2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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坪谷邦生氏(以下、坪谷):かたちは自由であれ、一人ひとりが期初に何かの目標を立てて、マネージャーとすり合わせるんでしょうか?
山田理氏(以下、山田):そうですね。今はすり合わせているところと、してないところがあると思います。目標という意味で言うと、立てたい人と立てたくない人がいます。どちらかというと、新卒は最初は自分のペースがわからないから、ある程度の目標を作ってもらって、それに対してフォローしていったり。
中堅ぐらいになってきたら自由というか、目標管理で評価が決まるわけではないので、「何をするか」という役割分担のほうが大事です。だから、そちらを優先してるんじゃないかなと思いますね。
坪谷:目標を立てたり、それを管理すること自体も手法だから「本人がそれでうまくいくならやってよし」という感じで。
山田:そうです。あとは、サイボウズの行動指針の「Action5+1」にあるように、理想に対してどれだけコミットしてがんばれたか……別にがんばってもがんばらなくてもいいんですけど。別のポイントでやりたいと言うんだったらそれはそれでとか。
「知識を増やす」というのは、経験値として「こんな知識が増えました」「こんなことができるようになりました」というもの。「心を動かす」は、コミュニケーションやプレゼンテーションのスキル。
そんなふうに分解しながら「このポイントはすごく良くなったよね」「こんなことができるようになったよね」「こんな知識が増えたね」というフィードバックをすると、定量的な話ではなくて、自分の得意なところがちゃんと認められていきますよね。
もう1つが「あくなき探求」で、例えば「思考がぜんぜん浅くって、自分で考えるのはいまいち得意でもないけど、ここはもうちょっとちゃんとやりたいんですよね」と。そこに対しては「こんな本を読んだら」「こういうふうにやったらいいんじゃない」というふうにしています。
山田:人って、成長のためにはフィードバックをもらうじゃないですか。テニスでも野球でもゴルフでも、お金を払ってでもフィードバックしてもらいますよね。
坪谷:確かに(笑)。
山田:でも仕事だと、なかなか素直にフィードバックをもらいにいけない。フィードバックしてあげようと思ったら、逆に「やってるつもりです」「できてます」と言われたり。
なぜかと言うと、そのフィードバックがお給料に直結するからですよね。そうすると「できてます」と言いがちですし、評価する側は厳しくなりがちで、すごくギクシャクした評価面談みたいになっていって。
でも、ただ成長するためのフィードバックだったら「ありがとう」とか「どうやったらうまくなるか教えてください」という話になる。なんなら上司である必要もなくて、別に後輩でも周りの同僚でも「ちょっとフィードバックして」って。フレームワークや機会だけはちゃんと作っておけば、そういう会話が成り立っていくのかなと思います。
こういうのをKPIと言うのかどうかわからないですけど、目標の種類と目的に合わせて、目標の設定の仕方も分けてやったりしていますね。
坪谷:私は今日、「人として当たり前」なことをやったらいいんだな、とすごく思いました(笑)。
山田:(笑)。
坪谷:たぶん私も含めて、人として普通のことをしにくくなるような、何かの前提条件や制約条件が強くあるんでしょうね。でも、「人ってそういうもんだっけ?」「普通に考えたらこうじゃない?」ということをちゃんとやったらうまくいくんだなと思いました。
山田:坪谷さんが考える、目標管理の理想ってどんな感じなんですか?
坪谷:今回の『図解 目標管理入門 マネジメントの原理原則を使いこなしたい人のための「理論と実践」100のツボ』の執筆に向けて、目標管理を使っている人たち1,000人ほどにお願いして、アンケート調査を行いました。目標管理がうまくいっているかどうかを聞いたんですが、けっこう顕著に差が出たんですよ。
うまくいってる人たちは、そもそも「評価」や「賃金」に着目していないんです。彼らは「仕事」や「目標」に集中してるんですね。逆にうまくいってない人たちは、「上司」や「評価」に着目して、不満を抱えているんです。なので、「上司」「評価」に着目するのではなくて、「仕事」「目標」に着目している状態が理想だと思います。
山田:数字はコミュニケーションしやすいですもんね。だから目標管理に使われるんだと思うんですけど、「わかりやすいから、なんでも数字で代用しちゃえ」という感じになりやすいんですかね。
上司も一人ひとりの行動を見たり、定性と定量を合わせて評価するとなると「ちょっとめんどくさいな」となりがちです。何も考える必要がないので、数字のほうが楽と言えば楽ですよね(笑)。
坪谷:そうなんですよね。まさにそれが人と人のコミュニケーションじゃなくなっていく原因の1つだと思います。これは執筆中の『図解 目標管理入門』のツボ008なんですけど、「真に重要なことは定量化できない」と書きました。
(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門 マネジメントの原理原則を使いこなしたい人のための「理論と実践」100のツボ』より)
坪谷:ドラッカーも「定量化に逃げると近視眼的になる」「定量化に成功するほど定量化したものに着目してしまうから、よく管理されているように見えるほど管理されてない可能性・危険がある」と言っています。
定量化の罠というか、安易な定量化が視界を狭めることは大いにありそうなので、この原則は伝えていきたいです。
日本にQCサークルの考え方を持ってきた、エドワーズ・デミング博士が「測定できないものは管理できない」と言ったとされているんですけど、調べていくとどうやら誤解で。このページの一番下に書いたんですけど、デミング博士は「測定できないものは管理できないと考えるのは誤りである」と言ってるんですね。
山田:逆やん(笑)。
坪谷:「測ることは便利だけど、その罠にはまっちゃいけないよ」と、デミングもドラッカーも言っているというのは、発見でした。
おもしろいことに、OKR(Objectives and Key Results)でも、目標(Objectives)自体は測れなくてもいいとしているんですよ。定量じゃなくてもいいので、本当に目指したいと思える、ワクワクする目標を置こうと。その上で、主要な結果をKey Resultsとして置くので、定性と定量をうまく分けて使っていると思いました。
(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門 マネジメントの原理原則を使いこなしたい人のための「理論と実践」100のツボ』より)
山田:Key Resultsも数値じゃなくてもいいんですよね?
坪谷:Key Resultsは、その期が終わった時に達成したかどうかが必ずわかるものにすればいい、ということですね。
山田:なるほど。「これができた」「できてない」も含めて、わかればいいということですよね。数字もコミュニケーションしやすいので使えばいいと思うんですけど、「できたか、できてないか」「あるか、ないか」もほぼほぼ計測できる。お互いにコミュニケーションができればいいのかなとは思うんですけど。
「どれだけできたか」というふうにすると、無理やり数値を置かないといけなくなって、数字を作りにいっちゃうというか。それが時間がかかったり最終的に幸せにつながらないこともあるから、やっぱり使い方なんでしょうね。
坪谷:この間、ある大手企業の人事の方に「人事評価で困ってる」と言われて、相談に乗ってきたんです。辻褄を合わせるために書き換えたり、給与を上げてあげたいけど評価がおかしいから、評価を入り繰りしたりして「逆算ばっかりでめちゃくちゃ時間を食う」「やればやるほど、マネージャーと従業員のやる気がなくなっていく気がする」というお悩みだったんですね。
私は「やればやるほど、みんなのやる気がなくなるなら、いったんその評価制度を全部やめたらいいじゃないですか」とお伝えしました。役員の方が10人ぐらいいらっしゃったんですけど、しーん……となって「考えたこともなかったです」と。
山田:(笑)。
坪谷:だから、山田さんの「人として普通にこうだよね」「これが邪魔やから、やめたほうがええんちゃう」というスピード感がおもしろいというか(笑)。「普通に考えたらやらないほうがいいことに、なんで固執してしまうんだろう」と不思議に思います。
大人数だからなのか。それとも、変えるべきことと変えるべきではないことの区別がつかないからなのか。この辺りに罠がたくさんありそうな気がしています。
山田:情報共有の話につながりますけど、やっぱり今までは一人ひとりを見るという時に、本当に情報を取るのが大変だったんですよね。そこは定量化したほうがやりやすかったかもしれない。でも今は、一人ひとりがどんなことをしたのかが、定性的なものも含めて情報共有しやすかったり、データとして残しやすいと思うんです。
お給料を決める時に、外の人たちがどれぐらいもらっているのかという国のデータも、普通に手に入るようになってきたので。この前、僕がコンサルをしている会社でも同じようなことがあったんです。社内に閉じたかたちで「独自の評価を作ろうとしてるんですよね」という話で、本当に「やめたらいいんじゃないですか」って言いました。
坪谷:(笑)。
山田:「それで誰が幸せになるんですか。本人に『いくらお給料が欲しいの?』『なんで?』って聞けばいいじゃないですか」という(笑)。逆に自分が、「『いくら給料を渡したいの?』『なんで?』と聞かれた時に、説明できるかどうかじゃないですか」と。
そんなの霊感で決めるわけじゃないので、みんな何かを見て、「この給料が妥当だ」と言うはずだから、お互いが見ているものを出し合って、まずは情報の非対称性をなくしてから、お給料の話をしたらいい。
結局、お給料を渡したい人ともらいたい人が一緒の値をポンと出せたら、こんなハッピーなことはないですよね。逆に、理由はあんまりいらないかもしれないわけですよ。
「ここで正確な値を計算して、このロジックが正しいかどうか……」というのを一生懸命に出すのは、「お給料は正しい値がある」という前提があると思っていたり、正しい値をちゃんと説明しないと、従業員は納得しないという幻想をみんなが抱えてるから。
目標管理がどんどん複雑になっていって、結果的に「何でお給料が上がるかわかれへん」となって。そうすると、けむに巻くことのほうが意味があるというか、人事も「360度評価的にやったら文句言わへんやろ」とか。
でも「上げ方は分かれへんし、説明できへん」となって、「いやいや、上げ方が説明でけへんやつはやったらあかんやろ」と(笑)。
坪谷:(笑)。
山田:さっきの企業の話じゃないですけど、落としどころはわかってるんですよね。「なぜそういう結果が出たのか」をお互いに話さずに、一生懸命ロジックでやろうとするから、わけのわからない作業を延々とやることになる。数字を作るならシンプルに、その人が欲しい数字を「なぜ」と聞いてあげるのがいいんじゃないかなと思うんですけど。
坪谷:複雑なロジックの背景には、「説明しなきゃいけない」とか「怒られる」という恐れがありますよね。先ほどおっしゃったとおり、欲しいものとあげたいものが一致するなら、ロジックはいらないという(笑)。
山田:そう(笑)。「ありがとう」の3秒で終わって、みんな幸せじゃないですか。時間をかけずに、欲しいものとあげたいものがそのままもらえる。
坪谷:私がアドバイザーや人事顧問としてお客さんと関わる時も「坪谷さん、いくらで来てもらえますか?」という話をされるんですよね。こちらが「このくらいでどうですか」と提示すると、もう「一緒にやろう」と思っている経営者は「じゃあそれでよろしくお願いします」と即決されるんですよ。なので、賃金の確定は本当に2秒なんです。
山田:そういう意味では、「コミュニケーションをスムーズにするために目標がある」という置き方も1つあるのかもしれないですね。コミュニケーションは人それぞれなので、定性的なコミュニケーションができる人もいれば、定量的なほうが好きな人もいるかもしれない。
そのあたりを100人100通りというか、会話する時のプロトコルとしてある程度作っていくというか。前提として、本人ががんばれるような「欲しいな」と思うものを渡したらいい、というところにいきますけどね。
あとは、できるだけコミュニケーションコストを下げるほうがいい。ただ、コミュニケーションコストを下げることで、モチベーションが下がっちゃだめなんですよね。モチベーションを維持しながら、どうコミュニケーションコストを下げるのか、というポイントがあるのかもしれないですね。
坪谷:さっきの「関係の質」を上げるほうが早かったというのがおもしろいですよね。
山田:そうですね。「関係の質」を上げるための目標もあるのかもしれない。
坪谷:私はそこだと思っています。やっぱり、賃金や処遇の話と目標を追いかける話は分けたほうがいいと思うんです。ある程度の関係性はあってもいいんですけど、ダイレクトに直結するのはもうやめたほうがいいかな、と。
目標って本当はやる気になれる、ワクワクする話だと思ってるんですよ。そこを無理に評価や賃金とつなげると、気持ちがどんどん下がっていく。まずはハリネズミの概念で、置いた目標を一緒に追いかけることが「楽しい」と思えるかどうかという論点で、目標の話ができたらいいなと思っています。
山田:なるほどね、そうですね。
坪谷:評価や上司を見るんじゃなく、目標と仕事を追いかけるほうにいけるといいな、と。今日はありがとうございました。
山田:ありがとうございます、勉強になりました。またよろしくお願いします。
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