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企業の魅力を伝えるストーリーテリングとライターの役割(全6記事)

「なぜ?」を4回繰り返す “熱い想い”を掘り起こす取材のテクニック

ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」が、8月25日に開催したイベント「企業の魅力を伝えるストーリーテリングとライターの役割」。企業や団体の“想い”をストーリーとして伝えるプラットフォーム「PR Table」編集長・菅原弘暁氏をゲストに、「sentence」を運営するモリジュンヤ氏、編集者・ライターの長谷川賢人氏がパネルディスカッションを行いました。“伝えるプロ”である3者が、ストーリーテリングの可能性を深掘ります。

なぜ今、ストーリーテリングなのか?

長谷川賢人氏(以下、長谷川):さて、ここからは、今までのお話を踏まえたうえで、モリジュンヤさんにも入っていただいて、トークをしていこうかな思います。よろしいですか?

みなさんも途中で聞きたいことが浮かんだら、すぐにリプっていただいたり、挙手をいただいてもかまいませんので!

まず僕から、ひとつ聞きたいことがあったんですよ。今回のイベントって、モリさんが主催じゃないですか。なぜこの「ストーリーテリング」をテーマにしようと思ったのかを教えてもらってもいいですか?

モリジュンヤ氏(以下、モリ):難しいですね。なぜ「ストーリーテリング」をテーマに選んだかというと、日々の活動や取材活動の時、企業のオウンドメディア案件のお手伝いをしている時、コミュニケーション系の仕事をしている人たちと話をしている時に、このテーマの話になることが多かったんです。

ストーリーテリングって、有名な例だと、オバマ大統領のプレゼンテーションの話だったり、コミュニケーションに関するいろんな文脈で語られることが多かった。PR Tableが成長し、オウンドメディアでも注目され、採用ブランディングでも注目されるようになってきた。

ライティング領域でも、「ストーリーテリングに注目したほうがいい」という流れが来た感触があって、ちょうどライター向けのイベントでお話いただこうかなと思いました。

長谷川:なるほど。

ちなみに、今日、会場でライターをされている方ってどれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

長谷川:けっこういるんですね。じゃあ、それ以外の方は企業の方が多いですか? 広報やPRをやられている方が多いんですかね。

そうすると、今の話はおもしろいなと思っていて。というのは、僕もいくつかのメディアでライターや編集者をしていると、伝えるべき情報が変わってきたりとか、メディアによってトーンが変わっちゃうよね、みたいな話が当然あるんです。

最近感じるのは、従来型の事実ベースの記事やニュースばかりだと、なかなかうまくいかないことがあるんですよね。それは、記事がバラ売りされた先で「メディアの色が出ないから」というのも理由にあります。

そこでストーリーを武器にして語れるかどうかというのは、ある種、メディアとしても書き手としても、別個のスキルといったところもあるじゃないですか。取材をするというのは、割と場馴れだったり本人の資質の問題もありますけど、それをストーリーに仕立てるというのは、ちょっと違うと思うんですよね。

「なぜ?」と4回聞くと物語が出てくる

さっきのスライドを見ていて、菅原さんに聞きたいと思ったのは、ライターさん自体は何十人と抱えてらっしゃいますが、果たしてそのライター全員がストーリーテリングができるのでしょうか。どういう方向性でライターさんに発注するのかなというのが、ちょっと気になるんですよね。

菅原弘暁氏(以下、菅原):なるほど。すごくいい質問だなと思います。

ライターさん全員ががそれをできるかというと、そうではないというのが現実ですね。毎回、ライターさんにオリエンさせていただく時もそうですし、そもそもお仕事をお願いする時もそうなんですけど。

「相手に絶対なにかある」と思ってくれ、と。取材で仮に事実しか言われなくても、別にその人は冷めた人じゃなくて、絶対に熱いもの、原体験があるから、そういう目線でかかってくれということは求めますし、僕もそういう目線で取材をします。

「なんで?」って4回くらい聞くと、だいたいみんな出てくるんで。

長谷川:それ、いいですね! 「なんで?」って4回聞くと、なにか出てくる。わかりやすいです。

菅原:よくあるのが、「小学生の時に起業したいと思ったんです」って言う方がいるんですけど、意味わかんないじゃないですか(笑)。まったく共感できない。

4回くらい聞いていくと、「小学生の時に、トイレにいつもお父さんが本を忘れていて、それがたまたま経営の本で毎回それを読んでいたんです。それで、経営者になりたいと思ったんです」と。ちょっと共感できるようになったり。

それがいいか悪いかは別なんですけど、そういうちょっとほっこりする話だったり、いい話というのは必ず出てくるので、「なんで?」は絶対にやってくれとお願いしています。

長谷川:取材の仕方として押さえてくれってことですよね。僕も、先輩の編集者からよく言われていたのは、「ファクトを押さえろ」という言葉があって。

例えば、「こういうサービスをやっています」と言った時に、「なんでそれをやっているんですか?」という話を聞いて、そこから出てきたもので、なんとなくふわ~っと話が流れていきそうな部分で気をつけて、「でも1回失敗してるわけですよね? なんでそれをもう1回やるんですか?」みたいな深堀りをしていくと、ストーリーができあがっていくんだろうと。

だから「なんで?」を4回聞くというのは鋭いなと思います。ちょっと話がずれるかもしれないんですけど、サッカー元フランス代表のジダン選手が、『キャプテン翼』に影響されたという話がすっごく好きなんですよ。

ああいうのでジダンがすごく身近に感じるじゃないですか。「俺もキャプ翼読んでた!」みたいな。「ジダンってすげぇ!」みたいな感じになるのはファクトの部分で、「サッカーにどういう影響を与えたの?」といった話が自分と近いところにあったりする。

それこそ、「トイレにお父さんが忘れた本」というのがキーになって、僕たちがリアルに近さを感じていることってあるんだろうな、と。

丁寧にできるだけ掘り下げて聞く

モリさんは、例えば、さっきの取材の仕方みたいな、絶対にやっていることってありますか? 聞き方とか、気をつけることとか。

モリ:そうですね。取材で聞くべきポイントってあるなと思っていて。取材をして話を聞いている時って、それほど丁寧には話してもらえないんですよね。

起きた出来事だけお話いただくんですけど、その出来事が起こるまでには、絶対に長い積み重ねやいろんな試行錯誤があったはず。語られていない部分をちゃんと紹介してあげたほうが、読者はおもしろいと思ってくれる。「なぜを4回繰り返す」に似ていて、できるだけ掘り下げて聞くようにしています。

ストーリーテリングってフィクションとは違って、創作じゃないんですよね。物語性のある話をどれくらい拾えるかで、アウトプットに影響がある。

だから、できるだけ掘り下げて話を聞いていったり、「掘り下げると人が食いつきそう」というポイントをちゃんと押さえることが大事になります。

何回か取材対象に会って、関係性ができてくると、より聞きやすくなったりすると思っています。また、関係性ができてくると、外部に発信してないけど「この人が持っている、このストーリーをもっと伝えたほうがおもしろいのに」と思うこともあったりします。

初対面でやることは、難しいかもしれませんが、継続的な関係性ができると、掘り下げているかもしれないですね。

長谷川:それは、記事の出し先が、イントラ向けか、外向けかというのはあまり関係なく?

モリ:そうですね。あまり出し先は関係ないと思っています。取材では物語のタネみたいなものを拾って、拾った後に「これは外向けのほうが響きそうだ」「これは中向けでも響く」「これはどっちでもいけるね」と、判断していきます。

長谷川:取材のタネとして拾うものは一緒で、出し先でアレンジを変えていくみたいなイメージですかね。

モリ:かな、と思います。

「どう見せたいのか」を事前に確認

長谷川:さっきのPR Tableのやり方でいくと、1回目はヒアリング、2回目に取材じゃないですか。僕、これって、ある種、贅沢だと思ったりするわけですよ。

というのは、ふつうWebメディアで記事を作らなきゃいけないという時は、1回行って、1回でがんばって取ってきて、そこから記事を作るみたいなパターンが一番多いはずですよね。

何回も何回も行けるというのは、お金がたくさんあるメディアさんとか、人がたくさんいるメディアさんはできるんでしょうけど、なかなかそうはいかないなということがあって。

1回でなんとかするというのも1つのスキルだと思うんですけど、関係性を継続的に構築できたほうが、出てくる話は増えるということは絶対あるよね、と。これって、たぶんドキュメンタリーの手法に近いと思うんですよ。すごくセンシティブな話をしなきゃいけない時というのは、相手を信頼するかどうかってあるじゃないですか。

それは取材もそうだし、異性とメシを食いに行ってもそうですよ。この人に対して、「私の心の傷を見せちゃおうかしら」と思うのって、話し相手の雰囲気によったり、長い付き合いがあったりというのがベースになると思っているので、やはり複数回接触するのはいいのかなと。

PR Tableが取材回数を2回にしているのは、今までの案件から「2回会えばいける」という実感があるからですか?

菅原:2つパターンがありまして、取材をするご本人に事前ヒアリングをするパターンと、ご本人じゃない方にするパターンがあるんですね。

後者のほうが、今、圧倒的に多んですけれど、なぜやっているかというと、広報担当の方とかに、会社としてこの社員をどう見せたいかというのを、事前にお聞きするようにしているんですね。

例えば、モリさんという社員の方を取材する時に、モリさんのことだけを書こうと思うと、会社の意図と違う部分になったり、「あ~、モリさんのそこじゃないんだよ」というところがあったりするので、「モリさんをどう見せたいんですか?」というのを、基本的に初めに聞くようにしています。それがご本人の時もあります。とくに経営者の方は、ご本人にすることが多いですね。

さっきおっしゃったみたいに、2回コンタクトを取ると、やはりそこですごく信頼をしてくれて、「完全に味方なんだね」「取材って言われたからちょっと怖かったけど、なんでも喋っていいんだね」と言ってくれて、本当になんでも喋ってくれたりというのはありますね。

取材の仕方は、外向けであろうと、主に社員に見せたいものだろうと、聞く要素は基本一緒にしてます。

相手に寄り添うジャーナリズム

長谷川:どういう要素なんですか?

菅原:原体験ですね、一番は。「なんでそれをやろうと思ったんですか?」とか。「今やっていることと、ぜんぜん違くないですか?」とか言うと、「そうなんだよ~」とか。

長谷川:ちょっと今、取材相手も不平を感じながら言いましたよね(笑)。

菅原:「なんで矛盾が生じているんですか?」と言うと、「こういう事情があって、こういうのを社員に伝えられてないんだよね」とか、「でもそれを言うと株主が怒るんだよね」とか、「でも、そこで株主を見ちゃうと、社員が嫌がるじゃん」とか。

けっこう狭間に立たされてる方が多くて、やっぱり経営者の一番の不幸って、それを社員の誰にも相談できないということなんだなぁ、と。社員を不安がらせちゃうので。

僕のような外部のPRパーソンが話を聞くと、しゃべってくれるというのはあるかな。メディアの方にしゃべるのが怖いという方は、どういうふうに受け取られて、それが記事になったときに誰が見るかわからないから、間違ったことが伝わるのが怖いというのが一番あると思います。

長谷川:それに関連して、「ジャーナリズム」という言葉がありますね。いろんな意義、意味がある言葉だと思いますが、メディアに語ってなにを書かれるかわからないというのは、「誰も知らないであろうことを取ってきて暴露する」的なニュアンスが強いんだなと思っていて。そういうふうにやる方も当然いるし。

たぶん、菅原さんやモリさんがやられていることって、相手の立場に立って、相手の代わりにしゃべるとか。逆に、相手が今まで思ってもいなかったんだけど、「これってけっこう大事だったのね!」ということに気づいてもらうみたいな、そういうやりかたのジャーナリズムもあるんだろうなと、すごく感じるんですよね。

モリ:クライアントワークではありませんが、僕が運営に関わっている「soar」という社会的マイノリティをテーマにした媒体では、インタビュー記事が1本あたり1万字〜1万5千字になることもあります。

長谷川:それはWebメディアにしては長いですね。

モリ:Webのフォーマットを完全に無視しているんですけど(笑)。

soarも、初対面の人にいきなりインタビューはほとんどしていません。取材したい人がいたら、まず一度お会いしていろいろ話をうかがいます。その上で、この人はやっぱりインタビューして記事で紹介したいとなったら、また改めて取材に行っているんです。

このやり方はいいなと思っています。「De Correspondent」という、クラウドファンディングで約1億円の資金を集めてスタートしたオランダのオンラインジャーナリズムプラットフォームがあります。会員制のオンラインメディアで、広告等をいれずに、会費だけで成り立っているメディアです。

「De Correspondent」の編集長の人がスロージャーナリズムという話をしていました。記者の人たちは、今までは当日の朝取材したネタを同日の午後に記事にしないといけなかった。速報性を重視していて、とにかく早く出すというのが求められていたし、本数もたくさん出さなきゃいけなかった。

ところが、「De Correspondent」は、時間をかけてじっくり1つのテーマを掘り下げて何回も取材をしている。その結果、でき上がるのは1つの記事でもOKと、ジャーナリストの人たちに伝えているらしいんです。本当はそれくらい掘り下げていかないと紹介できないことって多いと思うんですよね。

だけど、機械的なプレスリリースや速報性を重視したニュースだと、ほかの媒体と内容が被ってしまう。ストーリーにつながるような深堀りをしていこうと思うと、複数回取材というのはわりと普通になってくるんじゃないかなと思ったりします。

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