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リーダーシップを科学する:人間の本質から学ぶ組織運営の秘訣(全5記事)

「危ないぞ」という脳の警告が仕事のパフォーマンスを下げる 職場の創造性と論理的思考を高める脳科学のメカニズム

社会全体のウェルビーイング向上に貢献することを目指したサービスを提供する株式会社メタメンターのセミナーに、『イノベーション実践手法』の著者で、執行役員としてスリーエムジャパンで業務改革を実践した大久保孝俊氏が登壇。「脳の構造」を客観的に理解することの重要性や、AIの思考と人間の思考の違いなどを解説しました。

「脳の構造」を客観的に理解することの重要性

大久保孝俊氏:はじめまして、大久保と申します。現在、早稲田大学のビジネススクールで、イノベーションに関わる「どう設計していくか」ということを中心に活動しています。

まず、今日の流れですが、私の自己紹介をした後、「なぜ今日このような話ができるのか」という背景についてお話しします。その後、人間の本質に基づくリーダーシップの考え方について進めていきます。

ホモ・サピエンスが生まれてから約20万年、農耕が始まったのは約1万年前です。そして、1万年前の脳の構造と現在の脳の構造はほとんど変わっていないと言われています。

こうした視点を基に、現代のさまざまな課題を解決するためのリーダーシップについて考えてみます。人間の本質を理解することで、多くの課題に貢献できる可能性があると考えているためです。

特に、人間の脳というのは、生き延びるために進化してきました。その進化の過程で形成された方法と、現代のみなさんが抱える課題を解決する方法は、必ずしも一致していないことが多いのです。そのため、多くの人は知らず知らずのうちに、自分の本能に従って行動しますが、それが課題解決の妨げになる場合があります。後になってその不具合に気づくことが少なくありません。

そこで、最初に「人間の脳の構造」を客観的に理解することが重要です。それを踏まえると、人間が課題を解決するのが本来得意ではないことが分かります。この理解に基づき、効果的なツールを活用することが鍵となります。

リーダーシップはテクニックで学べる

人間の本質を、脳の働きから理解することで、課題解決は完全にテクニックの問題となります。また、集団やチームをイノベーションへと導くリーダーシップも、同様にテクニカルな領域になります。

テクニカルになるとはどういうことか。テクニカルになれば誰でも学べるということです。リーダーシップは天性のものだけではありません。もちろん天性のものが影響しないわけではありませんが、DNAだけで決まるものではなく、その後の成長過程で受けた刺激をどう捉えるかが重要です。

人間の思考は約1,000億個のニューロンと、それらが構成するネットワークによって形成されています。このネットワークは成長や経験によって変化していきます。この点についても少し触れていきます。

最後に、日本人が日本の教育を受け、日本の企業で働いている状況において、どのようにイノベーションのリーダーを育成するのか。これについて、ここ2年ほど取り組んだ結果、非常に良い成果が出てきています。これに基づく方法論として「Step1-2-3:イノベーション・リーダー育成プログラム」を提唱し、さまざまな場面で展開しています。この流れに沿ってお話を進めたいと思います。

スリーエムで業務改革を実践した経験

まず私自身の紹介を少しさせていただきます。

私はスリーエムという会社に37年間勤め、そのうち20年間はR&D(研究開発)に、17年間は経営品質や業務改革に携わりました。

R&Dにおいては、1エンジニアとしてアメリカのスリーエムで3年間勤務し、その後は約2年間、コーポレートリサーチラボラトリーで約70名のアメリカ人技術者をマネジメントした経験があります。

また、業務改革においては、2000年にシックスシグマという業務改革手法を導入した際に、アジアパシフィック地域(APAC)のディレクターに抜擢されました。当時、スリーエムのCEOがGEから来たエグゼクティブで、スリーエムを分析した結果、「イノベーションには優れているが、オペレーショナルエクセレンスが不足している」という指摘がありました。

そのため、オペレーショナルエクセレンスを向上させるべくシックスシグマ活動が始まりました。私はその活動で、約150名のAPAC地域のメンバーをマネジメントする役割を担いました。

受講生が抱える「ストレス」「ひらめき」の悩みとは?

私自身の経験をお話しすると、高校2年生くらいから「自分と会話する」ということの重要性に気づきました。そして大学では工学部に進学しましたが、脳の働きに興味がありました。そこで、教養部で基礎を学びつつ、その後も脳科学や心理学について継続して勉強しました。

2015年頃には、これらの知識を活かして「サイエンスの視点からイノベーションを創出するための体系化」に取り組みました。その成果として、2017年に『ニューロマネジメント』という書籍を出版しています。

その後、さまざまな財団法人や大学で講義を行う中で、受講生から多くの質問をいただきました。「ストレスが溜まった時にはどうすればいいのか」「ひらめきはどのようなプロセスで生まれるのか」といったものです。

これらの質問を反映して、2021年に『イノベーション実践手法』という書籍を出版しました。この本では、イノベーションを実践的にマネジメントする手法を取りまとめています。その後も「Step1-2-3:イノベーション・リーダー育成プログラム」を展開し、さまざまな場で活用しています。

また、2021年からは財団法人関西生産性本部で「イノベーションリーダー育成塾」を実施しています。このプログラムは2024年で第4期を迎え、2025年の第5期も開催が決定しています。

『イノベーション実践手法』は、「イノベーション・マネジメントの基本」「イノベーションを創出させるマネジメント」「イノベーションを育む企業(組織)文化を構築する仕組み」「変わらないトップマネジメントの姿勢」「イノベーションに強い人材の育成」という内容で構成されています。これが、私の活動全体の概要となります。

それに加えて、「イノベーション・マネジメントの悩みを解く鍵」という内容で、「生産性を高める睡眠の驚くべき効果」「いかにしてストレスを味方に付けるか」「ただならぬ“ぼんやり”が斬新なアイデアを生む」「『そんな仕事やりたくない』とは言えない」「熱い思いを空回りさせないために」といった課題についても取り上げています。

また、「モチベーション向上に脳科学を活用する鉄則」「やるべきことをやらない相手への対応策」「孤立無縁の状況でイノベーションに挑むには」といった多くの悩みに対して、ニューロサイエンスに基づいた解釈を提供しています。今のさまざまな知見ではこう解釈できるという視点で、これらをアカデミックなアプローチとして展開してきました。

AIの思考と人間の思考は何が違うのか?

さて、脳の構造と人間の本質についてですが、「AIの思考と人間の思考は何が違うのか」と考えた時、人間の脳は大きく三層構造だと言われています。

まず1つ目は「脳幹」と呼ばれる部分で、これは生命維持に関わる機能を担っています。睡眠や呼吸など、生命に直結する部分であり、爬虫類脳とも言われています。

その上に位置するのが「大脳辺縁系」と呼ばれる部分です。これは哺乳類の脳で、感情を司る領域です。この大脳辺縁系が生まれた理由は、生き延びるための進化の結果だと言えます。

例えば、夜の森を歩いている時に月明かりの中で細いものが見えた場合、ぎょっとして後ずさりすることがあります。それは一瞬のうちに「蛇ではないか」と判断し、生き延びるための反応をしているからです。しかし、よく見てみると、それが単なる小枝であることもあります。こうした瞬時の判断を可能にする大脳辺縁系は、生き延びるためには非常に有効です。

そして、さらに進化の過程で、大脳新皮質という部分が生まれました。この大脳新皮質は、論理的に物事を分析し、創造的に考えることができる領域です。「あれは枝だから問題ない」と判断したり、さらに複雑な状況を論理的に分析したりする能力は、この大脳新皮質によって支えられています。

この中で、言語化能力を持っているのは大脳新皮質のみです。ただ、大脳辺縁系や脳幹にも思考回路は存在しています。しかし、これらの領域の働きには、みなさんがぜんぜん気づいていないことが多いんです。なぜなら、それは無意識の領域で起こっているからです。

無意識であっても、人間の脳が使うエネルギーは非常に大きなものです。脳は人間の体重のわずか2パーセント相当ですが、摂取したエネルギーの約20パーセントが脳で消費されます。そのうち、意識的に使われているのはたった5パーセントで、残りの95パーセントは無意識の思考回路に使われています。

このように、課題を設定して解決しようとする時、大脳新皮質の意識的な働きが始まりますが、具体的な解決策というのは無意識の思考回路からぽっと生まれてくるものです。

ストレスが「創造性」と「論理的思考」を阻害する科学的メカニズム

さらに、人間の脳には生き延びるために感情を処理する仕組みも備わっています。大脳辺縁系の中にある扁桃体は、「危ないぞ」という警告を発する役割を持っています。不安や恐怖を感じた時、この警告が大脳新皮質に伝わり、脳は自動的にその恐れを下げるための対応を考えます。これも無意識的な動きです。

具体的には、ストレスを扁桃体が感知し、その情報が大脳新皮質の前頭前野に送られます。前頭前野は、そのストレスを軽減するために自動的に働きます。

ところが、このプロセスには重要な影響があります。前頭前野は創造的な働きをする領域ですが、ストレスがある状態では、まずストレスを軽減することが優先されます。そのため、ストレスが多い環境では、創造性を発揮する前頭前野の働きが弱くなりやすいのです。

ここから分かるのは、大脳新皮質の論理的思考を最大化するためには、ストレスのない状態を作る必要があるということです。

職場のパフォーマンスを高める実践的な方法

ネガティブな感情でストレスが生じると、大脳新皮質の働きが弱くなります。そのため、「ストレスが出てきた」「ネガティブな気持ちになっている」と感じた時には、自分と会話をして、その感情をポジティブなものに変えていくことが大切です。こうした習慣を身につけることで、前頭前野の論理的な思考力を最大化することが可能になります。

また、脳の三層構造に基づいて考えると、大脳新皮質の合理的な考え方を最大化するためには、まず脳幹の身体的安全性を確保することが重要です。例えば、十分な睡眠をとり、疲労を防ぐことがその一例です。加えて、栄養のある食事や適度な運動も、身体的安全性を保つ上で重要な要素になります。これらは自分でコントロール可能な部分です。

身体的安全性が確保できたら、次に心理的安全性を整える必要があります。大脳辺縁系や扁桃体がストレスを感知しやすい環境、例えば「こんなことを言ったら上司に批判されるかもしれない」「否定されるかもしれない」という職場環境では、ネガティブな感情が生まれます。心理的安全性が欠けた状態では、大脳新皮質が課題解決に十分に機能しなくなるのです。

つまり、大脳新皮質の合理的な思考を最大化するためには、脳幹の身体的安全性、そして大脳辺縁系の心理的安全性を確保することが必要です。この2つが揃って初めて、合理的安全性が実現されます。これがAIとは異なる、人間特有の特徴であるとも言えます。

主催:株式会社メタメンター

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