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chapter8.業績 『最軽量のマネジメント』サイボウズ株式会社 山田理 氏(全3記事)

目標や数字を個人に落としていく必要はない サイボウズが、離職率28%の悪循環から抜け出せた「成功循環モデル」

人気シリーズ『図解 人材マネジメント入門』『図解 組織開発入門』の著者であり、企業の人材マネジメントを支援する株式会社壺中天の坪谷邦生氏が、MBO(目標管理)をテーマとした新刊の発行にあたり、各界のエキスパートと対談を行います。第8回の本記事では、サイボウズ株式会社 組織戦略室長の山田理氏と共に、50年以上も前のドラッカーと現代のサイボウズのマネジメントの共通点について語りました。

人事のための「原理原則の定義」

山田理氏(以下、山田):こんにちは、ご無沙汰してます。お声がけいただいてありがとうございます。

坪谷邦生氏(以下、坪谷):ご無沙汰しております。今回はありがとうございます。

山田:(今度書かれる『図解 目標管理入門』は)すごいですね。おもしろい本ですね。

坪谷:前作の『図解 組織開発入門』を書いた時に、ちょっと足りないところがあるなと感じて、今回はMBO、目標管理に踏み込んだ感じです。

山田:『図解 組織開発入門』もそうですけれども、いろいろな事例を調査して、それをうまく分類しながら、わかりやすくまとめられていますよね。

坪谷:ありがとうございます。以前の対談でもそう言っていただいて、すごくうれしかったです。私のやっていることはサイボウズさんと通じるところがあるなと勝手に思っていまして。

サイボウズさんは、「公明正大」や「説明責任・質問責任」などの原理原則をわかりやすい言葉で「定義」されていますよね。それによって社員の方は判断がしやすく、迷わず進めるだろうと思うのです。私は、そういった使いやすい「原理原則の定義」を人事領域でやろうとしているのです。

山田:なるほど。僕らも実際にやってきたことについては、そもそものところから言葉を定義しながら、自分たちなりにいろいろなロジックを作ってやってきて。「自分たちが過去はこうで、これからこう在りたい」という、1本の線で定義してきたつもりなので、わかりやすいと言えばわかりやすいです。

坪谷:そうですよね。拝見していて、いつも素晴らしいと感じています。私はもともと人事マネージャーをしていて、自分なりにいろいろ深めてやってきたつもりなんですけど、失敗することのほうが多くて、うまくいかなかったんです。

それで、もう少し世の中を見ようと、32歳の時にリクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントになりました。50社くらいの人事制度を作らせていただいた時に「うまくいく時と、うまくいかない時のパターンがあるな」ということに気づいたんですね。私の場合は1社では定義するレベルまで届かずに、50社を見て全体を捉えることが成功経験になった気がします。

ドラッカーとサイボウズの共通点

坪谷:今日の対談の場を持たせていただいたのは、実は、MBOの源流である社会生態学者P.F.ドラッカーについて学びを深めている中で、驚いたことがあったからなんです。それは、ドラッカーの言葉とこれまで山田さんに教えていただいたことの根底が同じだった、ということです。「ドラッカーとサイボウズの共通点」としてまとめさせてもらって、持ってきてみました。

山田:恥ずかしい(笑)。

坪谷:本当に感動したので、いろんな人に話しているんですけど、「主役は働く人」というところが完全に同じなんです。ドラッカーは、1954年に書いた『現代の経営』という本でマネジメントを発見し、マネジメントの父と呼ばれているんですけど、当時は「主役はマネージャー」と言っていたんですね。

でも、1969年の『断絶の時代』という本では、「これからはマネージャーがマネジメントするのではなく、働く人一人ひとりが自律的に自らをマネジメントする必要がある」として、主役をマネージャーから働く人にシフトしているんですよ。

今もいろいろな会社で「働く人が大事だ」と言われているものの、その人たちに自律的に動いてもらう働きかけを本当に実施している会社って、まだ少ないように思っていて。そんな中で、以前、山田さんとお話している中で出てきた「働く人は、会社が管理する存在ではない」という大前提が、ドラッカーの理論と同じだったんです。

50年以上も前に「働く人が主役」と説いた、先見の明

山田:その本を読んだのかもしれないですけど(笑)。未だに「マネージャーや株主が主役だ」と言っている会社が多い中で、1969年にそう言っているのは本当に先見の明があるというか、すごいですよね。

坪谷:そうですよね。マネージャーの役割はどうなるかと言うと、「マネージャーは、メンバーのアシスタントだ」と書いているんですよ。この頃からそう言ってたのかとちょっとびっくりしましたね。

ドラッカーは「評価とは上に管理されることではない。働く人が主役なので、セルフマネジメントを可能にするために、自ら評価するべきだ」としています。

そして、自分の仕事を自分で進めるには、上司が情報を握るんじゃなく、働く人にいち早く情報を届ける必要があると言っているんですね。この情報をオープンにするところからだというのも、サイボウズさんの取り組みと同じです。

山田:僕自身は実際に今、会社を経営してきて、自分たちがインターネット的な情報共有の仕方や、グループウェアに軸足を起きながらビジネスをしていますし、テクノロジーはすごく便利だなと思っています。インターネットの本来の価値をどうやったら活かせるのかと思って、ここに来ているところがあるんですけど。

まだインターネットがない時代に、そうした最軽量のマネジメントや、当時はコストがかかったはずの情報共有を前提として、「主役が働く人である」と唱えているのは、あらためて本当にすごいなと思いますね。

目標中心のマネジメントでなくても組織は回る?

坪谷:OKRの発祥は、ドラッカーとも親交の深いインテルのアンディ・グローブ元社長ですが、彼も「情報の公開」を非常に重視しています。

今のOKRはクラウドサービスなどで情報共有が簡単になって、Google社やメルカリ社でも実施されています。でも、インテルがクラウドサービスも何もない頃から、目標をフルオープンにして進捗の共有を徹底してました。

技術が進んで便利だからやっているわけじゃなく、大事だと思うから労力をかけてでもやっていたわけです。

そんなふうに、サイボウズさんとドラッカーのMBOの本質が非常に近いと思ったんですが、それはなぜだろうと思ったんですね。というのも、MBOは目標を中心に置いてセルフマネジメントを回すという考え方ですが、サイボウズさんからは目標を中心にマネジメントを回している感じはあまりしませんでした。

それで今回、目標をどう考えていらっしゃるか、目標と業績や評価の関係がどうなっているのかをお聞きしたいなと思って、この場を持たせていただきました。

山田:なるほど。

坪谷:私は、サイボウズの文化づくりのお話を聞くと「成功循環モデル」(マサチューセッツ工科大学の元教授ダニエル・キムの提唱したモデル)が頭に浮かびます。「関係性の質」を上げることで「思考の質」が上がり、「行動の質」が上がり、結果的に「結果の質」が上がるというのがサイボウズさんのやり方なのかな、と。

狙いを定めて「目標」を置き、そこに向けて「必達だ」というマネジメントというよりは、いい状況を作れば人はがんばるものだし結果も出る、と考えていらっしゃるように見えています。

「結果の質」へのこだわりが悪循環の元に

山田:MITの教授か誰かが使ったりしているのかもしれないんですけど、まさにこの図を使って説明していますね。

もともと知っていたわけじゃなくて、「結果の質」にこだわっていたら、結果が出なくて「関係の質」が悪くなり、人は辞めていくと。雰囲気が悪くなると他責や言い訳が出てきて、挑戦もしないし言われたからやるというふうになっていく。

当然結果も出ないし、アメとムチじゃないですけど、無理やりインセンティブを出して「うまく走れ」って尻を叩くようなところに限界を感じたというか。それでいける会社もあるんだろうなと思いましたけど、僕らには無理だったなと思ったんです。

離職率が28パーセントで業績も下方修正していた頃に、少なくとも自分が働いている会社が暗かったり、みんながおもしろくなさそうにしていたら自分もおもしろくないし、「なんでみんなが楽しめない会社を作っちゃっているんだろう」と思ったんですね。

僕も楽しいほうがいいし、もちろん業績も上がるほうがいい。業績を上げるためには、いろんなビジネスモデルを考えたり、他のビジネスモデルを見つけてきて磨いたり。事業自体は、当たるも八卦当たらぬも八卦のところがあるけど「関係の質」を良くすることは、やろうと思ったらやれると思ったんですよ。

結果を捨てたわけでもないんですけど、事業に関連する「結果の質」と、組織に関連する「関係の質」という両輪を回すと考えた時に、「関係の質」のほうが早期に改善しやすいところがあって。

組織にいてほしいと思う人に「どうしたらいてくれる?」とか、入ってほしいなと思う人に「どうしたら入ってくれる?」と聞きながら、それを実現していくと働きやすくなっていって、主体性が出てきたり。

いろいろな人の話を聞いて議論するようなフレームワークを作っていくと、話が噛み合うようになるし、炎上するような会話も少なくなっていって。みんながなんとなくアイデアを出してくるし、いろんなことにチャレンジしやすくなってくるんですよね。

目標や数字を個人に落としていく必要はない

山田:「じゃあ目標も自分で作ってみたら?」と言ったら、自分で目標を作ってきて、言ったからには達成したいから「がんばります」というふうになってきて。「ああ、そういうことか」みたいな(笑)。

坪谷:(笑)。一人ひとりが自分の目標を作るんですか?

山田:そうですね。ただ目標は2つあるんです。個人の目標もあるんですけど、僕らは(上場企業として)業績を開示をしていかないといけないところもあるので、最終的には売上と利益の目標みたいなところですね。

昔は目標の数字をチームや個人の目標に落とし込んで、わりときっちり目標管理をしていたこともありました。最初はロジックが合っているかもしれないですけど、ベンチャーなのでそんなに予想どおりにはうまくいかないんです。目標が変わることもありますし、数字に踊らされていって、数字を書いた瞬間に評価の軸がなくなっちゃうんです。

そこでまたイチから、「もしこの目標が最初からあったら」「ここまではこの目標だったけど、目標を変えたあとはこうだったから」と、評価するために数字をいじるような感じになって。時間ばかりかかるけど、何をやっているのかよくわからなくなってきたんです。だから、目標や数字を個人に落としていく必要はないかなと。

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