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ダイアローグ出版記念セミナー「共感を生む真の対話とは」(全6記事)

被害者多数…「対話の場」を壊してしまう人の特徴 互いが学びを得られる対話を実現する「5つの基礎力」

「ニッポンの「学ぶ力」を変えていく。」をミッションとする一般社団法人21世紀学び研究所が主催した『ダイアローグ』出版記念セミナーに、著者の熊平美香氏とサンリオエンターテイメント代表の小巻亜矢氏が登壇。組織開発にも欠かせない対話の効果や、ピューロランドでの対話のルールなどが語られました。 本記事は、2023年8月23日に開催された講演の書き起こしになります。

『リフレクション』と『ダイアローグ』の著者・熊平美香氏が登壇

熊平美香氏(以下、熊平):みなさん、こんばんは。お忙しいところお集まりいただきまして、とてもうれしいです。『ダイアローグ~価値を生み出す組織に変わる対話の技術~』という本を出版しまして、少し時間が経ってしまったんですが、今日は出版記念セミナーということでお時間をいただいております。

そして今日は、のちほどご紹介させていただきます小巻さんにもご参加いただきまして、パネルディスカッションで、対話についての会話を深めてまいりたいと思います。

その前に私からこのセミナーの趣旨について、そして本の内容について紹介させていただきます。あらためて私の自己紹介をさせていただきますと、以前『リフレクション〜自分とチームの成長を加速させる内省の技術〜』という本を書きました。この『リフレクション』と『ダイアローグ』はペアで実践するものです。

ですので、片方だけではダメだと思っているんですけれども、残念ながら『リフレクション』の中で対話を全部盛り込むことが不可能だったので、2冊に分けたという経緯がございます。

リフレクションに関しては、(経済産業省の)「人生100年時代の社会人基礎力」でリフレクションを取り上げていただいたり、Eテレで『アクティブ10 プロのプロセス』という中学生向けのリフレクションの動画を作っていただいたり、リフレクションがいろんなかたちで日本の当たり前になるようにと、微力ながら活動しています。

2003年から、リフレクションは学校教育でとても大事なものだと言われていまして、義務教育の中で子どもたちが学ぶべきこととされています。残念ながら、大人がそれができていないと子どもに届かないので、私は大人に向けて広める活動をしています。

ダイアローグについても、この言葉を知らない人はいないと思うんですけれども、対話という言葉がいろんな文脈で使われています。対話がもっと活かされると、それこそ厄介な問題の解決もそうですし、もっと創造的に共創的な活動が広がると思っています。

社会でそこまでの使われ方はまだされていないのが問題で、その使われ方が広まるようにとこの『ダイアローグ』という本を書きました。ダイアローグ、対話は、自己内省が基本にあり、評価判断を保留にして他者に共感する聞き方、そして話し方が大事になります。ですので、いつも「リフレクションができない人は対話の席には座れない」と言っています。

コミュニケーションの中で頻繁に発生する誤解

熊平:『リフレクション』の中で認知の4点セットというものを紹介していますが、対話の中でもこの認知の4点セットを使って、自分の考えについて「なぜそう思うのか」「自分がどんな経験をして、どんな気持ちで、何を大事にしているからそう思うのか」といったことを自己内省していきます。

他者の考えについても同じように、「他者がなぜそう考えるのか」「他者にはどんな経験があって、どんな感情、どんな価値観がそこにあるからそう考えるんだ」と、他者の考えについてもしっかりと共感していく。

このアプローチをみんなができるようになると、いろんな違った意見が出てきても、そこからたくさんのことを学べて、その先にある問題解決や創造に向かう力になると考えています。

ところが、よくある間違いが世の中に存在しています。例えば、人の意見だけを聞いて「そうだよね」と思っていても、それは自分の経験に当てはめて解釈をしていて、実は相手が本当に言わんとしていることは聞けていないことです。

例えば「一番おいしいのはカレーだよね」「そうそう、私もそう思う」というふうに盛り上がっていたとしても、2人の頭の中に思い描いているカレーは同じではないかもしれない。

こんなことが私たちのコミュニケーションの中にたくさん起きていて、そういう一つひとつの誤解が、いろんな難しいコミュニケーションの要素に発展していくこともありますし、残念ながら結果に添えないこともあると思います。

また、最近、多様性の世界で、「認知には多様性がある」と言われていると思います。私たちは経験をとおしていろんなことを考えますので、私たちが何かを捉える時、事実を捉える時の背景にはそういった経験があります。

ですので、ここまでの私の話を一緒に聞いてくださったとしても、同じ話をみなさんが同じようには聞いていないということなんです。同じ事実は拾っていないし、事実を拾っていたとしても、その解釈には自分の背景が加わります。ですので私たちは、1人では学べないということにも意識を向ける必要があると思います。

「対話の場」を壊してしまう人の特徴

熊平:書籍の中では「みんなの対話の基礎力」を提案しています。5つの基礎力といっているんですが、「メタ認知」「評価判断の保留」「傾聴」「学習と変容」の4つのステップで進め、かつ、自分が今何をしているのかを「リアルタイムにリフレクションする」という5つの要素。これが対話の基礎力になります。

特に、対話の席に「評価判断の保留」ができない人が1人でもいますと、対話の場が破壊されます。どれだけ自分の基礎力があったとしても、他人の対話の基礎力で対話の場が壊されるという経験を、たくさんの方がしているんじゃないかと思うんです。

ですので、ぜひみんなでこの基礎力を守ろうという方向で対話が広がっていくといいなと思います。みんなが「今、評価判断を保留しているよ」と平気で言い合えるようになれば、たぶん多くの人たちが評価判断を保留にすることが上手にできるようになると思うんです。

そういうふうにできますと、対話をすることでお互いにたくさんの学びを得ることができることになります。一人ひとりの学びがみんなの学びになっていきます。

組織開発にも欠かせない対話

熊平:対話の効果はその他にもたくさんあるんですけれども、少しだけご紹介したいと思います。組織開発をされる方には定番のフレームかもしれませんが、組織の成功循環モデルという、「関係性の質」が、「思考の質」「行動の質」「結果の質」につながっていくという、システム思考者が作ったフレームワークです。

関係性の質は当然、コミュニケーションによって再起されると思います。対話の力が関係性の質を高めます。

意見、経験、感情、価値観のフレームワークを使うと、大切にしている価値観まで聞き取ることができるので、相手をより深く理解することもでき、関係性の質がグッと高まります。そういうコミュニケーションを積極的に取ることができれば、心理的安全性が高まります。

もちろん心理的安全性がないとそれができないというご意見もありますが、誰かが始めなければ、そういうコミュニケーションは始まりません。ぜひみなさんも、できる場所があればどんどんそういうコミュニケーションを広げていただいて、心理的安全性を高めていくことに貢献していただきたいと思います。

また、共有ビジョンの形成においても対話は欠かせません。ビジョンは1つでも、そのビジョンを大事だと思う理由が一人ひとり違う。自分が大事にしている動機がビジョンと結びついて初めて自分ごと化できます。

なぜ自分にとってこのビジョンを実現することが大切なのかという、自分ごと化した問いに対する答えを、お互いが話し・聞き合う対話をすることで「自分ごと化の連鎖」が生まれます。

やがてビジョンが共有ビジョンになっていくというこのメカニズムは、本当に対話の力によって支えられていると思います。ですので、組織開発においても、対話は欠かせないのです。

今日を機会に、対話にはまだまだやれることがあると対話の可能性を信じていただき、みんなで対話の基礎力を身につけることを広めていただく。エバンジェリストになっていただきたいと思います。

今日の会では、これからみなさんと対話を深めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:熊平さん、ありがとうございました。

サンリオエンターテイメント社長の小巻亜矢氏が登壇

司会者:続いて、株式会社サンリオエンターテイメントの小巻さま、お願いいたします。

(会場拍手)

小巻亜矢氏(以下、小巻):ご紹介いただきました小巻でございます。簡単に自己紹介をさせていただきます。現在は、サンリオエンターテイメントという会社の代表をしており、その他にいくつかの社外取締役を担っております。

「Hellosmile(ハロースマイル)」という子宮頸がんの予防啓発活動や、「Hello Dream(ハロードリーム)」という、主に自分の近しい人たちとのコミュニケーションをより円滑にするための、まさに対話、コーチングという手法を、深く長くしっかり学ぶことはなかなか難しくても、2時間程度の講座で、みなさんがお子さんとの関係や職場の関係の中でコーチングを活かせたらいいなと、もう15年このNPO法人をやっています。

SDGs(一般社団法人SDGsプラットフォーム)のほうは5年~6年になりますが、まだSDGsが世の中にあまり知られていなかった時に、まずは知っていただこうと立ち上げたプラットフォームになります。

いろいろとやっておりますが、もともと大学を卒業して入った会社がサンリオで、そこで1年半ほど仕事をしたあとに専業主婦を11年やり、いろいろなことがあって社会復帰しました。

その時はサンリオとは縁のない会社で、化粧品の販売などをしていたんですが、30代、40代などいろんな世代、いろんな環境にいる主に女性と出会うことで、一人ひとりが自立して幸せに生きるには、やはり自分を知ることが不可欠だな、自分を知った上で経済的にも精神的にも自立することが大切だと思いまして、40代半ばで3年半コーチングを学びました。

その時に熊平先生がお書きになった『リフレクション』で、リフレクションのパワーをすごく体感しまして。それから、自分の仕事としてできるだけいろんな人にコーチングを伝えていくことで、1人でも多くの方がリフレクションをして、対話を楽しみ、自分の行きたい方向に行けたらいいなとやってきました。

その中で一番大きかったのは、自分自身の内省と自己対話の中で、自分のやりたいことがその時期その時期でとてもクリアになったことです。50歳を過ぎていましたが、自己対話の中で、世の中にどんな自己理解の研究があるのか、どんな手法があるのかをもっと学びたいという自分の心の声が止められないほど大きくなりまして、仕事をしながら東京大学大学院に行きました。

対話する場の構造化

小巻:そのあと、それもライフワークにしようと思っていたんですが、いろいろな状況がありまして古巣のサンリオグループからテーマパークをやってみないかということで現在に至っています。

テーマパークに赴任して9年が経ちましたが、自分自身はエンターテイメントのプロフェッショナルでも組織開発のプロでもなかったんですが、自分にできることの強みはやはり対話だったんですよね。

私が赴任した当時のテーマパークは業績が非常に悪く、すべてにおいてフリーズしている状態。特に社員同士がお互いに遠慮していたり、自分自身もモチベーションが低く、そしてビジョンも見えていないという、本当にすべてが凍りついているような状況でした。

そんなところに赴任して「よし、私が業績をV字回復するぞ」というよりは、私にできることは、対話をとおして一人ひとりが固く閉じている心を少しでも柔らかくする。そもそも何でピューロランドで働こうと思ったのか。今まで働いてきて一番うれしかったことは何か。そして一番大変だったことは何か。この先どんなことができたら、もっともっと素敵な会社になると思うか。

聞かれもしなかったそんな対話をお互いにすることで、最初は「そんなこと照れくさくて話せない」という社員もたくさんいたんですが、対話フェスや毎朝の朝礼の仕組みを作って、対話する場を構造化したんですよね。

ここから一人ひとりが、自分がなかなか見つめることができなかった「やる気のスイッチ」のようなものを見出すことができたんですね。互いに対話をすることで、部署の壁も取っ払い、直近ではコロナ禍もありましたが、おかげさまで、非常に良いチームになっているんじゃないかと思います。

ピューロランドでの対話のルール

小巻:「対話大切ですよね。対話しましょう」とか、「リフレクション、自分を見つめてみましょう」と言っても、なかなかやり方がわからなかったり、普通に話をしていることが対話と思っている方もたくさんいるので、最初にピューロランドの中で1つのルールを決めました。

それは、どんな場でも、リフレクションとかダイアローグじゃなくても、人とコミュニケーションを取ったり自分自身と対話をする時に、「やさしく話す」「あたたかく聴く」というグランドルールです。

すごく簡単なことですが、やるのはわりと難しいことで、「やさしく話す」とは、相手に伝わるような言葉を選び、相手に伝わるような熱意を持ち、相手に伝わるようなスピードで、相手がちゃんと聞いてくれているかなという様子を見ること。

そして聞く側になった時は、「あたたかく聴く」というところ。コーチングの手法ではあるんですけれど、話している時に頷くとか「聞いていますよ」という態度、視線を送るとか。1対1で話している場合であれば、少し「ああ、そうなんだ、水曜日そんなことがあったんだ」というように少し繰り返してみることもそうです。

何よりも、とても大切なのは、さっきの熊平さんのお話にもあったんですけれど、思い込みとか「どうせこいつの話はつまらない」とか、自分とは考え方が違うということを1回横に置いて、好奇心全開で聞くこと。そのことを「あたたかく聴く」の本質としてやってきました。

私が社長として本当に大切にしてきたのが対話で、熊平さんとのご縁があってこの場に呼んでいただけたことに感謝申し上げます。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:小巻さま、ありがとうございました。熊平さまのお話、小巻さまのお話を聞いて「それは私も日々実践しています」という項目があった方はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

司会者:みなさん控えめですね。コーチングまでいかなくても、対話や聞く姿勢について何かしらのことをみんなで一つひとつやっていく取り組みをされている方はどれくらいいらっしゃるんでしょうか?

(会場挙手)

司会者:ありがとうございます。すばらしいですね。ちょっと突っ込んで、今日は『ダイアローグ』の出版記念ですけれども、読んだ方はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

司会者:ありがとうございます。とても割合高いですね。今日はいろんな話の中で、本にあるエッセンスや、日頃みなさまが実施されている中で「これってこうすればよかったのか」とか、「実施してみたけれども、なかなかうまくいかないな」ということのヒントがあるかもしれません。

また、聞いていただいたあとに対話の時間もありますので、質問があったらメモなどしておいていただければと思います。

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