AIでは代替しづらい人間のスキル

小澤健祐氏:この作るAIから使うAIへの変化は、ぜひご理解をいただきたいところです。その上で今日は簡単にキャリアのお話もできればということで、これからのヒューマンスキルみたいなお話をさせていただきたいなと思っております。

こういった定義の仕方は、見たことがある方も多いかもしれませんが、今、生成AIを使うと、本当にさまざまなことができるようになっています。

どういうことかと言うと、人間のスキルをソフトスキル、ハードスキル、メタスキルに1回分解してみるとしましょう。ソフトスキルとして挙げられるのは、やっぱり人間性に近い対人関係などのスキルですよね。

どうしても型化をすることができず、何かの学習サービスで学習することが難しいものになります。ちょっとアートな側面があり、形式化されていない。だからこそAIなどの技術で代替しづらい、そして学習しづらいのが、このソフトスキルの特徴かなと思います。

さらに、ハードスキルですね。これは営業やマーケティング、広報など、それぞれの領域で確立された理論や手法、ツールのことです。どちらかというとアートよりもサイエンスに近いものになっています。

形式化されていて、技術でもかなり代替しやすくなっています。本で読んでもわかりやすいし、いろんな学習サービスとか資格試験も生まれてくるのがこのハードスキルになります。

右はメタスキルと書いてありますが、こちらはスキルを使いこなすスキルですね。アート・サイエンスではなく、プラクティスに近いですが、どちらかというと経験知になる部分です。これも生成AIには代替しづらい部分で、併せて、学習にとても時間がかかるのが特徴です。

現場のプレイヤーの役割に変化が

さて、では今回ご参加いただいているみなさんには、ぜひご自身に当てはめていただきたいのですが。これからの時代、生成AIは、例えば企画書を作るとか、何かのハードスキルをかなり代替しやすくなっています。

ただ一方でどうしてもまだこのソフトスキルに近いところ、そしてメタスキルに近いところは、代替するのがしばらくは難しいかなと思っています。

そんな中でこれからどんなことが起きていくのかと言うと、やはりハードスキルではなくて、ソフトスキルとメタスキルが必要だからこそ、会社の中でマネージャーの重要性が高まってくると考えています。

今、多くの会社では、新入社員とか若手がプレイヤーをやりつつ、マネージャーがそのプレイヤーを統括していくかたちになっていますよね。

これからはそのプレイヤーが何かのハードスキルを実行するのではなくて、人をまとめていったり、外部のトレンドをつかんだり。あとはみなさんだとけっこう業界の経験知があると思うんですけど、それを駆使していくとか、そういったところがかなり今後重要になってきます。

これからこうなるんじゃないかという、夢みたいというか、かなり中長期的なお話なんですが。クリスマスツリー化現象が起きていくんじゃないかなと思っています。

AIによる業務効率化は、組織の構造をも変える

今、みなさんの会社って、こういう人材のピラミッドになっているのではないでしょうか。さまざまなプレイヤーの方が現場の業務を担いながら、マネジメントレイヤーがいて、その上に経営レイヤーがいるというかたちです。

基本的には、ある程度は経年で上に行くというキャリアの登り方をすることも多い。最近はプレイヤーの中でも転職を繰り返して、早い段階でマネジメントレイヤーにいったり、起業することもあるので、あくまでも一般化した考え方なんですけれども。

ただ、これからの時代、このハードスキルを代替できる可能性が高くなってしまった以上、現場の業務はどんどん効率化されていきます。特にこの生成AIという技術。今はまだChatGPTですけれども、最近はWindowsの中にも生成AIの機能が入りました。「Copilot in Windows」と言うんですが。

例えばOutlookでメールを作成するような業務を効率化しちゃったり、PowerPointを作成する業務もかなり効率化され、自動でプレゼンのデザインを作ってくれるような時代にもなっています。そうなるとどうしても、現場で今までプレイヤーだったところが、AIとプレイヤーという構造になりつつ、全体量がどんどん小さくなっていくのかなと思っています。

併せて、このマネジメントレイヤーが正しくAIを活用する重要性がこれからは高まっていくのかなと考えています。

私は今回の本でも、こういった図でお話しさせていただくんですが、「AIが仕事を奪う」という言葉が、実はあんまり好きではありません。どういうことかと言うと、仕事ってやはり業務と作業に分解して考えるべきだと思うんですね。

これは今4つの業務になっていますけれども、これが例えば、みなさんが新卒の時の仕事だとしましょう。4つの業務によって何かの仕事が成り立っている状態だったとします。

これがマネージャーになるとどうなるのかと言うと、一つひとつの業務を部下の方に任せていきながら、ご自身でやらなければいけないところはちゃんと自分で作業をし、でも大多数はどんどん部下に任せていくことになります。

これはまだまだ少ないですけれども、これが部長、本部長と昇格していくにつれて、部下を通して抱えている業務の量って本当に膨大になると思うんですね。

生成AI時代は、マネジメント経験が大きな武器になる

ただ、このようにこれからレイヤー構造が変わっていく中で、働き方がどうなっていくのかと言うと、ご自身が作業をしていたところはどんどんAIになったり。部下の方に任せていたところが、基本的には「生成AIに任せればいいじゃん」という話になってくるんですね。なので、これからはみなさんには、やはりAIを適切にマネジメントする力が求められると思います。

今回、「生成AIでミドル世代の働き方はどう変わるのか?」というお話をさせていただいたんですが、そもそもマネージャーのスキルがちゃんとある人、部下のマネジメントをしたり、業務の棚卸しをして、全体の収支が合うのかをちゃんと見ることができる人って、実はまだ20代の会社員には多くないようにも思います。

なので、これからの生成AI時代って、すでにマネージャーだったり組織を作ったことがある人、組織をマネジメントしたことがある人ほど、生成AIの可能性、生成AIを活用する時のインパクトが大きくなるはずなんですね。

今、世の中でいろんな人が生成AIを活用していますし、例えば私は今、バイトルを運営しているディップという会社で働いているんですが、ディップの新入社員も生成AIをかなり活用しています。ただ、もともと持っている業務量が少ないので、インパクト自体はかなり少ないんですよ。

これが役員レイヤーとか部長レイヤーの方々が、ちゃんと生成AIの可能性を知り、適材適所で活用できれば、むしろ組織の効率化だけではなくて、組織が持つ仕事量自体がどんどん増えていくという考え方になると思います。

AI時代のマネジメントに必要な5つのスキル

今回は「『人間性の時代』の到来」というテーマでお話をさせていただいているんですけれども。やはりハードスキルではなくて、みなさんがたぶん今まで培ってこられたであろうソフトスキルの部分とか、メタスキルの部分の重要性が高まっている。言い換えれば、マネージャーレイヤーになり、正しくAIのマネジメントをしていくことの重要性が高まっていると捉えることもできます。

その上で、これから重要になる5つのスキルをここにまとめさせていただいています。「特に戦略を描く能力の重要性が高く、これに紐づくかたちで他のソフトスキルも重要になってくるイメージ」と書かせていただきました。

まず、「戦略構築力」ですね。理想像を描き、現状との乖離を把握して、的確な戦略を描く力。それによって組織を率いていくことが、いわゆるマネージャーレイヤー、またさらにその上のレイヤーには求められるんですが、まず戦略構築力はかなり重要です。

そしてもっと大事なのが、「対人折衝能力」です。よく世の中では「コミュニケーション能力が大事」とか言うんですけど、僕は「コミュニケーション能力」という言葉は抽象的すぎて、あまり好きではありません。どちらかというと、物事を有利に進められるように、人間関係を調整できるような対人折衝能力も重要になってきます。

あとは、「論理的な思考能力」も大事です。網羅的に論点を整理して考える力。これは特にChatGPTなどのアウトプットを正しく評価できるかどうかがとても重要なんですね。

やはりみなさんも、部下の方から何かの企画書とかアイデアが上がってきた時って、何かしらフィードバックしますよね。ただ、フィードバックができるかどうかは、みなさんのスキルがあるかないかにけっこう関わってくると思うんです。

これはAIも一緒で、これからAIをマネジメントしていく以上、AIが出してきたアウトプットに対して、「それはこうだね」とフィードバックをしたり、その情報が正しいのか、その企画案で行っていいのかという意思決定をしなければなりません。なので、「論理的思考能力」もとても重要になってきます。

「新卒がやる仕事がない」状態になる可能性も

そして、「AIマネジメント力」ですね。やはり生成AIなどのAI群のマネジメントをして、自身の業務の中にちゃんと組み込んでいく力が大事かなと思います。

そして最後は、冒頭でも課題というお話をさせていただいたんですが、「課題をしっかりと解決していく力」ですね。「課題を発見、原因を特定し、課題が解決する方策を考える力」と挙げさせていただきました。

このように、これからの組織形態を考えていく上で、プレイヤーの重要性はどんどん低くなってきます。以上の内容を踏まえて、私は3つトレンドがあると思っています。

まず1つが、「総マネージャー化が進む未来」ですね。ハードスキルをデジタル技術で代替できる時代に突入しています。むしろもう5年後、10年後には、今現場でやっているような仕事って、ほぼ代替できている可能性もあります。だからこそ、AIを組み合わせた組織をデザインし、そしてその組織をマネジメントできる人材の重要性がとても高まっているというのが、まず1つあると思います。

さらに、ちょっとこれは私も悩ましいなと思っているんですが、エントリーレベル人材の教育が難しくなっていくと思います。そもそもハードスキル自体が生成AIに代替されてしまうので、ハードスキルを得る必要がなくなってしまうんですね。新卒がやる仕事がない状態になってしまいます。

なので、エントリーレベルの人材の教育機会をどう作っていくのか。プロジェクト型の教育がいいのか、何かしらの教育改革をしながら、実践的なスキルを得て、あとはマネージャー的なスキルを得てもらうような工夫が必要になってくる。

併せて今プレイヤーをやっている人材は、メタスキルを得ていく機会も減っていくのかなということで、まさにエントリーレベル人材の教育は、これからの社会課題にもなってくると思います。

今けっこう「リスキリング」と騒がれています。この「リスキリング」ってスキルがあるのが前提なんですけれども、そもそもスキルがない人のスキルをどうしていくのかみたいなところは、すごく重要になってきます。

40代〜60代がAIを使いこなした時のインパクトは半端ない

そして最後が「ミドルキャリア世代の再興」ということで、今日のテーマに一番近いところになるかなと思うんですが。「IT時代に後れを取っていた」と、私が言うのはちょっと失礼なので気にしないでいただきたいたいんですが。

やはりミドルキャリア世代の方は、ソフトスキルやメタスキルに富んでいるケースが多いんですよね。だから私は生成AIが台頭した時に、「40代、50代、60代の方が生成AIを使いこなした時のインパクトは、本当に半端ないな」と思ったんですね。

生成AIによってITリテラシーの重要性が相対的に下がる。今はプログラミングをしなくてもChatGPTなどの生成AIでは、みなさんが使っている言葉で指示することができます。これからの時代は、ミドルキャリア世代の活躍の幅がさらに広がっていく可能性があると思っています。

今日は時間の関係で、細かな生成AIの活用方法の話をすることはできないんですけれども。生成AIをマネジメントするために、ふだんから「じゃあどう使っていけばいいんだっけ?」と、ちょっと試してみていただきたいです。

みなさん、ChatGPTはすぐに使えますので、お気軽に……というよりも、明日にでも一回使い始めてみる。その中で悩みが出てきたら、ちゃんと調べたりコミュニティに入ったりする。そうやってどんどん生成AIを活用するスキルを得ていっていただきたいなと思っています。