名を知られることの重要性

司会者:今回は、「イモトのWiFi」や「にしたんクリニック」で知られる西村誠司さんに来ていただきました。西村さん、よろしくお願いします。

西村誠司氏(以下、西村):よろしくお願いします。

司会者:西村さんはちょうど1年前の2022年の7月に、『最強知名度のつくり方』という本を書かれていましたね。

西村:あれから1年経ったんですね。

司会者:そうですよね。そこから少し「知名度」についてお話をうかがいたいと思います。著書の中で「差別化しづらい現在のビジネス環境では、知名度こそ重要」というお話をされていますが、例えばどうやればいいのか、あるいは西村さんがどうやってきたのかを教えていただけますか?

西村:例えば今日僕はこのスタジオに来ましたが、こんなところにスタジオがあることを知らなかったし、仮に知っていたとしても、Webサイトの写真で見るのと、実際に来て感じる印象はぜんぜん違う。だから何をするにしても、そのものが知られているか知られていないかが、僕はいろんなファクターの中で一番重要だと思っています。

ある会社や、あるサービスをやっているブランドを買収して運営し、そこから収益を上げるとなった時、僕も含めて世間の人がどれだけそのモノ、会社、サービスを知っているかを第一に考えて、どうリフトさせていくかが重要です。

今うちは、ベルギー1部リーグのシント=トロイデンというサッカーチームのプラチナスポンサーになっており、僕がチームのマーケティングの責任者をやらせていただいています。その時に最初に考えたのが、ベルギーのサッカーチームの日本での知名度がどれくらいで、どうやったらその知名度を上げられるか、です。

なので、タクシーによく乗られる方は、シント=トロイデンのマスコット的な女の子たちをフィーチャーしたタクシーCMを見たことがあると思います。あれも別に女の子が好きだとかではなく、どんなきっかけでもいいので、まずはチームの名前を知ってもらうために、目を引くものを繰り返し流しています。

中小企業の認知度の上げ方

司会者:なるほど。知名度については、著書の中でも家電量販店の話をされていますね。なかなか家電のスペックの違いがわからない時に、「みんながなんで選ぶのか」も知名度と一緒でしょうか?

西村:絶対そうです。例えばどこの国に行ってもマクドナルドのマークを見たら、知っていることでなんかほっとするというか。「この国のおいしい食べ物を食べたい」といろいろ探して、探し疲れて最終的にマックになるとか。やはりそれは知っているからです。

マクドナルドやコカ・コーラは1つのベンチマークというか、知っているからこその安心感みたいなのがある。それはすごく意識して行動しています。

司会者:今回の視聴者である中小企業の経営者やリーダー層の方々にも役立つお話をいただきたいと思いますが、例えば「イモトのWiFi」「にしたんクリニック」も含めて、CMなどでどーんとPRをされて認知を獲得されました。

なかなか中小企業ではCMは難しいと思いますが、それ以外で中小企業が認知度もしくは知名度を上げるために何ができるのか。もし参考になるところがあれば教えてください。

西村:何かを始めた時に真っ先にやらないといけないのは、先ほどからの話にあるように、自分が扱っているモノやサービスを人に知ってもらうことですが、今はお金をかけなくても、SNSとかの自分を発信するプラットフォームがすごく豊富にあるじゃないですか。

僕は起業して28年目くらいですが、昔はテレビなどの大きなメディアしかなかったから、なかなか小さな会社では難しかったんです。いわゆるリスティング広告のような広告も昔はなくて、あれも小さな予算から出せますよね。

だから僕が今ゼロベースで、自分1人もしくは自分プラス2~3人の小さな会社をやるとなったら、知名度向上に利用するのはTikTokじゃないかな? たぶんみんなわかっているからやっているんですかね? いわゆるSNS系でお金をかけずに、そこにエッジを利かせた何かをやって、バズらせる感じですね。

新規事業を始める際のポイント

西村:何か新規事業をやろうと思った時に、僕が絶対にやったほうがいいと思うのが、初期投資が要らないもの。例えばカフェをやろうと思ったら、お店の内装はお金が要るじゃないですか。

僕が起業した時にやったボイスメールという事業は大失敗で、最初に1,500万円もする機械を買っちゃって。1,500万円の初期投資です。当時はまったくわからなかったんですけど、電話1つ、体1つだけあればできるようなものが一番いいという話を最近はするんですよね。

例えば渋谷のハチ公前とかで手書きのボードを持って、「500円であなたのことを最高に褒めます」とか。でも意外と、おもしろおかしくやってくれる人がいたりするんです。

逆にそれを仕込んで、自分がやっているのを撮らせて、「渋谷にこんな変なやつがいた」と発信してもいいし、それをリークしてメディアの取材を入れさせてもいい。できれば同情を買って、幼稚園ぐらいの小さな子どもにやらせたほうがいいかもしれないですね。要するに元手が要らないこと。

何者かよくわからないし、みんなから気持ち悪がられるかもしれないけど、そういうことをやってみる。あわよくば500円、1,000円とお金が入る。昔は新宿に殴られ屋という人たちがいました。今もいるんですかね?

司会者:あまりいなくなりましたね。

西村:ストレス発散で、あなたの好きなだけ殴ってください、というものです。いくらかはわからないですけど、あれも元手は自分の体だけです。そういうことをやって、それをSNSを使ってメディアに取り上げてもらうとか。

自分発信のプラットフォームでそういったことをやりつつ、それにメディアの取材を入れればいいと思うんですよ。SNSの活用と、そのネタをメディア取材に載っける。

「イモトのWiFi」のPR術

西村:うちも今は資金があって大きなプロモーションをやっていますが、そういったPRネタを定期的にやってきています。「イモトのWiFi」では、5年前ぐらいに世界で最初に令和を迎える日本人を出すという企画をやったんですよ。

世界で一番早く日付が変わる国はキリバスだったかな。知り合いとか募集した人の中から、キリバスに行ってもらえる人を用意して、「イモトのWiFi」を貸して、新しい日付を世界で最初に迎える。

その瞬間をネットでつないで、「令和を世界で最初に迎えた今の気持ちは?」みたいな企画を仕込んだら、案の定テレビ局から取材依頼が入りました。

成田を出発する段階から取材が入り、「今から世界で一番早く令和を迎える男になるわけですけど、どういう気持ちですか?」から始まって、令和を迎える時も「イモトのWiFi」を使ってオンラインでつなぎました。それがテレビで取り上げられて、そこから派生していろんなWebメディアにも取り上げられた。要するにアイデア勝負です。

けっこう誤解があって、メディアの敷居は高いと思われるんだけど、意外と「当たって砕けろ」です。企画のネタさえおもしろかったら、全部は取り上げられなくても、意外とどこか乗っかってくるところがある。

あと、「イモトのWiFi」はWi-Fiを使って人と人をつなげる仕事ですけど、逆に「つながらない」を提供する、「つながらないレストラン」という企画をやったこともあります。五反田のあるフレンチレストランを貸し切って、レストランに入っている間はWi-Fiを遮断する。スマホも電波が遮断されて、その間はネットにつながらない。

最近はそういう環境がなくなって、会話よりスマホ優先になっているから、逆説的に「つなぐ」を提供している会社が「つながない」を大事だと言う。そのギャップがメディア受けして、フジテレビの23時台ぐらいのニュースの取材が入って、「つながらないレストラン by 『イモトのWiFi』」でテレビ露出したりとか。だから、企画次第でそういうのが成り立ちます。

他にも、僕はWi-Fiをレンタルする仕事をしていますが、「Wi-Fiをレンタルしている会社の社長が、社長自らをレンタルします」という企画をやりました。僕をYahoo!オークションに出品したんですよね。僕のスペックやメリットをおもしろく書いた特設ページも作って。

それがYahoo!ニュースに取り上げられて、Yahoo!ニュースを見たメディアの人から落札した人たちに同行取材したいという依頼も2件入りました。山梨県でペットホテルをやっているオーナー夫妻が落札してくれて、僕が山梨まで行った時の様子も記事になって。

それがきっかけで、テレビの『アウト×デラックス』から番組に出ませんか?」と話が来たり。もとがあって、派生して、2次メディアに取り上げられて、ここがまた派生して、と連鎖していった。3つぐらい例を挙げましたけど、こういったおもしろい企画を考えています。

お金をかけずに成果をあげる工夫

西村:創業から3年はお金がなかったけど、自分のアイデアを出すのはお金がかからないので、いろいろアイデアを出したことを本にも書かせていただきました。営業へ行く時に、腕が折れていないのに腕が折れたふりをした話は本に書いたかな? 自分で書いておきながら何の話をしたかを忘れてしまいました。

10人、100人と飛び込み営業をする中で、自分が印象に残るためには何かが要ると考えた時に、子どもの時にガミガミ言う母親が、熱を出した時は急に優しくなると気づきました。人間は相手がけがの状態だと優しくなる。

けがをした状態で営業へ行けばいいし、骨折をしていると見た感じでも目立ちます。

何回も同じところに飛び込みをしていると、対応してくれる人もそこの社長に「なんかけがをした人が来ました」と言って。「けがをした人」で定着して、話を聞いてもらえたりだとか。その時も「お金がないからアイデアを出せばいい」と思っていました。

あとは、自分の名前を変えてみたりとか。例えば「山田」とか「田中」より、その時々の旬な名前や、珍しい名前にしてしまうと、それだけで会える確率が上がったりします。いろいろ考えていたんですよね。

河原にある石に字を書いて送る話とか、忍者の巻物みたいなのに書いた話とか。本に書いたかな?

司会者:ありましたね。

西村:メディア露出、ネタ、PR。これはお金がかからないので、自分のPRをメディアに売り込んで、最初はけんもほろろでも、僕が今言ったように、粘り強く何回もしつこくやっていれば、いつか話を聞いてくれるんじゃないですかね。

だいたいの人は1回や2回で諦めてしまうけど、さすがに365日、毎日飛び込みでしつこく来た人には会いません? でもこれ、女性のほうが早く会ってくれるらしいですよ。さすがに1ヶ月連続で来たら会うみたいです。

司会者:なるほどなるほど。

西村:気持ち悪いけど。

司会者:(笑)。

西村:でも28年間やってきて、そんな人に会ったことない。

重視するのは、コンバージョン率より「知ってもらっている率」

司会者:1つおうかがいしたいのですが、ちゃんとターゲットを絞って、特定して、その人たちに届くようにしたほうがいいとマーケティングで学んでいる人もいらっしゃると思いますが、そういった考え方についてはどう思いますか?

西村:ぜんぜん間違っていないし正しいです。僕もターゲットをある程度絞る考え方は持っているんですけど、別にそこにこだわっていない部分があるなと思います。

司会者:なるほど。

西村:「マーケティングとは自分たちのことを知ってもらう数で、知った人の何割が購入につながるというコンバージョン率をかけ合わせれば受注数になる」みたいなところだと思いますが、僕はコンバージョン率は見るけど、そこまで重視していないというか。

それよりも「知ってもらっている率」が100パーセントでない限り、ここのレートをとにかく上げていく。もちろん両方を上げてかけ算する方法はあるんですけど、一点突破にしたほうがわかりやすい。

司会者:なるほど。

西村:なのでCMを作る時に意識するのも、メッセージを複数交ぜるよりは一点突破です。例えば「にしたん」の4文字だけとか、こだわりは曲やサウンドだけ、と絞ったほうがけっこう刺さる。全員に受けるものを作る必要がなくて、特定のところに刺さるもの、エッジを利かせていくことではないかと思うんですよね。

SNSは参入しやすく、いろんな人が競争相手でいるぶん、万人受けするものではなく、多少炎上するようなネガティブなリアクションがあろうが、そこを攻めていく。むしろネガティブな反応があるぐらいのほうが裏を返せば刺さるので。

昔はみなさんの思考が似ていたけど、今は多様化しているので、むしろエッジを利かせたほうがいいのではないですかね。