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「聴く」から始まる組織変革 〜篠田真貴子さんと考える対話型マネジメント〜(全3記事)

1on1に取り入れたい、否定しない「聴き方」のテクニック 社員のエンゲージメントを高めるマネジメント術

組織の推進力を加速させる「対話型マネジメント」について『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』の監訳者であるエール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が解説します。 本記事では、今の時代に求められる組織文化の特徴や、部下とのコミュニケーションにおける「聴き方」のテクニックを紹介します。

組織変革には「聴く」ことが欠かせない

篠田真貴子氏:みなさん、おはようございます。エールの篠田でございます。今、参加者数を見たら200人以上もお集まりいただいて、ありがとうございます。うれしいですね。少しでも何かをお持ち帰りいただけるようなお話ができればと思います。

最終的に何を申し上げたいのかを先にお話ししますと、私たちは事業のパフォーマンスに効果的な組織変革をやりたいわけですよね。これには「聴く」ことがあればいいんじゃなくて、欠かせないんですということをお話ししていきます。

簡単に私の自己紹介をさせていただきます。私はエールが6社目の会社でして、いろんなタイプの組織で働いてまいりました。そんな個人的な経験が出発点になって、組織と人の関係にずっと関心を寄せております。

関係性をつなぐことがコミュニケーションであり、中でも「聴く」というところに大きな価値と可能性を感じるようになり、エールにジョインしております。このスライドの右下にある、『LISTEN ——知性豊かで創造力がある人になれる』という本を監訳する機会もいただきました。この本を通して、私を知ってくださった方もいらっしゃるかもしれません。

「組織のOS」が変わろうとしている

では、さっそく内容に入ってまいります。今日は、大きく4つのパートに分けてお話しします。まず、みなさんはコミュニケーション改善、あるいはエンゲージメント向上を重視されていると思うんですが、なぜでしたっけ? それは組織のOSが変わろうとしているからじゃないですか? というところからお話しをしていきたいと思います。

今日のセミナーにあたり、「みなさんが直面されている組織課題は何ですか?」ということをフリーコメントで書いていただきました。まずその中から、いくつか抜粋してご紹介したいと思います。みなさんのコメントが多い領域が、大きく3つぐらいあったんですね。

1つ目が、やはり「コミュニケーション」です。ここの例にありますように、上のほうは主に上司・部下のコミュニケーションですね。他には管理職の対人コミュニケーション。特に評価やネガティブフィードバック。メンバーを育成するという観点でのコミュニケーション。世代が異なる社員とのコミュニケーションのあり方。このあたりに多くのコメントをいただいています。

それから、部の中でコミュニケーションが不足したサイロ化。さらに、組織間のコミュニケーションが良くない。あるいは、テレワークやフリーアドレスでコミュニケーションが希薄になっているという声もいただいています。みなさんの職場ではいかがでしょうか?

組織変革におけるコミュニケーションの重要性

2つ目に多かったのが、エンゲージメントにまつわる課題でした。例えば、エンゲージメントサーベイを受けてどう対処するか。他にはエンゲージメントサーベイを取って、実は打ち手として組織図を変えた、人事制度も変えた。だけど、それが従業員のエンゲージメント向上にうまくつながっていない。

(スライドから「課題感の例」を引用して)日常的な対話が不足していることによる影響。エンゲージメントが改善傾向なんだけど、まだ低いんですと。こんなコメントをくださいました。みなさんの組織ではいかがでしょうか?

さらに、これが3つ目の領域なんですが、「対話」とか「聴く」。このテーマでコメントをくださった方も多くいらっしゃいました。ちょっとおもしろかったのが、このキーワードをくださった方って、みなさん課題感の文章が長いんですよ。

例えば「管理型マネジメントに走って、組織のエンゲージメントが下がっちゃう。だから対話型マネジメントを行いたいんだけど、その効率性・効果性について、上層部から理解されにくいんです」というお話。

2人目の方は、「業務都合などでeラーニングの研修を実施するんだけど、『これで本当に対話をはじめとしたスキルが伸ばせるのかな?』と、限界を感じています」ということ。

3人目の方は、「従来型の滅私奉公・上意下達型な組織風土を、何でも言い合える共創型の組織にしたいんです」。こんなお話も聞かせてくださいました。みなさんの組織、職場ではいかがでしょうか?

みなさん、このように書いてくださっているんですが、ちょっと立ち戻りまして。みなさんが感じていらっしゃるコミュニケーション改善の課題、あるいはエンゲージメント向上の課題って、なんで重要なんでしょうか? 「上から言われているから」とかそういうことではなくて、なんで今なのか?

私なりの考えをお伝えしてみたいと思います。それは我々が今、「組織のOS」を変えていこうとしているから。それには、エンゲージメントとコミュニケーションが非常に大きな鍵を握っているからではないかと考えています。これを「ブロック塀」と「石垣」に例えてお話をします。

ブロック塀型の組織と、石垣型の組織

「組織のOS」って、それぞれの組織が半ば暗黙知として持っている人間観、あるいは「事業ってこういうものだ」という事業観、さらには組織観。これらを総合したものを、いったん私は「組織OS」と呼びます。これが当然、時代の変遷とともに、目指したい組織のあり方、組織観がアップデートされていくわけです。

ここでは極端に書いてはいますが、過去、例えば30年前の組織のイメージが、どちらかというと左側。立派な会社というと、製造業のピカピカの工場で、再現性、連続性が強みで品質の高いものがだーっと出てくると。これができることがすばらしい事業であり、すごい組織であると。こんなイメージだったのではないかと思います。

そこにおいての人間観はどちらかというと、人数やスキルが大事で、均一な部分に注目して、それを鍛えて力に換える。言ってみれば、人をブロックのように積み上げて完成させるイメージだったんじゃないかと思います。 

それが、現在のみなさんが社会の潮流の中で良いとイメージしている組織や事業というのは、どっちかというと知的生産組織であって、やはり創造性とか独創性に力点を置いていらっしゃるのではないでしょうか。

そうすると人というのは、数よりもその人の思考、楽しいとかコミットといった感情、パーパスとの共感といった価値観を重視している。

従業員のエンゲージメントが大切な理由

人間って、ある面で見たら一様なんですけど、別の面から見たら多様であると。そういった多様性を力に換えようという組織観。言ってみればブロック塀ではなくて、石垣のように組織を作ろうと考えていらっしゃるんじゃないでしょうか。

まとめると、左の製造業のイメージの組織では秩序が大事で、ちょっと機械のような有形資産の世界であると。これを右側の、より人間らしい組織で、探究的な無形資産の世界に移行しているのが今なんじゃないかと思います。

そうすると、ブロック塀のような組織においては、みんなが揃って一様であることが大事なので、組織の束ね方、つまり「ブロックをどうつなげますか?」という基本思想は「上からの統制」が正解なんですね。ブロックに汎用的な規範を求めることです。

例えば、私の初めの仕事は銀行員でした。そこでは正しい仕事の仕方を先輩方が習熟して、上から下に伝える。ブロックとしての完成度が高いので、この「伝える」というコミュニケーションが正しかったんです。

それが今、私が例えた石垣のような組織、つまり多様であることを力に換えようとする設計思想であるならば、さまざまな形と大きさがある一人ひとりの従業員の方が、大きい石、小さい石、とんがった石、丸い石がいい感じに組み合うと。

こうやって組織を束ねないといけないので、「上からの統制」のロジックじゃないんですよね。どっちかというと、ボトムアップな「現場のエンゲージメント」が組織を束ねる。だから、エンゲージメントスコアを測って、高い方がいいよねとなるわけです。

自己理解と他者理解

この石垣のような組織におけるコミュニケーションは、「伝える」というよりも、自分が石としてどういう大きさや形なのかという自己理解が必要です。そして、それは周りの人たちとどう違って、どういう形とか向きで組み合わせるとうまくフィットするのかという他者理解も必要になってきます。

自己理解のためには、やはりいろんな人に話を聴いてもらって内省を深めていくことが必要ですし、他者理解のためには、聴くことが必要であると。こういう右の世界に行こうとしているので、「聴く」とか「対話」が必要ですよねと言っているんだと思います。

逆に言うと、この移行のプロセスにあるという認識が揃っていない中で感じることが、冒頭にご紹介した課題なのかなと私は理解をしました。

じゃあここで、「聴く」とか「聴かれる」とはどういうことかを、あらためてお話ししたいと思います。「without Judgementで『聴く』ことですよ」というお話です。

「みなさん聞いていますか?」と言ったら、当然「聞いていますよ」とおっしゃるわけなんですが、私もエールに来てから、「ちゃんと耳を傾ける」には、大きく2種類あることを知るようになりました。「Judgement」が含まれるかどうかが分かれ目です。

相手と思考の焦点を合わせる


左側の門がまえで書いた「聞く」は、普通に耳を傾ける時のやり方です。例えば「やっぱり子どもには小さい頃から英語を学ばせるべきですよね!」というふうに。

同時に自分の考え・価値観に照らし合わせて、「そうですよね」あるいは「そうですかね?」というふうに内心で反応している。これがわりと自然に表情や手振り・身振りに出たりするわけですよね。 

これと対比させているかたちで右側に示したのが、「without Judgement」の聴き方です。耳偏の「聴く」を当てています。意見に触れた時に、聴き手のほうが「あ、そういうお考えなんですね。そう思った背景を教えてください」と言う。

もしかすると聴き手は、英語の教育に関してまったく違う意見を持っているのかもしれない。だけれども、いったん「あ、そういう考えなんですね。もうちょっと聴かせてほしい」というふうに関心を寄せる。これが「without Judgement」です。

別の言い方をすると、「with Judgement」は、聞き手の関心は話し手その人に向かっていて、「この人、大丈夫かな?」とか、「この人、やっぱりいい人だな」と考えている。一方で、「without Judgement」の聴き方は、話し手のテーマ・関心事に、聴き手も関心を寄せているイメージなんですね。

どういうことかと言うと、「with Judgement」の時って、話し手が何か言っているんですけど、(スライドのぼやけた画像を示して)これぐらいの解像度なんですよ。モヤッとしている。

まずそのことを認識して、これを「話し手のあなたが見えている解像度で見たいんです」という態度で聴いたり、少し深掘りできるような問いかけをすることによって、ピントがシャッと合ってくる。「同じものが見えたな」となったら、そこで自分の意見を言ったりするイメージなんです。

ここで申し上げたのは、聴く力というのは、実は「あり方」が先で、「やり方」が後なのではないかということです。「あり方」と言っているのは、物事あるいは聴くことに関する信念や価値観で、「やり方」は言語的、あるいは非言語的な振る舞いですね。

意図と行動を切り分ける「聴く」姿勢

企業で傾聴研修をやっていらっしゃるところは少なくないと思うんですが、受講された方々に「どうでしたか?」なんてうかがうと、やはり覚えていらっしゃるのは「やり方」であることが多いんです。

「こういう問いかけが有効だ」ということを覚えている。あるいは、「腕を組んではいけない」とか「目を合わせたほうがいい」という非言語的な振る舞いを覚えていらっしゃるんですけど、もっと大事なあり方の話って「意外と人の印象に残らないものなんだな」というふうに私は感じています。

「あり方」にちょっと注目してお話しをすると、「without Judgement」で聴くということは、聴き手にとっては、「おかしい」「間違っている」とか、何なら「うそだ」「バカじゃないの」ぐらいに思える行動や発言であっても、相手には相手なりの考えがあるという前提に立つことです。 

相手は知性もあるし、理屈も正義もある。つまり、「ロジカルじゃない人はいない」というイメージなんですよね。これはどういうことか。

例えば今このセミナーをみなさんが見て、聴いてくださっていると思うんですけども、人によってどこを覚えていて、どこをアウトプットするかって、やはり違うんですよね。この図にあるように、五感の状態も人によって違いますし、実は無意識のうちにフィルタリングをして、いろんな感情や思考を湧き起こし、結果、行動につながる。

今の私の話も、「わぁ、身につまされるわー」という感情を持って思考が動いている方もいらっしゃると思いますし、ながら聞きをされていて、ほぼアテンションがいっていない方もいらっしゃると思うんです。そういうものなんですよね。

つまり「意図」と「行動」を切り分けて取り扱うのが「聴く」というあり方です。もしかするとダメな行為なんだけど、意図のほうは「まあそういうことも、あなたの価値観だったらあり得ますよね」と受け取ることが「聴く」態度かなと思います。

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