Chartboost・Pepe Angell(ペペ・アゲル)氏やWooga・Jan Miczaika(ヤン・ミクザイカ)氏など、海外の経営者を招いてのトークセッション。本パートではペペ・アゲル氏が「グローバル化に必要な10のコツ」や、Chartboost急成長の軌跡を紹介しました。(IVS 2014 Fall より)

【part1】「世界中が日本だったらいいのに」 BoosterMediaのCEOが日本のゲーム市場の魅力を語る

【スピーカー】 Strikingly CEO David Chen(ディビッド・チェン) 氏 Wooga COO Jan Miczaika(ヤン・ミクザイカ) 氏 MixerBox CEO John Lai(ジョン・ライ) 氏 BoosterMedia CEO Laurena Rutten(ローレンス・ラッテン) 氏 Chartboost 国際統括 Pepe Angell(ペペ・アゲル) 氏

【モデレーター】 インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 田中章雄 氏

1年間でゲーム数が3倍に増えたChartboost

田中章雄氏(以下、田中):じゃあ、ペペに移ろう、お願いします。2つ目のスライドに切り替えてください。

ペペ・アゲル氏(以下、ぺぺ):パーフェクト! 僕はペペです。さっき言った通り、Chartboostで国際統括をしています。Chartboostをよくご存じない方もいらっしゃると思いますが、Chartboostはゲームディベロッパーのための技術を開発しています。

つまり大切なゲーマー、大切なプレイヤーを提供し、またトラフィックの収益化の手伝いもしています。これから簡単に会社の説明をします。2011年に起業したので、もう4年になりますね。共同創業者チームはToapulousの出身です。Tap Tap Revengeを開発した会社で、ディズニーに買収されました。

その経験を活用してApp Storeでゲームを販売し、収益を上げ、他のゲームディベロッパーの方々にも同じ成功を味わってもらえるようにしたいと思っています。

今日、わが社は2011年にスタートした時とかなり変わっています。100,000のゲームを揃えており、ディストリビューションでは世界最大のゲーム専門のプラットフォームです。昨年京都に来た時、ゲーム数は30,000だったと思います。

田中:へえ。1年でほぼ3倍になったんだ。

ぺぺ:1年間でね。急成長しているし、従業員150名以上になります。本社はサンフランシスコだけど、昨年アムステルダムにオフィスをオープンし、現在は東京でも採用中です。

ヨーロッパの拠点に、アムステルダムを選んだワケ

田中:ちょっと待って。アムステルダムでは何が起きているの? 僕たちが知らないことがあるのかい?

ぺぺ:アムステルダムはすごくクールな都市だと思うよ。サンフランシスコにもオフィスがあるけど。

田中:アムステルダムのほうがハッピーだってこと?

ぺぺ:そうだよ。アムステルダムがハッピーなにのはたくさんの理由がある。少なくとも僕たちにとってはね。僕はバルセロナ出身だけど、拠点となるヨーロッパ内の都市を探していたんだ、中枢都市で、交通が便利で、おもしろい都市をね。

田中:それならベルリンじゃないか。

ぺぺ:ベルリンは素晴らしいが、まだ空港建設中だし(笑)。

ヤン・ミクザイカ氏(以下、ヤン):ペペとそのことを話し合っていた時、てっきりヘルシンキ、ロンドン、ベルリンあたりにするだろうと思っていたんだ。多分、アムステルダムは地理的に3つの都市の中間にあって公平だから、それで選んだんじゃないか?

ぺぺ:その通り。ベルリンはもちろん候補地の1つだった。Woogaのような素晴らしいパートナーもいる。にぎやかだし。テクノロジー・エコシステムもとても活気があるんだけど、サンフランシスコとのつながりがないんだ。

アムステルダムからサンフランシスコまでは直行便が出てるからね。採用の面でもアムステルダムのほうが競争も少なく、英語が堪能な人も多いし、技術的にも……。

田中:ベルリンは世界中から才能のある人が集まるというイメージがあるけど。アムステルダムも同じ? それともローカルな人材?

ヤン:いや、すごく国際的な都市だ。ベルリンと同じだよ。実はアムステルダムは世界で最も国際的な都市なんだ、192ヵ国から人が集まってくる。ベルリンによく似ていて、都心人口の約半数がIT業界の海外駐在者だ。

田中:わかった。これ以上アムステルダムの問題にツッコミを入れるのはやめるよ。ありがとう。

グローバルビジネスにまず必要なのは、自分自身の国際化

ぺぺ:昨年Chartboostは、セコイア・キャピタルとパートナーシップ提携を発表した。うちの会社がこれからも生き残り、成長し続ける企業だということを世界中に知らしめる、素晴らしいパートナーシップだ。さて、これから皆さんに質問だけど、2008年6月10日に何があったか覚えているかい? ちょっと前のことだけど。

田中:何か発売された?

ぺぺ:実はiOS App Storeがオープンした日なんだ。iPhoneがあったけど、App Storeがなかった。それは素晴らしい革命的な出来事だった。

田中:それはiPhoneのWebアップデートが終わった日だね(笑)。

ぺぺ:それはどうかな? これはすごい革命だけど、僕にとって1番大事だったのは「誰でも、どこでも」世界中にコンテンツを発信し、安定した企業を設立することができること。

それは機会としては素晴らしいが、特に小さくてグローバル企業を立ち上げようとしている人にはチャレンジでもある。さて、Chartboostの話を繰り返すつもりはなく、国際統括担当としてグローバル化する中から僕が学んだことをお話しようと思う。

10のヒントがあるけど、残り時間が10分もないから、1つにつき1分以下で説明するよ。まずは「自分自身から国際化しよう」。このトピックは僕のお気に入りだが、グローバルビジネスにはグローバルな物の見方が必要だ。

英語を話して世界中を旅し、自分自身を国際化する必要がある。僕の場合は、ちょっと個人的な話になるけど、生まれたのはバルセロナ。行ったことがあるかどうかわからないけど、すごくいい街だよ。

バルセロナの街で暮らしてもスーパーハッピーだけど、世界には他にももっといろいろな街があることもわかっていた。それで、チューリッヒの山の中の学校に通って、ヨーロッパがどれほど重要かを学んだ。

学んだのは語学だけじゃない。もっとも、ヤンも知っているとおり、ドイツ語はすっかりさびついてしまったけど。異なる視点を与えてくれたことがすごく役に立っている。

言語的な視点だけじゃなくて、文化的な視点もね。6年前にサンフランシスコに移って、シリコンバレーのテクノロジー・エコシステムだけじゃなく、異文化や異なる言語を学んだ。僕が学んだことは、英語を話して世界を旅して、自分自身を国際化しようということだ。

グローバルを意識して、世界のパートナーとのルートを築く

ぺぺ:2つ目は「自分が世界でできることを意識する」。繰り返しになるけど、App Storeはグローバルだ。パートナーもクライアントもユーザーも、業界にもよるけどどこにでもいる。

そういった人たちがどこにいるか意識して、話をするルートを確立する必要がある。うちの会社の場合、サンフランシスコのPier 38という、とても小さなインキュベーターで誕生した。今は残念ながらもう存在していないけど。

起業したばかりの時、サンフランシスコにあるたくさんのディベロッパーのドアを叩いて回った。共同プロモーションと自分たちのツールについて話すためにね。

驚いたことに、プラットフォームで得た最初のパートナーは、ここに挙げた会社だけど、サンフランシスコの企業は1社もないんだ。僕たちの営業能力がよくわかるだろう(笑)。

カナダ、イギリス、デンマーク、ギリシャにパートナーがいるけど、サンフランシスコの企業は1社もないんだ。

田中:じゃあ、立ち上げたばかりの時に、どうやって君の会社を見つけたんだろう?

ぺぺ:口コミさ。実際、サンフランシスコの企業はうちの会社を受け入れてはくれなかったけど、おもしろいと思ってくれた。実は当時Pocket Gems、Tik、TinyCoが、サンフランシスコのモバイルゲーム企業の中で、初めて口コミでうちのゲームを広めてくれて、うちのプラットフォームの大使になってくれたんだ。

今日ログイン地図を見てみると、こんなふうだ。クレージーだろう? これだけの人々と対話し、拡張可能なルートを開拓し、実際に話をする必要があるんだ。

田中:太平洋の真ん中のその点は何?

ぺぺ:ハワイだと思うけど。

田中:違う、こっち側の点。

ぺぺ:わかんないけど、きっとインターネット接続のある島だろう(笑)。これがChartboostの現状だ。日本もすごく多い。

田中:日本がどこにも見えないよ。真っ赤で。

ぺぺ:ディベロッパーが多過ぎるからね。ともかく、グローバルビジネスを意識し、世界中のパートナーとのルートを築き上げることが大事だ。

地域に根ざすこと、直接顔を見ることの大切さ

ぺぺ:3つ目だが、グローバルであると同時に地域に根ざす必要がある。ネット業界だからとメールで多くの用が足せるけど、人と握手をして直接出向いて、顔を見る必要がある。僕たちはパートナーと何度もワークショップを行っているけど……。

田中:これが典型的なワークショップ? 誰もいないのかい?

ぺぺ:その通り。Chartboostの人間さえいないんだ。これは実は韓国での準備の様子なんだ。Cookie RunのデベロッパーのDevsistersが、わが社のためにワークショップを行って、Chartboostを使っていることを話してくれる。こちらから出向いて、直接顔を合わせる機会を作る必要がある。

だから昨年アムステルダムに拠点を作ったのも、ヨーロッパのパートナーに近づくためなんだ。会議や会社に出向いて行って、人々と握手するためだ。だから近い将来、東京にも事務所を設立したいと思っている。繰り返すけど「地域に根ざす」ことが大切だ。

特定の市場にあわせた価値を提案する

ぺぺ:4つ目のチャレンジは「ローカルな価値を考える」こと。たとえグローバルな価値を提案できるとしても、実際どんな価値を特定の市場に提示できるのかを知らないといけない。日本への取り組みもスタートした。日本での貴重なパートナーがいるけど、日本への進出は始まったばかりだ。Chartboostが日本市場で解決したいと思っている挑戦がこれだ。

日本にはディベロッパーがたくさんいるし、才能のある人がたくさんいるけれども、ゲームを発売するためのディストリビューションのルート経路がこんな状況で、すごく複雑なんだ。どこから始めたらいいのかわからない。

こんなにたくさんの人々とルートと会社があって、日本のゲームディベロッパーにとって最大の問題は、どの発売元にするか? どのプラットフォームにするか? これは難題だ。Chartboostが提供できる価値とは、直接結びつけること。

わが社はゲームディベロッパー同士を直接、1対1で結びつけて、互いにディストリビューションやタイトルの収益化をはかれるようにする。SupercellとGungHoをコラボレーションさせて、ユーザーに優しい方法で共同プロモーションできるようにしている。

これはHay Dayの新聞で、Clash of Clansの宣伝しているところだ。パズドラも同じように宣伝している。こういった直接的な共同プロモーションを……。

田中:これは買収前? それとも買収後のこと?

ぺぺ:買収前だね。Supercellが日本に参入した時、プロモーションの契約を結んでから……。

田中:じゃあ、ディベロッパーが親しくなる。

ぺぺ:そのとおり。Chartboostが日本で提供できる価値とは、透明性、コントロール、直接性、それからユーザーエクスペリエンス。これらは市場によって異なるから、それぞれの市場に合わせて価値を提案する必要がある。

拠点が増えても、同じ価値観を共有すること

ペペ:駆け足で説明するけど、5つ目はオフィスの数が増えても「1つのチーム、1つの文化」が大切だ。理にかなった話だと思うかもしれないけど、この点についてはたくさん間違いを経験してきた。

アムステルダムにオフィスをオープンした時、サンフランシスコには既にサポート、営業、アカウント担当、エンジニアリングなど多くの機能があって、そのうちのいくつかはアムステルダムにも新設した。

これら2つのチームをどう連携させるか、特にオペレーションが異なる時、みんなが同じ考えを共有するためにはどうしたらよいか、多くのことを学んだ。実は社内にはスローガンがある。

書かれたものは存在していないけれど、みんなそれを毎日繰り返し唱えている。異なるオフィスの両方のチームが同じ考えを共有できる。幸いなことに、すごくいいツールがあって、おかげでみんなが同じ考え方を共有できているんだ。文化ということについては、価値観の共有が大事だ。

これまではChartboostの社員であるとはどういうことかなんて、考えたことがなかったけど、これからは考える必要がある。グローバルに成長すると、ローカルな文化に基づいて変えていく必要がある。

だが1つのまとまった価値観のようなものがあり、それを定義して守る必要がある。うちの会社では毎週質の高いミーティングを行い、福利厚生や特典も同一にして、どこであろうがChartboostで働く人がみなハッピーになれるようにしている。

クライアントをアンバサダーにすることで、直接取引が可能になる

6つ目は「クライアントを大使(アンバサダー)にしよう」。これは僕たちが持っている最も強力なツールだ。僕が自分でChartboostについて話すよりも、満足したディベロッパーがChartboostについて話してくれるから、おかげでパワフルになれるんだ。うちの場合、ディベロッパー間の直接取引がとても役に立っている。

うちにはLinkedIn(注:世界最大級のビジネス特化型SNS)に似た市場があって、タイアップしたいディベロッパーを探したり、メッセージ交換もできる。これはわが社にとっても役に立っている。

ゲームディベロッパーが別のディベロッパーに対して「ねえ、共同プロモーションしない?」という時、その根底にある技術を提供しているのがChartboostなんだ。

田中:じゃあ、こういう会話がずっと起こっているわけ?

ぺぺ:しょっちゅうだよ。うちはプラットフォームを提供するだけで、干渉する必要はなく、ただマッチングするだけだ。後はディベロッパー同士がお互いに売り買いしたり、ユーザーを交換したりしている。そのおかげで普通のクライアントを、プラットフォーム上の大使とすることができる。それが非常に強力だ。

自分の会社を強力なブランドとして位置づけること

ぺぺ:7つ目は「ブランド力を高める」こと。まだうちの会社が小さくてマーケティング担当者を置いていなかった頃、これを本当に過小評価していた。

でもグローバルなブランドを持つこと、Chartboostをユニークな存在にするためのブランドを持つことはものすごく強みになった。やはりグローバルに、日本でも、アメリカでも、ヨーロッパでも通用する必要がある。

うちの会社は広告業に分類されている。人々はうちの会社を広告ネットワークに近い存在だと思っている。でもうちとしては広告ネットワークや広告業界よりも、むしろディベロッパーに近いと思っている。うちのブランドはディベロッパーの手伝いをすることなんだ。

SDKハンバーガーチャレンジをやってみた。基本的には「バーガーをタダであげるから、あなたがハンバーガーを食べ終わる前にSDKを統合してみせましょう」というものだ。

すごくバカバカしいと思うだろうけど、この広告でわが社がディベロッパー第1という考え方を、信頼できるテクノロジー企業であることを示している。ハッカソンも開催しているしね。これ以上は言えないけど、自分の会社を強力なブランドとして位置づけることが大事だ。

将来伸びる市場でなく、今旬なマーケットで戦うこと

ぺぺ:8つ目は「旬な市場で」ということ。僕が学んだのは、この業界は「将来の」市場ではなく、「旬な」市場であること。

このパネリストの中のゲーム業界の人々は、賛成してくれるだろう。この市場は旬で、素早い行動が求められる。例を挙げると、エコシステムは素晴らしい。

100万以上のアプリが主要なアプリストアで販売されている。収益は主にゲームからのものだ。ゲーム業界の競争は厳しいが、超成長中の業界にいられることをラッキーだと思う。

タイミングを見計らって、飛び立つこと

ぺぺ:それから9つ目が「時期を選んで飛び立とう」だ。

うちのパートナーの例を挙げると、実は兄弟2組、夫婦1組だったりする。Temple Runは実はワシントン在住の夫婦なんだ。

田中:本当?

ぺぺ:ああ。NimblebitはLA出身の兄弟で、Kilooもデンマークの兄弟。テニスゲームのHit Tennisはサンフランシスコ在住の友人2人が開発したものだ。みんな「時期を選んだ」人たちだ。

みんな提供できる価値を持っていて、たった2人の友達や夫婦、兄弟だが、飛び立つことに決めた。そうして今日、これらの人たちが作ったゲームは、楽しい経験を世界中に広めている。だから「時期を選んで、タイミングを見計らってジャンプ」することが大切だ。

自分の周りを、尊敬できる人と楽しい人たちで固めること

ぺぺ:僕はいつも、最も大事なアドバイスでプレゼンテーションを締めくくることにしている。つまり「楽しんでください!」。これを忘れないでください。グローバルな企業を立ち上げることは、実際はすごく大変だ。

セクシーな仕事じゃない。つまり朝早くから、夜遅くまで仕事をしなければならない。だからせめてできることといえば、自分の周りを自分が尊敬できる人、楽しい人たちで固めることだろう。これが証拠写真だよ。

僕たちは1日中楽しく過ごしている。これはうちの会社のCEOのマリアと、僕とRovio社の人とで楽しんでいるところだ。パートナーとも、チームメンバーと楽しくやっている。職場にいる時間が長いから、これは大事なことだ。

田中:これは何のイベント?

ぺぺ:うちがアムステルダムで催したパーティだよ。「カジュアルコネクト」というヨーロッパ最大級のゲームイベントの間にね。うちの会社でしたんだけど、写真ブースも設置して、楽しかったよ。Woogaのオフィスのパーティにも行ったことがある。Woogaの人たちも楽しまなきゃいけないことをわかっているしね。その価値観を守らなければならないと思う。

ところでもし皆さんが情熱的で、本気で僕の言ったことに共感してもらえるなら、Chartboostは現在採用中です。東京にオフィスをオープン予定です。興味があったらぜひ応募してください。

田中:「積極採用中!」が伝えたかったメッセージ? 

ぺぺ:そうだよ。「積極採用中!」です。どうもありがとう。(日本語で)アリガトウ。

田中:ありがとう。OK。