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男性学の田中俊之×髭男爵・山田ルイ53世「“普通”じゃなくたって、いいじゃないか!」現代の日本社会における男性の生きづらさ(全7記事)

40男は“可能性がない”からこそすばらしい 山田ルイ53世氏×田中俊之氏の中年男トーク

8月30日に開催されたGo-Betweens主催のイベント「『“普通”じゃなくたって、いいじゃないか!』現代の日本社会における男性の生きづらさ」(協力:イースト・プレス、講談社、祥伝社、マガジンハウス)。男性学の第一人者・田中俊之氏とお笑いコンビ髭男爵・山田ルイ53世氏が登壇しました。

ルイ53世氏が考える一発屋の定義

田中俊之氏(以下、田中):僕はすごく気になっているところで、世間の人が「一発屋」と言うときって、少し下に見ているような言い方で。

山田ルイ53世氏(以下、ルイ53世):まあ、でも、見てるでしょうね。でもそれ、こっちにも原因ありますからね。

田中:あ、そうですか(笑)。

ルイ53世:テレビとかで一発屋みたいなことあるじゃないですか。それでよくよく考えたら、一発屋の定義ってなにかって言ったら、一発屋ってことで飯食ってるやつが一発屋なんですよ。

田中:なるほど。

ルイ53世:やっぱり人によっては、一発屋の企画とか受けない人いるんですよね。ちょっとプライド高かったりとか、そっち方向じゃないねん俺は、みたいな人は、やっぱり断るんですよね。

でもそこでテレビ出れるからって言うて、「大丈夫です、一発屋です大丈夫です」って言うてるからそうなるだけであって。最近でこそ多少ありますけど、「ちょっとそれは」みたいなのは、おこがましいですよ、おこがましいですけど、2008年9年過ぎて10年入る辺りの仕事の減り方半端なかったですから! それはこうなりますよ。

それやってくと、そのことでご飯食べてるから、それはもちろんなめられますし、下にも見られるんでしょうけどね。

田中:でも、普通に考えたら、一発もみんな当てられないわけですよね。

ルイ53世:まあねえ!(笑)。

(会場笑)

田中:一発当てている時点で、ひとつまみじゃないですか。

ルイ53世:まあまあ、そうでしょうねえ。実際ね。

田中:だから、すごいですよね(笑)。

ルイ53世:事実そうですからねえ(笑)。

敵がいないところを狙うのは逃げじゃない

田中:今日だって男爵が会場に入ってきて、「あの人誰?」ってなった人はいないわけじゃないですか。当たり前ですけど。

ルイ53世:本当ですか?

田中:いや。いたら不思議ですよ(笑)。

ルイ53世:何人かいたと思いますけど(笑)。

田中:それはいないわけですから、これはすごいことで。なので、いろんな競争していかなきゃいけないときに、なにか自分たちなりに考えて工夫してみるとか。こういうやり方があるとか、人がやっていないところだけど続けてみるということは、すごく僕は価値あることなのかなと思いますね。

ルイ53世:それ大事でしょうね。なるべく敵がいないところにいくというかね。競争相手というか。それはもうぜんぜん逃げじゃないですから。それは戦略ですから。それは大事でしょうね。

田中:そういうのはなんか、ある意味せこいとか思われるかもしれないんですけど。そういう考えというのは、みんながなりたいものになろうとしたときには……。

ルイ53世:今、パティシエなるのしんどいと思いますよ。ものすごく競争相手、日本が砂糖不足なるんちゃうかなっていうくらい、ものすごいみんななろうとしてますもんね。

(会場笑)

田中:みんなが鎧塚(俊彦)さんになれると思っているんでしょうね。

ルイ53世:思ってるんでしょう。

田中:だからそれは、本当に大事なことかなと思うんですよね。そういった意味では、若くないので夢とかいうこととは違うんですけど。

自分たちなりに……30歳くらいですよね、30なかばくらいで男爵も貴族とか出してきたわけですけど。大人なので選べるというか、周りに流されないで自分たちでこういう方向性で考えていこうというので、若者みたいに無謀な夢を抱かせるのではなくて、『<40男>はなぜ嫌われるか』という本にも書いたんですけど。

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)

ルイ53世:なんちゅうタイトルなんですか(笑)。

田中:優しい本だと思うんですけど。嫌われているという事実を、教えてあげるということなんです。

(会場笑)

歳をとって選択肢が絞られるのはいいこと

田中:若者は、自分がどういう人間か理解して、なにがしたいのかを考えるというのは恥ずかしくて、みんなが抱くような夢を若者が語らなきゃいけないのって、「お前それ変だよ」って後ろ指さされたくないというのもあると思うんです。

でも、おじさんなんですからもう恥ずかしがることはないし、逆に40とか50になってきて、自分の人生のことを真剣に考えられないのは恥ずかしいし、自分から正面に向き合ってもいい。歳とって悪くないなと思うのは、僕はこういう部分で。

人生どうしようとか、例えば20歳のときに友達が言ってきたら「ちょっと怖い」ってなりますけど、40くらいになってきたら自分は本当はこういうことしたいんだとか、これから先こう生きていきたいということを真剣に論じるということもいいと思うんです。いかがですか?

ルイ53世:いや、そう思いますよ。いい具合に選択肢が省かれてますからね、やっぱり。絞りこまれてますから。その分、1個1個の選択肢に熟考できるでしょうし。

田中:若いときは無限の可能性みたいに言われちゃうから。なんでも選べる気がしちゃう。

ルイ53世:結局、なにも選べないですからね、そういうものが無限にあるとね。だから、ちょうどいい歳ではあるんじゃないかなとは思いますけどね。

田中:今の話も僕はすごくいいなと思って、選択肢というのが絞られてきているっていうのが、悪いことではないということですよね。

ルイ53世:そうですよ。人生をかけて可能性を潰していったわけですから。いらん可能性をね。残ったやつは、できるってことですからね。いいと思いますけどね。

田中:僕は男爵が言っている言葉で好きなのが、「正気を保つ」ということ。

ルイ53世:なにが好きなんですか(笑)。

田中:やっぱりなんか、人生が中年くらいになったときに思うとおりにならなかったときに、おかしくなっちゃうというか。自分をうまく見定められなくなっちゃう人がいなくはないなという気がして。つまり、普通の人生つまんないから、一発爪あと残してやろうみたいな、わけのわかんないことをやり始めて、詐欺にあったりとか、投資に失敗したりとか。

ルイ53世:カウンター取られるやつですよね、思いっきり決めたろ思うたらクロスカウンター決められるみたいな。

田中:脇が急にあまくなる人が。

ルイ53世:だいたい決まらないんですよ、ああいうのって。

正気を保つためにライブを

田中:だから、正気を保つために男爵がやられているのが、ライブをやられている。

ルイ53世:その話?(笑)。

田中:はい(笑)。

ルイ53世:年に1回、髭男爵で単独のライブをやってるんですよ。もう、ネタ番組とかも出てないし、賞レースとかも年次制限とかもありまして、出れないやつもいっぱいあるんですよ。

ネタかけるところがないんで、毎年新ネタ何本も作って単独ライブやってる。それに手伝いに来てた後輩が、「なんで毎年そんな単独やるんですか?」って。けっこうしんどいんですよ、毎年単独ライブやるのって。なんでやるんですかって言われたときに、「正気を保つためや」って答えたっていう。その話でしょ?

田中:はい、その話です。それって僕はすごく大事だなというか、ある程度自分が何者かというのは決まってきていて。男爵の場合はお笑い芸人なわけだし、僕もここまできたからには研究者としてやっていこうと思うんですけれども。

せっかく絞れてきているんだから、そこから変に外れて大きく当ててやろうとか思わずに、そこに真面目に取り組んでいくというのが大切なのかなと。新しいネタを考えるというのは、すごく大変なことだと思いますし。

ルイ53世:そんなに、才能も正直豊かじゃないですからね。

田中:いやいや。

ルイ53世:いや、本当に。

田中:いえいえ。

ルイ53世:いや、違うんですよ。本当なんですよ。

(会場笑)

田中:はい。

ルイ53世:飲み込んだ! もう2ラリー欲しかった!

(会場笑)

田中:すいません、早かったですね。何回いけるかなと思ったんですけど(笑)。

ルイ53世:通るかなと。ロンです。その牌、ロンです。

まあ、けっこうしんどいんですけど、やっとかなあかんなという。

出番がくるときまで自分の腕を磨く

田中:それ、働いている人にもすごく役に立つことだなと思って。例えば今自分が思っている部署じゃないところをまわされているとか、思っているのと違う仕事を任されているって言うけど、自分の思っている部署と違う、やりたい仕事と違うということは、やりたい仕事があるわけじゃないですか。

そうしたら、いつか海外に転勤したいとか思うんだったら、そういう状況のなかでも英語はちゃんと勉強するとか。自分の正気を保つために、別のことにまわされていても、英語を活かした仕事をしたいというんだったら、英語を磨いておく。

だって、いつ来るかわかんないじゃないですか。出番だよっていうのがいつくるかわかんないので。しっかり自分のやることの腕を磨いていく。

男爵の場合はラジオも、それこそ『ルネッサンスラジオ』というのは、409回もやられているわけなんですよ。だから、正気を保つという部分、逆にいうと正気を失いそうだという。

ルイ53世:そうそう、もうそろそろおかしくなって(笑)。でも、そういうのは大事かも知れないですね。確かにね。

田中:年50回もやっていれば、50回番組を作るということでトータルで話したということですから。確実に人前でしゃべるという。

ルイ53世:まあ、多少は腕も上がりますよ。そりゃあね。1ミリ2ミリ、わからないですけど。やらんよりはええやろう、っていうくらいのね。

田中:今日だって、ラジオとか聴いてない方はびっくりされていると思うんですよ。「男爵、すごい!」って。

ルイ53世:一番ぞっとするのが、みんなラジオ聴いてるパターン(笑)。

(会場笑)

田中:『ルネラジ』リスナー(笑)。

ルイ53世:それが一番ぞっとするんですけど(笑)。

田中:そうですね(笑)。それはちょっと聞かないで、手とかは挙げないで。

ルイ53世:明確にはしない方向で。

田中:我々の正気が保てなくなるんで。

ルイ53世:保てなくなります(笑)。

(会場笑)

だいたい2055年くらいに死ぬとすると

田中:でも、そういうことを続けていくなかで、『ヒゲとノブコ』ですとか、山梨放送の『キックス』とかね。つながっているわけなので。

ルイ53世:ありがたい話です。

田中:なんて言うんでしょう、それやりたいけどやらないという人いるじゃないですか。ラジオとかそうじゃないですか? ラジオパーソナリティになりたい人ってすごく多いと思うんですね。夢として。

ルイ53世:いらっしゃいますね。

田中:ラジオパーソナリティってどうなれますかと聞かれたとしても、なにやってんのって聞いたときに、なにもやっていない人が多いんじゃないかなという気がして。それだとなれないよねってなってしまうわけで。

ルイ53世:なにかしらはしないとね、なれないわけですからね。

田中:自分がやりたいことというのが定まっているんだったら、それをやっていくというのはすごくいいですし。スーツ着られて漫才もやられているんですよね?

ルイ53世:その単独ライブではね。

田中:それがどっかで見られるってこともね。

ルイ53世:まあ、見れないでしょうけどね。

田中:いやいや(笑)。

ルイ53世:でも、僕はそれくらいの感じでやってます。ほぼほぼないやろなって思ってやってますけど。でも、やってたほうが、結果正気を保てるんで。そのほうがいいなって思ってますね。

田中:これは『<40男>はなぜ嫌われるか』という本に載せたんですけど。僕はちょうど男爵と同い年、75年生まれなんで。考えていくと、だいたい2055年くらいに死ぬってことになっているんです。

ルイ53世:(笑)。何歳で死ぬんですか?

田中:80ですね。

ルイ53世:80か。でも、80までも生きない可能性がありますからね。

田中:今やそうですね。そうするとあと30年くらいってことになっちゃいますね。

ルイ53世:やばいやばい。やばいぞ。

田中:今日の会場にもいろんな方がいらっしゃると思うんですけど、これに当てはめてって考えると、人生って80年くらいなんで。僕らの場合は残されているのは、中年と老年期なんですよ。

こういうことを客観的に見定めたほうがいいのかなというのはありまして。

田中氏は社会学界のザコシショウ?

ルイ53世:ほぼ終わってんねんな。

田中:Uターンはしているんですよ。

ルイ53世:(スライドを指しながら)今はここでしょ?

田中:2016年なんで。

ルイ53世:半分以上はきてるってことですよね?

田中:そうなんです。だからこれから死んでいくということを真面目に考えなきゃいけない年齢になってきているんですね。

ルイ53世:死ぬ手前の10年くらいは、身体が言うこと聞かへん可能性もありますからね。だから、80までとは考えないほうがいいかもしれない。なにかをやれると考えたら、70とか65とか、そのへんなんでしょうね。

田中:これはさっき、冒頭で古市さんの名前出ちゃったんですけど、僕41で男爵も41で、若手感があるのがまずいなと思っているんですね。芸人さんでも、40くらいだと若手芸人さんという感じがありますよね。

ルイ53世:このあいだ優勝されたハリウッドザコシショウ兄さんもね、僕よりだいぶ上ですから。40いくつですから。永野さんとかもそうでしょ?

田中:そうですね、40過ぎてからですね。ただ一世代前を考えると、20代30代でバンバン冠番組とか出ていたわけですよね。

ルイ53世:24、5とかでね。

田中:学者の世界も、例えば僕のやっている業界だと、ジェンダーだと上野千鶴子さんとか、社会学では何と言っても僕の憧れである宮台真司先生ですね。TBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』にずっと出演してらっしゃいますけど。宮台先生なんかもメディアに出てきたのは30代前半くらいで、若手研究者とか若手論客というのって、30代前半の人なんですよ。

ルイ53世:ちょっと遅いですよね。

田中:遅いっていうか、僕、おじさんだから。若手とか言われても(笑)。

ルイ53世:だから、社会学界のザコシショウみたいなもんですよね。永野さん的な存在ってことですよね。

田中:そうですね(笑)。この行き詰まり感みたいなのが、なんかまずいんじゃないかなっていう気がして。つまり、自分が中年であるということと、この置かれている若手というポジションが、マッチしてないんですよね。

ルイ53世:ちょっと自分のなかでズレがあるって感じなんですね。

若手と呼ばれるのは、旧式の列に並んでいるから

田中:この矛盾をこの間まじめに考えてみたんですけど、僕たちより下の世代って、YouTuberとかいるじゃないですか。

ルイ53世:いますね。

田中:意味がわかんない。

ルイ53世:いや、意味はわからんことはないでしょう(笑)。

田中:いや、けっこうわかんなくて。この間もカフェでお茶飲んでたら、自分で自撮り棒を持って、中継しながら茶を飲んでいる若い女の子がいるんですよ。

ルイ53世:Ustreamかツイキャスみたいなんかな、わからへんけど。

田中:なんか呪いにでもかけられているのかなとか思って。自撮りしながら茶を飲まなきゃいけないっていう呪いなのかなって思うんですけど。

でも、それでパーンっていっちゃう人とかが出てきているわけですよね。僕らより10、20くらい下の人だと、違う道が見えているんですよ。そして、そちらが正解かもしれないわけです。

僕らってまだ旧式の列に並んでいるんですよ。お笑い芸人でも学者でも、90年代、僕らが若かったときに流行っていたものの列に並んでたら、順番来るぞって思っているんですけど。

ルイ53世:確かにそうですね。

田中:その業界が終わってんじゃないなかということに、最近気付いたんですよ。

ルイ53世:列の先、店もう閉まってんちゃうかっていう(笑)。

田中:閉まっている店に並んでるから、ずっと若手のままで。

ルイ53世:いや、気づくよ普通! 店閉まってたら(笑)。

田中:それで明後日の方向から、学者で言えば古市さんですよね。いや、大変なんですよ、学者になるのって! そんな簡単に。

ルイ53世:論文出して博士号もちろん取ってっていう。学生さんなんですよね。

田中:彼はまだ学生なんで。でも、古市さんのほうがパーンっていっているわけですから、彼のほうが正しいわけですよ。新しい道を切り開いている。

ルイ53世:テレビやなんや出るっていうことに関していえばね。

田中:社会的に古市さんの方が僕よりも活躍できる余地があるわけですよね。僕は旧式の学者社会の列のなかに並んでいるから、若手感あるわけですよ。だから、YouTuberとかも、僕らから見たら明後日の方向じゃないですか。

ルイ53世:まあ、思いもよらん売れ方ですよね。

田中:でも、ヒカキンさんとかすごいわけですし。

田中:男爵もやられていましたっけ?

ルイ53世:僕はやってないです。YouTubeの番組は何回かやらしてもらいましたけど。YouTuber的な活動はしたことないですね。確かにその意味で言えば、旧型ですよ。

田中:そうなんですよ。だから、このこと自体は、中年の僕らって認識したほうがいいんじゃないかと思って。

ルイ53世:自分が旧式やっていう。

田中:旧式だっていうことと、ずっと若手と言われちゃうということは、この業界の先行きがないから、僕らより下は、若手としてこの業界に入ってこないんじゃないかなという。

ルイ53世:僕らが並んでる列の後ろには、もう並ばへんのちゃうかという(笑)。

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