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なんとなく指導から脱却! 教えるべきか、任せるべきかの分かれ道(全4記事)

「転職すると逆に不利」な状況が、人材開発の壁に 日本で管理職の育成が進まない“一番の問題”

人材育成で悩んでいる人事担当者、部下指導を「なんとなく」で行っている管理職が、感覚的な指導から脱却し、部下の活躍を促すために有効な打ち手について、株式会社PDCAの学校 代表取締役の浅井隆志氏が解説。本記事では、日本の管理職を取り巻く実態を明かします。

“自分は指導できている”と勘違いしている管理職は多い

浅井隆志氏:本日は「なんとなく指導から脱却! 教えるべきか任せるべきかの分かれ道」ということで、日頃からコンサルティングや管理職研修でも取り扱っている内容を、一部お話ししてまいりたいと思います。

株式会社PDCAの学校代表取締役の浅井でございます。本日の内容は、まず「管理職育成の企業の実態」は、私どものウェビナーにご参加いただいている方は何度か聞いたことのある話かなと思いますので、今日初めてお話しする内容のウェイトを重く、あとはサラサラっと行きたいなと思っております。

「状況別で見る指導の方向性 教えるべきなのか、任せるべきなのか」というのが本日の本題ですね。これを踏まえて、部下の成長を促すためにはどうしていくのか? というお話をさせていただきたいと思います。

まず、管理職の実態といたしまして、「指導できている」というふうに勘違いされている管理職の方が非常に多いという背景があります。当然、プレイングマネージャーの問題もあります。

組織のあらゆる課題について、「原因は何でしょうか?」という問いかけをさせていただきますと、みなさん総じて「コミュニケーションが不足している」とお答えいただきます。これ、合っているようで合っていないなと、僕はいつも感じています。

逆に「コミュニケーション不足」が逃げ道になっていて、コミュニケーションが活性化すればすべての問題が解決するのかというと、もちろん決してそうではない。

「マインド」と「スキル」は別軸で考えるべき

コミュニケーションが不足していて、報告、連絡、相談を徹底することによって解決できる問題があるのは間違いございませんが、組織のあらゆる課題のすべてがコミュニケーション不足が問題かというと、決してそうではないということですね。

「(管理職の課題は)やはりコミュニケーション不足ですかね?」と、ちょっと短絡的な答え方をする管理職の方は多いなと、正直感じております。

それから経営者の方と会話をしておりますと、「管理職としての責任感や危機感が欠如している」という課題もうかがいます。この問題意識も、また問題だなと思っております。

当然、社員の能力を高めて、スキルを高めて、仕事の精度を高めて、生産性を高めていくには、管理職が及ぼす影響はものすごく大きいわけですね。

ですから、管理職の指導のスキル、PDCAを回していくスキルが非常に大事だなと思っておりますが、経営者層の方とお話をすると「(管理職は)意識が足りない」「危機感がない」「経営者的な視点を持っていない」と、断罪する。これは非常に問題だなと思っています。

なぜかというと、「マインド」と「スキル」はまったく別軸で考えるべきだと思うからです。逆に言うと、仕事に対する意識・意欲が高くても、知識やスキルがないために成果が出ていない。

もしくは知識がないために、「これをやらなければいけないんだ」というところに気がつかない。だからやってないだけであって、それは意識がないわけじゃなくて、知識やスキルがないだけの話ですよね。「仕事に対する成長意欲がない」ということでもないわけです。

9割以上がプレイングマネージャーという現状

管理職の方も同様に、若手社員に対して、成果が出ていないと「責任感がない」、工夫をしてないと「当事者意識がない」とか、よくわからないことを言っているんです。まず、これは「知識」と「スキル」の問題であることをご理解いただきたいです。

それからここはサラサラと行きますが、中小企業の管理職の97.5パーセント、上場企業の管理職員においては95.8パーセントがプレイングマネージャーであるということで、このへんは難しいですね。

うちの組織も20名足らずの会社で、私は経営者・社長という役割ではございますが、バリバリプレイヤーとして仕事をしております。中小企業の実態としては、そういう感じだと思います。

マネージャーとして専任して働いてる方はほぼいないのが現状なので、「業務が忙しくて、教育指導や会社の改善、改革、工夫という本来の業務以外の仕事ができない」というのは、ちょっと言い訳になってしまっていますよね。やはり、会社で何をするべきなのかを明確に定義する必要があると思っております。

職域や仕事の定義が曖昧な企業は多い

ちなみに1つ問いかけをさせていただきます。みなさんの会社において、部長はどういう仕事をやるべきで、どういう責任なのか。課長、係長、主任、そして一般社員は、どういう仕事や責任があるのか。

こういう設定というか、技術開発で言う要件定義のようなものが、みなさんの会社にはありますでしょうか? これがないと、正直言って本人たちもわからないんですね。僕と同じ世代の方はご理解いただけると思いますし、それから中小企業で育った方もご理解いただけると思います。

大企業では比較的しっかり定義されていると思いますが、職域や仕事の定義がなされてないのが実情なんですね。

そういう状況の中で、自分で考えて仕事をしてきたという背景がありますので、部下に対してもそういうふうにしてしまうんです。

なので、業種・職種問わず管理職に求められるのは、「業績・成果」「部下の指導育成」「部下の保護管理責任」と、最低限3つあります。部下の保護管理責任というのは、最近でいうとメンタルケアの部分ですね。

2022年の4月からパワハラ防止法の法改正がありましたように、今は職場環境の整備も会社側の責務になっています。当然、みなさんの会社におかれましても、会社ならではのやらなければいけない責務や役割等々、いろいろございます。

なので一般的なものを学ぶだけではなく、一般的なものを学んでいただいた上で、自社の管理職、自社の部長、自社の課長にはどういう定義がなされるべきなのかを詰めていく必要があるんじゃないかなと思っております。

それぞれの役職が担うスキル・知識を明文化する

これは専門的な人事領域の話になりますが、それぞれの等級や職務において必要なスキルや知識を明文化したものを、専門用語で「能力開発体系図」と言います。

「能力開発体系図」と検索していただきますと、厚労省のホームページに業種ごとの参考例がありますので、そういうものを見ていただいてもよろしいかなと思います。

IT系の企業さまですと、かっこよく言うと「ジョブディスクリプション」。ジョブは「仕事」、リスクリプションは「記述する」という意味合いですが、仕事を言語化して、求めるスキルや求める成果とか、求人の時には実際の給与や報酬についても書いておくものです。

きっちりとこういうものでなければいけない、ということではないんですが、それぞれが担う役割を明文化しておきます。中小企業を見ていますと、だいたい部長も課長も差はない。実際の差は何かというと、社歴や年齢とか、プレイヤーの時に出してきた成果とか、そういう差しかないんですよね。

マネジメントを機能させることを考えていきますと、そもそも何を担当させていくのか。一般的には事業部長というと、事業の方向性まで考えるのが事業部長ですよね。

日本では、プレイヤーとして優秀な人が管理職になりがち

日本企業の管理職のなり方を、「入学方式」と「卒業方式」という言葉で説明させていただきたいと思います。入学方式というのは、管理職に必要な能力が備わってるから管理職になること。日本ではかなりめずらしいですね。

たまにテレビニュースでも見るように、「日本マクドナルドの元CEOが、今度はどこそこの一部上場企業のCEOを務めます」みたいに、マネジメント層がそのままマネジメント層に移行してくるパターンが多いと思います。

日本において、特に中小企業において、まったく畑違いの会社なんだけれども、マネジメント能力が優れてるからとヘッドハンティングして、業界のことをそんなに知らないけどマネージャーをやってもらうというケースは、ほぼ見たことがないですね。

なので、どちらかというと(日本企業では)「卒業方式」です。プレイヤーとして成果を上げて、結果を出して、社歴や年齢、周りからの評価で管理職になっていくというパターンがあります。これは、悪い側面といい側面があると思っています。

働き方でいうと、例外的なマネジメントがけっこうあると思うんですね。いわゆるマニュアル化とか、なかなかしきれない属人的な部分があるのは致し方ない。

そうすると、会社内で培ってきた体験や経験がマネジメントに活きてくる。だから、純粋なマネジメントだけでマネージャーが務まるかというと、なかなかそうではないという背景もあるということですね。

トップマネジメントというと経営戦略になってきますので、転職してCEOが交代されるとか、CFOが変わることはまだあるかもしれませんが、現場の課長レベルで「畑違い(の業種)でいきなり課長」というのは、実情的には難しいんじゃないかなと思っております。良くも悪くも、こういう背景があります。

管理職の成長機会が少ないことが一番の問題

ただ、一番の問題が、管理職としての成長機会が少ないことなんです。日本は労働市場の流動化が非常に停滞していて、それが問題だとよく言われておりますが、これも賛否あると思います。

安定して会社に勤めるのは昭和的な働き方ではありますが、一部の業種においては、ある程度、年功序列的な要素も必要だと思ってるんですね。

例えば極端な例でいきますと、僕がコンサルをさせていただいてる電気設備のメーカーさんがいらっしゃって、地方に製造の工場を持ってるんですね。

じゃあ、(本社ではなく)工場の社員は成果主義でいいのかというと、雇用の安定性と地域の特性を考えていきますと、地域の中では「少額の昇給があって、安定して長きにわたって働けますよ」というほうが採用がしやすかったりしますし、働いてる方の満足度が高かったりするんですね。

だから僕は正直、「とにもかくにも日本全体の労働市場の流動化が進めばいい」とは思っていないんです。ただ弊害があるとすれば、「スキルアップ・キャリアアップを図って、どんどん転職をすることによって収入を上げていこう」という発想が、なかなか湧きにくい。

転職するほうが逆に不利、という状況に

最近では新聞にも出ておりましたが、転職して昇給するケースも10パーセントぐらい。すみません、このへんはうろ覚えで大変申し訳ありませんが、技術職の方でも転職して年収が上がったケースが3割ぐらいということで、転職すると逆に不利な状況がずっと日本に蔓延しているんですよね。

そうすると、「どんどんスキルやキャリアを上げていって、大きい報酬や対価を自分で得ていこう」という土台が整っていないので会社に留まっていくんです。

逆に言うと、「今の会社には3年しかいれません。3年の中で自分でスキルアップしてください」と言ったら、みんなが勉強するわけです。当然、マネージャーとして仕事をしていきたいと思ったら、マネージャーの勉強をするわけですよね。

……ちょっとすみません。今日は余談ばっかりで申し訳ありませんが、リピートの方が大半だということで、ほっこりしながらお話をしています。以前、僕は建築の仕事をしておりまして、もともと(キャリアは)職人から始まったんですが、一緒に仕事をする方は建築家の方が多かったんですね。

『大改造!! 劇的ビフォーアフター』で、勝手に扉が開いて「なんてことでしょう!」みたいなの、よくあるじゃないですか。あそこに出てくる「匠」と呼ばれているような建築家の方々と仕事していました。

安藤忠雄氏の「入所したら3年で辞めろ」理論

建築業界で有名な安藤忠雄という人がいます。表参道ヒルズとかを設計して、業界では「世界の安藤」なんて言われておりますが、安藤忠雄事務所ではどういう方針にしているかというと、「入所したら3年で辞めろ」。すごいですよね。「3年で辞めろ」って言うんですよ。

なんで「3年で辞めろ」と言うのかというと、3年後に自分で独立開業することを考えて、3年間ですべてを覚えて外に出ることにコミットして仕事をすると、ものすごく勉強しないといけないわけですよね。

おそらく安藤さんは、ものすごく勉強しながら仕事をすることが、実は一番業績や成果につながることを理解をされていた。入社した瞬間からカラータイマーが光って、「お前はあと2年だ」「あと1年半だ」というカウントダウンが始まるので、みんな焦って勉強して、自己研鑽をする。それが、最終的に業績につながるんですね。

もちろん、管理職の方に会社で教育を施してあげるのも重要ではあると思いますが、そもそも管理職の方が自分で勉強しろよというのが、一番伝えたいところです。

日本人の「自己啓発の割合」の少なさ

他のWebのセミナーでもお伝えしましたが、日本人の自己啓発の割合……「自己啓発」というのは怪しいセミナーのことではなくて、「自らが選択して学ぶ」ということです。

「よし。管理職はプレイヤーとしての今までの仕事とは違うから、自分なりにマネジメントを勉強しよう」という割合が、どれぐらいいるかという話です。

ちなみに経産省のレポートでいうと、自己啓発の割合は46.3パーセントでした。だから、正直(自己啓発をしている人は)そんなにいないと思ってます。

うちが管理研修をやっている方に、「自己啓発をやってますか?」というアンケートをとったんですが、手を挙げるのはだいたい3パーセント、100人に3人ぐらいです。

会社から言われているものじゃなく、「資格の勉強をしています」「自分で自分のために本を買って読んでます」「YouTubeを見てます」「お金を出してセミナーや講座へ通ってます」という方は、おそらく3パーセントぐらいだと思ってます。

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