2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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日下部聡氏(以下、日下部):これから質疑応答に移りたいと思いますが、みなさんから質問をいただく前に、簡単なことで3人に私からうかがっておきたいことがあるんです。
1つは、お三方とも「ICIJ(The International Consortium of Investigative Journalists)」のメンバーということでいいんでしょうか。それとも、ちょっとその辺はかたちが違うんでしょうか。
シッラ・アレッチ氏(以下、アレッチ)私はメンバーじゃないです。
澤康臣氏(以下、澤): 私もICIJのメンバーじゃないです。(このプロジェクトの)パートナーです。
(奥山俊宏氏は2011年の12月にICIJのメンバーになっている)
日下部:それとちょっと重なるかと思うんですけど、400人近くプロジェクトに関わっている記者がいて、1年近くずっと取材をしながら、事前にぜんぜん漏れなかった。当然のことながら、私もまったく知りませんでした。これは、なぜだったのか。
例えばその、うっかり漏らしそうになったりとか、思わず言いたくなったとかってことは、なかったのかどうか。それぞれ短くでいいので、教えてください。
アレッチ:やっぱり、ふだん競争しているメディアも一緒に仕事をして、お互いにスクープしないようにしていたんですけど、あくまでもジャーナリストで、ほかのメディアに情報を回そうと思わないし。
あとはみんなプロジェクトの規模をわかっていて、少しでも情報を漏らすとすべての価値がなくなるので大事にしたいという思いや、一部の情報が出回ると勘違いや風評被害が生じるという責任を感じて、気を使っていたのだと思います。
澤:自分でやってて変なんですけれども、(情報が漏れなかったのは)驚きでした。私たち記者ですよね。それで記者っていうのは情報を出させるのが仕事、リークさせるのが仕事なので、心のなかでは「どんな組織も情報は漏れるんじゃないか」って思っている部分はあるんです。ですけど今回は本当に漏れなかった。
私の友達でイギリスの(新聞社)The Guardianにいるルーク・ハーディングっていう記者がいます。彼も今回たまたまメンバーなんですけど、彼がイギリスの業界紙みたいなのの質問に対してもやっぱり、変な話だけれど「驚いた」というふうに言っています。
もちろんみんな気を使って、PGP(暗号ソフト)とか使ってやらなきゃいけないっていうのは自覚しているわけですし。例えば、よく我々が「当てる」っていう、(当事者に事実関係を直接確認する)「こうじゃないですか?」っていう当て方なんかでも、かなり遅い時期になるまで(制限されていた)。
このブツ(文書)が漏れているということがわからないようにすることを目的とするようにというルールを決めて、質問の仕方も掲示板などで共有されていた。いろいろな意味で気を使いながら、ポイントポイントで縛りをかけながらやるようにしていたことも、こういう結果に結びついたんじゃないかと思います。
日下部:ありがとうございます。それでは会場のみなさんからご質問をいただきたいと思います。ときどき、極まれになんですけど、ずっと自分の意見を述べられて、なかなか終わらない方がいらっしゃるので……。
(会場笑)
ぜひ質問は手短にお願いします。それでは、まずそこの青いマスクを掛けていらっしゃる方。
質問者1:お話ありがとうございました。先ほど、さまざまな情報解析のツールが用いられていたということですけれども、ああいうツールに通暁(つうぎょう)した人材というのは、どれぐらいいるものなのでしょうか。
アレッチ:スタッフ自体には少ないですね。それぞれのソフト関係の方とコラボレーションしながらだったと思います。もっと調べたい場合は、それぞれのソフトのウェブサイトに、パナマ文書とのコラボレーションについて書いてあるので、そこに詳しく載っていると思います。
日下部:1つ忘れていました。質問のときは、名前と所属を名乗っていただけるとありがたいです。
質問者1:早稲田大学政治経済学部2年の〇〇と申します。ありがとうございました。
澤:今ので言うと、日本のマスコミでこういうの使えるのかということですよね?(笑)。あんまりないんじゃないですかね。
私自身も(システムへの外部からの侵入を検出する)BlackLightとかはマニュアルをいただいて読んで、一通り使いましたし、検索をかけるようなものであれば掲示板を使うとか。あとLinkuriousっていうチャートを作るソフト、あれなんか私は結局使わずに、だからあんな手書きのものを作ったりしたので。実はそれほど、テックジーニアスみたいな人がいっぱいいて、だから結びついたということではないと思います。
質問者2:慶應義塾大学文学部の〇〇と申します。今回ICIJで取材するマスコミが2社出るということだったんですけれども、ここで朝日新聞と共同通信が選ばれているのは、どういった経緯で選ばれたのか。ICIJからの指名だったのか、指名だったらなぜその指名だったのかという経緯をお聞かせください。
アレッチ:私はフリーでやっていますので、昔ICIJのインターンシップでずっと仲がいいっていうこともあって。この場合やっぱり信頼が必要だと思います。前は一緒に仕事をしていて、去年(6月にアメリカ・フィラデルフィアで開催された)IREという会議で、そのプロジェクトについて聞いたのがきっかけでした。
澤:なんで共同が選ばれたのか、私はわからないんです。
(会場笑)
さっき言った謎のメールっていうのは、だから謎なんです。(アレッチ氏に)なんで?
アレッチ:共同というより、澤さんだからですね。やっぱり、このプロジェクトをするには調査報道にパッションがある人が必要です。奥山さんも澤さんも昔からやっていて、毎日データを分析するのはすごくつまらない作業なんですけど、でもやりがいがある。そういうのをわかってらっしゃる方しかできないので、澤さんということになりました。
澤:忍耐力で選んだと。
(会場笑)
質問者3:早稲田大学政治経済学術院の教員で、〇〇と申します。パナマ文書はうちの学生の関心も高くて、学生から指摘があって私もはっとしたことがあるんですけど、要するにプーチンとか習近平の関連の人間たちに関する情報が出ても、アメリカ人・アメリカ企業に関する情報がほとんど出てこない。「これってなんでなんだろう?」という指摘を学生から受けて私も把握したんですけど。
なぜアメリカ関連の節税をしている人たちの名前や会社が出てこないのかということと、もう1つは日本側でアメリカに設立された企業を介して取引している可能性はないかと。
澤:さっきシッラさんが「氷山の一角」って言い方をされましたけれども、モサック・フォンセカでこういうものがあって、世界の全部がわかったというわけではまったくありません。モサック・フォンセカに、世界のこういう、いろいろな活動が均等に配分されているわけでもないので、相当偏りがある。それがリークでたまたま記者の手に入ったものが、そういう内容だったとしか言えないと思います。
質問者4:近隣住民の〇〇です。興味深いお話でした。お話をうかがって、日本はまだまだ透明な社会ではないな、道なかばだなと思います。私自身はより開かれた社会になっていくと信じているんですが、数年前に特定秘密保護法なんてのもできましたし、国の外から中に迫るような調査報道は非常に意味があると思っています。以前話題になった(内部告発サイト)ウィキリークスや、(同サイト設立者の)アサンジさんが今、さっぱりどうなっちゃったんだと疑問に思ったものですから、関連があるのかどうかお聞かせください。
澤:ウィキリークスも、持ち込まれた資料が大量に人の目に触れた結果、いろんなことがわかった、そういう意味で共通することがあると思います。ジュリアン・アサンジさんは今ロンドンで、スウェーデンの人から提起された刑事事件の嫌疑の関係上、身柄を拘束される危険があるので南米エクアドルの大使館のなかに避難していて、一生出られない可能性もある状態になっています。
今回、このパナマ文書を南ドイツ新聞に提供した匿名の情報提供者は、5月11日ぐらいに声明を出したんですが、それによると最初は、南ドイツ新聞以外の非常に国際的に大きなメディア複数に持って行ったけれどもあまり相手にされなかった。ウィキリークスにも連絡を取ったけれども無視されたと言っています。
ただし、ウィキリークスはこれに対しては強く反発しておりまして、「そんな窓口なるものはない」と言ってるので、そこらへんが最近どうなっているのかはわかりません。ただ、そういうふうに言っています。ウィキリークス自体は、今もまだ生きていると思います。ただウィキリークスの時に議論となったのは、あれはジャーナリズムなのか、日本語で言うところの「だだ漏れ」なのか、というのは議論になりました。私、当時ニューヨークにいたんですが、アメリカのメディア界でも話題になりました。
ウォーターゲート事件で有名になった当事者の1人、記者の人がたまたまコロンビア大学のイベントでこのことについて話した時に、やっぱりジャーナリズムの仕事というのは、こういうただの生データにまず裏づけをする。本当かどうか、あるいは同姓同名なんじゃないかっていうことを調べる。
もう1つは文脈を与える。なんでこうなったのか、これにどういう意味があるか、これによってどういうマイナスが生まれているのか。っていうことの文脈とか背景とか、読み解きながら市民に提供していく。この2つがジャーナリズムの仕事なんだと。まあウィキリークスはジャーナリズムじゃないよという含意があるんですけれども、そういうことを言っていました。
今回もICIJは、「ウィキリークスと私たちは違う」と。やはり中身を厳選して、だからデータベースも全出しはしませんと。関係ない諸々が入っているので、そこは違うんですという言い方をしている。それぞれの役割、私は必要だと思うんですけれども、ウィキリークスはウィキリークスなりに今も活動しているということです。
アレッチ:今回はリークがあって、すごく調査報道ができたというのがあるかもしれませんけど、日本でリークがないと調査報道できないわけじゃないんですよ。つまり、リークは1つの情報源として考えればいいです。なければ別に違う方法もある。だからリークがないとなにもできないっていうことは、ちょっとレイジー(怠惰)な考え方だと思います。
それは記者、メディアが考えるべきことだと思うんですけど、例えばICIJもオフショアリークスやパナマ文書で有名になったんですけど、昔はリークじゃなくてふつうの取材で、取材をしていろんなプロジェクトに関わったこともあります。日本でもパナマ文書以外で違うところを取り上げて、もっと調査報道できると思います。
質問者5:シッラさんの大学院の同級生で、今、朝日新聞の子会社で子供向けの新聞を書いている〇〇と申します。お聞きしたいのは今回のニュースの出し方についてなんですけども、これだけ世界各地で報道されたのは出し方がうまかったというのがあったと思うんですけども。
1つは、ヨーイドンでみんなで一斉に出したっていうことは先ほどお聞きしたんですが、それ以外になにか、ニュースのブランディングというか、なにか目立たせるために工夫をしたことはあったのかどうか、あとはいろんな出し方のルールが決まっていたということなんですけども、陣頭指揮をとった人がいたかどうかをお聞きしたいと思います。
アレッチ:解禁以外は、私は今、ニューヨークに住んでいて、前から気づいていたトレンドなんですけど、調査報道だと時々、難しくてドライな話を採り上げることが多くて、できるだけ読者に読んでほしいということなので、かっこいいウェブサイトを作ったり、データの見せ方もかっこよくして、できるだけいろんな媒体で見て、読んでほしいというスタイルがあります。
澤:今回、国際的にはおっしゃるとおり、最初から盛り上がっていたんですけど、日本においては若干スロースタートだったのかなというのが私の偽らざる印象です。
共同通信というのはみなさんご存じと思うんですが、日本中のいろんな新聞社に、地方紙が多いんですけれども、私たちの書いた記事が配信されて掲載されるんです。ですからどの新聞も、それぞれにニュース価値を判断して、同じ記事を配信しても1面に載せる新聞社もあればちっちゃく扱う新聞社もある、それでいいんですけれども、やっぱり最初の報道のからすごい波が来た感じは、実はしていません。
過去のICIJのプロジェクトも、そんな日本で大ブームになったわけではないと私も承知していて「まあこんな感じなのかなぁ」と思っていたんです。ところがアイスランドの総理大臣が辞めた(4月5日)あたりからちょっと潮目が変わってきて、「なんかすごいぞ」みたいな。雰囲気が、なんとなくニュースの温度が上がってきた感じがしたんですね。ちょうどその次ぐらいから今度は中国の話が出てきたりしたものですから、中国の話は日本も隣の国なので大変関心もあるし、だんだん大きくなった。そのあたりから本当に加速したっていうのが私の印象です。
だから、一斉解禁したから日本でも最初から盛り上がったとは、実は私は思っていなくて。盛り上がるころから「パナマ文書」っていう日本名がだんだん普及してきたとか、いろんなものがあって途中から出てきたと僕はみています。
アレッチ:それぞれのメディアがどういう報道をするのかは自由です。それぞれの国の特徴が出てきて面白いと思うんですけど、日本では(ICIJが協力先として)朝日を持っていて、(さらに)共同通信を選んだ理由でもあるんですけど、(直接取材をしていなくても)地方の新聞が記事を選んで載せる。
調査報道の場合、記者のためじゃなく、重大な話はできるだけ(多くの)人に読んでほしいっていう目的があるんです。(より多く読んでもらうための手段は)スタイルとかプレゼンテーションとか、何でもいいんですが、目的は人にメッセージを送るということです。
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