新規事業開発の専門家・柴田雄一郎氏が登壇

柴田雄一郎氏:さっそくなんですけども、時間もないのでどんどん進めちゃいます。これはだいたい6時間から8時間くらいの講義を圧縮してお話する内容でかなりの情報量があるので、どちらかというと感じてもらいたいというか。

全部覚えようとすると大変なので、細かいことは気にせずに「あ、そうなんだ」とか思ったことを自分でメモするなりして、サラッと感じてもらえばいいかと思います。

それから知らないキーワードや疑問はできるだけメモをしてください。せっかくお話しするので何か持って帰っていただきたくて、ただ聞き流すだけでなくて「これは何だろう」とか「おもしろい」と思ったものは必ずメモすることで、今日の時間が無駄にならないと思います。

あと、忘れてもいいです。資料は共有しますので、「あの本なんだったっけな」とか「あのキーワードはどういう意味だったっけな」というのはあとで復習できます。ですから直感的に理解することを意識していただければと思います。

さっそくなんですけれども、私のプロフィールです。新規事業開発専門のフリーエージェントって、あまり聞きなれないと思うんですけど。どこかの会社に所属するのではなくて、新規事業を立ち上げる時だけプロジェクトマネージャーみたいなかたちで入って。それが立ち上がったら運用は一切やらずに、どんどん新しい事業を転々としていく。

こういう働き方は日本ではなかなかないと思うんですけれども、けっこうシリコンバレーとかはそういうかたちでやっている人も多いんじゃないかと思います。

飽きっぽいので、運用とかは嫌なんですよね。とにかく立ち上げて出来上がるまでがおもしろい。作るところが好きなんですね。その時やっていたのが先端的テクノロジー領域で、コネクテッドプレイヤー、音楽配信、動画配信、それからメタバースも作ったり、ビックデータビジュアライズとか、IT系の新規事業。僕はぜんぜん理系ではないんですけども、なぜかそういうところばかりやってきました。

移住者が激増している逗子市をプロデュース

もう1つ、この10月から開催される逗子のアートフェスティバルをプロデュースをしているんですけれども。逗子市は数年前まで、神奈川県で2番目に少子高齢化率が高い消滅可能性都市だったんですけど、最近移住者が激増していて、地価が30パーセントくらい上がっているんですね。

逗子の地域コミュニティのデザインをしていまして、地域の人たちがアートという1つのツールを使ってつながっていくことで、いろんなアーティストが移住するようになりました。そこが2021年に「住み続けたい街」で関東2位、まちの幸福度3位になり、行政と一緒にコミュニティデザインみたいなことをやっています。

こういった経験を活かして、熊本大学とか京都芸術大学の非常勤講師、社会人セミナーとか企業の研修、壁打ち・メンターみたいなことをやっています。この「アート思考とデザイン思考」みたいなプログラムを受けていただいた方も含めて、これはUdemyでもやっているんですけれども、全部合わせると9,000人以上の受講者の方がいらっしゃる感じですね。

企業研修では日本ロレアルさんとか武田薬品工業さん、JTさん、キャノンマーケティングジャパングループさんなど多種多様な企業さんの企業研修とか、壁打ちをやっています。この時に自分が今まで経験した「アート思考」や「デザイン思考」、「ロジカル思考」を使ってやってきたことを総称して「クリエイティブ・マネジメント」とまとめています。

この言葉もあまり聞きなれないというか、私が作った言葉だと思うので、今日はこれについて説明していきたいと思います。どんな仕事をしてきたかと言うと、1994年に日大芸術学部を卒業してから探検家をしていまして、そのあと超能力研究所で超能力の研究をしていました。

そのあとは日本最初のインターネット放送局。これはYouTubeの10年くらい前で、映像配信、動画配信(をやっていました)。この当時はもう通信速度が遅すぎるので、パラパラ漫画みたいな動画しかなかったんですけど、そういう時代にインターネット放送局のプロデュース、企画をやっていました。

名だたる企業の事業開発に携わる

そのあとに日本最初の音楽の自動販売機。当初は、日本でこの下のほうにあるグレーのこれ(写真)ですね。音楽の配信をして衛星からダウンロードしたものをMDで買うという、日本で最初の音楽自動販売機の会社に勤めていたこともあります。

みなさん失礼しました。回線が途中で止まっちゃったみたいです。続けます。インターネット放送局や音楽配信の会社をやったり、それからコネクテッドプレイヤー。みなさんの使っているiPhoneは、音楽データをiPhoneの中に入れずにクラウドに音楽があって、それをダウンロードして聞くというスタイルですね。

これは日本にiPhoneが入ってくる3年くらい前に、実際にこういうプレイヤーを作っていました。ネットワークに接続して使う、音源を所有しないコネクテッドプレイヤーを作った時に、どういうシステムになるかを説明するための動画を作ったんですけれども。

それをジョブズが見たらしくて、その時に通話じゃなくてネットを中心とした携帯端末を考えている人たちは日本で僕らだけだったので、「一緒にやりましょう」みたいな話になったそうです。

次にトヨタの車がなかなか売れなくなった時(の話です)。若者が車離れしてきちゃった時に、ドライブの映像とカーナビを連動させたシステムを開発して、動画で見たドライブルートを、そのままカーナビがナビゲーションするものを作ったり。

それから最近ちょっと話題になったメタバースですね。トヨタのメタバースのプロジェクトマネージャーをやったり、それから「地域経済分析システム」。これは地方創生のために日本中からたくさんのデータを集めて、それを可視化するウェブサイトです。内閣府の中で、チームラボと一緒に作りました。

それから中小企業庁のDX推進とか、2022年にJTさんの「新しいタバコの世界がどうなるか」みたいなアイデアの壁打ちをやったり。現在では無線とかオーディオ機器の会社のJVCケンウッドさんの組織改革とアイデア総括みたいなことをやってます。

3つの思考法を掛け合わせた「クリエイティブ・マネジメント」

これらの新しい事業で必要だった3つの要素があります。私の場合は「アート思考」、自分起点で考える。それから「デザイン思考」、お客さんの視点で考える。そして「ロジカル思考」で論理的、客観的な視点でものを考える。この3つを使って、先ほどお話しした今までにない新しいビジネスやサービスを考えてきました。

この3つの思考の活用法をクリエイティブ・マネジメントと言いまして、これを使って新規事業を生み出すと。人を管理するのではなくて創造力を管理するんですね。

今は「アート思考」で自分が本当にやりたいことを考えてアイデアを作って、「デザイン思考」でお客さんが本当にそれが欲しいかを検証して、「ロジカル思考」で実際に商品化する。この3つの構造を頭の中で常に使っていまして、こういった考え方がこれから大事なんじゃないかなというお話をしていきます。

今日のテーマは「アート思考とデザイン思考」なんですけども。ここで言う「アート思考」は、別に「美術館に行きましょう」とか「絵を描きましょう」ということではなくて、今までにない新しい価値とか新規事業を生み出す時に使う、創造的な思考のスキル。要はクリエイティビティをどうやって実装するかってことなんですね。

「アーティストの持っている創造的なマインドをビジネスのフレームワークに活かせないか」という「アート思考」について、このあと詳しく話していきます。なぜ「アート思考」が求められるようになったかと言うと、背景にあるのは日本の経済が今どうなってるかというところなんですけども。世界に191ヶ国ある中で、日本の国際経済成長率って何番目ぐらいか、みなさんご存知ですかね。

「50番ぐらいまでにはいるだろう」とか「真ん中の100番ぐらいじゃないか」とか、実際にちょっと考えてみてください。平成元年、日本企業は世界の時価総額ランキング20位以内にこれだけたくさん入っていました。NTT、日本興業銀行、住友銀行と、上位はほとんど銀行なんですけども。

2020年になったら経済成長率は世界の157番目。もうぜんぜん成長しないレベルに入ってますね。それからご存知かもしれないですけども、2023年の世界時価総額ランキング20位以内には0社。最高位でトヨタの39番目ですよね。

縮小スパイラルが止まらない日本経済とAIの台頭

日本の経済はぜんぜん成長しないことと、それから人口が増加しない。このグラフを見てわかると思うんですけども、2000年をピークに一気に下降します。これは日本が今まで経験したことがない状況なんですよね。

日本って国が始まってから、終戦後もガンガン人口は増加し続けたと。ところが今こんな勢いで下がっている最中です。つまり、これだけ下がる未来を日本人は今まで想像したことも体験したこともないと。

この「縮小スパイラル」はもう避けられないと思われます。なので単純に言えばもう衰退社会が始まっていて、これまでみたいに作れば売れるような時代ではまったくなくなってきたということです。

そこに今度は人工知能。ChatGPTをご存知の方も多いかと思うんですけども、ChatGPTの存在がこれから非常に大きくなって、社会を動かすんじゃないかと言われています。

(ChatGPTを)使ったことがある方はご存知だと思うんですけど、こういう「日本の人口減少をストップさせる方法」なんて質問をすると、下手な政治家よりも真っ当な答えを出してくれるんですよね。AIが人間と比べて何が違うかといったら「創造性じゃないか」って言われるんですけど、実はけっこう創造力も強くて。

「Midjourney」というAIが絵を描いてくれるプログラムに指示を出すんですね。「天然素材を使用したオフィス家具とデザイン。ポジティブなエネルギーに満ちたオフィスの雰囲気」みたいなのを書くと、こんな絵がもう瞬時にできあがってきちゃいます。

これは実は某オフィス家具のメーカーでの講義で使ったんですけど、けっこう青ざめちゃいますよね。こんなのが一瞬で描かれちゃったら、「もうデザイナーがいらなくなるんじゃないか」となってくる。

人間しか持ち得ない「何かやりたい」という衝動

ここで人間の領域とAIの領域を明確にしておきたくて、僕なりに考えてみたんですけども。人間の領域は知の探索とか、自分の経験の中で学習すること。人格は当然あって、感情に流されてひらめきがあるんですね。

AIは知の深化、深掘りをするんですけど、基本はデータから学習します。人格は当然なくて合理的で、最適解を答えるように求められている。今どんどん進化してるわけですけど、この違いですごく重要なところがあって。意外とみなさん言ってないんですけど、ここが大きく違うと思っています。

人間は内発的に行動すると。子どもが教えてもいないのに歩いたり話したりするように、会話を内発的に学び、行動に移していきます。そして未知の価値、新しいものを生み出してきました。パターン化したものよりも、新しいパターンを生み出すことが得意なんですよね。

一方で、ここが大きな違いなんですけども、AIはプロンプト、指示を与えないと今のところ動きません。すべてはその指示通りに動くと。AIが自分で判断して勝手に動いちゃったら、大変なことになるんですね。ある特定の分野においてはいいかもしれないですけど、やはりこれだけは、できてもやらせちゃいけないところじゃないかと。

(AIができるのは)既存の価値観の効率化なんですね。今すでにあるものからしか考えない。基本的にはAIは、いろんな情報をWeb上から拾ってきて、瞬時にそれに回答していくわけですけど、情報をベースにしてパターンからしか答えない。

ここで違いをまとめると、要は内発的動機。自分から「何かやりたい」という衝動を起点とした部分が人間のやってきたこと。そしてそれはアーティストが作品を自ら生み出していこうとするのと同じじゃないかと。

さっき見せたように、プロンプトを与えればAIは最適な答えを出してくるんですけど、今のところAIが自分から書いたりはしないところが、大きな違いですね。それを「妄想して作品を生み出していこう」とするのが人間のこれからの価値になってくると。

正解や生産性よりも「創造性」が重要視される時代

AIの導入によって、労働人口の49パーセントの仕事がなくなると言われています。これはもう加速してますよね。もう本当にどんどんなくなっていくと思います。AIとかロボットに代替可能な仕事はこれだけあるよという話なんですけど。

『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』という本の中に登場するニール・ヒンディさんが言ってるんですけど、「機械に職を奪われそうな人は、いかに創造的な仕事に就くかを考えなければならない」と。

これはAIとか機械に仕事が奪われるんじゃなくて、重要なのは分業だと思うんですね。人工知能は最適解、正解を作るものであって、ロボットはとにかく生産性(を上げて)ジャカジャカ作ってくれる。

人間の領域は、経験から「創造性」と「想像性」という2つですね。創造性(クリエイティビティ)と想像性(イマジネーション)です。(AIに仕事を)奪われるとか奪われないとかよりも、ちゃんと分業していけばいいんだってことなんですね。

さらに今、VUCAがどんどん進んでいます。この言葉も聞いたことある方がいらっしゃると思うんですけども、変動が大きくて不安定で不確実で複雑で曖昧と。もうどんどん人工知能が進化する中で、予想ができないような要素が絡み合ってきています。

結果的に経済はもう成長せず人口も増加しない。そうしたら経済は衰退するので、やはり新しい価値を創造しないといけないと。テクノロジーは加速度的に進歩するので、人工知能やロボットと、人の分業をちゃんとしなきゃいけない。この分業は、正解とか生産性よりも創造性がこれから重要視されるってことなんですね。

経済の衰退と予測不能の世の中でも、企業はどうしても右肩上がりで事業計画を考えなきゃいけないのは基本ですよね。そうすると今まで通りやっていても、人口も減るし作る人も買う人もいなくなってくるし、もう本当に複雑化して人工知能の仕事の領域がどんどん増えてくる。自分たちがどうやって新しい価値を作るかという時に、価値創造が重要になってくると。