プロセスワークは頭で考え、心で感じるワークショップ

西田徹氏:そして今度は組織のアプローチですね。

プロセスワークを活用した組織開発ワークショップです。通常のワークショップももちろんすばらしいです。ただしこれはおそらく頭で考えるワークショップですね。プロセスワークを活用したワークショップというのは、これに加えて心で感じることも行うワークショップです。

専門用語で言うと、ドリームランドに降りていただいたり、エッセンスに誘ったりするんですが、普通でいうところの「心で感じる」ということですね。「頭で考える」とどんなようなことが起こるかというと、すばらしい意見が出てきますので、そこにトップがGOサインを出すと、実際に実行していく中で実感が深まっていく。

少し心で感じる部分もあとから得られるということなんですが、プロセスワークを活用したワークショップは、ワークショップの中で「心で感じる」ことを行いますので、ワークショップの中で非常に強い当事者意識が生まれます。なので、トップの鶴の一声がなくても、改善に向けての逞しいエンジンが備わっていくということが、非常に高頻度で起きます。

成果ですね。通常のワークショップはきっちり運営すると、もちろん事前に想定した成果が得られますが、プロセスワークを活用したワークショップというのは、それに加えて予想しなかったような、うれしい副産物が得られる場合が多いです。

例えば、リーダーが育って「この人大丈夫かな」というような、「このままだとカンパニー長にしてあげることができないんだけど」みたいな人がすごく目覚めて、「こんなふうにこの人がこのプロジェクトを通じて変わったのは驚きだ。こうなるとカンパニー長当確だよな」というようなことが、当初予想しなかったことが得られる場合が多いですね。taoの流れに従うと、起こるべきことが起こるということを申し上げているんですけれども、そんなことがあります。

ファシリテーターの「人間的な成長」も起きる

ちょっと副産物のところ、例が重複してしまったかもしれませんが、通常は効率が高まる、効果が出るといったビジネス上の成果が得られるんですが、プロセスワークを活用したワークショップでは人が成長する。リーダーが成長する。そして組織が成長するということが起きます。

関係性もワークショップを行うと、みなさんもご存じのとおりみんな仲良くなります。プロセスワークを活用したワークショップは、仲良くなるレベルではなく、深い相互理解というレベルまで起きるということですね。そして次にファシリテーターについてです。

特に社内ファシリテーターを起用する場合。あるいはプロジェクトの中で、最初は我々バランスト・グロースの例えば2人が、プロジェクトのワークショップのファシリテーターをするんですけど、途中から特に若手に自発的に、企業側のプロジェクトリーダーロールを取ってもらったりします。

そういうことを行うことで、この方もある種のファシリテーターなわけですけども、通常のワークショップでは、そういった方のビジネス経験値が深まります。プロセスワークを活用したワークショップでは、もちろんビジネス経験値も深まるんですけども、それに加えて人間的な成長が起きるということが違いです。

誰でもよく知っている超大手企業の子会社で、最近ワークショップを行ったんですが、そこから来られている社長がびっくりしていました。子会社のみなさんがやるワークショップですから、超一流の親会社の人たちが議論するようなレベルは、もしかしたら社長は期待していなかったかもしれないんです。

あまり期待していなかった子会社の人たちが、ものすごい強い当事者意識を持って、非常にすばらしい成果を逞しくどんどん出してくる。そしてみんなが仲良くなり、そして今まであまり言いたいことも言わなかった引っ込み思案の人たちが、毅然と意見を言うようになったりというのを見て、社長は本当にビックリされました。

これもまさにプロセスワークを活用したワークショップが起きたからです。どこかでは「これ、実はプロセスワークを使っていたからなんですよ」と、そろそろ社長にご説明しようかなと思っていますけど、たぶん本当に従来起きていたようなワークショップとの違いを、感じていただいているんじゃないかなと思います。

「私」と「ロール」を切り離してみる

具体的にどんなことをやるのかというのを、いくつかご紹介しますと、すでにさっきロールスイッチの話をしましたけども、実は「私」というものと「ロール(役割)」というのを切り離してみること、とても大事です。例えばこれは個人がテーマになっていますけれども、組織同士のいがみ合いもそうかもしれませんね。

「私は営業課長だ」「我々営業部隊だ。売上作りをがんばっているんだ」。「管理課長のやつ、あるいは管理部門のやつら、『あの資料出せ、この資料出せ』とうるさいんだよ!」といったコメントをよく聞きますよね。でもふと考えてみてください。あなたは営業課長だという考え方もあるけども、あなた自身と営業課長というロールを、切り離してみたらどうですかということですね。

実際に何かファイルとかが手元にあるとすると、このファイルを手に取ってみて、「これが営業課長のロールというものだ」と、味わってもらったりします。営業課長というファイルを持っているとどんな気がしますか? とファシリテーターが質問します。 「『よっしゃ、やってやる』という気持ちになります」みたいな人もいるかもしれません。

次に「ロールを椅子の上に置いてみてください」というようなことをファシリテーターがお願いするかもしれませんね。自分とロールを切り離して、実際にそれを象徴するファイルを置いてみる。眺めてみてもらいます。「そうか、俺は営業課長の役割をになってすごくがんばってきたな。よくやったもんだな」とか、何かしんみりした感じを持つかもしれません。

そして、なんと彼が忌み嫌っている管理課長のロールを、別のファイルを渡して「これ、管理課長のロールですよ。持ってみてください」とファシリテートしたります。そうするとこんなことが起きるかもしれません。

「こんなに重たいのか。管理課長のロール、こんなに業務の幅が広くしかも失敗が許されない。あいつはこんなに重たいロール持っていたのか」みたいなことが起きることもあります。個人とのワークの例で解説しましたけれども、これを組織対組織の中でやってみたりもします。

「ランク」は高い人ほど無自覚

そして、「主流派」「非主流派」の話に、ここで入っていきたいと思うんですが、そこと関連するのが「ランク」という概念ですね。これはプロセスワーク独特の概念です。ランクというは個人の持つ特権の集合体を言います。わかりやすくいうと、西洋社会では男性女性でいうと男性がランクを持っている。白人黒人でいうと白人がランクを持っている。

例えばハーバードビジネススクールを卒業した人と、そうじゃない高校を卒業した人では、高学歴の人がランクを持っている。お医者さんと例えば小売店でレジを打っている人、そういったお医者さんみたいな職業の人がランクを持っている。

注意点としては、だからといってランクの高い人が人間としての価値があるわけではない。ランクの低い人が人間として価値がないということとまったく無関係です。特権を持つ人なのかそうなのかということだけを、ミンデルは言っています。

「ランクが高いと」ということで、ランクが高いようなイメージを図に入れたんですけれども、ランクが高い人はリラックスして自由に振る舞うと同時に、ランクに無自覚です。

私は男性なのでこれはまさにジェンダーをテーマにしたワールドワークに自分が出てみて、女性がどのような苦しみを受けているかを、まったく無自覚なままに自分の意見を発言してしまったことがありました。大反省の瞬間でした。本当にランクが高いほうがランクに無自覚だなと思います。

ランクが低い人はリラックスできないし、自由に振る舞えないし、逆に高い人のランクを強く感じます。わかりやすいエピソードはマリーアントワネットさんかな。「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という話がありますよね。別に彼女は貧乏な人を蔑んだ気持ちはまったくなく、本当に純粋に「パンがなかったらお菓子を食べればいいのよね」と思っただけなんですけど、あまりにもランクに無自覚ですよね。

それを言われた貧しいな人たちは激しい怒りを感じて、最終的には「こいつをギロチン台に送れ!」というところまでつながったわけだと思いますけど、まさにその話です。

ランクが引き起こす対立関係

「ランクが引き起こす対立関係」。無自覚にランクを行使する。ランクの高い人は悪意はないんですよ。ランクの低い人を馬鹿にしてやろうという気持ちはまったくないんです。無自覚なだけなんですが、そういった発言をされた側は、「馬鹿にされた」という激しい怒りを覚える。

臨界点を超えると事件が起きますということですね。例えば、スティーブン・スクートボーダ博士が日本に来た時に、こんな話をしてくれました。ランクが高い側は、心臓外科医の方たちですね。ものすごいスキルを使って難しい手術をしている人たち。そして反対側は麻酔科医の方たちですね。

でも麻酔科医の方がいないと、心臓外科の手術はできないわけで、決して心臓外科医たちは麻酔科医を蔑んでいるわけじゃないんですけど、麻酔科医たちランクが低いので、馬鹿にされたと感じました。そしてなんとボイコットをして「私たち麻酔しません」みたいなことに発展した、そんなエピソードをランクに関連して話してくれました。

この「変容のロードマップのワーク」は少し飛ばしまして、ランクと関係するところですね。「主流派、非主流派」の話をします。コダックの事例では、経営者側が主流派でした。

現場の人が、非主流派でした。もう1つ銀塩フィルムの世界にいる人も主流派でした。デジタルの人は非主流派でしたね。主流派はランクも高くパワーを持っています。組織の中心にいて注目されていて、意見を言うことができます。彼らは「顕在化した可能性の源」ですよね。

一方、デジタルの現場にいる人たち。ランクが低いです。コダックの中ではランクが低い。パワーを持っていない。組織から周縁に追いやられている。本当は大事なんですけれどもコダックの中においては注目されていない。

この方たち、非主流派は意見が言えないんですけど、「潜在的可能性の源」なんですね。なので、このあいだで健全な対話が起きることは、非常に価値が大きいんですけど、通常それは起きないというのがコダックの例でおわかりかと思います。

「主流派」と「非主流派」の対話をどう作るか

バランスト・グロースでどんなようなことをするのかというと、主流派の方たちが耳の痛い意見を受け止めてもらうような器を作るということですね。かなり個別具体的な組織開発論のの手順の話になりますけれども、我々は個別インタビューというのを非常にたくさんやります。

もちろん主流派にも聞きます。そして非主流派のインタビューも非常に大事ですね。そこで明らかになった、主流派が気がついていない非主流派の思い。これを我々がわかりますので、最終的には非主流派と主流派のワークショップで対話を行いますが、そこは丁寧に丁寧に、ワークショップに先立って主流派の方たちに報告します。心の準備をしてもらいます。

実は主流派の方たちも、非常に傷つきやすい方たちでもあるわけですよね。そこは丁寧にフォードバックしたあとに、場合によってはロールスイッチみたいなものを、集団でやってもらったりしますね。

主流派のみなさんの対するワークショップですので、非主流派の人たちは存在しないんですが、空っぽの椅子はいくつか置いておいたりします。そうすると、「さっきバランスト・グロースのコンサルタントの方からいろいろ聞いたんだけど、そんなふうなことを思っていたのか。」と空っぽの椅子に語りかけたりします。

そして主流派の方たち何人かの方たちは、自発的に非主流派の椅子に座ってみて、非主流派の立場から主流派の方へと言葉を投げかけたりするということをします。

ロールスイッチをすることで、より強く非主流派の方たちが感じていることを理解することができたりして、そういった準備がしっかりできたあとに、本当に生身の人間の非主流派の人と主流派の人が会話をする。これはとても大事な仕上げの部分になりますので、ここのファシリテーションにも持っていったりいたします。

そこに向けての「プロセス構造分析」というものを、どちらか片側の方たちとやったりもしますが、これもちょっと時間の関係でいったんスキップさせてください。

変革が必要な4つの領域

最後のまとめのお話をします。いったんリーダーと組織、2つに枝分かれしました。これを統合していく必要があります。そして「頭で考える」と「心で感じる」をいったん分けていますけど、これも統合していく必要があります。

こういうことですね。4つの領域がまず大事なんですよね。統合の前に4つの領域が全部大事なんです。外部環境が変わります。どうしたらいいですか。通常はこちらの「頭で考える」ほうから入りますので、グロービスに通ってもらって、個人には新しい外部環境に適応したビジネススキルを学んでもらいましょう。

そしてやはり頭で考えて、変容した外部環境に対して、組織全体としてどのような戦略を取ればいいか。これをマッキンゼーさんに提言してもらいましょう。これも大事ですよね。だから外部環境が変わると、新しいビジネススキルが必要となりますし、新しい戦略が必要となります。

でも一方で、外部環境が変わったことによって、それこそガースナーがやったように組織文化も変えていかなきゃいけない。そして我々バランスト・グロースが得意とするような、プロセスワークを活用したマインドとかモチベーションを鼓舞していくようなことですね。これも新しい外部環境に向けて行わなければいけない。この4つの箱全部が書き換わらない限り、会社は新しい環境に適応することはできないわけですね。

4つの箱を統合させる「縦の統合」「横の統合」

私どものアプローチというのは、心のほうを中心にアプローチしていくんですが、結果的に全部4つの箱を統合していかなければいけないわけですから、まず縦の統合。「個人」と「組織」の統合。そして横の統合ですね。「頭で考える」と「心で感じる」の統合が必要になってきます。

「縦の統合」は、最近のここ数年のバランスト・グロースのプロジェクトは、必ずと言っていいほどこんなふうになっています。組織全体へのアプローチを組織サーベイを取ったり、それをもとに組織全体でワークショップを行ったりしますが、そこで終わることはなく、その中の大事になってくるリーダー個人へのアプローチ。リーダーへの360度フィードバックやエグゼクティブコーチングですね。

逆もあります。リーダーに働きかけたエグゼクティブコーチング。これをきっかけにもう少し組織全体に広めて、ワークショップへと持っていく場合もありますが、つまり両方必要ということですね。

グルグル回りの構造です。組織が変わり始めるとリーダー個人が変わらないといけない。変わることが必ず求められます。そしてリーダーが行動変容すれば、組織全体の変革ももちろん加速します。グルグルグルグルとこの構造が回る。私どもバランスト・グロースは非常にここ数年心がけております。これが「縦の統合」ですね。

次に「横の統合」ですね。これは古くて新しいクリス・アージリスの「ダブルループ学習」の概念をご紹介したいと思います。まず「シングルループ学習」とは何か。上半分ですね。まずスタートは実はメンタルモデル。「心」のところですね。よくみなさん最近目にすると思われます。

氷山モデルの下の部分ですね。これがメンタルモデルなんですが、例えば価値観ですね。いろんな価値観があっていいと思います。売上と利益があるけれども、「とにかく売上が大事なんだ」という価値観があってもいいかもしれません。あるいは、物自体よりもそれをお客さまが使って、どんなメリットが出るのか。それこそに意義があるんだという強い信念があるかもしれません。いろんなメンタルモデルがあっていいと思います。

そこがスタートになって、意思決定はこう決める、例えば「営業マンは売上のみで管理するんだ」とか、「お客さまからのフィードバックをもとに、その組織がうまくいったかのKPIにするんだ」とか、いろんな意思決定、ルールがありますね。それに基づいて意思決定をします。そうするとここで本当の世界においての、何らかの決めたことがうまくいったり、ダメだったりします。その結果をループ情報としてフィードバックし、情報として得ます。

VUCAの時代は「ダブルループ学習」が必須

次に2つの流れがありますね。もともとメンタルモデルから来た意思決定ルールと、こんなことが起きたんだという情報を組み合わせると、次のの意思決定が行われますね。その結果、またグルグルと回っていって、これはこれで非常に適切なことへと、調節がなされていくわけです。これはおそらくVUCAの時代ではなくて、ある程度物事が安定している時代はこれでよかったんですね。

ところが今、VUCAの時代、変革期はこれでは足りない。ダブルループにしなきゃいけないということです。もともとのループに加えて新たな2個目のループが加わりました。それは何かというと、得られた情報をもとにしたメンタルモデルへのループですね。

例えば、この情報をもとにしていると、今までは売上こそが大事だと思っていたけど、「いやいや利益もちゃんと見ないとダメじゃん。そんなふうなことが大事だね」という価値観とかも起きるかもしれませんし。

新たな情報を見ていると、「いや、お客さんが喜んでいることも大事だけど、例えばiPhoneが出てきたみたいに、物自体がスーパーなものを作らないとダメなんじゃないの? お客さんの言うことを聞き過ぎたらダメなんじゃないの?」みたいな信念が生まれてくるかもしれません。何にせよ、本当に起きたことをもとにメンタルモデルを書き換えるということですね。

書き換わったメンタルモデルがあれば、意思決定ルールも変わります。その意思決定ルールをもとに決めていってまたグルっと回って、シングルループももちろんなくなるわけではありません。シングルループにおける調整も起きるんですが、もう1つのダブルループ、2個目のループ。メンタルモデルが本当に今までいいのかどうかという、心で感じるところへのループも持って、そこでグルグルグルグル調節していくということが、必要になってくるということになります。

私ども、バランスト・グロースの組織開発プロジェクト、このシングルループはもちろん大事にしますけれども、「こういったことをどのようにお感じなりますか?」とワークショップの参加メンバーの方への問いかけですね。心で感じるループも大事にしながら進めております。

以上で講演は終わりとなります。ありがとうございました。