西村氏が考える「社長の仕事」

司会者:著書の中では「にしたんクリニック」の事業を思いつかれたのは2020年の7月20日ということで、ちょうど3年というところですね。

西村誠司氏(以下、西村):(笑)。

司会者:「にしたんクリニック」も「イモトのWiFi」があってだとは思うんですが、既存事業でどんどん知名度を上げてもどこかで頭打ちになるかもしれない。「イモトのWiFi」の時は、コロナで少し事業環境が変わったところもあります。

新規事業をどう伸ばしていけばいいのか。もしくは、既存事業の中で知名度を上げていったほうがいいのか。もしくは新規事業で知名度を上げて、新しいことをしていったほうがいいのか。事業の伸ばし方について、少しお話をうかがいたいなと思います。

西村:僕は「社長である自分の一番の仕事って何なのかな」と考えています。未来の事業や未来の売上を作ること。つまり新しいネタです。「イモトのWiFi」も自分が考えましたし、「PCR検査をやろう」とか、今は不妊治療にチャレンジしていますが、すべてが僕が考え出して始めた新規事業です。

うちの会社でも、過去に社内で若手を含めて新規事業のアイデアを出してもらったことがあります。140件ぐらい集まって、そのうちの1個をやったんだけど、結局うまく当たらなくて。それがダメだと言っているわけではなくて、僕は社長が社長たるゆえんは、新しい事業プランを考え出して、儲けるネタを作り出すことかなと思います。

「次の新しいネタ」を探すことの重要性

西村:うちの社員から僕を見た時に、「やはりそういう当たるネタは全部社長が考えているからね」だと、誰も何も言えない。今当たっているネタの半分以上が社員発案であったらそうはいかないんですけど、「結局社長はなんやかんや言って、困ったら絶対ヒットするネタを出してくれるよな」と。

だから僕は「社長の仕事ってそこにあるのかな」とまず思うんですよ。トップの仕事は新規事業や新しい将来の飯のネタを作り出すこと。だから絶えず社長は、「次に何をやったら売上、利益が出るんだろう?」ということにコミットしていかないといけないと思います。

どんな商売をやっていても、例えばトヨタ自動車ぐらい大きなビジネスをやっていても、NTTドコモやKDDIみたいな携帯事業だって社長が次の売上作りにコミットしていかないといけない。

AmazonやスペースXが、衛星をすでに打ち上げていますが、1,000円を切るような価格で世界中どこでもみたいなサービスを出してきたら、あれ(トヨタやNTTドコモ)ぐらいの大きな会社でも、1個や2個潰れるぐらいのインパクトになる。あれぐらいの会社もピボットしていかないといけないと思うんですよ。

昔だったら1つの事業が10年単位で存続し得たのが、盤石だと思えることも、下手をしたら10年も経たないうちにマーケットの半分以上、もしくは3分の2を失う。もしくはなくなるリスクがある。

「そういうのがそろそろなくなってくるだろうから」と見越して、新しいビジネスを作らないといけないとかではなくて。どんな会社でも四六時中、「次の新しいネタは何だろう?」と考えなければならず、僕はそれをやるのが社長の仕事かなという気がします。

「ヒト・モノ・カネ」が限られる中小企業における社長の働き方

司会者:なるほど。とはいえ、いきなり新規事業に全部のリソースを振ってしまうと、売上が立たなくなってしまうので、経営者のお仕事のもう1つが、リソースをどう配分するのか。

特に中小企業は、ヒト・モノ・カネがなかなかない中で、既存事業もやりながら新規事業もやると、「どうしよう」という迷いが出ると思うんですが。

西村:それは「社長がフル回転しないと」と思うんですよ。よく相談されるんですが、社長がいて、従業員が10〜20人ぐらいの時。要するに社長の下が現場という2階層から、中間管理職を入れてどうマネジメントするか、という時です。

社長が「中間管理職にがんばらせたい」と考えるのも当然ですけど、中間管理職をがんばらせる以上に、社長がさらに2倍、3倍と働かないといけないんですよね。

自分が2役、3役と馬車馬のように働いて、既存事業は現状スタッフでやる。「リソースが足りないなら社長がやる」ということで、社長が一番働くことになるんじゃないですかね。

司会者:なるほど。

西村:当然、その下の社員も2倍、3倍と働かないといけないと思いますけど。

司会者:そこの決断は、どの時点でされるものですか? 新規事業がある程度動き出してからなのか、動き出す前から覚悟を決めてやっていらっしゃるんですか?

西村:新規事業があるからではなく、いつも覚悟を決めてやっています。ただ、僕は覚悟というより、ビジネスがすごく好きで、自分が考えたことでイノベーションを起こすとか、世の中が便利になったり、社会の役に立てたりすることが自分のやりがいであり、楽しさがあったりするので。どちらかと言うと受け身ではなく、能動的にやっています。

みなさんがみなさんそういう感覚ではないかもしれませんが、成功の秘訣はそういう感じで、やらされ感というよりは自分が前向きにやることかなと思います。

新規事業を考える際のポイント

司会者:西村さんの本を見ていると、自分起点で、社会で困っていることを見つけて動いていらっしゃると思うんですが、新規事業で何をやるかはすごく大事だと思うんですよね。その見つけ方を、西村さんはどう考えていますか。

西村:見つけ方になるかどうかわかりませんが、僕の特徴かもしれないですけど、やはり単価が高いもののほうがいい。単価の小さなものを数多く積み重ねるよりは、客単価が高いとか。1個売ったら30円、300円というよりは、1個売ったら30万円とか。1つ売れば1億円、2億円というものはあまりないかもしれないですけど、そういうもの。

かつ、極力値下げをしないまま、高い値段を維持できて粗利率が高いものをすごく意識しています。

例えば僕は今、にしたんの医療機関を複数展開するお手伝いをやっている中で、絶えず成長しているがゆえに、ドクターがいつも不足しているんですよ。一般の人材紹介会社では、例えば年俸は1,000万円とか800万円、500万円ですが、医師は年俸が3,000万円や4,000万円です。

その30パーセントだと、例えば4,000万円の人を紹介したら1,200万円フィー(手数料)が入る。例えば自分が1人で独立したとして、1人紹介するだけで1,200万円入ってくるので、年1本決めればいい。

「自分の知り合いで医師を紹介できます」となったら成り立つビジネスは、初期投資があまり要りません。体1つで、電話1本あればでき、それも高単価です。

今ベルギーのサッカークラブ「シント=トロイデン」のマーケティング責任者をやっていて、チームを強くしていくためには、チームの財源を増やさないといけません。スタジアムの収入はキャパが決まっているから限界があるし、ユニフォームのロゴのスポンサーも、胸の1ヶ所しかない。

となると、ロゴは付かないんだけど、もうちょっと下位レベルの、100万円のスポンサーを多く集めていこうと考えた時に、「自分がスポンサーを紹介するので、3割の30万円をください」みたいなことをうちに持ちかけてきたら、「それだったらいいですよ」と。

これも変な話、月に1、2件スポンサーを見つけてくれば成り立ちますよね。だから1件3万円よりは、高単価の高コミッションが1つ鍵になるのかなと。

不動産の仲介も、人材紹介もそうじゃないですか。資本やリソースが足りない時に新規事業でやるなら、「紹介だけど、コミッションの率が低くても、もともとの単価が高い物事」が大きいんじゃないですかね。

「業界の常識」を疑う

司会者:今まさに、「どんなビジネスがいいのか」をおうかがいしましたが、ジャンルとして、分野として将来性があるところ。西村さんの視点で、「こういうところが今後伸びそう」というところを教えていただけますか?

西村:すでに僕らは入っていますけど、やはり医療分野。まずマーケット自体が大きい部分ですね。特に、その業界の中ではびこっている常識があって、その常識がお客さんである患者さんの考える理想からは乖離している。ギャップがある。

人によっては既得権益だと呼ぶ部分があると思うんです。そこに切り込んでいくと、当然切り込んでいく我々はその業界の中でけっこう叩かれる対象になりますが、そこを壊していくことにチャンスがある気がするんですよね。

例えば今やっている不妊治療でも、最初にやるとなった時に、メジャーどころのクリニックの診療時間を並べたら、どこもけっこう早い時間に終わっているわけですよね。うちの場合も最初、現場に診療時間を決めさせたら、平気で9時6時と言ってきたんです。

うちが最初に出したクリニックは新宿で、近くに伊勢丹があります。僕が「伊勢丹は何時まで?」と聞いたら、「20時までです」と平気で言ってきて。「でもそこで働いている人はどうやって来るの?」となった時に、そこに頭が及んでいなかった。最終的には22時にしたんですけど、なんでそれを他のクリニックも含めてやっていないかと言うと、単純に自分たちのシフト組みが大変だからです。

「来る人は有給を取って、自分たちに合わせて来るのが当たり前」みたいなところが、本人たちも無意識にあって。部外から来るとそれが不思議に思うんですよ。常にユーザー目線で見ていると「それはおかしいんじゃないかな?」と思うんですよね。

業界が変わって、「俺のフレンチ」だとか俺のシリーズを出しているところも、飲食の原価は3割という常識を逆に疑って、原価を7割ぐらいに上げてでも回転を上げて立ち食いにして……みたいなことで、ヒットしたじゃないですか。

だから、マーケットが大きくて業界の常識をみんなが信じて疑わないようなところに入って、ブレイクするとチャンスになるのではないかと。今はそれを医療で考えています。他にも挙げたら切りがないんですけど、「不思議でしょうがない」ということはいっぱいあるんですよね。それを直していくということだと思います。

司会者:みなさま、いかがでしたでしょうか? 「知名度の上げ方」や「新規事業も含めてどう見ればいいのか」についてお話しいただきました。大変参考になりました。ありがとうございました。

西村:こちらこそ、ありがとうございました。