2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――「コロナ禍におけるサーバ・インフラ業界の現在と未来」についてお話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
田中邦裕氏(以下、田中):よろしくお願いします。
――まず最初に、コロナにより業界全体が受けているダメージや問題について、お聞かせ願えますでしょうか。
田中:在宅ワークとサブスクが広がる中で、いわゆるサーバーの需要というのは伸びていてですね。
24時間安定して動かさないといけない、いわゆる「不要不急」じゃないものなんですね。インターネットサービスとか、データセンターとかのサービス、ECサービスというのは「なにがあっても動かし続けなければならないインフラ」になってます。
ただ、中で働いているのは「人」なので、その「人」をいかに感染のリスクから遠ざけながら勤務を継続できるか、というのが非常に大きな課題になっていて。実際に当社でも、データセンターの従業員は最小限にしている状況です。シフトで入っている人を守るためにも、それ以外の人は本当に必要がない限りはデータセンターに行かないようにしています。
売り上げ面に関しては、業界各社さんにお聞きしたところ、それほど影響を受けていないと考えています。ただ、ちゃんと会社を維持しないといけないので、この厳しい中でどのように現場に向き合っていくのかということが、1つの課題なんじゃないかなと感じています。
――リーマンショック・東日本大震災といった過去2回の経済的ダメージと今回のコロナショックとでは、ダメージの質や大きさに違いはありますか?
田中:まずインターネットのトラフィックで言うと、今までにないくらい伸びていて。過去2回の時と比べると、インターネットの依存度が質・量ともに高まっているんだなと感じています。
最近、家に光ファイバーを引く人なんかも増えてきているみたいで。そういったことで、かなりインターネットへの依存度というのが高まっているんだなということがわかりましたね。
さらに加えて言うと、モバイルネットワークを強化する「5G」についても、ずっと家に居ることでモビリティーが必要がなくなってきていることで「自由に外から接続する」というより「会社以外の場所から接続する」という意味に変わっているような気がしてます。
――業界全体としてはダメージが比較的少ないということですが、今後どういったことに取り組むべきでしょうか?
田中:これを機にオンライン前提で働けるように「インフラ業界がその人たちをいかにサポートしていくか」というフェーズになると思うんです。
今まではサーバー・インフラは、これらを知っている人が主に使っているものでしたけど、これからは広くいろんな人たちが使うインフラになる。その中で「一般の方向けにどういったサービスを提供していくのか」が、1つの課題になってくると思っています。
それに対しては、今までのようにサポートが簡単に済んだりもしないでしょうし。我々の中でもかなりチャレンジングだなという話をしてはいますね。
――インターネットへの依存度が高まる中で、個人の方がインターネット回線を引くというのはイメージできるんですけど、サーバーを使うというと例えば?
田中:例えば「個人商店の方がショップを立ててオンラインで売る」みたいなこともあるかもしれないし。やっぱりサブスクって、もっと広がると思うんですね。
今までって「物に対する対価」をもらうのが普通でしたよね。例えば食べ物とか商品とか、そういった物に対してのリターンだったんですね。
ただ、アイドルのコンサートとか会員制度を考えてみると。ファンクラブって入会しても会誌が届いたりするだけで、その会費はコンサートに対して払っているわけではないですよね。
チケットとか物とかへの対価ではなくて、アイドルのファンだからロイヤリティーとして払う。そのロイヤリティーをサブスクリプションで払っていると、例えばチケットの当選がしやすくなったりとか。つまり「コンサートでなく、ロイヤリティーに対してお金を払っている」のがファンクラブなんかの形態だと思うんです。
だから最近は、定期的にお金を払うという「ファンマーケティング」みたいなものって少しずつ増えてきていて。これは何がいいかというと、お客様一人ひとりが見えるようになるわけですよね。これまでは「いくら常連さんでも名字しか知らない」ってよくあったわけですけれども。例えば会員制度やサブスクリプションになってくると、実際にお客様とのリレーションもできるわけです。
リレーションができるということは、Webサイトなどを使ってちゃんと発信をしないといけない。なので、ビジネスを知る全ての人たちが発信をしていく社会になってくると、ホームページ需要というのは再燃するのかな? と。
――サブスクの部分で御社がサーバー以外にSaaS的な何かを提供するというのは、考えていらっしゃるんですか?
田中:我々がそれをお手伝いすることは十分あり得るかなと思っています。今まではどちらかというと、物理サーバーを売ったりとか、データセンターのラックを売ったりとかいうことをしていましたけど。そういったビジネスは続けるものの、主軸はクラウドになっていくだろうと。
ただ、クラウドと言っても、いわゆるIaaSといわれるインフラ部分だけではなくて、プラットフォーム、PaaSであったりとか。あとは今お話しいただいたようなSaaS。
当社自身がSaaSの開発というのをいくつか進めていますし、それ以外にSaaSを提供している会社さんの支援サービスというのをけっこうやっていて。今まではパッケージとかでやっていたお客様がSaaSにするときに、当然、約款を作ったりWebサイトを作ったり。あとはマーケティングをしたり、課金をしたりしないといけないんですけれども。
我々はもともとそういったことをやってきたので、それを支援するというサービスもやっています。なので、当社がSaaSを作る。また、SaaSを作っている方々を全面的に支援していく。その両軸になるかなと思っています。
――なるほど。サブスク特化のサービスはスタートアップなどでも増えてきていますよね。
田中:増えてますね。やっぱりこれからはサブスクとSaaSになると思いますよ。
――インフラ業界ってもう何年も前からずっとサブスクの業態だと思っていたのですが。月額でサーバを貸し出したり。
田中:いえ。本質的には、インフラ業界ってサブスクではないんです。
――えっ、そうなんですか?
田中:例えばAmazonプライムって完全にサブスクで。解約しちゃうとPrime Videoが見られなくなるとか。あとNetflixなんかも、契約をしたらどんどん視聴できる動画は増えていくわけですよね。別に課金されたりなんかはしないですけれども。
なので、NetflixはNetflixに対して払っているし、AmazonプライムはAmazonに対して払っている。でも我々のサーバー代って「さくらに払っている」というより「サーバーに対して対価を払っている」んですね。
例えば電車の定期券なんかもそうで。あくまでも「乗車に対して払っている」んですよね。だから乗車がなくなったら解約されちゃうわけなんです。
知り合いの会社さんがおむつのサブスクをしていたんですけれども「それ、おむつが外れたら解約されてしまうやん」って話をしていたんですよね。「おむつに対するサブスクじゃなくて、そのお子さんの成長とか、お母さんお父さんに対するサブスクにしたらどうですか?」という話をして、そういうかたちに組み直しているみたいなんですよね。
おむつという「物」を対象にサブスクをやっちゃうと、結局いらなくなったら外れちゃうんだけども「お客様のライフステージ」に対するものだとか「やりたいこと」に対するサブスクであれば、やはりライフタイムバリューが伸びやすいので。
さくらインターネットの場合だと、結局「サーバー代」に対してお金をもらっているんですよね。サーバー1台1台にサブスクで払うのではなくて。だからサブスクにするなら、例えば「月9300円払っておけば、試験環境だったらさくらのクラウドは使い放題ですよ」とか。
その上で本番環境を作るときに、例えば「初期費用は専用サーバーだとサブスクを使っている人は無料になります」とか。なんなら「年間1回ログミーさんの書き起こしサービス」をつけたっていいし。
――つけてください(笑)。
田中:インフラ業界はそういうサブスクにはなっていなくて。サーバー代、サーバーの利用に対する対価なんだけれども、本来は「スタートアップサブスク」とか「学生向きサブスク」とかが望ましい。
コストコなんかはよくできていますよね。何千円か払うと安く買える一方で、別に使い放題ではないんですよね。商品の対価は取っているんです。
飲食店なんかも「食べ放題=サブスク」だと勘違いしているんですけれども、実際はそうじゃない。「なじみの店に月2000円払うと、いつでも3割引で食べられます」とかであって、使い放題ではない。やっぱり物には原価がありますんで。だからそういうかたちで、店に対するロイヤリティーを払うことで何かベネフィットを受ける時代になってくるんだろうと。
ただ「直接原価がかかるものに対しては、通常料金より安いけど払ってね」という感じ。Amazonでいうと「商品の値段はかかるけど、送料は無料にします」みたいなことを、Amazonプライムでやっていますしね。そういうことです。
なので商品に対しては対価をいただきつつも、サブスクの対象というのはどちらかというとロイヤリティーなんだろうな、と。
――インフラ業界の中でもハウジングやクラウド、CDNなどいろんな業態があるじゃないですか。「今後こういった業態のほうが伸びてくる」というのはあるんでしょうか?
田中:この業界でこの先、物理サーバなどのモノを持つ会社ってそんなに増えないと思うんですよね。やっぱり資本集約型ですから、どうしてもお金が大量に必要になるし、先行者利益が取りやすいので。やっぱり後からやるのは難しいと。
ただ、コンサルに関しては後発優位性があるので、先行者を研究して後の人がそれを上回ってくると、ソフトウェアレイヤーとか、コンサルレイヤーになればなるほど後発優位性が高くなると感じています。
なので、ソフトウェアの場合はライトウェイトって言うんですかね。そもそも開発するのも人に依存していますので、優秀な人間が最新のテクノロジーでやると古いものを簡単に凌駕できるというのが、すごくおもしろいところで。
それってコンサルにもいえることなんですよね。低いレイヤーの、いわゆるデータセンターというのはなかなかディスラプションが起きにくいですけれども、上位レイヤーのコンサルとかSaaSというのはどんどん新しいのが出てくるし、みんなが儲かるだろうと思っています。
――なるほど。ああいう業態はそれこそ、さくらさんのサーバがないと成り立たない、いわゆるプラットフォーム on プラットフォームみたいなサービスでわりと不安定な印象があったんですが。
むしろ今後は、さっきのサブスクなどでロイヤルユーザーをつけてしまえば、それ自体が資産になるから、そういったサービスもかなり伸びしろがあるということなんですね。
田中:それでいうと、紙の新聞はなくなるかもしれないけど、メディアはなくならないわけじゃないですか。それってけっこう重要で。
例えば、クラウド事業者は移り変わりがあるかもしれないけど、コンピューティングリソースを使う事業はなくならないはずなんですよ。となると、同じものは提供できないけど、時流に合わせればなくならないという、コアな部分はありますよね。
たぶん新聞社も紙での発行に固執してたらたぶん潰れてたと思うんですけれども、けっこうオンライン比率が上がっているじゃないですか。さくらなんかも昔はデータセンターのラックを売っていましたけど、その売り上げなんてどんどん下がっていますし、いわゆる専用サーバーなんかも、当然下がっていますし。
でも、さくらのクラウドとかレンタルサーバーも底堅く上がっていて。やっぱりお客様がサーバーを必要なのは変わらないんだけど、どういう形態で借りるかというのは劇的に変わっているんですね。
さくらって2面性がある会社で。質実剛健にインフラをずっと維持するというようなところと、新しいサービスを作っていくという雰囲気が同居している会社なんですね。
コンピュータのクラウド、IaaSを作っていた会社はどんどん撤退されていて。やっぱりやり方を変えていって、ちゃんとそこに対してリソースをかけないと潰れるんですよね。
ストックビジネスだからといってずっと維持もできなくて、だんだん右肩下がりになるだけなので。やっぱりそこは新たなサービスを投入するというのも重要ではありますよね。
――その流れの中でやはり気になるのは、コンビニがプライベートブランドをやり始めたときに、メーカーの反発があったりしましたよね。さくらさんが自前でSaaSなどをやってしまうと、そこのコンフリクトが起きる可能性もあるのではないかと思ったんですけど。
田中:そうですね。なので、我々が何をやるかというのはすごく注意しないといけないですね。プラットフォーマーに徹してお客様にサービスするというのは、信頼関係のためにすごく重要だと思うので。
お客様がすでにサービス展開されている領域で、その会員を我々が奪うって、なかなか難しいはずなので。やっぱりそれをやるということは限定的だと思うんですね。
ただ一方で、ユーザー企業側が大きくなってきたら「じゃあ自分でインフラ持つわ」となる可能性もあるわけなんですね。サービスの場合は会員というのがあってスイッチングコストもかかるからなかなか生まれないんですけど、物流ってそれがよく起こるんです。
例えば「問屋が直販したらええやないか」という話って「さくらがサービスをやったらええやないか」という話と似てると思うんだけども。問屋が直販すると小売に怒られるから、やらないわけですよね。でも最近は、問屋も小売をやったりしている。
逆に小売店は問屋を飛ばすわけですよね。直接仕入れたほうがいいから。産地直送とかやっちゃうわけです。
だから、問屋が勝つか小売が勝つかでいうと、もともとは信頼関係があって両立しているんだけども、小売店にしてみれば問屋が疎ましいと思ったら飛ばすし。逆に問屋にとって見れば「小売店が我々を飛ばすんなら、そもそも我々が問屋価格で売ってしまえ」みたいな話になるので。
共存共栄するか、でもどっちかが先に裏切るとすごい勢いで共倒れ、というか自分がこけちゃうので。これが難しいんですよね。
だから強いて言えば、合理的に考えたほうがいい部分が多くて。最近「利益って情緒からしか生まれてこないんだろうな」って思うんですよね。
――どういう意味ですか?
田中:要は2社3社ある中でその会社から買うって、値段が安いところから買うに決まってるじゃないですか。でも、値段が高くても買うって、情緒が大事なんですよね。
昔だと接待をして夜の街につれていったりなんかすると「いつも世話になってるからあそこから買うか、ちょっと高いけど」みたいな話になるんです。これがどんどん可視化されていったら「あの人接待受けて、わざわざ高いの買うてるで」ってことになるわけですよね。
だから合理的になってくればどんどん問屋は飛ばされるし、逆に問屋は直販することになると思います。データがこれだけ充実してくると、当然のことながら合理的にみんな判断し始めますよね。
当社のお客様も、合理的に考えて「自分でやったほうが安い」ってなったら、さくらを使う必要はないわけですけれども。「いざという時に助けてもらったな」とか、そういうことになってくると、やっぱり意味合いは変わってくると思うんです。
田中:だから我々が反省しなければいけないのって、今まではサーバーを売っていたんだけれども、やっぱりサーバーではなくて「お客様が事業をするための安心できる環境」みたいなものが、我々のそもそも重要なところだったなと。
例えば「サーバーが落ちる基準」でいうと、我々のサーバーは物理的なものなので、それがいかに落ちないかというようにアクセス制限とかをやるんですけれども。アクセスが極端に増えると「503エラー」を出して、それ以上アクセスを受けないようにしてサーバーを守るんですね。
我々から見たら「サーバーは落ちてない」ということなんですけれども、お客様から見ると「落ちてるやないか!」って話になるわけなんですよね。
ここで重要なのは、我々の物理的なサーバーが落ちている・いないというよりも「お客様のアクセスをちゃんと受けられているかどうか」なんですけれども、やっぱり今のさくらだと、お客様のアクセスを一時中断してサーバーを落とさないようにしなきゃいけない、という話に終始しちゃう。
本来であれば、お客様のサイトを守る、お客様が困らないようにする、というところに持っていかないといけないんですけど。それはすごく感じますね。
――コロナ下では特に、物理的な接触がなくなるためこれまでのような情緒性は失われやすくなるかもしれないですね。
田中:おっしゃるとおりなんですよ。例えば飲食店に「食べに行ってるだけ」だと情緒性がない。でも「あの店がつぶれたら困るよな」というのがあって。そこにはお金を払いたいわけなんですよね。例えば月2,000円でもいいと思うんです。「月2,000円の会費を払っておくと、毎回の食事代が何割引になります」とか。
コロナショックみたいな問題が起きたときは、例えば「宅配弁当を500円でやります」とかの試みもできるかもしれないし。これは何がポイントかというと、店側からもお客様にコンタクトを取る手段ができるということですよね。オンラインを使ったりして。
なので、前から社会に存在していた情緒性の大切さが、コロナで顕在化したのかな?と。モノに対してお金を払うんじゃなく、その店を応援するつもりでお金を払えるような社会になるといいんだろうなと思います。
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