マーケターに一番必要な能力

岡田奈々氏(以下、岡田):続きまして、(BtoBマーケに関わっている方の悩みランキングのTop10の)5位に移りたいと思います。「人材の雇用」が悩みで23.6%です。ということで、「若い人材の確保」「資金不足による人材不足」「人材流出」「人材不足で、他の業務と兼任せざるを得ない」などのコメントをいただいております。

吴笑冬氏(以下、吴):なるほど。「マーケが雇えない」ということですよね。

岡田:そうですね。

:世の中的には、マーケの採用ってどうなんですか?

垣内勇威氏(以下、垣内):今は厳しいですよ。

:厳しいですか。

垣内:はい。本当にできるかどうかはわからないですけど、「デジタルマーケター」と呼ばれる人の採用は非常に難しい。

岡田:(笑)。

:そうなんですね(笑)。

垣内:「ちょっとでもデジタルにいた」という人材は、そもそも高騰していますね。これは何が本質かと言うと、「人材要件の要件定義が甘い」ということだと思うんですよね。何でもできる人なんていないので。

よく「CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)が欲しいです」と言われるんですけど、いきなり要件も定義せずに、CMOとかバクっと言っていたら取れないし、「何それ、1億円とか積むんですか?」という感じじゃないですか。

:(笑)。

垣内:1億円は嘘だけど、5,000万円くらい積むんだったら採れるかもしれないですけど、「本当ですか?」という感じになると思うんですよね。

:なるほど。要は要件定義って、「その会社にとってのマーケは何をするのか」とか「どういう能力を兼ね備えていなきゃいけないのか」ということですね。

垣内:そうです。マーケターに99パーセント必要なのは、PM要素なんですよ。プロジェクトを回すということです。例えば「ウェビナーをやります」と目的を設定して、目標を設定して、スケジュールを引いて、人を集めてきて、ウェビナーを開く。ここのアレンジをするのが、マーケターに最も必要な能力だと思うんですよね。

要件を明確に絞ることのメリット

垣内:そこになぜか、「SEOができる人」とか、よくわからない要件がグチャグチャとついて「マーケター」になっているんですけど、専門知識なんて外注してもいいし、2回か3回伴走すれば覚えるじゃないですか。

:はい。

垣内:「そういうのでいいよ」と要件を割り切れば、おそらく採用できるし、年収も抑えられると思うんですよ。

:なるほど。

垣内:これがいろいろついてくると、いっぱいできる人はそれだけ希少価値が高いので流出しやすいし、年収は高いし、採用できないということになるので、「要件を明確に絞れ」ということだと僕は思っていますけどね。

:なるほど。前に「プロなんていらないよね」という話をしたことがありますが、それと一緒ですよね。1個1個の「SEOができます」とか「広告回せます」というより、やっぱりPM的な要素のほうが大事ですか?

垣内:絶対にそうだと思いますよ。SEOのプロがいる会社なんて、SEOで食っているような会社で、かつマーケターが20人から30人いるということであれば、SEO専業でもいいと思うんですけど、厳しいです。

あとは、社内のSEOだけやっていても知見は上がらないというか、維持できないですね。100社とかを見て、ようやくSEOが全部見えるという世界なので、社内SEOだけやっているのは相当厳しいです。

:確かに。冷静に考えるとそうですね。

垣内:僕もSEOは詳しくないですよ。本質は知っていますし、トレンドは追っていますけど、わからなかったら普通にプロに聞きますね。「これってどうなんですか?」と聞いて、「こうです」「あ、なるほど」という。それで解決するので、いらないスキルや知識って、多いですよね。

:確かに。我々はITトレンドの16年目を迎えるところですけど、16年間ずっとSEOとリスティングをやってきたんですが、それでもやっぱり外部のパートナーがいないと、最新のトレンドとか他がどうなっているかはわからない。

まず、全体の中での自分のポジションがわからないんですよね。だから、「やるべきことってなんだろう」と、毎回新しい示唆をいただくので、確かにそうですね。

垣内:本当に日々変動しますからね。例えば、「そもそも、今はうちみたいなベンチャーのドメインは弱い」という前提の中で、ブログの訪問数はどんどん落ちてきています。

それで、ヤバいと思っていっぱい記事を書くのか、SEOの担当者に「本当にドメインが弱っているので、これ以上やってもしょうがないからやめておけば」と聞くのかで、方針がまったく変わるじゃないですか。

デジタルマーケを1ミリも知らなくてもできる

垣内:「内製にこだわってもしょうがない」というのもあると思うんですよね。なので、「マーケターって、社内に何を求めているの?」というのをちゃんと定義するのが一番必要です。

:なるほど。先ほどの「社外との連携」もかなり重要になってくると思うので、「パートナーをいかにマネジメントして自分たちの役に立たせるか」という観点も大事ですよ。だから、要件定義ですね。

垣内:フリーランスの方を使うとかでもいいと思うんですよ。SEOについては、月1回聞くかどうかだと思うんです。

:なるほど。

垣内:SEOについて聞かなくないですか?

:毎週聞いてもしょうがないですものね。

垣内:そういう業界もあると思います。ただ、BtoBで普通のビジネスだったら、SEOなんて月1回聞けば多いほうなので、「月1回、1時間聞かせてください」となったら、おそらく月額5万円とかでプロを雇えるんじゃないですか?

:なるほど。

垣内:リスティングは、もうちょっと払わなきゃいけないですよね。メールは自分で覚えればできるようになるし、そういうのをちゃんと区分けしていけばいいと思います。

:おもしろいですね。マーケターに対しての幻想じゃないけど、「なんとなくすごそうな人たち」「専門性が高そう」と考えるとダメなので、そこの解像度を上げて、垣内さんの言葉で言うと、「要件定義をちゃんとする」ことがこれにつながるわけですね。

垣内:文化祭をちゃんと運営できる人だったら、学生でもいるじゃないですか。

岡田:(笑)。

:なるほど、文化祭。

垣内:(笑)。「プロマネ=プロジェクトマネジメント」という、ちゃんとしたビジネススキルだと思うんですよ。それができればいいと思います。たぶん、デジタルマーケとか1ミリも知らなくてもできると思いますよ。

:確かに。

岡田:では、次です。人材の話はまたあとで出てきますので(笑)。