お金を借りるときは、目を皿にして契約書を読め

夏野剛氏(以下、夏野):さて、もう1個の側面として、そういう未踏人材とかに、もっとお金が出るようになるといいのではという。例えば今、日本は1,670兆円の個人企業主さんがいる国ですので、国が1,100兆円の借金をしていても、まだ全然、国としては崩壊しないでしょ。

1,670兆円の個人企業主さんからみると、100億単位で失敗するのは、「あってもいいんじゃね?」ぐらいの話だと思うんですが、これリスクマネーっていうのが徹底的に回らないじゃないですか。

多分、南場さんも資金集めというのはすごくいろいろと苦労しながらやってきたと思うんですけど、この辺を供給する仕組みというのは?

南場智子氏(以下、南場):お金は余っているんですけれども、ベンチャーキャピタルのお金も実はすごく潤沢なんですが、ひも付きっていうか、例えば2年以内に上場しなければ社長がその株を買い戻しますっていうことを小さい字で書いてあったりとか。

夏野:それは融資じゃないですか。

南場:そうそう。だからノーリスク。

夏野:それリスクマネーじゃないの?

南場:ノーリスクマネーなんですけど。

夏野:そういうところに騙されちゃだめですよ。

南場:そうそう、そうそう! それだけ1番気をつけてほしいんですよ。お金を引っ張ってくるときの契約書は目を皿にして読んでほしいし、起業経験者に味方についてもらって精査してもらわないと、金融機関にくっついているようなベンチャーキャピタルは、だいたいえっらい条件つけてきます。

自分だけは損しないようにできているので。あと自分が将来、自由に株を売ったり買ったりできないような条件がついていたりとか。売ろうとしたときに、まずそのとある大手のところからお金を引っ張ってくる。自分が売りたくなったら、その人にまず買ってもらおうと。

そうじゃなくて、例えば起業もよかったけど自分は起業とか社長というステータスよりもサービスを愛していて、このサービスをやるためには、例えばDeNAと組みたい、LINEと組みたいって、そこに売りたくなったときに、変なベンチャーキャピタリストがついていて、いやいやいや、そんなことを言ったら大変ですと。

値段もいくら以上じゃないと絶対だめですとか。そうすると破談になるとか。だから結構、ベンチャーキャピタルのお金が余っているんだけれども、良質なお金はすごく少ないですね。

日本はベンチャーの評価額が異常に低い

夏野:あと評価額が小さいっていうのが。つまり例えば、Googleができたときには、アイディアベースでとりあえず最初の検索エンジンのベータ版があるだけで、その企業価値として100億ぐらいつけて、そのときに10億20億が入っても10パーセント、15パーセントしか取らないんですが、日本だとそのアイディアだけでベータ版だけだと、まだ何にも実績がないということで評価額が異常に低いんですよね。

南場:そうそう、そこが大問題で。

夏野:ここが大問題。下手すると創業してすぐなんですけども、60パーセントVCが持っているスタートアップもあるんですよね。これじゃあ誰もやる気になんないよね。

南場:本当に汗をかく人の割合がどんどん減っちゃうっていう。

夏野:ピケティになっちゃいますね(笑)。

森川亮氏(以下、森川):投資する方々がどちらかというとサービスがわからない、技術がわからないということなので、そうするとやっぱり数字の世界になると、利用計画から市場がこうなって、そうするとこのくらいのシェアをとると、このぐらいの価値ですねって、計算できる範囲で投資しちゃうので。

ここにいるみなさんのように、まだ計算できない良質な投資が集まりにくいのが状況としてあるかなと思うんですけど。最近ちょっとずつ変わるのは、エンジェル投資家がちょっと増えてきまして。

南場:増えてきましたね。いいとこが出てきました。

森川:川田さんとか本当にすごくいい方で。

南場:そうそう。だからまず最初にそういう人たちを味方にしたほうがいいよね。

森川:そこがちょっと回り始めて一回転、二回転しているので、そこがうまく回るとシリコンバレーみたいに、もうちょっとサービスを理解できる人を育てるみたいになっていくかなと思いますね。

南場:志と、本当に応援する心がある人のお金を入れて、本当にアドバイスももらえるというのがほんの少しだけど日本でも始まっていますね。

夏野:僕もいろいろ頼まれるんですけど、お金がないのに頼まれるんで。ちょこちょこちょこちょこで出していったら、僕がすっからかんになっていますので、非常に大きな問題に。家庭内で大変な問題になってしまいますね。

南場:ドカンと当たれば大丈夫ですよね、なにか1個でも。

(会場笑)

LINEがダメになる前に社長から身を引いた

夏野:ところで、もうひとつ大事なことっていうのは、人材の流動性だと思うんですよね。この未踏的人材っていうものを活かすためには、エリック・シュミットであったり、あるいはCFOだったり、あるいはCOOだったり。

そういう未踏的人材の発想力や突破力をちゃんと形にするパートナーみたいな人を供給しなきゃいけないと思うんですけど、これは日本はどういう環境にあるんでしょうかね?

森川:そうですね。まずは経営者そのものが外から来るってことに対する抵抗がある会社が多いじゃないですか。

夏野:それは、大きな企業? 小さな企業?

森川:大きな会社でも小さな会社でも。そうすると、どうしても前の経営者の考えを持つ。もしくは前の経営者に好かれるようになってしまうってことになると、その時点で新しいものを生み出すよりは、リスクを潰すという形になっちゃうので。

そこの構図が多分新しいものへの投資っていう難しい状況になるのかなと思うんですよね。なるべくこう経営者の流動性があって初めて下の層の流動性の効果が出るような気がしますね。

夏野:ちょうど森川さんは、今月末で社長を退かれて引き継がれるわけじゃないですか。これは会社にとってどういう意味をもたらすのですか。どういう価値をもたらすのですかね。

森川:出澤さんはもともとライブドアの社長なんですけど、うちの場合は部署ごとに結構カルチャーが違うんですね。もともと別々の会社だったのを統合したんですけど、文化は統合されていないので。

彼は彼なりのやり方とか考えでやるので、できればいい方向に進んでほしいなと思うんですけど。多分、大きく変わるんじゃないかなと思いますね。

夏野:森川さんはあえて変わりたかったんですか?

森川:多分、変わらないものって世の中にないじゃないですか。だから多分、僕はだめになる前に変わらなきゃいけないなという危機感はすごくあったんですよね。

夏野:いいときに変わる? ずるいな、かっこいいな!

森川:いやいや、何でかというと、だめになってからだと変わりにくいですよね。

夏野:むしろ変わりにくい!

森川:引き継いだ人も、プレッシャーもあるし。

夏野:だからみんな居座ろうとするんですか。

森川:どうなんでしょう? ちょっとそこはコメントしにくい。

南場智子氏・社長交代の裏側

南場:自分はどうなの? 自分は今回の意思決定は、自分の人生の選択を重視したのか、会社にとってどちらがベターかというものなのか、どっち?

森川:それはちょうど両方重なったので、何か僕は幸せな人間だなと思うんですけどね。僕自身はやっぱりこう周期的に自分をリセットする人生を歩んできたので、何かまた自分の人生をリセットしてチャレンジできるってこともすごく幸せだなと思いますね。

夏野:例えば、南場さんはご家庭の事情もあったので一線をちょっと引かれたじゃないですか。事情がなかったら絶対続けていましたか?

南場:次の年に代わることを、もう心に決めていました。

夏野:それはなんで?

南場:2012年。それはやっぱりDeNAという会社、ベンチャーはみんなそうなんですけど、創業者とぴったりイメージがくっついちゃっていて、いつまでたっても公器にならずに……。

夏野:公器ね。公の器ね。

南場:そうですね。なんか南場智子カンパニーみたいな。ほかにもそういうベンチャーいっぱいいるんですけど。DeNAはその自分の能力とか生命の限界を超えてずっと伸びていく会社だっていう、そういう形を絶対に自分の力で作りたかったので。

次の年には絶対に何の問題もない状況のときに、私よりいい社長ができたので代わりますってやりたかったんですね。

夏野:本当は。

南場:うん。私は本当に楽しみにしていて、すごいそれに負けて、すごい時間と準備をしてきたので。

夏野:なるほど。もともと想定の範囲だった?

南場:うん。それを1年前に、そういう理由じゃなく個人的な理由で辞めなきゃいけなくなっちゃったのが、今でもそれだけは悔しくて。

夏野:でもそれは、すごく今、だって完全な2枚看板になっているわけじゃないですか。

南場:うーん。そうですね。代表取締役は守安なので、大将守安っていうことで私はできる限りのサポートをしています。

「起業すること=落ちこぼれ」のイメージがまだ払拭できていない

夏野:球団オーナー初の女性が誕生とか、新しいビジネス、例えばヘルスケアをやったりだとか。僕はそうやって看板を何枚もそろえていく作業っていうのをできるかできないかっていうのが、今度この未踏的人材が成功した後にも重要になっていくことだと思うんですよね。

だからそこをうまくやるというのは、いい例をお二人が作っているけど、なかなかできないですよね。やっていない奴、山ほどいるじゃないですか。

南場:そうですね。そもそも起業したいと思う人材が少ないんですよね。特に事務方というか私のようなビジネス系だと、私も起業したいと言ったときに、親戚一同から「智子ちゃんは、小さいときお利口だったのにどうしちゃったの?」と言われちゃった(笑)。

夏野:お利口じゃないんだ、起業は(笑)。

南場:そう。本当に落ちこぼれちゃった人がやっているみたいなイメージっていうか、会社を辞めなきゃいけなくなっちゃったの、みたいな。

夏野:会社辞めなきゃいけなくなっちゃったのって。すごい表現ですね、それは。

南場:あるんですよね。それをあからさまに言わなくても、やっぱり名前がある大企業に就職する。そのためにベストな偏差値のギリギリの上のところの大学に行く。そのためにはいい高校・中学とかあるじゃない? そういう価値観からはみ出ちゃった人っていうイメージなのね。

夏野:ただ、僕も大学で教えていて思うんですけど、今の20代って就職氷河期のおかげでそこはだいぶなくなっていますよね。

南場:それはありがたいですよね。

夏野:特に僕なんか、SFCというところにいるので、キャンパス自身が異能空間ですから、もうめちゃめちゃなので。大企業にいく奴が1番下な感じですよね。あっ、そういうこと言っちゃいけない。学部長がいるから。

(会場笑)