2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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ーー今回の特集テーマは「若手の成長機会の作り方」です。前島さまが代表を務める筒井工業では、「働きがい改革」によって新卒3年目までの社員の離職率を67パーセントから15パーセントに改善させたというお話をうかがいました。改革を始めたきっかけや、当時の課題感をおうかがいしてもよろしいでしょうか?
前島靖浩氏(以下、前島):「働きがい改革」の前に、まず「働き方改革」が非常にうまくいったんです。我々の課題は「人手不足」だったんですね。人手不足で、残業がものすごく多くて、有給も取れない。みんなが疲弊していく状況だったので、まずは採用をして、定着して、戦力化していくところから始めました。
残業を減らして、いわゆる「働き方改革」ができたのが第1フェーズです。これはわりと早くて、1年ちょっとで達成できました。
次は何だと考えた時に(頭に浮かんだのが)、もともと僕が経営者のバトンを渡される時に、創業者から「未来永劫継続する会社にしてくれ。それ以外のことは、何をやってもらってもかまわない」と言われていたことでした。
「未来永劫継続する会社ってどんな会社なんだろう?」と思い馳せた時に、社内で「やりがい」とか、「一体感」とか「自主性」といった前向きな「エネルギーの束」が必要になるんじゃないのかなと。
社長がそれを1人でやったところで限界がある。むしろ、会社全体がやる気モリモリになって、「仕事、おもしれー!」と言って、みんなが全力で働けるような世界を作れたら、会社は継続できるだろうなと思ったんです。
「働き方改革」は正直「やらされ感」とまでは言わないですけど、「やるしかないな」という感じだったんです。でも「働きがい改革」は、経営者としてやりたいと心から思えたんです。
ーーなるほど。「働き方改革」と「働きがい改革」の2段階だったんですね。
前島:そうです。現場が疲弊している状態で「働きがい」なんて言っても、「勘弁してくれよ」という話になっちゃうので。
ーーでは、1段階目の「働き方改革」はどんなことをされたのでしょうか?
前島:人手不足を解消するのが一番大事でしたので、まず採用をがんばりました。採用コンサルタントに入ってもらったら、高卒採用がたちまち改善したんですよね。筒井工業の七不思議の1つで、「なんであんなに採れたんだろう?」という1年間でした。
採れたら今度は定着させなきゃいけない。ところが、うちの会社はザルのように人が辞めてしまう会社でした。それを防ぐために2つの制度を採り入れたんです。1つは「個人日報制度」で、もう1つは「メンター制度」です。
ーーこの2つの制度を最初に採り入れた理由はなんですか?
前島:製造部長と2人で、定着してもらうにはどうしたらいいかというハローワーク主催の無料セミナーを受けたんです。そこで「一言で言うと、若者に寄り添ってください。寄り添ってあげないことには全員辞めますからね」と言われたのがきっかけでした。
それを聞いた時、正直に思ったのは、「いやいや、寄り添うなんて言われたって...…」と。寄り添うのって、コミュニケーション能力が要るんですよ。製造業って、コミュニケーション苦手集団なんですね。
ーー(笑)。職人気質の方が多いですよね。
前島:「人と人との関係性が苦手だから、ものづくりをやろう」と入ってきた人にとって、寄り添うことがどれだけハードルが高いことか。
前島:それからもう1つの障壁は自分たちの心にあって、今から二十数年前、自分たちが入社した頃は、日本中どこもかしこもブラックに近いような会社だったんです。「『寄り添う』なんて一度も体験したことがない俺たちが、いったいどうすればいいんですか?」という思いだったんです。
でも、その時にふと「これは、絶対よその会社も同じようにできていないはずだ」とひらめきました。当時僕には2つの悩みがあって。1つは先ほどの人材不足で、もう1つは将来の差別化戦略だったんです。
もしうちがここで反転して、人材が採れて、定着して、みんなが活き活きと戦力になっていってくれたら、10年後にどんなことが起こるのかと考えたら、ちょっとわくわくしたんですね。
10年後に「筒井工業には、人材ではもうかなわない」となることが、僕にとっては戦略に見えたんです。人材が採れて育つような環境を用意できたら、人材不足も解消するし、差別化もできる。
ーーまさに一石二鳥ですね。
前島:そうそう。その後、愛知県の「若者職場定着支援事業」や「職場環境改善事業」でのアドバイザー派遣を頼みました。コンサルの先生が無料で来てくれるんです。その先生に「個人日報制度とメンター制度をやってください」と言われました。
前島:昨日のように覚えているんですが、その先生が最後に「前島さん、このしくみはほとんどの会社が失敗します」と言うんですね。なぜかと言うと、(多くの企業では)メンターがやる気をなくしていくからだと言われました。
「だけど、やれたら3年後に文化になって根付いていきます。そうやって育った先輩社員が『今度は俺たちの番だ』と言って張り切ってやってくれるようになりますから、それまでがんばってください」と。
(メンター制度は)「中小企業ではちょっと無理でしょ」と思うような内容だったんですが、僕はそれを戦略にすると決めていたので、「よそは簡単には真似できないだろうな」と確信して、導入を決めました。
ーー確かに、そもそも人が少ない中小企業では難しいですよね。なぜ筒井工業ではメンター制度がうまくいったのか、前島さまが考えるポイントは何かありますか。
前島:メンター制度の肝は2つあると思っています。一言に集約すると、「経営者の覚悟」です。
メンター制度って、やろうと思えば簡単にできるんです。メンターを指名して、「面談やっとけ」と言えばスタートできるんですけど、これは百発百中失敗するパターンです。経営者の覚悟がそこには何もない。
ーー指示するだけで終わってしまうということですね。
前島:そうです。覚悟とともに、会社の風土、コミュニティを変えた上で、メンター制度が初めて機能していくという感覚を持っています。
ーー文化を先に変える必要があるということですか?
前島:そうです。メンタリング面談で何をするかと言うと、新人の話を聞くわけです。ところがだいたいの新人って、目標とかありたい姿とかを語れるわけではない。むしろモヤモヤとか、不平不満とか、つらいことのほうが多いかもしれない。それを黙って聞くという寄り添うスタンスを、ほとんどのメンターが取れないんです。
たいてい途中で話を遮ってアドバイスや忠告をしたくなる。経験豊富で覇気のあるメンターの場合、説教しちゃうこともあります。新人にとってはつらい状況になりますよね。
ーーそうですね。筒井工業ではどうやって文化を変えたんでしょうか?
前島:これが経営者の覚悟につながってくると思います。先ほどの通り、コミュニケーション苦手集団がコミュニケーションをしなきゃいけないので、外部のコミュニケーションの講師の先生を呼んで、勉強会をやりました。
それはメンターになる候補の若手社員だけじゃなくて、中間管理職のリーダーたちも、それから私も参加して、一緒になって勉強しました。人間は学んだことをすぐ忘れてしまうので、その後も十数回にわたって社内練習会をやっています。研修の主催者は私なので、一緒になってやっています。
ーー「経営者の覚悟が必要」とおっしゃっていましたが、一緒に研修を受けることで、前島さまの姿勢を社員の方に見せられるという意図があるんですね。
前島:はい、おっしゃる通りですね。そして実はそれだけではなくて、キックオフの際に若手を集めてミーティングをしたのですが、わたしは開口一番謝りました。「みんなには本当に苦労をかけている。全ては私のせいだ。本当に申し訳ない。この状況を何としても打破したいし、その方法もわかっているが、自分一人ではなんともならない。力を貸して欲しい」これを言えたのもひとつの覚悟だったと思います。
ーー働きがい改革にあたって、前島さまご自身がまずコーチングを学ばれたとうかがいました。コーチングを学ぶ前と学んだ後を振り返って、一番の「気づき」は何でしたか?
前島:コーチングは、相手を信じて可能性の芽を開いていく、サポートをする技術です。そこで思い知ったのは、自分がこれまでいかに彼らの芽を潰してきたのかということです。
傾聴したり、信頼関係を築いたり、あるいは相手の可能性が広がっていくさまを見るにつけ、それまで「この人はダメだ」と決めつけていた自分に気づきました。
ーー芽を摘んでしまうというのは、具体的にどんなことですか?
前島:例えば「〇〇さんはどう思う?」と聞いておきながら、意見を聞いたら「いや、そうじゃなくてさ」「違うでしょ」とか言ってしまう。相手からすれば「意見を聞いておいてそれはないよ」って感じなんですが、こっちはもうおかまいなしでしたね。
人にはすごい可能性があって、それが開くのをみんな待っている。ところが本人もそれをどう広げたらいいかわからないし、我々マネジメントも無意識にそれを踏み潰している。私がそうだったように、踏み潰していることにも気づいてないんです。
ーーなるほど。可能性を広げるというお話で、筒井工業さんでは若手社員の方を積極的にプロジェクトリーダーに起用しているとうかがいました。リーダーを任された若手社員の方が、「自分にはまだ早いです」とプレッシャーや負担を感じてしまうことはないのでしょうか?
前島:あったと思います(笑)。そういう時こそ、話を聞く上司・上長の腕の見せどころだと思いますし、まさにコーチングが活きるところでもあると思います。
プロジェクトに過度な責任を負わせていないという工夫は、1つあると思うんです。よくあるプロジェクトのパターンは、目的と目標があって「これを達成しろ」という命令で動くというものです。
でも僕は目的だけは与えますが、目標を与えないんです。「最後はこうなりたい。ただ、目標設定からやり方はすべて任せる。好きなようにやりなさい」と。
それから、プロジェクトメンバー選定も非常に重要なわけです。よくあるのは、会社が「このメンバーでやれ」と決めてしまうパターンです。でも僕らは、リーダーに「メンバーを決めていいよ」という(ふうに任せる)スタンスです。自分が仕事をやりやすいメンバーを選べるのも、気持ち良くプロジェクトがやれる秘訣じゃないかなと思います。だから、みんな楽しそうですよ(笑)。
今では社内のエンパワーが進んでいて、自主性や主体性が非常にある状態に生まれ変わっています。例えば「人材開発プロジェクト」というプロジェクトがあって、自主的にブラッシュアップしていくんですね。なので、私が知らないところでいろんな帳票類のフォーマットが変わっていったり、新人教育プログラムが構築されていたり、仕組みの微調整があったりもします。
あるいはメンター、メンティーにアンケートを採って「何かブラッシュアップ要素はないか」という改善も自分たちで自主的にやっていってくれる。なので、今はむしろ経営者が介入しない方が上手くいく状態になっていると思います。
ーーまさに筒井工業が掲げている「挑戦する風土」を、社員のみなさんが作られているんですね。そういった社員の姿勢は、例えばコーチングを通して育んでいけるものなんでしょうか?
前島:そこが重要なポイントでして、コーチングはとても有効なツールなのですが、実はコーチングよりも先にやらなきゃいけないことがあるんですよ。それが「信頼関係」です。
コーチング自体は質問のスキルなんですけど、信頼関係ができてないところでコーチング的な問いを投げると、相手を傷つけたり追い込んだりするので、絶対にやらないほうがいいです。信頼関係が作られた上で、コーチングが初めて機能します。
「じゃあ信頼関係ってどうやって構築していくの?」と言うと、相手を尊重する、承認する。あるいは話を聞く。信頼する、任せる。そういった「関係性の質」を上げていくところがスタートになっていないといけないんです。
関係性が良くなってくると、相手は「こんなこと考えてもいいのかな?」「こんなこと言ってもいいのかな? ちょっとやってみようかな」と思考が柔軟になってきます。「心理的安全性」なんて言葉もありますが、まさに関係性のことを言っていますよね。
会議で思い切って意見を言ってみたら「あれ? なんか通った。『やってみよう』って言われちゃった」「じゃあちょっとやってみるか」と。ただ、仕事ですからそこで失敗するほうが多いと思うんですよ。そう簡単ではない。
前島:だけどここからが大事で、自分が「ちょっとやってみようかな」と思って失敗したことは、本人が悔しいんですよね。だから「次、どうしよう」「どうやればうまくいくんだろう?」って考えるわけですよ。
「社長。ちょっとこの間失敗しちゃったんですけど、俺、次はこうやりたいと思うんですよ」なんて言ってきたとしたら、上司としては実は一番ほしかったのはそういう言葉だったはずなんです。
ーーそうですね。
前島:最初は失敗したとしても、自主性を持って取り組めるようになる。その前提にあるのは、彼らの思考の柔軟性なんです。その柔軟性の原点にあるのが心理的安全性です。「ミーティングでこんなことを言ったら怒られるんじゃないか」とか「下手なこと言うと責任とらされるからやめておこう」と思っている状況では、(自主性が発揮されることは)あり得ないですね。
なるべく関係性の質を高めて、相手が柔軟性を持ってくれたら、そこにコーチングで軽く背中を押してあげるぐらいの感覚です。最初からコーチングで解決しようと思ったら大失敗しますよ。私が一回やらかしていますから(笑)。
うちに工場見学に来た会社さんが、いきなりメンター制度を導入しようとするんですよ。「文化や風土が変わらないうちに導入しては絶対だめですよ」と伝えています。なかなかわかってもらえないけどね。
ーーすべての施策は、信頼関係から始まっているんですね。「働き方」を改革して、まずは社員のために会社として本気で動いて信頼関係を作る。それができて初めて、社員の思考も行動も変わっていく。そこから「働きがい」までつなげていったということなんですね。
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