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スローガン「よき生活者になる」に潜むわざわざブランドの秘密(全2記事)

経営者が、素直に「助けてください」と言えるのは強みになる 「弱さを見せて強くする」素直な自己開示の大切さ

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回のゲストは、長野県にあるパンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長の平田はる香氏。第三部の前半となる本記事では、できないこと・わからないことは自己開示して、自分の弱みを逆手に取って“強み”に変えるという平田氏のマインドが明かされました。

工藤拓真氏(以下、工藤):この番組は業界や業種を越えて、生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyさんが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは、ブランディングディレクターの工藤拓真です。本日も引き続き、株式会社わざわざ代表の平田はる香さんにお越しいただいています。平田さん、よろしくお願いします。

平田はる香氏(以下、平田):よろしくお願いします。

工藤:「平田トーク力」によって、あっという間に時間が溶けてなくなってるんですよ(笑)。

平田:(笑)。

工藤:あっという間に消えてしまっているのでちょっと不安なんですが、今まで(ブランディングの)教科書ということで3冊ご紹介いただいて、お話をうかがいました。そういったお話も踏まえたり、後半でいただいた(「わざわざ」の)これからのお話もなぞりつつ、「本音のクエスチョン」というコーナーがあります。

例えば「ビジネス系のYouTubeやるぞ」「記事になるぞ」ってやると、Q&Aがバシバシ飛んでサクサクッみたいな。特にテキストだと、1時間インタビューがあってもシュッとまとまっていて、「あれ、なんかシュッとしたな?」ということがけっこう起こると思うんですが(笑)。これは音声番組なので、その良さを活かしまして。

平田:シュッとしない(笑)。

工藤:ああでもないこうでもない、「かっこいいこと言ってますけど~」みたいなことを聞けるようにしたいな……ということで、いくつかご質問させていただきたいなと思っております。

他の経営者の真似をするのは無理がある

工藤:まず1つ目が、おそらくこの本(『山の上のパン屋に人が集まるわけ』)を読んだり、もともと「わざわざ」のファンだったり、それこそLoveの方々の中には、単純に「これからもアイテムをずっと使いたいです」という方もいらっしゃれば、影響を受けて「同じようになりたい」「私も商売を始めてみたい」とか。

あるいは「自分も(商売を)やってるんだけど、わざわざさんみたいになるにはどうすればいいですか?」という相談もあるんじゃないかなと、勝手に想像していたんですね。そういう方々に、平田さんはどんなお答えするんだろうなというのを、ちょっと聞いてみたいなと思いまして。

平田:「無理です」(笑)。

工藤:(笑)。ここで出ました、「無理です」。

平田:私も本田(宗一郎)さんやスティーブ・ジョブズ、稲森(和夫)さん(の本を)読んで「あ、無理だな」って感じたように、素質とか性質とかを含めて、会社によって経営者って人それぞれぜんぜん違うので。いろんな会社を見学させてもらったり、お話しさせてもらったりしてますけど、1つとして同じ会社がないんですよね。

真似るっていうのは、ほぼほぼ無理。無理というか、無理がある。その人が疲れてしまうというか、できるわけないよという「無理」ではなくて、どっちかといったら、人のことを真似することに対して「無理がある」。だけど一定の型はあるんだなというのは、最近理解してきていて。

型破りで事業を展開してきたからこそのアドバイス

平田:例えば、私が経営の基礎をまったく学んでいなかったというのは、だいぶハンデキャップだったと思うんですよ。

全部あとづけで考えて、全部あとづけで学習しているので、事象が起こるたびに対応していくことで経営論みたいなものを確立していった。それで調べると、「なんだ、その方法があったのね」みたいに、もうすでにメソッド的になってるんですよね。

それはたぶん、MBAとかを取得していたら基本の基本で習っている。「経営とはこうあるべきだ」みたいなやつは、教科書としてあるんですよね。だからはっきり言って、最初に問題集を解くように基礎理論を学んでから、まずはそれを型としてやってみるのが一番最短の解だとは思うんですよ。

私はよく千利休の話をするんですが、「守破離」ってありますよね。守って、破って、離れる。最初は型を守って、まずコツコツ型どおりにやる。型の意味はわからないけれども、いつかそれがわかるようになる。それがわかってくると「この型のここはいらないな」「この型のこの部分は自分に合わないな」と破っていく。

「こうしたほうがいいんじゃないか」と破っていって、そのあとに型から離れた、まったく新しいことが生み出されるわけですよね。だから「離」になるというメソッドだと思うんですよ。私はそれを間違えてしまい、いきなり店を立て(笑)。

工藤:守るフェーズがない(笑)。

平田:「守」「破」もないですよね。「離」から、山の上でいきなり離れた所でポツンと店作ってて(笑)。

工藤:めちゃくちゃ離れたところに「離」がポンとある(笑)。

平田:離、離、ポンって(笑)。それでどんどん遡っていって、型を学び出していた。

工藤:なるほど、今。

平田:そう。

成長スピードの早い経営者は「勉強」をしている

平田:でも今それを考えると、最初からステップアップの順番で行ったらもっと楽だっただろうし、成長スピードがもっと速かったと思うんですよ。だから、十何年でたかだか3億円って遅いと思うんですよね。

だってユニクロの柳井(正)さんは服屋の息子さんだったけど、今は世界のユニクロじゃないですか。成長スピードが私とは格段に違うんですよ。そういう人が何をしてたかなって思うと、やはりすごく勉強してると思うんですよ。

「星のや」の星野(佳路)さんとかもそうですが、家業の旅館を大きくするために、ホテル学を学びにアメリカに行ったり。最初に学んだメソッドを持っていれば、もっと(成長が)速いんですよね。私はそれができなかったので、先に本を読んだり学んだりしたほうがいい(笑)。

工藤:めちゃくちゃ意外な答えですね(笑)。

平田:そういう本はいくらでも世の中に出ています。例えば、個人事業主の人たちが「パンを焼きたい」「料理人になりたい」と、製菓学校に行ったり、料理学校に行ったり、料理をうまくする勉強をするじゃないですか。でも、そこじゃないよと。

店を作りたいんだったら一緒に経理学をばないとダメだし、会計ができないとダメだし、人のことを指導しないといけないし、雇用しないといけないわけです。

それも学校の中に(カリキュラムが)入ってればいいと思うんですが、(料理学校だと)調理しか教えないから。「俺の城を作る!」って、何を言ってんのって。毎日ちゃんと帳簿をつけようよ、みたいな(笑)。

工藤:そっからよ、みたいな(笑)。

平田:それができてから。まずはコスト。コストを払わないといけないから。

「嫌だな」と思うことほどチャレンジする必要がある

平田:おいしい料理を作るとか、宣伝するとか、みんな積極的にやっちゃうんですけど、お金の管理がぜんぜんできなくって、3年足らずでほとんどの会社が倒産するわけじゃないですか。

10年継続してるところって数パーセントなんですよね。でも、その10年継続してる人が何をやってるかといったら、たぶんちゃんと経営してるんですよ。ほとんどの人は経営できないまま終わってると思うんですね。経営にすら到達していない。だから最初は、その前に勉強したほうがいいんじゃない(笑)?

工藤:(笑)。

平田:というのは、反省点です。私は運良く途中で気がついて、学びに入っていったのでまだやれている。ただ今も足りていないと思っていて、めちゃくちゃ勉強はしたいので、いろんな人に話を聞きに行ったり、会に参加したり、セミナーに出たりしてるんですが、ぜんぜん自分も足りてないとわかっているので。

工藤:なるほど。ICC(KYOTO 2022)にご登壇もされてましたよね。

平田:本当はあれも行きたくなかったです。

工藤:そうなんですか(笑)。

平田:そうなんです(笑)。でもやはり、「行きたくない」「やりたくない」って自分が思うことほど役に立つっていうのは、実感としてわかってきて。なんで行きたくないかというと、わからないからなんですよね。

工藤:怖いですよね。

平田:わからないと怖い。でも、もし自分が事業規模を大きくしたいと思っていたら、わからないことを知らないといけないんですよね。「嫌だな」と思うところにほど、飛び込んでいかないといけないと思っていて。

だから……これ(ICC)も運良く誘っていただいたと思うんです。ありがとうございますっていうことで、向き合ってちゃんとやる。そこからまたいろんな人と知り合えて、今日ここにいられるのもそういうことだと思うんですよね。

工藤:なるほど、めちゃくちゃおもしろいです。ちゃんとお話を聞くと「確かに」ってところですが、一聴すると意外な(笑)。

一番最初に働いたのは、中学校2年生の時

工藤:ということは、もし今タイムマシンがあって戻ったら、DJあたりから、なんならもっと前からそういうお勉強をしたいなって感じなんですか?

平田:いや。それが私、説明書をぜんぜん読まないタイプなんですよね(笑)。

工藤:(笑)。

平田:(説明書とは)違うんですけれども(笑)。でも自分にその才能があったら、いろんなことがすごく早かったと思います。性格的・性質的なところで、昔から自分で考えたいっていうのがすごく強かったんですよ。考えるのが好き。

工藤:そうですよね。一番最初に働いたのが、いつっておっしゃいましたっけ?

平田:中学校2年生です。

工藤:中学校2年生ですもんね(笑)。

平田:興味・関心、好奇心を持ったことを、とにかく考えるのが大好きなんですよね。だから説明書や教科書を読んじゃうと、答えが書いてあるのでおもしろくないんですよね。

だからAppleはすごいと思いました。説明書を読まなくても感覚的に触れた、初めての機械っていう感じがして。人間の動作に沿ったスマホの設計をされてるなって、すごく思ったんですよね。自分はできないけど、ほとんどの人はそれ(基礎の勉強から始めること)ができると思うので(笑)。

工藤:じゃあ説明書とかいけるぞって人は、まずはちゃんと基本の基から勉強しましょうと。

平田:そうですね。誰かに聞いちゃったりとか、学校に入っちゃう。

パン作りを教わるべく、面識のない有名店に飛び込み……

工藤:さっき「知らないところにも飛び込んでみる」というアドバイスをいただいたんですが、「誰かに聞いちゃったり」みたいなことって、本を拝見しても、ほかのエピソードをおうかがいしてても、(平田氏は)すごくいろんな方からお話をうかがっていたり、対話されてるじゃないですか。

たぶんリスナーの方々もいろいろ学びたいけど、「いきなりMBAはちょっとな」とか思ってる人がいると思います。どうやったら、いろんな人と一緒に学ぶ環境になれるんですか?

平田:パンの時もそうだったんですが、東御市の近くに上田市という所があって、ルヴァンっていう有名なパン屋さんがあるんですよ。天然酵母ではたぶん日本で一番最初に有名になったお店で、渋谷の富ヶ谷にもあるんですが、その上田店が(「わざわざ」の)隣町にあるんですよね。

私、ルヴァンへ行ったんですよ。好きだったし、もうすでに行ってたんですけどね。そうしたら、そこに甲田(幹夫)さんがいたんですよ。「隣の街でパン屋をやってる『わざわざ』の平田と言います。甲田さんすみません、私はパンを習ったことがなくって、厨房に1回いさせてもらってもいいですか?」って頼んで。

工藤:えぇー……!

平田:(甲田氏は自分のことを)知らないですよ。でも、いたんです(笑)。

工藤:(笑)。なんの面識があるわけでもなく。

平田:ちょうど買い物に行ったら甲田さんがいたんですよ。「甲田さんいた! チャンス!」と思って、「薪窯で焼いてるんだけど」とか、正直に説明して。

弱さを見せると、助けてくれる人が現れる

平田:恥ずかしげもなく自分の足りないところを披露して「助けてください」って言うと、だいたいの優しい人は助けてくれる(笑)。

工藤:(笑)。なるほど。けど、それがなかなかできないんでしょうね。

平田:そうですね。私はけっこう弱さを見せて強くするんですよ(笑)。自分も内省が好きなので、自分の弱いところや強いところ、性格の特性をわりと理解していて、弱さをちゃんと人に伝えて頼れるタイプなんですよね。だから甲田さんの時もそうでしたし。

あとは、「できない」とか「ダメだ」ということをブログに吐露する。薪窯でパンを焼き始めた時に、どうしてもうまく焼けなかったんですよ。そうしたら神奈川県の薪窯のパン屋さんで職人をやってる方がメールをくださって、「平田さん、こうやって焼くといいですよ」って長文でアドバイスをくれたり(笑)。

すっごくそれが役に立って、お礼を言って。「よかったら教えてくれないか」って頼んで、そこへも行かせてもらったんですよ。1日一緒にパン焼かせてもらって、学ばせてもらって。パンの時も3、4社の厨房に入らせてもらって、見せて教えてもらって、良いとこを取って、自分に違うなって思ったところはやらない。

工藤:おもしろい。もしかしたらオープンソースのお話というか、ギバーですよね。平田さんがすごくテイカーで、情報を取ってバーっと逃げるみたいな感じだと、「こっちはオープンだよ」というか、逆にあげられるものはあげる、みたいなところがあった上で成り立っている。

平田:そうかもしれないですね。

できないことは、最初からきちんと自己開示する

平田:昨日も広告の方と話していた時に、確かそんな話が出てきましたね。「私は今までマーケティングという概念でマーケティングをしたことがない。一切わかりません」って最初に言ったんですよ(笑)。

「だけどこういうことを思って、こういうことをやってきたっていうのはある。でも認知を取りたいってなった時に、いざどの手法を選んでいいのかとか、正解がまったくわからないので、プロの方に教えていただきたくて今日はやってきました」と言うと、すごく教えてくれるんですよ。

その中の全部を聞くということではなくて、合ってるか・合ってないか、相性が良さそうかを確かめて、すごく頼れそうだって判断した時にお任せする感じでやりたいなと思っています。

だから最初に「ここができないです」と、自己開示をちゃんとします。大工さんの時もそうだったんですね。最初に「(資金が)600万円しかないです、ここまででできるところでお願いします」(笑)。

工藤:頭から「こうです」と(笑)。

平田:予算とか、みんな開示しないじゃないですか。

工藤:なんとなくな感じになったりすることは多いですよね。

平田:多いです。

「わからないことを伝えられる」という強み

平田:あとイラストレーターさんとかに依頼する時も、私は東京の著名なイラストレーターの方とやったことがなくて、「すみません、予算を最初に教えてください」と言って、どれぐらいで発注できるかという概算の見積もりをいただいてから、「発注させてもらっていいですか?」と聞きました。

「お金の話を一番最初にしたのはあなたが初めてです」と言われて、すごく仕事がしやすいって言われたんです。その人とはすごくうまくいって、コーポレートサイトのイラストを全部その芦野(公平)さんという方に描いていただいたんです。そういうふうに、ちゃんとわからないことを伝えられるのが強みになってるかもですね。

工藤:なるほど、おもしろい。けど逆に、「そうしよう」ってなれば、本当はそれができない人はいないはずですもんね。

平田:そうですね。たぶん、できないことを言うのは別に誰でも言えますもんね。私、人生の前半が全部挫折なので、恥ずかしいとか、なんのプライドもないんです(笑)。

工藤:(笑)。いやいや、そんなことないですよ。本当に凄まじいですもんね。DJのくだりとか、ヤバすぎるなと思って。

平田:いやいや、ぜんぜんです。本当に負けてばっかりいるので、負け慣れていて。

工藤:ぜんぜん負けてない(笑)。もうすごいんですよ。気になる人はぜひ(書籍を)読んでください。

平田:ありがとうございます。

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