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「聴く」から始まる組織変革 〜篠田真貴子さんと考える対話型マネジメント〜(全3記事)

ミスの報告が多い医療チームほど治療成績が高い 世界の調査から見る、意見を聴き合う組織文化のメリット

組織の推進力を加速させる「対話型マネジメント」について、『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』の監訳者であるエール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が解説します。
本記事では「聴く」技術に関するよくある盲点や、Googleやベル研究所の事例から、「聴く」文化によって創造的な組織が作られる仕組みについて紹介します。

「聴く」にまつわる3つの落とし穴

篠田真貴子氏:今度は大きく3つ目のところにいきます。ここまで聴いていただいて、「なんだか『聴く』ってやはり大事だな」と思っていただいたかなと思うんですが、ここで、「さあ、聴こう。がんばるぞー。はい、みなさん集まって」とやりたくなるんですけど、実践に当たっては「賢者の盲点」とも言うべき落とし穴が3つあります。これを先にお伝えしたいかなと思います。
まず1つ目ですね。「聴く」ことに対して、暗黙のうちにネガティブイメージを持っている管理職の方がいらっしゃるんじゃないかと思います。実は、私自身もそうだったからです。私が過去に誤解していた話をご紹介したいと思います。

私は「聴く」ことが大事だと認識していましたが、しっかり理解するまでには無意識のうちに、3つの誤解をしていました。1つ目は、「『聴く』は従う」という誤解です。

これは私よりも上位の人に従うことだけではなく、部下との1on1で何か要望を受けた時に、「これを叶えないと、上司としての信頼を失ってしまうのではないか」と心配をしていて。でも、全部の要望を叶えるのは無理ですから、それが怖くて1on1、あるいは話をじっくり聴くことを、ついやめてしまうことがあったように思います。

2つ目、「『聴く』は受動的だ」という誤解ですね。やはり能動的に関係性を構築して、全体を引っ張るのがあるべきリーダー像だと思っていた結果、「聴く」というのは受動的で、役割を十分に果たせないと考えていました。

3つ目の「知的怠慢」。これはやはり会議などで、「しっかり発言をすることが良い姿である」ということを、若い頃から厳しく言われてきた反作用で、「話していない=知的怠慢」で、「話していない」と「聴く」ことをイコールに捉えて、「聴く」は知的怠慢であると誤解していたんですね。

「聴く」ことは、その場のイニシアチブを取る行為

でも、ここまで聴いてくださったみなさんはご理解いただいていると思いますけれども、「従う」と「聴く」ことはまったく別で、じっくり話を聴いた上で、「お考えはこうですね。ところで私は違う考えなんですよ」とお伝えすることは、当然同時に成立しますし。

「聴く」ことは、実はその場や関係性のイニシアチブを取るわけですよね。「じっくり聴いてもらって良かった。この人はいい人だ」って思ってもらうこともできますし、冷たくそっぽを向いてしまうこともできるわけです。

さらに3つ目ですね。「聴く」というのは極めて知的な行為だということは、みなさんもここまで聴いてくださってご理解いただけたのではないでしょうか。ここが「賢者の盲点」の1つ目です。

「賢者の盲点」の2つ目。「聴く」というのは修練型スキルなんですよね。修練型のスキルとは、頭でわかったからといって、つまり本を読んだからといって、できるわけではないタイプのスキルです。

例えばExcelの関数ですとか、経費申請の仕方はマニュアルがあればできるし、本を読めばできると。

一方で、車の運転であったり、楽器、ピアノの演奏、プレゼンテーションは、本を読んだだけではできるようにならない。

習慣化には「あぁ、良かった」が必要

「聴く」というのも経験学習がなければなかなか向上しないタイプのスキルです。例えると、お料理が近いんだと思うんですけど。

エジプト料理がおいしいと……エールの代表の櫻井(将)さんは講演で「コシャリ(エジプトの国民食)がおいしいんだ」とよくお話をされるんですよね。私にも何度も熱弁されまして、レシピも渡されます。

といっても、私はそれを食べたことがないので、夕飯を作ろうと思った時に、そもそもコシャリを作ろうと思い浮かばないんですよね。これだけエジプト料理の話を櫻井さんに聞いても作らないですし。

仮に作ったとしても、作りながら、「これ、どういう料理になるのかな」って不安ですし、食べてみてもおいしい気がするけど、「本当にこれで良かったんだろうか?」と、やはり不安になる。ずっと不安があると、楽しくないんですよ。だから、だんだん作らなくなっちゃう。

「聴く」も一緒で、「聴くのが大事ですよね」ということを、ほとんどのみなさんは頭では理解していらっしゃる。研修でも言われました。座学で教わってマニュアルももらったとします。

でも、お料理と同じで、頭で理解したとしても、そもそも自分が経験したことがなければやらない。やったとしても、「あれで良かったのかな?」と不安。

不安だと楽しくないので、「ああ、良かった」ということを含めた楽しさがなかったら、続けるのってしんどくなってきますよね。「ヒャッハー」という楽しさである必要はないんですよ。

実践の前に「聴いてもらう」体験が重要

こういうふうに考えると、スキルを高める最初のステップは、実際に「体験」することが大事。「食べてみる」「試食をする」とまったく一緒で、「聴く」ことに管理職のみなさんが向かうには、「聴いてもらう」という、言ってみれば「試食」に当たることをやってもらわないと、なかなか「聴く」ほうに向かない。こういう構造があるんだと思います。

これを「賢者の盲点」と申し上げた理由は、賢いみなさんって「本を読んだらできる」というふうに思っちゃうんですよね。あるいは「1、2回やったらできる」と。「聴く」はそうじゃないので、ちょっと面倒くさくなっちゃう。

申し上げたように修練型スキルは知識だけでいかなくて、試食をするような経験と、やってみる経験。そして、そもそもまず「やってみたいな」と関心を持つことが必要で、この3つをいかにセットするかがポイントになってきます。

「聴く」スキルの習得には、管理職自身の「聴いてもらった」経験がマストなんですよね。ここが「賢者の盲点」の2つ目でした。

管理職に定着させる上での課題

3つ目の盲点は、「管理職が要ですよね」ということ。そうなんですけども、構造的な限界を確認したいと思います。実際に組織の風土を変えていこうとした時に、要となるのはミドルマネジメントです。

それは間違いないんですけども、現在みなさんが置かれている構造を見ると、その役割を十分に果たせていないのが現実ではないでしょうか? 要因の1つ目に、やはり管理職のみなさんはとてもお忙しいので、なかなか時間的な余裕がありません。

2つ目。管理職ご自身が、自分の上司にやってもらったことがないので、本当はどうしたらいいのかわからない。これは先ほど言っていた、スキルとして習熟型であるということとはまたレイヤーが違って。料理で例えると、レシピが作れるようになるという話と、毎日の献立を考えて、日々作り続けることって、別の話じゃないですか。

同じように、「聴く」スキルが身につくことと、日々の中で実践的に使ってマネジメントしていくことは別の話で、本当はどうしたらいいかわからないというのが2つ目。

3つ目が、自分でも気づいていないことを引き出すタイプの会話、つまり「without Judgement」の会話って、利害関係があると難しいんですよね。

なので、「聴く」ことは大事だとさんざん申し上げてまいりましたが、同時に「管理職がこれをやれば解決する」という考え方は、現実的に限界があるんじゃないでしょうかとしっかり認識したいわけです。

身近な人ほど話しにくい?

今、お料理の献立作りと日々のご飯作りに例えた現場における難しさの一面としてご紹介したいのが、マネージャーが部下に対応するにあたって必要なコミュニケーションの力をよく考えると、めちゃくちゃ多岐にわたるんですよね。

この表の詳細には入りませんが、ブロック塀型の組織においては、主に右側の領域だけでよかったんです。これが石垣型の組織になると、左側も必要になってきて、より難易度が上がっています。

これを管理職の基礎素養として本当に期待しますか? 期待するんだったら何か別のところで重荷を取り上げて整理してあげないと、構造的にけっこうきついんじゃないでしょうかという話ですね。

3つ目の、上司は自分の価値観の輪郭をくっきりさせるような会話が難しいんじゃないかというのは、この話です。身近な人ほど、何でも話をすることは難しいんですよね。例えば聴くことを職能としてやっている心理カウンセラーにおいては、「二重関係は駄目です」と決まっています。

二重関係とは何かと言うと、「カウンセラーとクライアント」という関係が1つ。そこにもう1個、例えば「教師と生徒」とか「上司・部下」といった関係がダブルできたら、カウンセラーとしての仕事が毀損するので、やっちゃ駄目なんですね。つまり、ちゃんと聴けないからなんですよ。

じゃあどうするかと考えると、上司1人が部下全員の話を聴きなさいというのは、けっこうきついですよと申し上げているんですね。だけど、組織全体で聴くことを体現する管理職層・リーダー層が点在しているんじゃなくて、層になったら組織の中の共通認識として、「『聴く』ことをもっとやるのもいいことだよね」とできるじゃないですか。

そうすると、全体として「聴いてもらう体験」をしている人が増えるので「聴く」をできる人が増えて、組織の振る舞いが変わる方向に行くと。こういう道がイメージできるわけですよね。

まずは環境を整えることから始める

具体的に言うと、一管理職が部下全員の話を聴くことよりも、私からのご提案は主語を「管理職」じゃなくて「従業員」に変えて、「すべての従業員が誰かから意図を聴いてもらう時間がある状況を作るには、どうしたらいいですか?」という問いの答えを目指すほうが、この構造のもとにおいては現実的なんじゃないでしょうかというものです。

当然、上司・部下でやるべき会話はグラフの左下のほうに位置している、より具体的な業務の話、あるいはより伝達的に指示していく部分だと思うんですけれども。

価値観・キャリア観に近い抽象的なテーマを扱う場合は、このグラフで言うとより右に、ご本人が自分のやり方を発見していくことが望ましいと。

こういうタイプの会話においては、このグラフでいくと真ん中にある、部門横断の機会を設計するとか、場合によっては、外との対話。

こうやって従業員の環境を整備して、かつ、先ほどお見せしたスライドのように、「聴く」ことが大事だよねという話を、上司も部下もいまいち理解していないと、ピアカウンセリングとかキャリアカウンセリングだけを配置しても利用されないんですよ。多くの方が「聴く」ことを体感している状況を作っておくことが必要です。

だから、全体として理解・経験の厚みを作った上で、「従業員」を主語にして、「従業員が聴いてもらう時間をどう作りますか?」と考えることが、組織変革に直結するのではないかなと思います。ここまで、「賢者の盲点」を3つ申し上げました。どれもこうやって知っていただければ、修正可能かなと思います。

Googleの調査結果から見る「聴き合う」力

じゃあ最後にまとめとして、事業推進には「聴く力」が欠かせないということを、少し事例も交えながら、ラップアップしていこうと思います。

まず、1個目の実際に新しい価値を創造するというところで、2つ申し上げます。1つは、Googleの「Project Aristotle」。検索していただくと出てくるので、詳細は見ていただければと思うんですが、要はGoogleが社内でパフォーマンスの高いチームをピックアップして、それが普通のチームと比べてどういう特徴があるのかを徹底的に研究したんですね。

わかったことが2つあって、1つはメンバー間の話す量が均等であると。2つ目は、非言語コミュニケーションにアンテナが立っている。これがパフォーマンスが高いチームの特徴だったんだそうです。

つまりこれって、お互いに「聴き合っている」ということなんですよね。誰かがずっとしゃべっていないし、お互い無視し合ってもなく、聴き合っているチームのパフォーマンスが高かったとわかっています。

例えば会議をイメージしていただくと、あるテーマに対してみなさんが案を持ち寄って、どうするか決めると。こういう場面で、提案者として、私もよくやってしまうのが、自分の主張に意識を向けたコミュニケーションを取ってしまう。要は「私の提案を聴いてくれ」と。

そうすると、どうしても他の提案に対して、ダメ出しの気持ちで見ちゃうんですよね。「いや、足りないよな。そこじゃないんだよな」と。そうすると、「私の案と○○さんの案と、どっちがいいんだっけ?」という、上下を探るような意識になってしまい、異なった提案の背景にあるもの、意図を探索するような議論になりづらい。

表面化しづらいために、提案者である私も、他の参加者のみなさんも、物事の捉え方って変わらないんですよ。そうすると、複数の提案が出たとして、結局「どれを採りますか?」という話になるので、なかなか新しいものが生まれないのかなと思います。

「聴き上手」がイノベーションの立役者?

一方、提案者である私も、「聴く」ことに意識を向けたコミュニケーションで臨んだら、「相手には相手なりの考えがあるよね。何らかのかたちでロジカルなんだよね」という前提でいきますので、「あなたのその案ってどういうことなの?」ということをフラットに受け取って、意図を受け取ろうとします。

そうすると、「私はこう考えていたけど、その見方もあるのね」というように、物事の捉え方ってちょっと広がる。何なら変わるじゃないですか。参加者がみんなそうなった状態で、あらためて提案を見た時に、「じゃあ何らかを組み合わせて、新しいものを作れるじゃない」という話に発展しやすい。

こうやって、みなさんに「聴く」ことの素養がついたミーティングにおいては、小さいかもしれないけど、新たな発見とか変革が日常的に起きる。これが業務推進に「聴く」という素養がつながる現場の姿なんじゃないかと思います。

実際にこれをやったのが、ベル研究所(アメリカ合衆国の通信研究所。レーザー技術など多くのイノベーションを成し遂げたことで有名)で、特許数の多い研究者が取った行動の特徴を見たら、多くの方がハリー・ナイキストという人とランチをしていて。この人も研究者なんですけど、めちゃくちゃ聴き上手だったそうです。

ミスの報告が多いチームほど成績が高い

最後に、事業推進にあたって、もう1個「聴く」ことが大事なのは、「リスクの芽に気づける」ことなんだと思います。これはエイミー・C・エドモンドソンさんという方が、治療成績が高い医療チームはミスが少ないのかなと思って調査をしたら実は逆で、治療成績が高いチームほど、ミスの報告数が多い傾向がわかったんですね。

一見すると矛盾しているように見えるんですが、ミスの報告数が多いということは、ちょっとしたミスもチームの中でちゃんと共有される。それについてフラットに話し合って、今後のミスを防ぐような手立てを打つ。

これをずっと繰り返してきているので治療成績も良くなるし、みんなもその心理的なつながりがわかるから、喜んでミスを報告するようになる。一方、ミスの報告数が少ないということは、本当はミスをやっているんだけど言っていないんですね。

でも、普通に私たちって、やはり職場で「認められたい」「バカだと思われたくない」「溶け込みたい」と思うのは自然の心理で、そうすると無意識に、ミスって言わなくなっちゃうんですよ。だから、起きていることが共有されるように、「聴く」とか「聴いてもらう」ことが欠かせないんだと思います。

「聴く力」を組織変革の出発点に

ちょっと長くなってしまいましたけれども、ここまで、「そもそも私たちってなぜコミュニケーション改善、エンゲージメント向上を組織課題と捉えているんでしたっけ? それは今が石垣型の組織を目指している過渡期にあるからですよね」という話をさせていただきました。

実際にこれを改善していくには、「聴く力」が欠かせないことをお伝えした上で、「聴く力」を実践するに当たって盲点のようなところもあるので、ストレートにシューッとやるというよりは、この盲点に気を使いながら、捉え方を工夫していただくといいんじゃないでしょうかというお話でした。

最後に、事業推進に新しい価値創造の観点、そしてリスクの芽に気づくという観点で、「聴く」力が欠かせないということをお話ししてまいりました。いかがでしたでしょうか? 少しでも「そうかな」と思っていただけたらうれしいです。ここまで聴いてくださって、ありがとうございました。

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