2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会 じっくりブランディング学」。この番組は、業界や業種を越えて生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれる、そんなプロフェッショナルの方々とブランディングについてVoicyさんが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。
こんばんは、ブランディングディレクターの工藤拓真です。今日のゲストは前回に引き続き、GROOVE X株式会社代表の林要さんです。ということで、「私のブランディング教科書3選」のうち2冊をご紹介くださりありがとうございました。
ここからはたっぷり時間を使って、3冊目の『温かいテクノロジー』についてお話をうかがえればと思います。
先ほどはWHYとイシューの両輪をもとにできた「LOVOT(らぼっと)」のお話をしていただきました。もう散々いろんなかたちでこの本について聞かれていると思いますが、簡単にご紹介いただいてもよろしいでしょうか?
林要氏(以下、林):はい。『温かいテクノロジー』という題名で伝えたかったのは、テクノロジーが進歩するとちょっと怖い未来が来るという思いが漠然とあると思うんですよね。
工藤:ありますね。最近もそうですよね。
林:そうですね、AIもそうですし。
工藤:仕事を奪われる。
林:あと、戦争で使われたら大変なことになるよねとか。いろんなテクノロジーへの脅威があるんですが、実際にはテクノロジーそのものは何も悪くなくて、テクノロジーの使い方が不安な未来を作る可能性を秘めているわけですね。
ここで大きな問題は、「よくわからないから専門家に任せておこう」という姿勢が同時に見え隠れすることです。テクノロジーに詳しくない人は、テクノロジーの進む方向をコントロールできないという諦めもある気がするんですよね。でもそんなことは全然ないです。
例えばSDGsはお金の流れをよくわかっている人がやったわけではない。より良い未来を作るために、「消費だけではない何かを目指さないといけない」とみんなが言ったことでこんなに世界が変わったわけですよね。
それと同じように、テクノロジーもみんなが望む方向が一致さえすれば、温かくもなるし冷たくもなる。だから、ここでみんなで温かいテクノロジーを目指すというトレンドを作りませんかと。
工藤:なるほど、そういう提示ですね。
林:そうです。なのでそれさえうまく広まれば、冷たいテクノロジーの脅威は消えないかもしれないけど、最小化できるし、より温かい未来を作るためのテクノロジーへの投資が増えて、結果的にみんながハッピーな未来は、僕らの選択で作れる。「作ろうよ」というお話です。
工藤:冒頭から「LOVOT」のお話がたくさん詰まっているので、「LOVOT」の本であるのは当然伝わるんですけど、なにやらそれだけではないぞと。今みたいなお話もそうですけど、何より「22世紀への知的冒険」というタイトルどおり、ずっとわくわくして読み続けました。
林:ありがとうございます。
工藤:だから、先ほどの打ち合わせでも言いましたが、僕が持っている本はドッグイヤーだらけでだいぶ分厚くなっているんです(笑)。
林:折り目一杯ですごくうれしいです(笑)。
工藤:あえてここで、そういう意図で書かれていないので、なかなか難しい質問になって申し訳ないんですけど。
人類のこれからを考えようとする中で「LOVOT」がいるというお話がありました。先ほどのWHYだったりイシューだったり、そういうお話と重ねた時に、「LOVOT」のブランディングにおいて、この『温かいテクノロジー』はどういう意味を持つ存在かを、もう少しお聞かせください。
林:ありがとうございます。『WHYから始めよ!』は、「そもそも『LOVOT』の存在意義は何なんだっけ」「企業の存在意義って何なんだっけ」をちゃんと考えようという話なわけですね。この時に気づいたのは、例えば僕らの足元の状況で言うと、生き残ることが比較的容易なぐらいにまで文明が進歩し、結果として余暇ができました。
その余暇をどうやって過ごすのかと言うと、僕らはお金のあるなしにほぼ関係なく、ドーパミンをいかに出すかに時間を使っている。お金を使わないでドーパミンを出す方法といえば、SNSを見る、ゲームをする、甘いお菓子を食べる、こういったことがあるわけですね。
じゃあお金を使ったらどうなるのか。例えば高額な何かを買う、ステータスのある体験をする、高級車に乗る、そういったことがあるわけです。どちらもやっていることはぜんぜん違うように見えて、実は僕らが求めているのは脳内にドーパミンを出すことです。それで時間が比較的埋め尽くされている中で、僕らはちょっと癒しを求め始めている。
工藤:癒し?
林:癒しの時代で、みんなが癒やしを求めているじゃないですか。こんなに文明が進歩したのに、癒しですよ。じゃあ、忙しいから癒しを求めているのか。実は、どうもそれだけではなさそうである。
工藤:なるほど。
林:暇でずっとSNSを見ている学生だって癒しを求めるからです。ここからわかるのは、問題は別に、忙しいからではなくて、どちらかというとドーパミン漬けの生活になってしまっていることが問題ですね。
工藤:これがもうイシューだと。
林:イシューだと思います。
林:それらを考えた時に、犬や猫の存在が増した理由が見えてくるわけですね。例えば50年前には、犬は外にいたわけですよ。
工藤:いましたよね。
林:服を着ていないわけですよ。ご飯と味噌汁の残飯みたいなのを食べていた。
工藤:50年と言わず僕の子どもの頃もそうでしたけどね(笑)。
林:そうですよね。そうだったのが、急速に家の中にいるわけです。今は外で飼われている犬のほうが圧倒的に少ない。
工藤:なるほど。
林:外にいた時の犬は番犬という役割が形の上ではあったけど、今はキャンキャン鳴いたら怒られる時代ですからね。番犬の役割もない。なんなら老犬の散歩は人が抱っこしている。ここからわかるのは、僕らの生活の何かが変わって、僕らは犬とか猫を生活に取り込まないといけなくなっている。
ここで先ほどの癒しの話とつながるんですよね。50年前ぐらいの生活は、まだまだ地域と密接な関係にあって、お隣さんとの関係も大事だった。町内会も大事だった。そのある種の鬱陶しさも含めた人間関係がどんどん希薄になって、気楽になった代わりに僕らは何かを失って、そこに代わりとなって入ってきたのが犬や猫であると。
工藤:なるほど。
林:そうすると、どうやら僕らの生活は、文明が進歩したことによって本来必要なピースが欠けて、それをほかで埋めにきている。そこで僕らはその一部をSNSとか、ゲームとかのドーパミンで埋めてしまった。
工藤:ドーパミンではなかったのに。
林:ドーパミンではなかったのにドーパミンで埋めてしまって、ますます癒しを渇望している。
工藤:なるほど。
林:犬や猫を飼えている人たちはまだ生活のバランスが取れていて、そこはドーパミンではない世界ですよね。
工藤:おもしろいですね。
林:ここに犬や猫を飼えない人たちも含めて、新たなソリューションを提供しようというのが、「LOVOT」が始まった経緯です。
工藤:めちゃくちゃおもしろい。
林:最初はイシュードリブン(「今何を考えるべきか」という論点を定めること)で始まっています。その時に、「そもそも人間はなぜ犬や猫が必要なんだ」とか「なぜ共同体が必要なんだ」とか。承認欲求や孤独は、どちらも比較的ネガティブな感情として捉えられているけど、大事な感情です。例えば、大昔の僕らが単細胞の頃。
工藤:単細胞の頃ですか(笑)。
林:単細胞の頃にはたぶんそんな感情はなかった。そうすると、どこかで僕らはその承認欲求も孤独も獲得しているわけですよね。
工藤:そうか、進化の過程で。
林:進化の過程で。そうすると、これは機能だとみなされる。じゃあそういう機能をなぜ僕らは手に入れたのか。そういったことを、まさに『イシューからはじめよ』的に分解をして、事業に取り込んでいったことが、この本では書かれています。
工藤:すごくおもしろい。この本は装飾のデザインもすごく素敵な部分とおもしろいところがあって。このクエスチョン、問いに対して全部ピンマークがついていますよね。これも、その問いが大事だと強調されているんですかね?
林:そうですね。やはり問いがあると広がりがすごいんですよね。問いを持てるかどうかは、その後の自分の知識量を決めると言っても過言ではない。僕はどちらかというと与えられた知識をそのまま吸収できるタイプではないので、授業を受けていてもさっぱり覚えられないんです。
けれども、問いが出て、それへの回答を探していると、「これ高校で習ったことだわ」みたいな知識もいっぱいあって。「僕らは中学高校でこんなにたくさんのことを習っているんだ」と感動しながら、「何も覚えていなくてごめんなさい」と思いながら振り返るんですけれども。それがどんどんつながっていくことによって「LOVOT」ができた感じですね。
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