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NIKKEISHA STARTUP TABLEオンラインセミナー グロース期のスタートアップ企業が知っておくべき、ソートリーダーシップ戦略(全4記事)

自社の認知度を上げたいなら、あえて自社を主語にしない 「○○と言えば」で第一想起されるための6つのポイント

株式会社日本経済社が主催するNIKKEISHA STARTUP TABLEセミナーに、Sansanでマーケティングおよび広報機能の立ち上げに従事し、現在は上場企業やスタートアップの広報支援を行うkipples代表の日比谷尚武氏が登壇。「グロース期のスタートアップ企業が知っておくべき、ソートリーダーシップ戦略」をテーマに「名刺と言えばSansan」を取るための裏テーマや、競合も含む複数社でのプレス発表会開催の意味などを語りました。

効果的な情報の出し方

日比谷尚武氏(以下、日比谷):もう1つだけ抽象度の高い話をさせてください。「蓄積とモメンタム」の話をします。これはソートリーダーシップに限らずですが、モノを発信した時に、どうやったら相手の印象に残るかという話です。

(スライドの)一番左側は、時間をかけてポツポツと、3ヶ月に1回ぐらい記事化されて露出して伝わる場合だとしましょう。

そうすると、長期間にわたりコツコツ出ているので、なんとなく浸透するかなと思うんですが、ただこれだと相手の印象に残りにくいと言われています。

一方で、同じ4回露出するならということで、1ヶ月の間にボンボンボンボンと、「日経」「プレジデント」「AERA」「Business Insider」に載ったとします。「なんかよく見るな」という印象が残り、「勢いがあるじゃん。話題になっているね」となる。打ち上げ花火だと瞬間的に認知されやすいんです。ただ、その先の発信がないと風化してしまうわけです。

ですのでベストは、(スライドの)右の、最初に中くらいでもいいから山を作って印象を残し、そこからコツコツと、「この間のやつ、また出ているね」という、モメンタムからの流れを作る。「モメンタム」は「勢い」とか「弾み」という意味ですが、ちょっとした弾みを作った上で、その後継続して蓄積していく。この出し方を意識しておくといいということです。

つまり、ソートリーダーシップをやる時は、コツコツ発信するだけではダメですし、ある時期だけ出るというのもダメです。「聞かないね。さみしくなっちゃったね。大丈夫かな?」と言われちゃうわけですね。たまに山を作ってコツコツ発信することを意識するといいということです。

「○○と言えば」で第一想起されるための6つのポイント

日比谷:ここから、例を出してお話ししていこうと思います。ソートリーダーとして活躍する時のポイントは諸説ありますが、私なりにまとめて、「MarkeZine」という媒体で昔連載していました。詳細を見たい方はそちらを見ていただければいいかと思います。

抜き出したポイントはこの6つです。

1番目は「セグメントを定義する」。これは、一言で言えば「何の専門家かを自分で決める」ということですね。例えば「フィンテックで1番になろう」とか、「クラウド名刺管理で1番になろう」とか、「請求書管理で1番になろう」とか、「電動キックボードと言えば」とか。その定義をします。

この定義が広すぎると、「あなたが語るにしてはちょっと広すぎませんか? 足元が弱いんじゃないですか?」と言われてしまいますし、狭すぎると「それって結局、あなたの会社のことだけですよね」となってしまうので、自社を取り巻く少し広めの市場やセグメントを取るということですね。

セグメントを決めたら2番目、「業界を語る」。これも自分たちが所属しているセグメント、業界の全体の動きを語る。つまり、自社のことや自社のサービスだけではなく、「自分を取り巻く業界はこうなっていますよ。こうなるんじゃないですか?」を語るということです。

特にメディアの方や外部の方にお話しする時に、業界の話をするふりで自分の話しかしないと、「なんだあいつ。自分のことだけか」と言われてしまいます。

そして、3番目と4番目はまとめて言いますが、業界を語る時に、きちんとデータを基に、ファクトを基に語りましょうということですね。最近だと「エビデンスベース」と言いますが、主観や感想ではなく、正しいファクトに基づいてフェアに語りましょう。

そうしないと、「この人の話はうさんくさい」「思いつきで言っているな」「引用すると間違いかもしれない。危ない」ということで、取り上げてもらえなくなってしまう。

「フェアに語る」。これは「自分たちに利益誘導している」「特定の業界のことだけを贔屓しているな」ということがわかってしまうと、長い目で見ると、その人の発言は信用されなくなりますよね。

5番目、6番目はそういった活動をできるだけ表に出て発信し、語っていく。積極的に発信して業界の中での認知を高め、できれば業界の外からも、「あの業界の第一人者はこの人だ」と言われるようなところを目指しましょうということです。

あとは、ファクトやデータをただ分析屋さんとして語るだけではなく、「世の中がこうなってほしい」とか「社会課題とどうつながっているんだ」みたいなことを、ちょっとパッショナブルに語れたりすると、なおいいのではないかと思います。こういったことが基本的な考え方になりますね。

「名刺と言えばSansan」を取るための裏テーマ

日比谷:ここから先は「How」の例を並べていきます。これは私の例で、かつ古くて恐縮な上に、瀧さんのFintech研究所には及ばないんですが、例えばSansanの時は、勝手に「名刺総研」なるものを作って、サイトを作って、名刺に関するコラムを量産したり、名刺にまつわる調査を行って、定期的に発信したりしていました。

これにはちょっと裏話というか、理由があります。実はとある文具機器の会社さんが、長らく名刺にまつわる調査をやっていたんです。「ビジネスマンは年に何回名刺交換をするか」とかですね。そうすると、日経さんなどで「日本のビジネスマンは年に何回名刺を交換している」みたいな記事が出た時に、「(○○社調べ)」と文具会社名が出るんです。

当時は、10年近く前の調査結果が引用されていたんです。要は「名刺の調査と言えばその会社」というソートリーダーシップが彼らにはあったんですよね。「でも、10年経っているからその座を奪えるかも」と思って奪いにいった。

「『名刺と言えばSansan』を取るためには、調査で引用されることを目指そう」と。裏テーマとしては、「名刺の調査をやったら必ず引用されて『Sansan調べ』になる」ことをゴールにしてやりました。

「業界を語る」の例は、そこまで難しくないです。よくシンクタンクやリサーチ会社が業界のレポートなどを出していますが、そういったものをきちんと頭に入れてフェアに語るとか。IT業界だとパートナーさんが出しているものも入れて、グローバルでのトレンドや、周辺業界の歴史、動向なども含めて語れるといいでしょうということですね。

経営者の方は、投資家やアナリストの方向けにこういった話をするので当たり前かもしれません。しかし事業広報やマーケだと、まず自社の製品の良さや事例だけを、自社主語で話してしまうことが多いので、世の中の人からすれば、「あなたの会社もいいけども、それを取り巻く経済環境や市場環境はどうなっているんですか?」となるので、そこもきちんと答えられるといいということです。

競合も含む複数社でのプレス発表会を開催する意味

日比谷:そのための有効な武器として使われるのが調査レポートです。例えば自社のユーザーに何かしら調査する。名刺で言えば「あなたは名刺交換を何枚しますか?」かもしれませんし、フィンテックでしたら、「1日に何回キャッシュレス決済しますか?」とか、「電動キックボードに乗ったことはありますか? どう思いますか?」みたいな意識調査をやったりします。

これを自社のことだけではなくて、ちょっと幅広い視点で、世の中事とか市場事にして調査をすると、「この調査は、業界のことを語るのに都合がいいから使わせてください」と言って、メディアが記事にしてくれたりします。

あとは、専門家の方が講演会で引用してくれたり、業界内で他の会社が営業資料に使ったりということも出てきて、そこに自社の「~調べ」が出てくると、自分たちの名前が専門家として浸透していくわけですよね。だからけっこう長く使える武器として、僕は調査レポートはよく愛用しています。

それから、これはどちらかと言うと広報のメディアリレーションの一環みたいなところもありますが、「ラウンドテーブル」もしくは「勉強会」「メディアレク」なんて言い方もしますが、メディアの方々を呼んで業界のことを説明する会を設けることをやったりもします。

これもポイントは、「自社のレクチャーをする」ではなく、「業界のことをレクチャーする場」を設けることです。もしかしたら競合に当たるような会社も呼んで、3社、4社が一緒になってフィンテックのことを語るとか、DXについて語る。それをメディアの方に説明することで、「この業界のことなら、この会社の人に聞けばいいな」と思ってもらう作戦ですね。

これは副次効果もあって、そういった取り仕切りをすると、業界の横のつながりが強くなって貸し借りができて、登壇やメディア露出の機会を他の会社がつかんだ時に、「一緒にどうですか?」というパスが回ってくることもあります。業界を盛り上げたり、横のつながりでパスを回せるようになるきっかけにもなると思います。

Sansanで仕掛けた認知度を高めるための工夫

日比谷:あとは調査レポートと記者向けの発表会のかけ合わせ。これは、5〜6年前にSansanで私が仕掛けた例です。

働き方改革が少しブームになりましたが、「ITやクラウドを活用することで働き方改革を実現する。それを牽引するのがSansanである」というイメージを発信したいということで、「働き方を改革するためにITの利活用をどれくらいしていますか?」という調査をやりました。

今となっては当たり前の手法ですが、当時この切り口でやるところはあまりなく、先鞭をつけてやりました。いろいろとやりくりして、経産省の方々にIT利活用に関する政策や、どんな調査をしてほしいかを事前にヒアリングして、調査内に盛り込みました。

発表の際も経産省の方に同席いただいて、自社の宣伝はせず、調査レポートや政策の発表をしていただいた。メディアの方に来ていただいて、結果的に記事化に至るような打ち手をやったこともあります。

このポイントは、国の政策を仕掛ける側の政策広報としてやりたいテーマに寄り添うことで一緒に出ること。冒頭に申し上げた、世の中の流れや何が今社会で求められているかに寄せることで、自社もうまく乗るという話です。

似たようなことは、私が別でやっていた働き方改革の啓発でもやりました。社団法人の広報担当の理事をやっていたんですが、社団法人の信憑性を高めるために、デロイトトーマツさんと働き方に関する調査をやりました。それを発表することでメディアの方に最新の市場動向も知っていただくと同時に社団の認知を高めようとしたんです。

その時も経産省の働き方の政策を担当している方々に出ていただいて、お話しいただきました。シンクタンクの方がよくやる手法でもありますが、ぜひスタートアップの方もこういった手法があることを知って、真似していただきたいです。メディア向けの勉強会を複数企業でやる手法も有効ですね。

社内で1人専門家を立てて、売り出す

日比谷:あと、これは飛び道具ですが、カオスマップを作るというのも打ち手としてはあります。「飛び道具」と申し上げたのは、最近はこの手の手法はだいぶ一般化しているからです。

この例は2018年でちょっと古いですが、当時の働き方を取り巻くサービスとして、ある会社が「副業だけでもこれだけあるぞ」というのを出して、それを国の方々が働き方の講演をする時に引用するみたいなことが起こって、「してやったりだな」と見ていました。

素材は古いですけど、AIサービス、ヘルスケア、VR、XRのカオスマップとかいっぱいあります。「この業界を語るんだ」と決めたら、その業界のカオスマップを作るか、もしも先に作られていたら、それを語れるようにするということも、打ち手の1つとして持っておくといいと思います。

他にも、これはパワーがいるんですが、業界の白書みたいなものを作るという打ち手もあります。例えば行政がある政策領域や業界のリサーチをして、動向や課題、今後あるべき姿をまとめたものを白書と呼びますが、自分の専門としたい領域においての白書を作る。

これは、BOXILさんがBtoBのSaaSで名前を売りたいという時に作られたレポートです。企画の時に少しだけお手伝いしたんですが、BtoBのSaaSを語るならば、当然海外の動向も国内の動向も語るし、業界内の「と言えば」というベンチャーキャピリストの方々をきちんとゲストに呼んで対談する。

当時Draperの倉林(陽)さん、前田ヒロ、浅田(慎二)さんというような、「BtoB業界のVCのキーマンと言えばこの人たち」という人にちゃんとお話を聞いて、その人たちのお墨付きをもらうみたいなことやるとかですね。この後、彼らはカンファレンスをやるんですけど、そういったところでこの白書の最新版を紹介することを常にやられていました。非常にうまくやられていたと思います。

(スライドの)これは、瀧さんのようなスターがいればということにもなるかもしれませんが、メディアや世の中の人は、人で認知することが多いので「誰か1人顔を立てる」というのはやったほうがいいと僕は思っています。

必ずしもおしゃべりが上手とか、肩書がなくてもいいと思います。その業界について詳しいとか、聞けば(知見が)出てくるような方がいいと思いますし、例えばエンジニアとか技術に詳しい方でもいいですね。肩書きは、あとから付ければいいですし。

流暢にしゃべれなくても、世の中の人や専門家が求めているのはその方の知見や見通し、見立てなので、流暢に見せなきゃいけない部分は広報の方がプロデューサーとして演出、サポートしてあげればいいんです。というつもりで、会社内に1人専門家を用立てて売り出していくというのを考えてもいいんじゃないかということです。瀧さんはお話も上手なんで、かなわないですね。

業界団体を作るメリット

日比谷:これもちょっと権利の都合で、他の会社さんで出せるものがなく、古くて恐縮ですけど、僕の事例を持ってきました。例えば新聞で「今年の名刺の動向はどうなるか」というコメントを求められたり、「名刺の今年のトレンドはどうなるか」「ゆるキャラに名刺交換を教えてほしい」とか、「名刺にまつわるネタだったら何でも持ってこい」ということで、打席に立つようなこともやっていた時代もあります。

このへんが、先ほど申し上げた「認知の蓄積」です。「名刺と言えば硬いのから軟らかいのまで、やたら出てくるぞ」となって、結果的に「名刺と言えばSansan」になるというわけですね。

あとは業界団体を作ってしまう。コンソーシアムを作るとか、連絡会、勉強会を作る場合もあります。これも少し古い例ですが、日本能率協会さんが、「BtoBマーケティング」を流行らせようとした時代がありました。

その際にSansanほか、Salesforce、Microsoft、Oracle、シナジーマーケティングさんなど、ITベンダーでBtoBマーケティングを主戦場にする方々や、会社に声掛けをして、日本版のBtoBのマーケティングのガイドライン、つまり「リードとは何ぞや」とか「ファネルとは何ぞや」といったマーケティングの定義をしましょうというコンソーシアムを作りました。

当時Sansanはまだ弱小で、私もそんな知識はなかったんですが、「ここは乗っておかないと取り残される」と思って飛びつきまして。積極的にここで発信をしたおかげで、BtoBマーケティング業界の中で一角の存在感を一応いただいたことを覚えています。

自分だけで業界のことを語るのでは、パワーも足りないし、フェアネスに欠けるのであれば、こうやって団体になって、例えば規制緩和や法改正等に働き掛けていく。いろんな会社と一緒になって、何か方針を決めたり、提言していくと、より説得力も発信力も上がるし、自分たちのポジションも確立できることになるという例です。

コロナでイベントがなかなかできなくなりましたが、オンライン開催の手法が広まったことで、カンファレンスのファスト化と言いますか、ある意味誰もがわりと手軽にイベントやカンファレンスができるようになってきたと思います。

手前味噌ですけど、(スライドの)左側は私が創業に関わったPR Tableという会社で、そのPR TableがPR業界の人たちを巻き込んで業界カンファレンスをやりました。

私の周辺ですと、シェアリングエコノミー協会というところが、長らくシェアリングエコノミーという考え方を広めたり、そういったサービスの社会的地位を上げよう、制度を作ろうと、政治家から文化人、起業家、投資家まで集まる大きいカンファレンスを毎年やっています。

自分たちの業界の存在感やテーマを世の中の人に広く打ち出していくことを、イベントというかたちで出していくのも、ソートリーダーシップの打ち手の1つだし、広報としても知っておきたいコミュニケーション手法の1つかなと思います。

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