2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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参加者2:東京大学の○○と申します。自分が持っている繋がりの多さというものが多ければ多いほど、新しく会った人にとって魅力になるんじゃないかなと思います。
山極壽一氏(以下、山極):ああ、自分の持っているネットワークだね?
参加者2:はい。
山極:それは素晴らしい回答だと思います。つまり、生の人間関係を紡ぐためには、やっぱりSNSのネットワークではなくて、点と点の繋がりではなくて、線や面の繋がりが必要。友達の友達は友達だって考えで、誰かに紹介してもらったりして、だんだん友達の輪を広げていくわけだよね。
人を利用する。これはまさに、その通りだと思います。そのなかで、自分の気持ちを高めていく。向こうの関心を高めていくということだと。それも1つの大きな回答です。ほかには?
参加者3:青山学院大学の○○と申します。利害関係ということに限定するんですけれども、例えば自分の成果ややったこと、功績などによって人から、他人からなんらかのアプローチをかけられるということはあるので。
なんて言ったらいいんでしょう。自分が成し得たことを、より強く全面に出していくということも、あるのではないかなと考えます。
山極:いやあ、おもしろい。それは成功例ですか? それとも失敗例ですか?
参加者3:成功例の場合に対しては、単純に称賛だとか、いわゆる羨望のまなざしというものに代表されるものがありますけど。失敗例だった場合は、自分が失敗ことによって、例えばその失敗したことを共有するという、なんて言ったらいいんでしょう……自分も失敗したから、同じ類の失敗をした人に対して共感を持つ、というような例もあるのではないかなと。
山極:なるほど……おもしろいですね。じゃあ、別の質問をさせてもらいます。日常的にしゃべり合う友達を何人持っていますか? という質問で。3人以下の人、手挙げてください。
お、いるねえ。うん。じゃあ5人以下。10人以下。おお。20人以下。おお……50人以下。100人以下。100人以上。やっぱりねえ。
山極:やっぱり、だいたい10人以下ですね。日常的に、生の言葉を通じ合いながら気持ちを繋がり合わせている友達の数というのは、けっこう少ないんですよ。それで、実は私が調べているゴリラというのは、平均集団サイズが10頭です。
この10頭がまるで生き物のように、お互い気持ちを通じ合わせて動ける。なにか危険があったらヒュンッとかたまって、スーッっと示し合わせたように動けるんですよね。彼らは言葉を持っていないから、情報を伝えあっているわけではない。でも互いに体を同調させて、お互いの状況、今自分たちがどんな状況に直面しているかを理解し合うような能力を持っているわけです。
私たちは、それをすごく大事にしているんです。10頭から15頭というのを、共鳴集団と言うんです。これはまさにアウストラロピテクスという、人間の脳がまだ大きくならない時代に生きていた人たちの、集団のサイズに匹敵する。
これは我々の、現代社会でもきちんとあって。スポーツの集団がそうなんですよね。サッカーの集団は、サッカーのチームはイレブンでしょ? ラグビーのチームはフィフティーン。これを超えるチームの数というのは、あんまりない。それが、たぶん限界だと思う。
それは、我々は日々言葉を使って練習しているような気がしているけれども、実は体を合わせることに主眼が置かれている。実際に大会になれば、試合になれば、言葉で説明し合うことなんてありません。目配せをしたりしぐさをしたり、体の構えでどこかの方向に走ったりして。でもそうすると、その意図を仲間はきちんと読んでくれて、すぐさま身体で反応できます。
だから、チームは1つの生き物のように動ける。その生き物同士が戦い合うというのが、試合の醍醐味なんです。
そういう能力を我々はいまだに保持していて、それに絶大なる信頼をおいているわけです。だからスポーツでできた友情関係というのは、けっこう持続力があって、信頼関係を育むのに重要なわけです。身体の繋がりということが非常に重要。
だけどそれは、集団のサイズに限界があるということなんです。50人もの人たちと、チームを組めないんですよ。今、私がお聞きした普段しゃべり合うことができる人たちの数というのは、そのスポーツの集団におそらく匹敵する仲間の数なんだと思います。
山極:だから、「なにかやろう」と言ったときにまとまって、心を1つにしてなにかできる。それが実は人間にとって、一番信頼のおける仲間の数なんですよね。でもそれを、今の科学技術がどんどん拡大したような錯覚を我々に覚えさせている。
例えば会社で働くようになれば、日常的にいろんな人たちとコミュニケーションをとらなくちゃいけません。それは、実際に会えないからSNSを使っていろんな顧客に連絡をとって、彼らにインフォメーションを発信して、お互い双方向のやりとりをしながら商売をするわけですよね。
それが当たり前のようになっていくと、実際に誰を信用していいかわからなくなる、ということが起こるんじゃないかと思うんです。
では、もう1つ聞きます。SNSで対話をするのと、実際に会って話をするのとどっちが好きかということを聞きます。じゃあ、人と会って話をするのが楽しいと思うか、楽しくないと思うか、でいきましょうか。
人と会って話すのが楽しいと思う人は青、楽しくないと思う人は赤。あ、みんな楽しいと思ってんだ。ああ、赤が1人いるな。赤がいるね。赤の人、なんで楽しくない?
参加者4:日本大学芸術学部の○○です。
山極:お、芸術家か。
(会場笑)
参加者4:ちょっと面倒くさいなと思うことがけっこうあって。自分になにが起きたとか、人になにが起きたとか、あんまりそんな、わざわざ聞くことでもないというか。そう思ってしまうときがけっこうあるので、赤を挙げました。
山極:SNSは使ってますか?
参加者4:使ってます。
山極:人々とSNSでやりとりをしてる。
参加者4:します。
山極:そっちのほうが楽?
参加者4:楽ですね。
山極:おお。じゃあ、聞きましょう。仲間と生の声で会話をするよりも、SNSで会話をするほうがいいと思ってる人は青。そうでないと思ってる人は赤を挙げてください。
おっ、へえー、そうなんだ(笑)。いや、赤が多いですねえ。じゃあ青を挙げた、そこのメガネの方。
参加者5:一橋大学の○○です。状況にもよると思うんですけど、親密な人とやりとりをするんであれば言葉で、対面で話したほうがいいとは思うんですけど。それ以外の場合、正直まだそこまで信頼のおけない人だったり、例えば授業だけの繋がりのような人とだったら、SNSでサクッと簡潔に終わらせたほうが、ほかの親密な人とのコミュニケーションにさける時間もつくれるので、そっちのほうがいいんじゃないかと思ってしまうときがあります。
山極:いわゆる、SNSはそんなに親密にならなくても会話ができる、という利点があるってわけね。
参加者5:そうですね。
山極:それはまさにそうだと思いますね。SNS、つまりネットワーク型の繋がりというのは、実はおもしろい特徴があって。さっき、友達の友達というかたちで友達をつくっていく話がありましたけども、点の繋がりというのは中心ができない。あるいは、階層性ができないというのがあります。
でも、友達の友達というかたちで関係をつくっていくと、そこに階層性ができたり、あるいは仲介する人のメンツがあったりして、ややこしいしがらみがそこに生じるわけですね。だから、ネットワーク型の点で繋がっているコミュニティは、参加しやすく抜けやすい。あっさりしているんです。
でも、面で繋がっている人々の繋がりというのは信頼性は高いけど、いったん入っちゃったら抜けにくいし、人々の気持ちをいろいろと斟酌していかなくちゃいけないから。忖度じゃないですよ、斟酌ですよ。
(会場笑)
けっこう面倒くさいんですよ。ややこしい。でも裏切られないとか、そういうのはあるんですね。点は、信用というのはそれほど高められないから、あっさりしている代わりに、あまり信用できない。頼ることができないという欠点もあります。
それを賢く使い分けていくのが、これからの時代ではないかと私は思うんですけれど。人の会話を、けっこう楽しんでいる人たちが多かった。それで聞くんだけど、仲間との会話でひらめいたことがありますか? 私はね、自分自身、人との会話のなかで一番私が大事に思ってることは、ひらめきを得るということだと思うんです。
そういう経験がある人は青を挙げて、ないという人は赤を挙げてください。どうですか? 経験がある、が青だったよな。けっこうある。そのひらめきとは具体的になんですか? というのを聞きたい。
参加者6:関東学院大学1年の○○と申します。話す相手の人の性格とか状況によって、話し方や言葉を変えたりする、というのを前にひらめきました。
山極:うん。相手の話し方や状況背景によって、なにかが変わる。
参加者6:どういう話し方を、簡潔に言ったらいいのか、詳しく言ったらいいかというのを。
山極:ああ、話し方がひらめくってことですね?
参加者6:それぞれの、人それぞれ違うので。なんだろう、あんまり合わない話し方をすると、相手に嫌われたりとかしてしまうので、そういう話し方を考えたりとかするようになりました。
山極:なるほど。それも1つだな。ほかに例を出してくれる人はいませんか?
参加者3:先ほどお話した、青山学院の○○です。自分が考えていることに関してのインスピレーションというものの、ひらめきを与えられたことはあります。
自分は、趣味で小説を書くということがありまして、その小説のアイデアに関してのインスピレーション。本当になにげない会話で、その手があったか、みたいなかたちのひらめきを得たという経験があります。
山極:これからちょっとね、AIをどうやって使っていくのか、あるいはAIと人間の知性がどう違うのかということを討論していこうと思うんだけれど。まさにおっしゃったように、インスピレーションが働くというのが、人間の大きな特徴なんですよ。
AIというのは「Artificial Intelligence」、人工知能というから、まさに知能だと思っているかもしれないけど、違います。人間の知能とはぜんぜん違うものです。あれは、データをベースにした検索エンジンであって、知識の集積であると。それはもちろん、いろんなアルゴリズムで分析をして答えを出すことはできる。
山極:だけど人間の頭のなかというのは、頭のなかだけじゃないかもしれない。体のなかと言っていいかもしれない。ひらめきに満ちているんですよね。つまり、これまで自分のなかにあった知識だけではなくて、外側のさまざまな事象を瞬間的に取り込んで、まったく別のことをひらめかせることができる。
これが人間の知能です。だから私はさっきから「会話というのは瞬間芸だ」と言っているわけですね。私が今ここで話をしていることも、2度と同じことは話しません。人間というのは、会話において2度と同じことを話さないわけです。2度と同じことを話さないのに、そのなかから過去の経験をとんでもないかたちで組み合わせて、しかも他者の言っていることから、他者の言っている以上のものを想像してなにかに結び付けることができる。
これがまさにひらめきであって、このインスピレーションがあるからこそ、人間と言うのはおもしろい、あるいはとんでもないことができるわけです。人間が空を飛べるようになったのもそういう問題だし、人間が自動車を発明したのもそういう問題だし。これは果たして、AIにできるだろうか? ということなんですね。
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