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AIG・カルビー・富士通の事例発表「在宅ワークと転勤制度」(全2記事)

「転勤・単身赴任・社命による異動がない会社」を目指すAIG 多数の社員が「希望勤務地」で働けているワケとは?

職場でともに働く部下のワークライフバランスを考え、その人のキャリア・ライフを応援しながら組織の業績で結果を出しつつ、ボス自らも仕事とライフを楽しむことができる上司「イクボス」。これを推進するための意識変革を同盟企業と一緒に啓発してきた、NPO法人ファザーリング・ジャパン。同団体が2020年9月9日、対外向けの勉強会として「社員が働き方を決める時代へ 〜AIG・カルビー・富士通の3社の転勤事例から紐解く〜」を開催しました。本パートでは、AIGジャパン・ホールディングス株式会社 宇田直人氏による自社の事例についての解説および、社会保険労務士法人グラース 特定社員 新田香織氏による「法的な観点から転勤について考える、問題提起」を行っています。

AIGが導入する「Work@Homebase」の全貌

川島高之氏(以下、川島):それでは企業事例3社目、最後になります。AIGの宇田さんお願いいたします。

宇田直人氏(以下、宇田):みなさん、こんにちは。AIGの宇田と申します。よろしくお願いします。弊社の事例ということで、弊社が数年前から導入しているWork@Homebaseについて、簡単にご紹介させていただきます。我々は「仕事と大切ななにかを両立できる、働き方ができる当たり前の文化」を目指しております。

簡単に弊社の紹介ですけれども、アメリカに本社がある保険会社です。世界中で約4万6,000人くらいの社員がおりまして。損害保険と生命保険、退職給付のビジネスを行なっております。日本では約8,300人の社員がおりまして、主に損害保険のビジネスを行なっております。

さて、我々がこの数年間取り組んでいるWork@Homebaseについてですが、これを考えるにあたって、釈迦に説法ですが、社員の就業観というのはご存知のとおり、今、非常に多様化しているかと思います。さまざまなライフステージを迎えて、その都度いろんな優先事項があるのではないかと思います。

仕事をしながら勉強したい人もいれば、子育てをしている人もいれば、親の介護をしている人もいれば、仕事をしながらボランティアをしている人もいれば、ご自分の健康問題を抱えている人もいる……就業観については多様化していて、仕事がすべてにおいて優先されるということではないと思います。

そういう中で弊社も、そして多くの企業でも、多様な就業観に応える意味で、いろんな制度を取り入れているかと思いますが、果たしてどれだけ、これらの制度が本当に会社の中で根付いているのかと。実はいろいろうまくいってない制度もあるのではないかと。それは弊社の中でも活用されている制度もあれば、あまり活用されていない制度もあるかと思います。

なぜ「良い制度」を推奨しても、活用されないのか

宇田:なぜ、良い制度を取り込んで推奨しても活用されないのか? ということをいろいろ考えてみると、例えば、企業の中での忖度する部下がいるかと思います。「本当は育児時短を取りたいけれども、周りの目が気になってしまう」とか「早く帰りたいけど、残った人たちに負担が増えるんじゃないか」という部下からの忖度。

一方で昭和的な発想を持っている上司の方々が、例えば、残業を長くしている社員を評価してしまう実体。こういった背景があって、せっかく会社の中でいろんな制度があってもなかなか根付かない。活用されない制度、眠っている制度というのは沢山あるのではないかと思います。

AIGでは先ほど冒頭に申し上げたとおり、仕事とそのほか大切ななにかを両立できる働き方。こういった企業文化を目指しております。我々は、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両面からアプローチしております。

トップダウンアプローチ、このような施策を取っている企業のみなさんも多いかと思いますが、この中でのちほど簡単に説明していきたいのは、このWork@Homebaseです。本拠地を設けて「転勤してもいい」というMobile社員、あとは「転勤を希望しない」Non-Mobile社員にそれぞれ、希望を聞きながら社員を分けております。

あとはトップダウンで行うアプローチ以外に、ボトムアップアプローチということで労働組合とのエンゲージメント、対話、いろんなフィードバックを得たり。あとは特徴としてはEmployee Resource Groupsという、社員によるボランティア的なグループですね。

女性に視点を当てたグループ、LGBTの当事者やAllyで構成されたグループ、若手社員主体のグループなど。こういった方々の活動からいろんなフィードバックを得たり、こういったERGのグループと一緒に連携しながら、会社の中でカルチャー作りをしていくという施策を取っております。

AIGが目指す「転勤・単身赴任・社命による異動がない会社」

宇田:本題ですが、Work@Homebaseということで。我々は転居転勤がない、単身赴任がない、会社の社命による異動がない会社を目指しております。

ではこの数年間どういったことに取り組んできたか、ということをご紹介したいと思います。先ほど申し上げたとおり、社員をNon-Mobile社員とMobile社員に分けております。過去この2年間で3回アンケートを取って、(スライドを指して)このように分けております。

現在8,000数百人の社員のうち、約7割くらいの社員がNon-Mobileを選んでおり、3割弱がMobileを選んでおります。Non-Mobileというのは、現在勤務している場所が気に入っている、または、実はなんらかの事情があり、出身地であるとか、どちらかに転居異動してしばらくはそこで働きたいと希望している。など場所を決めて、当面はそのエリアでキャリアを積んでいきたいということです。子どもの教育、親の介護となど様々な理由でこのコミュニティから離れたくない社員のことを指します

Non-Mobileの方々には、希望エリアに根付いたキャリアを構築してもらい、報酬面ではMobile社員との差はありません。ですから地域限定社員を導入している企業のように、Non-mobile社員は報酬が下がるということはないです。住宅ベネフィットについては、Non-Mobileの社員に関しては、従来提供しているベネフィットは終了する予定です。

一方、Mobile社員というのは勤務地にこだわりはなく、むしろいろんなところで働いてキャリアを積んでみたい、子育ても落ち着いたので、いい人生経験ということで転勤も大丈夫だということで、全国各地でキャリアを構築してもらいます。一方、転勤をされる人に関しては、住宅に関するベネフィットは制度的にはいったん終了する予定ですが、Mobile手当を支給する予定になっています。ただし、Mobile社員にも希望勤務地は聞いておりますので、希望勤務地で勤務している場合には、手当は支給されません。

多数の社員が「希望勤務地」とマッチングしている

宇田:勤務希望地については、社員アンケートで聞いており、日本全国11のエリアに分けて、この中でご自分の希望するエリアを選んでいただきました。我々は、会社としてはそれを最大限配慮し希望勤務地に配属し、勤務できるように配慮しております。

現在、先ほど申し上げたNon-Mobile社員については、約7割くらいの社員が選択していますが、そのうちすでに94パーセントの社員が希望勤務地とマッチングしております。残り6パーセントの社員を、向こう1年くらいかけて希望する勤務地に合致できるようを現在、鋭意進めております。

この2年間で取り組んできたことを、簡単に(スライドを指して)こちらでご紹介させていただくと、希望勤務地調査のためのアンケートはパイロットを含めて合計3回行っています。

それに基づいて最初はパイロットにて、大阪、関西エリアでまずこの取り組みを導入し、そこから本格的に2018年末にアンケートを実施後、2019年の春から運用をスタートし、現在、移行期間として取り組んでおり、来年の9月末までには、Non-Mobile社員の希望勤務地の合致100パーセントを目指しております。

以上、簡単ではございますが、Work@Homebaseの取り組みについての説明であります。

今後の働き方については、現在さまざまなことを考えております。今年の緊急事態宣言下においては、弊社は、当初は約9割くらいが在宅勤務しており、現在も約8割強くらいが在宅勤務を継続しております。そのあたりも踏まえて、このままWork@Homebaseをベースに新しい働き方改革、働き方の在り方を、オフィスの在り方も含めて現在検討しております。以上です。ありがとうございました。

川島:ありがとうございます。Work@HomebaseのHomeというのは「自宅」と「本拠地的なホーム」という両方の意味でしょうか?

宇田:はい、おっしゃるとおりですね。どちらかと言うと「本拠地」ですね。自分の本拠地というのが重きにありますけど、自宅ということも……。

川島:94パーセントが、希望する本拠地で勤務されていると。

宇田:はい。

川島:すごいですね。8,000人のうち94パーセントが。もうほとんど、ということですよね。

宇田:Non-Mobile社員を選んでいるのが7割なので、7割の94パーセントですね。

法的な観点から考える、転勤問題

川島:そういうことですね、ありがとうございます。それでは事例発表はここまでとしまして、もうひと方、登壇していただきたいと思います。ファザーリング・ジャパンの新田から、問題提起を簡単にさせていただきたいと思います。それでは新田さんお願いします。

新田香織氏:ファザーリング・ジャパンの賛助会員で、特定社会保険労務士の新田と申します。よろしくお願いします。私から手短に問題提起をさせていただきたいと思っていますけれども。法的な観点から転勤について考えてみたいと思っています。

転勤については、会社が就業規則や労働契約書に明記してきちんと周知されているのであれば人事権として発令することが可能で。正当な理由がないのに従わなければ、むしろ業務命令違反として、場合によっては会社は懲戒処分することも可能になる。というのが労働契約上の、基本的な考え方にあります。

つまり、入社時に転勤があることを認識しているわけなので、転勤が嫌なら転職するなり、地域限定正社員になればよいのでは? と思う人も多いのではないかと思うのですが。一方で共働き家庭が増えて、育児や介護が理由で転勤が困難になる人も増えてくる中に、平成16年の改正育児介護休業法で、そうした人に対して会社は配慮をするということが規定されました。

育児や介護が理由で転勤しない・できない人と会社が、今までも裁判で争っているわけなんですけれども。その中で示されたこととして、転勤命令が権利の濫用として無効とされるのは、例えば育休を取ったことへの制裁となるような不当な目的を持ったものだったり。あとは、労働者に対して通常は甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるような転勤命令、とされているんですね。

つまり「子どもが小さいうちは家族が一緒にいたほうがいい」という程度のことでは、転勤拒否の正当な理由とはみなされないというのが、法的観点からはこれまで広く認識されてきたことだと思いますし。実際に、悩みながらも単身赴任をしてきた人が多かったんじゃないかなと思うんです。

でもコロナ禍で急激にテレワークが普及していって、転居を伴わなくても地方の仕事をすることが可能だとわかってきましたよね。テレワークの活用は、育児介護休業法に規定されている配慮に十分値するものだと私は考えています。

つまり、これまで慣例的に行なっていた転勤というのは、今後まずはテレワークの利用でカバーできないかということを検討したうえで、それでも難しいという本当に必要な転勤に、今後は限られてくるのではないかと思うんですけれども。みなさんは、どのようにお考えになりますか? 

川島:新田さん、ありがとうございます。法的なことについては、追って新田さんのほうで分科会などを開く計画もあると思いますので。非常に難しい法的なところもあると思いますけれども、ぜひその分科会にもご参加いただければと思います。

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