若い世代の情報収集の変化

瀬尾傑氏(以下、瀬尾):さっきの藤代さんのお話でニュースに関して言うと、若い人のニュースの摂取機会は、この10年でどう変わってきていますか?

藤代裕之氏(以下、藤代):明らかに変わってますね。まず、ニュースを見なくなっている。YouTubeとかInstagramとか、情報収集はそういうもので十分なので。

昔はニュースしか情報がなかったわけですね。だけど、今は情報がいっぱいあるので、特にニュースを見る人が減ってきているし、ニュースサイトへの接触がすごく減ってきている感じがします。

津田大介氏(以下、津田):若い人は、よく「タイパ」って言うじゃないですか。若い人はタイパをすごく重視していて、動画が情報入手源のメインになっているし、1.5倍速も遅いぐらいです。1.75~2倍速で見てる子がデフォルトになっちゃっていますよね。

瀬尾:動画の力が強いですね。そういう環境の変化の中で、ニュースメディアは苦戦しているところが多いんですが、今日は山田メユミさんに来ていただいています。今、すごく暗い話がいっぱい出ていましたが(笑)、アイスタイルはぜんぜんそんなことがない。

ニュースメディアから離れて、若い人のニュースやメディアとの接し方も変わったという話がありましたが、この10年の変化を山田さんはどうご覧になっていますか?

山田メユミ氏(以下、山田):あらためまして、山田と申します。1999年にアイスタイルを共同創業していまして、アットコスメの言い出しっぺです。

私はもともと化粧品メーカーでマーケターをしていました。そこでいろいろ感じていたことと、当時、個人でメルマガを始めたことをきっかけにして、アットコスメの構想をイメージするようになり、仲間とともに創業しました。

2024年で(創業)25年なので、みなさんが生まれる前というか(笑)。そんなことをやってきた人間です。でも、実はもう5年ぐらい現場からは離れているので、アットコスメについて旬な話はできないんですが、この二十数年を振り返ると本当にいろんな歴史があったなと思います。

振り返れば、1999年から2000年初頭は、消費者のみなさんのレビューが中立なかたちで集まる場所そのものを作っていくことに注力していた時代です。

いかにみなさんに信用して情報を見ていただけるか。消費者のため、見てくれる女性のためだけに作っていたのではなくて、我々としては「企業と生活者をつなぐプラットフォームにしたい」という思いでずっとやってきました。

アットコスメは、単に「ランキングが見れるメディア」ではない

山田:単にランキングが見れるメディア的なものと捉えていたわけではなくて、最初から、あくまでもデータベースにこだわって作ってきたんですね。

それこそインサイトとかを分析するのに、どのようなデータフォーマットだったら企業の方たちが分析しやすいのか。加えてユーザーさんから見た時に、どう魅力的なのかをずっと議論しながらやってきた歴史があります。そこのバランスをうまく取りながらやってきました。

その中で、例えばステマの問題が起こったり、もっとフローなSNSが出てきて。我々のようなストックのデータベースというよりは、もっとフローなものにトレンドが移行したような時代もあって、その時に私たちはどう戦うかもずっと議論してきました。

紆余曲折しながらやってきたんですが、やっぱり一番変わらず大事だなと思っているのは、いかに信頼を得るか、信頼貯金をどう作っていけるのか。それは生活者に対しても、企業に対してもそうです。

アットコスメって、男性からするとぜんぜん縁のないサービスかもしれないんですが、口コミがたくさん寄せられて、それを商品のデータと連携させてランキングのようなかたちで見られます。

例えば「ファンデーションは何が欲しいかな?」といったら、人気の商品が見られるとか。「資生堂さんの○○って商品はどんな評価かな?」といったら、どんな属性の人たちがどんなことを言っているのかがわかる。

気になる商品の確認や、購買の後押しをするところでよく使われているサービスなんです。なので、信頼をどう勝ち得るのかをずっと議論しながらやってきました。

メディア運営で重要な「信頼」をどう担保するか

山田:WOMJ(クチコミマーケティング協会)というのも藤代さんたちとやってきました。お上から言われて何かをするのではなくて、口コミマーケティングのステマの基準をどう確立していくのか、自主的にガイドラインを作って、それをメディア運営側が提唱していこう、業界を変えていこうと。そんな歴史を経ながら、今も粛々とやっている感じです。

瀬尾:信頼というのは、メディア運営にとってはすごく重要だと思うんですよね。一方で、その価値を見える化するのはなかなか難しい。信頼って、言葉にすると定性的な評価としては簡単なんですが、数字化するのは極めて難しい部分があると思うんですが、そのあたりはどういう工夫があるんですか?

山田:「この基準を守ってればいいよね」みたいな、定量化されているものがあれば最高なんですが、それぞれのサービス特性もあります。

例えばアットコスメというサービスと、いろいろありましたが「食べログ」というサービスがある時に、同じ基準でやっていればいいという話ではないんですよね。やっぱり商材の特性とかもございますので。

なので、時代の流れの中で本当に試行錯誤しながらやってきているんですが、我々が創業からずっと変えていないのは、目視によって、人の目を全投稿に入れること。これはいまだにやっています。

もちろん人の目だけだとアナログなので、リアルタイムでチェックをしながら、いろんなシステムを組み込んでやってます。できうるあらゆるチェックをやって、我々の基準に満たない営業活動とか、いわゆるステマ的なものとか、誹謗中傷や公序良俗に反するものは未然に防ぎます。

1回投稿されても、それが数時間以内に落とされる仕組みはずっと維持していて、今もそこには労力とコストをけっこうかけています。

瀬尾:なるほど。それぐらい、信頼を作るのはコストがかかるということですよね。

山田:はい。絶対に野放しにはできないと思います。

「SNSの勢力図」が大きく変化している

山田:例えば旅館とかに行った時に、ゴミが落ちていたりきれいじゃなかったら、「こういうところなんだな」と思ってがっかりするとともに、自分も乱暴に扱うと思うんですよね。

ただ、きれいな場所に行ったら自分もマナーを守るじゃないですか。コミュニティの自浄作用みたいなものって、運営側の努力をやめた瞬間にどんどん落ちていってしまうので。

瀬尾:アットコスメも、ある意味ではメディアというよりもプラットフォーム的な意味合いが強いわけですよね。UGC(ユーザー生成コンテンツ)的な部分で評価だとかが入ってくると、コンテンツモデレーションはすごく重要になってきますよね。

今、ネットメディアの中で起きてる変化というと、SNSの勢力図がだいぶ変わってきて、それぞれのレイヤーごとに使っているSNSが分かれるようになってきているところもあります。

もう1つの重要な変化は、SNSがプラットフォームとしての責任を政府や行政からかなり強く問われるようになってきている。日本ではあまり表立ってないですが、ヨーロッパなんかでは明白です。

信頼性だけではなく、例えばニュースメディアに対して「コンテンツを提供しているならもっとお金は払うべきだ」という議論もあったり、あるいはデータの取り扱いについても極めて厳しい規制が入ったりする。

さっき藤代さんからアメリカ大統領選の話がありました。もともとは、トランプ大統領が誕生した時の大統領選で、Facebookがデータを悪用して外部に使わせた。そのことによって、大統領選の結果に影響を与えた可能性がある「ケンブリッジ・アナリティカ問題」というものが指摘された。

そこで、Facebookの責任が極めて問われた。議会にマーク・ザッカーバーグが呼ばれるということがありました。

パブリッシャーに対する関係性、あるいはユーザーに対する透明性を、今まではプラットフォームの自主的な努力に任せてきた。だけど、なかなかそれだけでは対応できないという苛立ちがあって、ヨーロッパやアメリカでもいろいろな規制や政府の動きが出てきたりしています。

津田大介氏「Xの終わりを日々ひしひしと実感」

瀬尾:一方で、そういう動きが出てくることによって、SNS本来の自由な空間が失われる部分もあるわけですよね。津田さんはさっき「Xはもうビジネスでは影響力がないんだ」とおっしゃっていましたが、元祖ツイッタラーではあるわけです。そこはどういうふうにご覧になっていますか?

津田:特にイーロン・マスク氏に買われてから、Xの終わりを日々ひしひしと実感していて、もう本当に悲しいなぁっていう感じではあります。

もともとTwitterは「ミニブログ」と言われてたものですから、誰でも見られたわけですよ。「http://Twitter.com/tsuda」と打ち込めば、アカウント登録をしなくても、僕のツイートを見ることができた。

検索機能も使うことができたのに、イーロン・マスク氏がついにFacebookと同じようにクローズドネットワークにしてしまったんですよね。なので今って、アカウントを持ってない人はツイート(現ポスト)を全部見られなくなっている。

「でもイーロンさん、あなたは『Twitterを公共圏として守りたいから買うんだ』って言ってませんでしたっけ?」という話です。それぐらい今、かなり迷走が始まっている。

今の瀬尾さんの話の上で、結局、社会的な影響としてSNSが大きくなりすぎたのだと思いますね。藤代さんの話でもありましたが、2016年のロシアによるアメリカ大統領選挙の介入をやっていたのって、ロシア側ではIRA(インターネット・リサーチ・エージェンシー)という会社です。

最近のホットトピックとしては、(エフゲニー・)プリゴジン氏が反乱を起こしましたよね。プリゴジン氏がIRAに深く関わっていたということです。しかも、今後の世界の外交安全保障なんかにも大きな影響を与えるような人が、リアルの軍事もやっているけれども、インターネットでも戦争等を仕掛けている。

そしてそれをやると、本当に一国の政治経済体制も大きく変えかねないぐらいの社会的な影響力がある。もう本当に、アンコントローラブルなぐらい大きくなってしまっている状況なんだと思うんですよね。

ここ数年、プラットフォームは自主規制を強めている

津田:じゃあどうやって規制するのかというと、2010年代の中心だったのが、ヨーロッパなんかでは共同規制というやり方でした。共同規制というのは、法規制とプラットフォーム側の倫理に任せて「自主規制をちゃんとやってください」と。

「最小限の法規制の中で、ちゃんと落ち着くポイントを見つけましょう」というのが共同規制の考え方なんですが、2016年から2017年以降、そこが変わってきてるんですよね。

転機になったのは、トランプ氏が大統領になった後に白人至上主義者たちがシャーロッツビルというところに集まって、女性が白人至上主義者に車でひかれて亡くなる事件があってからです。

あれから圧倒的にプラットフォーマーが、ネオナチアカウントとかやばいアカウントのBANを始めたんですよね。アメリカ的には、実はそこがプラットフォームのすごく曲がり方になっていたところがあって。

実はここ5~6年ぐらい、かなり厳しくプラットフォームが自主規制を強めていて、「それでもどうにもならないんだったら法規制を強めましょう」という話になってきたんです。

ところが今、FacebookはMetaに名前を変えて、メタバースのほうへ行こうとしたので、むしろ規制にはあんまり無関心というか。興味がなくなった結果、Facebookもまためちゃくちゃになっている。Twitterはイーロン・マスク氏に買われて、まためちゃくちゃになってきているし。

実はここ半年から1年ぐらい、さまざまな各国政府がプラットフォームに対しての法規制をまたやろうと動いてきているので、本当に限界というか、臨界点が近くなっているという感じはしますね。

瀬尾:そうですね。

プラットフォームは社会的責任と役割を果たしているのか

瀬尾:藤代さん、さっき自主規制の話をしました。コンテンツモデレーションの観点から言うと、メディアの責任と役割の話があるんですが、プラットフォームはそういう社会的責任と役割は果たしていると考えていいですか?

藤代:現状、XやFacebookが果たしてるかというと、果たしてないと思うんですよね。でも、さっき山田さんの話を聞いてすごく勉強になったのは、アットコスメが誰にとってのメディアであり、プラットフォームであり、誰にデータベースの情報をフィードバックしてるのかという話だったと思うんです。

ソーシャルメディアのプラットフォーム各社は、ステークホルダーが見えないんですね。場合によってはBotとか、今だったらAIが作ってAIがクリックしている場合、人間はいないじゃないですか。だから、誰に対しても責任がないんですね。

私の知り合いの女性でも「肌に合うか・合わないか」はすごく重要で、最近は男子学生もかなり化粧に興味を持ってきています。キャンパスを見ると「ちょっと韓国アイドルみたいなやつがいるな」ということがあって、ダイバーシティ的にはすごくいいなぁと思うんです。

合わない化粧品を使うと、ちょっと肌が荒れたり、自分に危害が加わるんですね。身体的に影響がわかりやすいので、きちんとしなきゃいけない。

そういうことがあったらまずいので、製造メーカー側もフィードバックを受けてきちんと作っていくとともに、よりユーザーが求めているマーケティングを求めるというか、ある種ポジティブなフィードバックが回っているなと思ったんですよ。

AIによる監視では、フェイクニュースに太刀打ちできない

藤代:でも、ニュースや情報の場合にそれがあるかというと、AIやクリックだったり、我々自身にも(使う側の責任が)あるわけですね。

そこに何があるかというと「欲望」です。みんな知りたい。我々自身も情報やメディアに対して責任をあまり感じていないというか、化粧品や食べ物のように「まずいな」とは、実はあんまり思っていないんじゃないかなということを、1回考えなきゃいけないと思います。

でも、ここはグロービスの学生や卒業生の方が作っているセッションだから、深井(龍之介)さんも言っていたみたいに、情報ってめちゃくちゃ大事じゃないですか。我々が何かをジャッジする時に、全部の情報がわかることはほとんどないですよ。だけど、情報を間違えたらジャッジメントを間違えるわけですよね。

でも、あまりにもみんなそれを考えてないというか、けっこう自分の思いを投影しちゃう。それは、データベースの作り方に難があったんじゃないかなって、ちょっと思ったんですよ。

もうちょっとポジティブなフィードバックが製造側にかかるような、いいデータベースの作り方ができなかったのかなって、僕は反省があります。

津田:藤代さんの今の議論を引き取って展開させると、さっき山田さんの話で出たキーワードの「全量有人監視している」ということが、実は今後はすごくポイントになると思うんですよ。

全量有人監視って、はっきり言うとめっちゃコストがかかるし、今の時代では「そんなのAIでできるじゃん」というものなので。確かに、実際にそれをやってきた企業がある。だけど結局AIの監視では、フェイクニュースとかにはまったく太刀打ちできないというのが、2016年から2020年ぐらいにかけて起きた議論だと思うんですよね。