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ダイアローグ出版記念セミナー「共感を生む真の対話とは」(全6記事)

上司の形式的な1on1を変えたい時に使える「中断のスキル」 有効な「対話」につなげたい、部下からできる働きかけ

「ニッポンの「学ぶ力」を変えていく。」をミッションとする一般社団法人21世紀学び研究所が主催した『ダイアローグ』出版記念セミナーに、著者の熊平美香氏とサンリオエンターテイメント代表の小巻亜矢氏が登壇。企業にとってのリフレクションや対話のメリットや、いきなり1on1を任された上司の悩みなどが語られました。 本記事は、2023年8月23日に開催された講演の書き起こしになります。

前回の記事はこちら

企業にとってのリフレクションや対話のメリット

久保田博氏(以下、久保田):そろそろ対話会に移る時間ですけど、最後に。今までのお話は気持ちの面のお話が多いんですけど、業績、経営、企業成長と、リフレクション、対話、共感、関係性について、何かお考えなどをうかがいたいなと思います。

小巻亜矢氏(以下、小巻):会社って箱ではなく、一人ひとりの人です。なので、業績的なことで言うなら、一人ひとりのパフォーマンスが最大化するようにする。人づくりという言葉もありますけど、一人ひとりのリフレクションを促し、成長にコミットする。お互いの成長を喜べることは不可欠なので。

よっぽどの特許があれば、人ではなくて技術で引っ張っていく会社もあっていいと思うんですけど、多くの会社は人なので。そこは間違いなく不可欠だと思います。

熊平美香氏(以下、熊平):おっしゃる通りだと思います。やはり会社は使命があって、目的があって、その目的をまっとうするために人がいるわけですよね。みんなその場所を選ぶわけですけれども、その選んだ場所の目的のために人がそこにいる。

でも、目的がぼんやりとしている人もいたりしますよね。そうすると、当然ですけどエネルギーはそれほど高くなくて、いくら能力があってもエネルギーが高くないと、あんまり大した仕事にはならない。

かつ、1人でやっていることばかりではなく、いろんな連携をしないといけない。部門の壁も越えないといけない。いろんな利害があって調整しないといけない。いろんなことがある中で、やはり自分中心で何かをやる人だと場は破壊されていくだけで、コラボレーションのエネルギーは高まらないと思うんです。

いずれにしても、リフレクションと対話があることで、一人ひとりが目的を達成するために最大のパフォーマンスに向かっていく。そして、それを喜んでやる。結果として、喜びを得るリワードもちゃんとついてくるんだと思います。

結果が出ないと、やはり誰も幸せではないので。会社の結果が出ていない時は、みんなもあまりいい感じではないんですね。結果が出ることはみんなの幸せだし、でも結果を出すのはみんなだし。

このループというか関係性をしっかりとポジティブに回していくためにも、リフレクションや対話はとても大事なものだと思います。

ネガティブな素材を学びのタネに変える

小巻:場を壊す人がいる、こういう言い方もあんまり好きではないんですけど、腐ったミカンみたいなのは、現実には絶対あるんですよ。ふだんはそうではないのに、たまたまその場でそういう発言が出てしまったりする時もあるので。

でも、それをラッキーだと受け止めようと思っていて。そのことをきっかけに、何が起こるかをみんなで学ぼうとしていくんですよね。

だから基本的な話になりますけど、「何が起きても大丈夫」と言いたかったんですね。どんなネガティブな素材がそこに入っていても、すべてを学びのタネに変える。

「こういうことがあったおかげで気づけたよね。こういうやり方がダメだって気づいたよね。その役をやってくれてありがとう」と誰かがフィードバックすると、腐ったミカン的な役を引き受けてくれた人も、少しずつ健全なミカンになっていくことも、実際にあった話です。

なので、人は先ほどの話で、ネガティブだったり、破壊的だったり、わざとぐちゃぐちゃにしたい気分の人も、組織が大きくなると必ず出てくるんです。全部台無しと思わないで、「大丈夫。その人がその役をやってくれてサンキュー。じゃあここからどうする? これからいくらだってそんなことは起きるんだから、この場でそれを、私たちがみんなで体験できたことに感謝だね」と誰かがうまくフォローして、場を取り繕う。

本当に縫うんです、ソーイング。縫っていけば、組織はちゃんと立ち直るので大丈夫です。

熊平:いいと思います。本当に小巻さんのお話でいいなと思うのは、その心ですね。心がとても安定している。

小巻:(笑)

熊平:少々の物事で動揺しないし、むしろすべてのことを良い方向に向かうエネルギーや材料にしてしまうんです。

小巻:そうです。

熊平:たまたま昨日、サイボウズの青野(慶久)さんとお話をさせていただくことがあったんですけど。

小巻:そうですか。

熊平:彼も同じような感じですね。

小巻:経営をしていると鍛えられますよね。

熊平:「何が起きてもすべて使える」と言っていました。

小巻:使える。

熊平:ありがとうございます。

上司の形式的な1on1を変えたい時に使える「中断のスキル」

久保田:では、対話会に入りますので、ぜひみなさんにも参加していただきたいなと思います。質問、感想、フィードバック、主義主張、ご意見、何でもかまいません。はい、さっそくありがとうございます。

質問者1:いろいろ貴重なお話をありがとうございました。私は社内でキャリコンをやっていて、部署の中ではメンバーとして動いています。

先ほどのお話の中で、上司が関係性を作りにいくお話をされていたのと、形式的な1on1になっているよねというお話もあったと思います。部下側から関係性を作りにいこうとしても、上司が見ているところが形式的な感じだと、下から働きかけるのが難しいのかなという質問と。

形式的というお話から感じたのは、先ほどスキルのお話も出てきましたが、スキルはたぶん、みなさん傾聴が必要とか、そういう話は知っているし、学んでいる。

逆に1on1とか対話で、感情が乗ってこない、形式的に傾聴っぽいものをされて終わってしまうのを、良くしたい。キャリコンとしてもだし、部下としても、チームのみんなも良くしていきたいんです。

もし小巻さんや熊平さんが、下の立場から対話を持ちかけるとしたら、どのような工夫などをされるでしょうか? もし案がありましたら、教えていただきたいなと思いました。

小巻:「そんなふうに聞いてもらっても話せないですよ」と言ったら身もふたもないので(笑)

コーチングに、中断のスキルというものがあります。私はすごくよく使うんですね。うまくいかない時に、「ちょっとこの時間をもらっていいですか?」「実験してみてもいいですか? この対話の進行役を、今回自分にやらせてもらってもいいですか? ちょっと興味があって」みたいな感じで、するっと入って、自分が上司の方に「最近どうですか?」と。

働きかけたあとの自分に残るもの

小巻:でも、なかなか感情が乗ってこないとか、「そんなこと聞かれても」みたいな相手も中にはいるんですけれど、最初からうまくいかないことをちゃんと自分に許してあげる。

15分なのか30分なのか、苦心しながら一生懸命働きかけても乗ってこないで、「やっぱりダメだなコイツ」と思ってしまうかもしれません。けれど、それを終わった時に、2人の関係性がどう成長しているかという話を先ほどしたと思うんですけど。

2人の関係性は、思っていたことの10分の1くらいしか成長していないかもしれないけど、そのあとには、自分の成長は必ず残っているんですよね。「自分が工夫してみた」「自分が勇気を出した」「自分が上司に働きかける」というチャレンジができたことで、それは本人にとってものすごく成長の30分になっていると思うんです。

「対話がうまくいきました」というところでは花丸をあげられないかもしれないけど、少なくともムダではない時間を過ごした。その繰り返しです。辛抱強くやってみられるといいのかなと思います。最初からは本当にうまくいかないよね。だけど、自分が実験をしてみるというチャレンジは、やってみる価値はあるかなと思います。

あと、上司ではなく、横の関係とか斜めの関係で少しやりやすそうな人とか、友だちとでもいいので、何か普通の会話じゃなくて、対話を意識してそういうトレーニングをやってみるとか。

面倒くさいんですよ。だけど、それをやることで必ずその方にとってのギフトがあるので。特効薬はないんですけど、きっと自分のためになっていくと思って、やってみられるといいのかなと思います。

すみません、私が答えてしまって。

いきなり1on1を任された上司の悩み

熊平:いえいえ、どうぞどうぞ。

そう見えている方も、意外にうまい1on1をやりたいと思っている人がすごく多いのは、事実として私は経験しています。なので、あまり得意じゃないことで、「この人は話を聞きたくないんだろうな」と部下が思ってしまうのも、ある意味思い込みだなと思います。

そもそも1on1の導入も、私はすごく上司にとってかわいそうだったなと思うんですよ。というのは、面談だって年に1〜2回やっているかどうかぐらいで、フィードバックをそもそもちゃんとやっていないのが前提で、いきなり部下のための時間として「1on1をやりましょう」と言われたわけじゃないですか。

だから、上司は「この時間をいったいどうすればいいのか」とすごく悩んでいます。しかも研修をやると、上司のほうばっかりいろいろ言われるんですけど、部下のほうはちんぷんかんぷんなわけですよ。

でも部下の時間だから、本当は部下がテーマを考えないといけないんだけど、部下が「この時間はいったい何ですか?」と上司に聞いてしまうみたいな。逆の状況も起きたりしています。なので、上司が気の毒なのは、私の頭の中には1つあります。

その上で、「実験」はすごくいい言葉だなと思いました。部下のための時間なので、本当は部下が設計してよくて、だから部下が「こうやりたい」という思いを持つことはすごく健全です。

「やりたくない」と言われたら悲しいなと思うんだけど、「やりたい」と言ってくれるんだったら、共通の本とか、「この本をちょっと一緒に読んで、一緒にやってみませんか?」とか、一緒に型を作っていくみたいな提案などもできるのではないかなと思いました。

質問者1:上司の苦労はキャリコンとして聞いていて、存じあげていました。ありがとうございます。

熊平:はい、ありがとうございます。

久保田:ちなみに僕の会社、僕の部では、1on1もやっているんですけど、チームメンバー全員で、先ほどの意見、経験、感情、価値観、リフレクションを部長も含めて順番に発表してフィードバックをやっています。そうすると、部長もいい経験になる時間になる。

例えば、「今週の成果は何ですか?」みたいな問いを立てて、それに対してみんなが意見、経験、感情、価値観を書いて持ち込んで順番に発表していくと、部長も安心というか。「そこに参加していればみんなに伝わるんだな」みたいな感じで、一緒に取り組めたりします。

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