて、やはり健康面のケアも今まで以上に丁寧に行える仕組みを作っていきたいので、ストレス診断や健康パルスチェックを、定期的により早いサイクルで行うといった取り組みも並行して計画している状況です。

こういった取り組みを網羅的に、従業員の声も聞きながら丁寧に進めていくことで、組織風土を変えていくということを併せて進めていきたいと考えています。これが今回、弊社のWork Life Shiftの大きな3本柱の概要です。

駆け足ではございましたが、今説明したことを着実に進め、コロナ禍におけるニューノーマルな働き方を弊社主導でしっかりと作っていくことで、お客様の信頼を勝ち取り、新しい働き方のかたちを作っていくことを目指していきたいと考えています。私からの説明は以上です。

川島:ありがとうございます。確かNHKで、単身赴任にならなくて済んだというような御社社員の女性の方が出てましたよね。

猪田:そうですね。取り上げていただいております。

川島:やっぱり、ああいう方が増えてきてる感じですか? 本来であれば単身赴任していたのが。

猪田:そうですね。そういった事例も出てきています。一律というよりは従業員の声を一人ひとりしっかり聞きながら、単身赴任をしなくてもしっかりと仕事ができるのであれば、単身赴任をなくしていくと。そういった取り組みを丁寧に進めています。

川島:今のところ単身赴任しなかったことで、特にその方はマイナスな要因というのは出てないですか? 業務上。

猪田:基本的にはプラスだと思っています。コミュニケーション面の問題はあるかもしれないですが、単身赴任をしなくても、基本テレワークが原則というかたちになるので変わりはありません。そこはしっかりと丁寧にコミュニケーションを取りながら、上司と部下で仕事をしていくというかたちを取っています。

川島:ありがとうございます。

猪田:ありがとうございます。

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