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マイクロソフト業務執行役員 澤さん「未来を創るプレゼン」 ITビジネスの原理実践編(全6記事)

「プレゼンには、5分に1回の『笑い』か『へ〜!』が必要」 澤氏×尾原氏が考える、聞き手のインプットを止めない話し方

執筆家/IT批評家 尾原和啓氏がさまざまなゲストと語り合うYouTubeチャンネル「尾原の IT&モチベ解説 ー10分対談・ITビジネスの原理実践編」。今回は『未来を創るプレゼン』を書かれた澤円氏と対談されました。本パートでは「人を感動させるスピーチとは?」などについて、二人が語ります。※澤円氏の肩書きは、イベント当時のものです。

「5分に1回は“息継ぎ”を作る」

尾原和啓氏(以下、 尾原):はい、というふうにね。きっちり20分でございまして。

澤円氏(以下、澤):すばらしい~。

尾原:いや、というか打ち合わせなしでこの会話、ちょっとおかしくないですか!?(笑)。

:いかにふだんから同じようなことばっかり考えてるか、っていう話ですよね。

尾原:そうなんですよね。

:さすが尾原さん、ファシリテーション完璧! やっぱプロだわ。職人芸だわ~。

尾原:いやまあ、おかげさまでね。これネタばらしするとですね。せっかくYouTubeで公開対談させていただくから、この公開対談をどこかメディアで記事にしてもらいたいと。そうすると逆算で考えて、5分に1回はキャッチコピーを作るようにしゃべってるんですよね(笑)。

:なるほど。

尾原:しかも20分の対談だとたぶん7分ごとで3本に分けられて、ログミーさんとかだと公開されるので。7分おきに1個ずつのタイトルが何のタイトルって……(笑)。

:あはは。なるほど。太字になってアンダーライン引かれるやつね(笑)。

尾原:そうするとソーシャルでシェアされるなとか。それを逆算で考えながらですね(笑)。

:さすがだなぁ(笑)。でも僕もね、プレゼンを構成するときって、だいたい5分に1回くらいの息継ぎっていうのを作ってるんですよね。「笑い」か「へ~!」なんですよね。そうすると頭に入りやすいですよね。

尾原:「笑い」か「へ~!」っていい言葉ですね。それちょっとパクっていいですか?

:もちろん(笑)。

尾原:本当おっしゃるとおりで、人間の脳みそってすごく便利にできてて。人間の脳みその本質って何かと言うと、できるだけ楽することなんですよね。

:うんうん。

尾原:人間ってどんなに臭い部屋に入っても、3分くらい経つとその匂いを感じなくなったりとかしてくるじゃないですか。あれって同じ刺激に関しては、もうこれは処理しなくていいのねっていうことに慣れさせるので、脳を楽にするし。

逆にいうと人間の脳っていうのは、突然音がしたり変な匂いがしたときには、自分の生命の危機になるかもしれないから、変化にはめちゃくちゃ敏感なんですよ。なので今おっしゃったように脳みそが慣れて、どんなにおもしろい話してもインプットが止まっちゃうので。5分に1回くらいは刺激で揺らしてあげるって大事だから。そういう意味では「笑い」か「へ~! 」かっていいですよね。

:そうですよね。「へ~!」のところはちょっとメモってもらったりとか、興味を少しズラしてもらったりとかできるので。そうすると息継ぎになって、また新たに集中してもらえるっていうね。

尾原:そうですよね。「へ~!」って言うことで、自分の中にアウトプットが進んでるんですよね。やっぱりアウトプットって最大の自分のインプットだから。

「へ~!」って思ったことをチャットに書いていただくことによって、自分の中で「あ、これが自分は気付いたんだな」っていうことを客観視して取り込み直すんですよね。そこはすごく大事です。

“自分の深堀り”から、プレゼンは始まる

尾原:僕ね、今回の本でいくつかお聞きしたいことがあって。まず今回の本の構成がすごく好きなんですね。もちろんさっき言ったように、結果としてたまたまだったというのはすごく強烈ですけど。(伊藤)羊一さんと澤さん、それぞれの「山の登り方」を追体験することによって「それは羊一さんだからできることでしょ」っていうことではない、ということが1個と。

あともう1個は構成を2つに分けてるっていう話で、思索編と行動編があって。行動編の前に、ちゃんと思索編を置いているという。この構成とかがすごいいいなと思って。

:僕は必ず考えてからしゃべりましょうって……考えからしゃべるっていうのも変なんだけど、深掘りをしてからしゃべるっていう。そういう順番にしました。なんでかというと、どうしても僕にプレゼンテーションのことで質問してくる人っていうのは「コツを教えてください」から入っちゃうんですよね。

尾原:そうですよね。どうしてもね。

:わかるんですけど。ただ、これもよく言ってるのが、料理っていうのはコツだけじゃできないんですよね。料理は基本を知らないと。まず材料を知らないとダメだし、道具を知らないとダメだし、火加減という概念を知らないとダメだし。

そうしないと「ここで差し水をするとおいしくなるんですよ」とかだけ知ってても、料理って絶対できあがらないので。コツだけ知るっていうのはそういうことですよ、というのをよくお話してるんですよね。だから必ず最初にベースの部分。それは自分の中にあるから、自分を深掘りするっていう。そういう考え方ですね。

尾原:結局、料理も素材のことをちゃんと知ってなきゃいけないし、料理を使って誰をどんな気持ちにさせたいんだっけ? だいたい料理漫画であるんですよね。技術に溺れた料理人が相手の笑顔を忘れてて。

大概あるのが「労働してがんばってきた方には塩味キツくしなきゃいけない」とか。「ちょっと年寄った方には健康に気を使ったものをしなきゃいけない」みたいな。やっぱりお客さんを見ずに「俺は料理の技術に溺れてた……」みたいな回が、必ず漫画ではあるんですけど。そういう話ですよね(笑)。

:そうそう(笑)。常にプレゼンテーションはプレゼントなので、相手に対して渡すことを前提でやらなきゃいけないわけだから。自分が食べるものじゃないんですよね、さっきの料理で言えば。相手に対してその人たちが……TEDのトークっていうのもまさにそうで、周りの人になにか言いたくなるようなこと、っていうのをどんどん提供していくと。

あるいはなにか言い返したくなる。別に反論とかじゃなくて「こういう気持ちになりました」「やってみたけど、こういう結果になりました」っていうことがフィードバックで来るようになると、それがすっごく上質なインプットになるので。そのサイクルを作っていくのをみんながやると、すごく世の中おもしろいことだらけになるだろうなっていうのが、企みなんですよね。

嘘は絶対にバレて、信用貯金はマイナスに

尾原:そうですよね。でも一方で、プレゼントって相手に贈るものであると同時に「私」から贈るものだから。「そこらへんで買ってきた高級ブランドのバッグですよ」っていうと、それは役に立つかもしれないけど意味がなくなってしまって。そうするとお姉さんは、5人に同じ商品くれって言って、4つは質屋に売って。「あなたからもらったものなの」っていうことを言われるような存在になっちゃうわけなんですよね。

だからやっぱり、あなたが渡しているっていう“あなた”をギフトの中に、どう相手が喜ぶように混ぜていくかっていうことがすごく大事で。そうすると結果的に、自分を深掘っていくことになるってことなんですよね。

:あと自分を深掘っていかないと、言葉が嘘になるっていう最悪の状態になりかねない。

尾原:いや、本当。バレますよね。

:そう、バレるんですよね! うまく隠そう隠そうとしたときほど、バレたときのダメージがめっちゃデカくなるっていう。あなた本当にそれ思ってないでしょ? っていう。そうすると、一気に信頼貯金というのはゼロどころかマイナスになりますからね。さっきのエセ料理人と同じで、どうしても技術のほうに走りすぎてしまうと、そういうことが起きるっていう。表層的な状態になっちゃうということですよね。

尾原:そうですよね。ましてやソーシャルの時代と1回こっきりのプレゼンの時代の違いって、要は1回こっきりのプレゼンって「高級羽毛布団を1回で売り切れば終わり」みたいなビジネスで逃げ切れたけど。

やっぱりソーシャルの時代って、ずっとつながってるから。なんかおかしいって思った人が気づいたら、そこを言ってしまうし。なによりもずっと発信していくことが大事だから、自己一致してなかったらどこかでボロが出ちゃいますもんね。

:ましてや今ね、どんどんコンサンプションの時代になってきてるわけで。継続をしてもらうということが、ビジネスの根幹になってきてるわけですよね。ってなると、これって継続するための一番の土台は信頼しかないので。

「1回売っておしまい」っていうのが、今は通用しなくて全部返ってきちゃったりとか。1回売っただけだと儲けにならないとかって世の中になってきている以上は、本当にこの信頼の部分がすごく大事になってきますよね。

人を感動させる「I、We、Now」で構成されたスピーチ

尾原:そうですよね。さっき言われたコンサンプションの時代だから。あともう1個大事なことは、完成品よりも現在進行形だし。ましてや変化の時代だから、変化のタイミングに寄り添っていくということが大事なってきてて。

TEDで人を感動させるスピーチって、3つのパートから構成されるっていう話があって。これがね「I、We、Now」なんですよ。

:あ、はいはい。そうか。

尾原:「私はこういう課題にぶちあたって、私はこんなにつらかった。こんなにしんどかった。でもやっぱり私はこれをしたいんです」。

「でもね、この課題って実はみんなの課題でもあるんですよ。だって世の中こういうふうに変わってて、もう今こういう人たちが増えてきているじゃないですか。こういう人たちが増えてきたら、それを野放しにしてたら僕たちもこういうふうになってくるんです」。

「じゃあいつ解決しましょう? 今でしょ!」。というのが、この「I、We、Now」の構成で。

:なるほどね~。

尾原:これって現在進行形、変化の時代で、ずっと冒険し続けなきゃいけないときに、やっぱりこのフォーマットじゃなかったら人って動かない。コンパッションとかって言い方とかもするじゃないですか。

:「I、We、Now」だと「Iの原体験」ということがまず定義されていないと、巻き込むための渦の中心が作れないですからね。コア・ビリーフっていうのを言語化する。これはよくあちこちで僕はBeing、Beingって、在りたい姿っていうのを考えましょうっていうのを言ってるんだけど。それがあると、結局、言葉というのは出てくると。

好きなものを“原子レベルまで”分解していく

尾原:ただ一方でやっぱり「でもね、自分の深掘り方って苦手なんですよ~。なんかやり方ありませんか?」っていうご質問をいただいているんですけど。

:どうしてもこれも「やり方」っていうところに目が行きがちなんですけど、テクニックじゃないということを前提にしたうえで1つ例を挙げると。まずは自分が好きだったもの、今好きなものでもいいんですけど、それを徹底的に原子のレベルまで分解していくっていうプロセスなんですよね。

どんどん、どんどん分解をしていって、最終的にものすごく抽象度の高いところまで持っていく。これは物でもいいし、人でもいいです。人のほうがたぶんイメージしやすいと思います。なんであの人が好きなんだっけ? あの人に憧れてるんだっけ? 

これはなんでもいいんですよ。実在する人でもいいし、身近な人でもいいし。あるいは映画のキャラクターとかでもいいし。なんで好きなんだっけ? っていうところから分解していくと、自分が本当に好きな姿であったりとか、在りたい姿というのが見えてくるので。僕なんかだと、例えばルパン三世とかそういうのなんですよ。

尾原:へー! ルパン三世なんですか!

:ルパン三世が大好きなんですよ。ちなみに職業選ぶときには、007なんですけど。

尾原:ルパン三世の中のルパンということですか? :そうそう。ルパンが好きです。なんでだろうなと思うと、外連味のなさであったりとか、利他的なところであったりとか、いつも楽しそうであるとかっていうのがどんどん出てくるわけですよね。最終的にはやっぱり利他主義であるっていうことと人生を楽しんでいるとか、そこらへんがすごく魅力なんだろうなっていうふうになっていって。良い悪いっていうのは……考えてみれば犯罪者ですからね。ぶっちゃけ。

尾原:そうですよね。本当はね。

:だけどルールを軽々と破っているとか、それによってとくに人を傷つけていないとか。いろんな理由っていうのが出てきて、最終的にはやっぱり好きなんだなっていうふうになってくると。

尾原:その好きを分解していくっていう技に関しておもしろいのは『ストーリーとしての経営戦略』の楠木建さんが書かれた、シュークリームとクッキーという話。

彼がおもしろいのは「なんで俺はクッキーじゃなくてシュークリームが好きなんだ?」と。これをもっと解像度を上げていこうと。そうすると「シュークリームの中でもどうも俺はねっとりしたクリームのやつが好きだ」と。そうしてそれを解像度上げていくと「単に甘いものが好きっていうだけじゃなくて、自分はやっぱり喉の奥に絡みつくような食感で味わうことが大好きなんだ」と。

ということは……ここから逆に抽象度が上がっていくわけですよ。「自分というものはふだん使わないような感覚器を使って、なにか新しい感動を味わうことが好きなんだ」「よく考えてみたら俺は音楽もそういう音楽が好きだな」と。みたいに上がっていって。彼って実は音楽のボーカリストでもあって。そうすると自分の中でどういう表現が好きな人間なのか? みたいなことがつながっていく。

:なるほど、なるほど。まさにそうですよね。分解していって最終的に自分の中で発見があり、それをさらにアクションにまたつなげることができて。たぶんこのサイクルがずっとできる人なんでしょうね。

尾原:意味に分解するって大事で。

:大事ですね。

尾原:例えば僕、テニスを中学のときにやってたんですけど。僕ってどっちかというとベースランナーで「テニスが好き」ではなくて「ダブルスが好き」なんですね。しかもダブルスの中では、ボレーを打つようなフロントっていうよりかは、どっちかというとテニスコートの後ろのエンドラインからさらに1メートル下がって、徹底的に走り回って徹底的に拾いまくるのが好きっていうベースランナーで。

でもそれって「ベースランナーが好き」なんじゃなくて、ベースランナーで徹底的に拾って、拾って、拾って相手の焦りを出して、相手の焦りが出たときに、自分が大好きなフロントをやってる奴のスマッシュの瞬間を作る、っていうのがなによりも好きみたいな。

抽象化していくと、自分って誰かに舞台を作ることが好き。誰かがスカッとするような瞬間を作るのも好きだし。でもそれって、それをやるためだったら地道に地道に見せ場を作ることが好きなんだな、みたいなことがわかったりとかして。

:さっき言ったズームイン、ズームアウトの考え方っていうのは、常に意識しておいたほうがいいでしょうね。グーッと解像度を高めていったりとか、あえてすごく荒くして、ぼんやりしてみたりとか。これをやるのはすごく大事ですよね。

尾原:そうなんですよね。だから澤さんのこの本の中でも、Voicyとかでも言ってらっしゃいますけど。こうやって自分の好きの解像度をズームイン、ズームアウトすることって、散歩のときでもできるし、寝る前でもできるし。それを繰り返すことですよね。

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