座禅をする経営者が増えてきた

石川善樹氏(以下、石川):川上さんとかは、日々のお寺の運営の中でどういうふうなチャレンジをされてるんですか?

川上全龍氏(以下、川上):チャレンジって言いますと次の私の部分で話すとこになってくるんですけど、やっぱりいろんな海外からのお客様を中心に座禅を教えてるわけで、最近やはり起業系が増えてきたっていうとこですよね。

そういう今までとは違ったお客様。今までだとヨガとかスピリチュアル系の人が多かったのが、起業系の人が来るようになってくる。そういう人たちに向けてどういう話の内容に食いついてくるのかとか、その人たちの生活にどのように合わせていくのかっていうところを、やっぱり毎日試行錯誤していますね。

石川:さっそくその話にいきたいと思うんですが、体、心とお話しいただいて、次に川上さんに頭についてお話いただきます。

これも診断してみました。頭の健康度というのも学術的に活力、熱意、没頭という3つの尺度で測られる。

これでKPI化するということが学術の世界では行われます。全国のビジネスパーソンと比較して皆さんの頭の活性度どうだったのか見てみると、千葉さんおめでとうございます。上位です。

千葉功太郎氏(以下、千葉):やった! 良かった。

(会場拍手)

石川:為末さん川上さんは当然というか、上位に。

石川:川上さんにお伺いしたいのは、今までとは違うお客さんが来始めてるんですよね? 特にビジネスパーソンというか経営者。

川上:経営者が多いです。

スティーブ・ジョブズが座禅ブームの火付け役

石川:彼らはなぜ、お寺に足を運ぶようになり始めてるんですか?

川上:やはりビジネスの世界において、考え方が変化し出してる。2008年のリーマンショックくらいから、今まであった資本主義というか、利益を追従していく。もうひとつは日本の教育とかで自己実現ていうことに対しての考え方っていうのがどんどん変わって来てると思うんですよね。

あとスティーブ・ジョブズの存在はかなり大きいですね。世間が騒ぐほど、本当に禅を理解していたかは疑問があるんですが。

彼が火付け役になって、そこから今流行り出してるマインドフルネスを、いろんな起業家とか経営陣とかの方々がどんどん取り込もうとしてるっていうとこですかね。

石川:資本主義社会というお話も出たんですけれども、もうちょっと言うとどんな課題を持っていらっしゃるんですか?

川上:どっちかっていうと、今までだったら自分だけ儲ければいいとか。例えばサブプライムローンみたいな感じで、嘘ついても儲けりゃいいやみたいなとこがあったわけじゃないですか。

そういう倫理的なものっていうのがまずなかったのがすごく変わってきてて、やはり社会を良くしていく、ソーシャルアントレプレナーシップっていうのがどんどん出てる世界ですから、どういうふうに社会と自分を改善してくかっていうところに今きてると思うんですよね。

石川:商品とかサービスの競争が激しくなったっていうのもあるんですかね?

川上:そうですね、やはり今ホテル業界とか見てもサービスなんか多分どこも一緒なんですよね。私トヨタさんにおもてなしのクラス教えてますが、車の業界にしても、車自体見たときにどれみても大体機能は一緒じゃないですか? ホンダにしろフォードにしろ。まあ値段でもありますけど。

だからそうなったときに差別化ができにくくなってきてる。T社の車だからとかH社の車だからとか、F社の車だからといって差別化がしにくくなってきてる中で、どういう差別化ができるかっていうことになってくるんですよね。

石川:すごくおもしろいんですけど、差別化が効きにくいときにヒントをお寺に求めるっていうのはどういうことなんですか?

川上:心の改善ていうことですか。自分たちの心を安定させることによって共感ていうもの、共に感じる。そういうところっていうのはすごくキーになってきてると思うんですよね。

石川:お客さんが何を求めているんだろうとか、従業員がどうしたいんだろうっていう共感ってことですか。

川上:そうですね。

全体を客観的に見る時間が必要

為末大氏(以下、為末):僕引退して思ったのが、前職だと大きな大会終わったあとに2週間くらい空くんですよ。長いと1ヵ月くらい。一体僕がやってきたことは、うまくいったときは「なんでうまくいったのか」とか「改善点はないか」と。

間違えたときは「何が失敗したんだろう」ってやるんですけど。引退してみて思ったのが、毎日仕事しなきゃいけないから止めようがなくないですか? 

それが僕はすごく、座禅みたいなもので1回止めたいっていうか、1回まっさらにしてみて「そもそも」っていうとこに立ち帰りたいんだけど、でも次の日の朝がくるとまた続きが始まっちゃうから、止まって全体を俯瞰してポイントを掴むっていうのはすごいやりにくいんだなっていうのを思って。

現役中はあんまり感じなかったんですけど、今すごくそういう機会があったら自分をクリアにしたいっていうか、1回俯瞰したい。現実的に1ヵ月離れるっていうのは難しいから、それだったら座禅みたいなもので1回クリアにできないかなっていうのはすごく思いますね。

川上:今おっしゃられたように全体を客観的に見る時間ですよね。そういうものを求められてる方は確かに多いです。

石川:具体的にどうやって(座禅を)教えられてるんですか?

川上:具体的に言うと、ちょっとビデオを作ってみたんで。

石川:これは何のビデオですか?

川上:座禅というか、今私が基本的に教えてるマインドフルネスの触りみたいな、やり方のビデオです。

為末:ずーっと座ってるとか、そんな感じですか? もしかして?

川上:いや、そんな感じではないですね。

マインドフルネスの4ステップ

<映像開始>

解説:マインドフルネスをするとストレスを軽減することができます。姿勢、呼吸、集中、視線の4つのステップで始めてみましょう。

石川:川上さんですね。

川上:普段こんな格好してます(笑)。

解説:1、姿勢。背筋を伸ばし、首と肩の力を抜きます。マインドフルネスをするときに特別な座り方は必要ありません。イスに座りながらでも大丈夫です。

石川:ちょっとやってみましょうかね、これ皆で。

解説:まず、背筋を伸ばしてイスに座ります。イスの前のほうに座り、両足を床につけるのがポイント。次に、肩や腕を上げ下げして、首や肩、腕をリラックスさせます。そして、手を太腿の上に自然に置きます。

川上:肩をぐーっと上げて、ストンと落としてください。そうすると重心が安定します。手を太腿に置いて安定させてください。

解説:2、呼吸。鼻呼吸で深呼吸。息をゆっくりと吐き出してください。

川上:個人的なんですけど、大体吸う息の2倍くらいの時間をかけて息を吐くようにしてますね、私の場合は。

解説:息を吐きながら首や肩の力を抜いていきます。ゆっくりとふくらみ、縮む、風船をイメージしてください。ゆっくり息を吐くと脳のセロトニン量が増え、それによってさらにリラックスできます。

川上:こういうところで脳内物質に影響してくるんですけど、そこのとこは石川さんのほうがかなりプロなんで。

解説:3、集中。まずは呼吸に集中。鼻の中を通る空気の冷たさに集中してみましょう。

解説:集中が途切れても大丈夫。その状態を受け入れ、また呼吸に集中を戻します。

解説:集中しようとする心が船なら、呼吸は錨。錨がちゃんとあれば、船はそこに戻れます。マインドフルネスとは、心が揺らぐ中でも集中を呼吸に戻すトレーニングなのです。

解説:4、視線。まずは目を閉じて、呼吸に集中してみる。もし半眼(目を半分閉じた状況)でマインドフルネスをしたい場合は、1メートルくらい先をぼんやりと見つめる。

解説:眠くなってきましたか? もしかすると、十分な睡眠が取れていないのかもしれません。休みをしっかり取りましょう。または眠くなる時間はできるだけ避けましょう。

解説:毎日の生活でマインドフルネスをする場合、まずはトイレやお風呂などの自分がリラックスできるプライベート空間が良いでしょう。まずは毎日3分から。

<映像終了>

マインドフルネスのポイントは姿勢と呼吸

石川:ありがとうございます。これは思った以上に簡単だったんですけども、要は姿勢を良くして呼吸をするっていう。

川上:その2つだけのポイントになってくるんですよ。いろいろ宗派とかヨガとかTMっていうトランセンデンタル・メディテーションとか、いろんな部類があるんですけど、結局のところ姿勢と呼吸になってくるんですよね。それがちゃんとできればリラックス効果は絶対出てきます。

石川:これ1日3分でいいって言ってたんですけれども、トイレとかお風呂でやってもいいんですか?

川上:トイレは実際用を足したあとだとニオイがすごいんで、やめたほうがいいと思うんですけど、どちらかというと隔離された空間ですよね。

そういう場所にいると外部からの刺激がやっぱり減りますから、単純な行動に集中しやすくなるんですよね。

そういうところって禅の庭とかを全般的にアナライズした時に結構わかってくるとおもうんですが、例えば禅の庭って大きく開けた空間にはないんですよ。小さくて囲まれた場所にあるんです。

禅のデザインってすごくシンプルで綺麗ですよね。ああいう空間っていうのは外からの刺激っていうのを減らすことができるんです。だから中にいるだけですごく落ち着けるっていう感じになってくるんですね。

石川:刺激を減らして集中しやすくしてるっていう。

川上:ああいう空間を作ってる。ああいう感じのものを自分の自宅にも作ってみるっていうのがポイントになってきますよね。

石川:川上さん自身は1日どれくらい、さっきみたいなことやられてるんですか?

川上:基本、自分だけのマインドフルネス的なことを大体20分やってますけど、来られたお客さんの指導やってるんで、それプラス40分とか50分くらいになりますね。

石川:まずは3分からでもいいと。

川上:取れる時間でやったらいいと思います。

石川:脳内で幸せホルモンのセロトニンが出ていいっていうのありましたけど。

川上:そうですね。そういうところ石川さんの専門になってくると思うんですけれど、セロトニンっていう物質自体がすごくリラックスさせてくれるのでより一層リラックスしてく。あと前向きにもなれるっていうことになってきますよね。

石川:千葉さんどうです? 今やられてみて。

千葉:なんか、壇上にいるのにほっこりしました(笑)。

石川:普段、こういう何もない時間って意識して持たれるようにしてますか?

千葉:そうですね、多分自分は無意識にやってるのかもしれないですね。鎌倉に住んでるんでけど、海見てぼーっとする時間とかあるんで、もしかしたら無意識にそこをやってるのかもしれないです。

石川:そういうのってどういうふうに捉えられるんですか?

川上:結構うちに座禅来られる方で、例えばスイスの某銀行とか勤められてる方なんかで、会社に行く途中で湖が見えるんでそこをぼーっと見つめたりとか。そういう時間自体って非常に重要ですよね。

石川:それもある意味、おっしゃるマインドフルネスの世界に。

川上:マインドフルネスの世界になってきますね。

現代人は脳のトリートメントが必要

石川:為末さんどうでした? 今やられてみて。

為末:ほっこりしました(笑)。比較的ハイレベルの仕事をやるときに重要度が高くなりそうですね。意思決定のインパクトが大きい仕事のほうがこういうものって重要になりそうだけど、物を運んだりっていうのであまりマインドフルネスって、あってもいいんでしょうけど効率が上がらなそうじゃないですか。

川上:結局のところ皆さん、全体に社会とか見て肉体労働の人ってほぼ少ないと思うんですよ。肉体的ストレスよりも精神的ストレスのほうがかかっている時代の中で健康志向って進んでいくんですが。

皆さん首から下のことは考えてるけど、結局1番のストレスが入ってくるソース、ここ(脳)をあんまりトリートメントしてないとこですよね。そこがやっぱり今問題じゃないかな。

ここ(脳)が悪いと、石川さんの専門分野にまたなっちゃうんですけど、免疫力が下がってきたりとか、そういうところ出て来るんで、やっぱりここ(脳)のトリートメントって非常に重要になってきてると思いますね。

石川:なかなか脳の中がどうなってるかって、僕ら普段見ることがないからあまり意識しないですけど、脳を活性化したりリラックスしたりするにはさっきみたいな深呼吸が有効だったり。

川上:何かに集中すること自体っていうのが重要になってくるんで、やっぱりそういうことによって脳の活性化、集中力が上がってきたりとか他に言うとロジカルにものを考える力とか。

あと心の安定で、先ほど出てきた言葉ですけど共感ですよね。共感ていうものに尽きるっていうのが、すごく向上するっていうデータが出てますね。

千葉:質問なんですけど、これを我々IT業界のオフィスで社員450人にやれって、いきなり僕が言ったらドン引きじゃないですか。どうしたら?

川上:ポイントでいうと科学的データっていうのが今すごい出てるんですよね。例えばスタンフォード大学なんかも研究所を持ってますし、あと一番皆さんの業界でいい例になるのが多分Googleとかだと思うんですね。

GoogleってSIY(Search Inside Yourself)っていう、今もう独立した研究所になってるんですけど。そういうところでどんどん脳科学者がやってるわけですから。

そういうデータを見せてあげて、これは怪しい宗教的なものじゃなくて実社会に取り込むこともできるしデータも出てるから、一応やってみなよみたいな感じで持ってくっていうのも手ですよね。

制作協力:VoXT