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コンピュータが小説を書く日(全3記事)

AIに小説は書けるのか? 名古屋大学・佐藤理史氏が教える、“自動創作”の今

“知のフロントランナー”と現役大学生が徹底討論する公開型授業『NISSAN presents FM Festival2017 未来授業~明日の日本人たちへ』が開催されました。第8回目となる今回は、松尾豊氏・山極壽一氏・川村元気氏のほか、伊藤博之氏や佐藤理史氏を講師に迎えて、「AIは産業・社会の何を変えるのか? シンギュラリティ後の世界で私たちはどのように生きていくのか。」をテーマに現役大学生と熱い議論を交わします。

人工知能とは何か

佐藤理史氏(以下、佐藤):名古屋大学の佐藤でございます。今日は1時間ばかりみなさんとディスカッションしたいと思います。だいたいどういう話をするかというと、このぐらいの話をしようかと思っております。

まず最初に人工知能って何だ。それからコンピュータに小説は書けるのか。それから言葉を操るコンピュータってつくれるのか。最後にまとめとして、何が実現できたらコンピュータが小説を書いたと言えるか。こういうことについて、みなさんと少しずつ考えていきたいと思います。

最初は人工知能って何だという話ですけど、どなたにお聞きしよう。あなたがよさそうだ。人工知能って聞くと何ですか? あなたはイメージするものは。

学生A:そうですね。人工知能っていうと、何か勝手に考えて、いろいろ結果を出してくれる機械ということです。

佐藤:なるほど。もう1人ぐらい聞きましょうか。女性がいいんだけどね。あなたはどうですか? 人工知能って聞くと何をイメージしますか?

学生B:人間の代わりに、人間が苦手とする分野や単純な作業などをこなしてくれる、そういう機械だと思っています。

佐藤:はい、ありがとうございます。一般的に今人工知能という言葉をみなさんにお聞きすると、そういう答えが返ってくるのが普通なんですけど、専門家から言うと人工知能というのは、そういうものではありません。まずその話を少しお話ししたいと思います。今、第3次人工知能ブームと言われているんですけど、これはいろんな理由があって、きっかけがあって。

人工知能ブームのきっかけと目指すべきゴール

1つ目はアメリカのクイズ番組で人間のチャンピオンを破るようなコンピュータプログラムが出てきたと。それから2つ目はみなさんご存知だと思いますけど、自動車の自動運転(技術)というのが、ものすごい勢いでいろんなメーカーが研究開発していると。3つ目はディープニューラルネットワークというんですけど、脳の神経回路網を模したような数学モデルとそれの学習のやり方というのが、今まであまり上手くできなかった問題を非常に良く解けるようになってきたと。

4つ目は「シンギュラリティ」というキーワードですが、これは説明するのがなかなか難しいですけど、科学技術が非常に進んで、人間の生活を根本的に変えてしまうんじゃないかと、そのような予想が出てきたわけです。人工知能というのは、そもそもは研究分野の名前です。どういう研究分野かというと、コンピュータの能力を拡大するための研究分野です。

ここに書きましたように、今まで人間しかできなかったことを、どんなふうにすればコンピュータにもできるようにできるかと、こういうことを考える研究分野であります。

それは2つのゴールがあって、1つは工学的ゴールといって、知能を持った人工物。計算機、ロボットをつくると。どうやったら知能は実現できるかと。今、多くのマスコミが言っているのは、この人工物のことを人工知能と言っているように思います。

もう1つのゴールは科学的ゴールでして、知能の原理というのを解明する。知能とはそもそも何なんだと。それはわからないわけです。ここで1つだけ注意しておきたいのですけど、「知能を持った人工物」というのですが、知能というのはよくわからないので、実際には、あたかも知能を持っているように振る舞うような人工物はどうやったらつくれるか。あるいは、われわれから見て確かにこれは知能を持っていると見えるなと。そういう信じられるものをどうやったらつくれるかということになるかと思います。

人工知能の歴史の変遷

人工知能の歴史というのは、だいたい大きく3期にわけることができて、初期1950年代・1960年代は第1期。これは人工知能という名前自身が、このときつくられました。こういうことに興味がある研究者が何人か集まって、じゃあ、われわれの研究分野は何ていう名前がいいでしょうということで、いくつかあったんですけど、「Artificial Intelligence=人工知能」という名前が選ばれました。

第2期が1970年代・1980年代で、このころは「エキスパートシステム」というキーワードを出しますけど、知識というものをコンピュータに上手く入れて、それを使っていろんなことをやろうと。日本ではこのころ、第五世代コンピュータプロジェクトという非常に大きなプロジェクトが実施されて、それがある意味では上手くいかなかったんですけど、そのような時期がありました。

それで、だいたい20年ぐらい空白の暗黒時代がありまして、だいたい私が教員をやっているのはこの暗黒時代ですけど、2010年ぐらいから、さきほども申しましたようにいくつかのきっかけがあって、人工知能というのは第3次のブームを迎えていくと。そういう現状です。今回のブームは、いろいろ今までのブームといろいろ違いはあるんですけど、一言でいうと、世の中への浸透度や露出度がぜんぜん違う。

これまでは専門家の専門分野でのブームだったんですけど、今回は世の中を巻き込んでいる。それの1つの理由は、研究と実用化がほとんど一体化していると。何か新しい技術が生まれて、それを使ったアプリケーションをすると、すぐスマホで使えるようになると。これが今までとは大きな違いになるかと思います。さて、じゃあ人工知能って何を研究しているのか。このぐらいのことを研究しています。

人工知能の研究対象

知識をどうやってコンピュータに教え込むか。その知識をどうやって使いこなすか。これは推論と言います。それから入出力系と言いますが、目の代わりをつくる。耳の代わりをつくる。口の代わりをつくる。身体の代わりをつくる。これは画像処理とか音声処理とか言語処理とか身振りの処理とかもあります。それから知識や手続きをどのように取得するか。このようなことについて、いろいろ研究しているわけです。

ただ、これとは別の観点で整理するほうがぼくにはしっくりくるんですけど、世の中にはいろんな問題があります。その問題のうち、解き方やり方がわかっている問題というのがあります。例えば、整数の足し算というのはもうやり方がわかっているので、その機械的なやり方を使えば、誰でも、誰でもというのは人間も、あるいはコンピュータもと言ってもいいんですけど、機械的に解けるわけです。それ以外にやり方はわかっていないけど、人間がそこそこ解ける問題というのがあります。

例えば言葉を操るというのは、実はわれわれはどうやって操っているのかわからないわけですね。でもそれなりに操れると。こういうのが人工知能の研究対象になっています。逆にいうと、やり方がわかってしまえば、もはや人工知能の研究対象ではないんです。

だから30年とか40年前というのは手書き文字認識といって。例えば葉書きの郵便番号を手で書いて、それをちゃんと認識するというんですけど。それは、ある意味では人工知能の最先端の分野だったわけですが、それはもうほとんどできるようになっちゃうと、それはもう人工知能とは関係ない。研究対象ではなくなってしまうわけです。こういう解けない問題を追い求める分野が、人工知能という研究分野です。さて、これは重要な話なんですけど、コンピュータが何とかする。AIが何とかする。

イメージとは違う人工知能の実態

最近は、新聞に山のように出ているんですけど、(AIが)何とかするというのは、考えるとか判断するとか学習するということですが、これはすべて擬人化表現です。コンピュータを人と見立てた表現です。なぜならば、今のコンピュータは意識とか自由意志とかそのようなものはまったく持ちません。

多くの方々はSFのようなイメージを持っていて、何か人工知能というと自立的に動いて、自分の意思を持って何かするというイメージを持ってるんですけど。現在のコンピュータは、そんなものはまったくありません。単にプログラムを機械的に実行しているだけです。ですから、現在人工知能と呼ばれているものの、すべては単なるコンピュータプログラムです。

ショックですか? 少しショックですね(笑)。では人工知能って何をやっているのか。繰り返しになりますけど、人間しか解けないと考えられてきた問題を、どのようなデータと手順を用意すれば、機械的に解けるかということを、われわれ研究者は考えてます。

例えばこの後、小説の話をするわけですが、コンピュータが小説を書けたというならば、それは小説を書く機械的な方法がわかったということです。ちょっとだけ入試問題の話もしますが、入試問題をコンピュータが解けたといったならば、入試問題を解く機械的な方法がわかったということです。自動運転を実現できたならば、車を安全に運転する機械的な方法がわかったということです。

実際、囲碁で人間を凌駕したわけですが、名人より上手く囲碁を打つ機械的な方法がわかった。これは正確に言うと、そのような方法を見つける方法がわかったって、1段メタになっているんですけど、機械的な方法がかわったということがポイントであって、コンピュータが賢くなったわけではないのです。やり方がわかったと。そういうことです。

コンピュータに小説は書けるか?

今日、おそらく私が一番言いたかったのはこのことでして、みなさんが思い浮かべているSFのイメージの人工知能と、それから今実際に研究されている人工知能というのは、かなり違うものだということをご理解いただきたいです。

さて、それを理解した上で次の話にいきましょう。コンピュータに小説は書けるか。これはだから今の言い方でいうと、小説を機械的に書く方法はあるかということです。

質問いきましょう。あるという方は「Yes」、ないという方は「No」。はい、挙げてください。決心して挙げようよ! こっち側は青(Yes)が多いですね。どうもありがとう。こっち側は少し赤(No)が多いですね。はい、ありがとうございます。青と赤の人にしようか。あなた赤? 青? どうして? 

学生C:数多くある小説があって、それを参考にしてコンピュータが機械的に書けるのではないかと思いました。

佐藤:なるほど。あなたは赤? このへんの赤? どうして? 

学生D:小説はストーリーがあるので、コンピュータがそれを組み立てるというのは難しいと思います。

佐藤:はい。答えを言うと、まだ決着がついてません、この問題は。だから、どっちを挙げいただいてもいいかと思います。少しこの話をしたいと思います。少しビデオを見ていただこうと思います。

(映像が流れる)

佐藤:今のは星新一賞に最初に作品を応募したときにYoutubeにあげたビデオなんですけど、このプロジェクトは「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」というプロジェクトです。この目的はショートショートをコンピュータに創作させることが目的で、ショートショートというのは業界ではだいたい原稿用紙で20枚8,000文字ぐらいの小説のことを言います。2012年に公式にスタートして5年間、つまり今年(2017年)を目安に始まったプロジェクトで、総括ははこだて未来大学の松原さんです。

コンピュータによる自動創作の現状

コンピュータによる自動創作の研究というのは実はいろいろあります。絵を描くとか、音楽をつくるとか、俳句をつくるとか、和歌をつくるとか、パズルをつくるとか。例えば絵画なんかは抽象画というものがあるので、何か適当に線を引けばそれを作品だと言えば作品になるわけです。それに対して、小説の試みはけっこう少ないわけです。ぜんぜんないわけじゃないのですけど、小説というのはこれらよりはかなり難しいと考えられてます。

さきほど最初に申し上げたように人工知能というのはできないことをやる分野ですから、小説は書けないわけですから、どうやったら小説が書けるかって考えるわけです。このプロジェクトと非常に強い関係がある文学賞として、星新一賞というのがあります。これは日経新聞社が主催している賞で、理系的発想力を問う文学賞という、そういうタイトルでやっている賞です。対象は10,000字以下のショートショートで、2013年9月30日締め切りの第1回から始まってます。

この賞の一番の特徴は、人間以外(人工知能等)の応募作品も受け付けるとオフィシャルに言っているところです。他の賞はそういうことは言ってないわけですね。小説を書くのは人間だけですから、そんなことは言わないのですが、星新一賞に関してはこういうものが出ております。

さきほど言いましたようにプロジェクト自身は、2012年の9月にキックオフになったんですけど、われわれのグループが始めたのは2013年の4月でして、それからいろいろ紆余曲折を経て2015年9月に第3回星新一賞に作品を応募しました。それから昨年も作品を応募いたしました。これらについては一応本を書きましたので、もし詳しい話をお知りになりたい方は本を読んでいただければと思います。第4回の応募作品に関しても、こちらの本に収録されております。

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