2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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山田理氏(以下、山田):「何のために目標を作るのか」というところもあるじゃないですか。評価するために目標を作るのか。そこを目指してがんばろうと思えるような、モチベーションのために目標を作るのか。それとも予実管理のために目標を作るのか。目標と言ってもいろいろあると思うので、目的に合わせて目標の置き方を変えていく。
成長のためにがんばることが目的なら、人によっては定量的な目標じゃなくて定性的でもかまわないかもしれない。だったらフィードバックをもらえたほうがいいとか、そういうところから、少しずつ今のサイボウズのような感じになってきたと思います。
坪谷邦生氏(以下、坪谷):予算を考えるベース目標と、やる気のための目標の2つがあって、ベース目標は売上予測に近いんですね。
山田:そうです。
坪谷:事前に山田さんからいただいたコメントでおもしろかったのが、積み上げ式にみんなから出てきた目標を足すと、売上が低くて費用が高くなって大赤字になってしまうと。だけど、「本当にこれで行く? 修正ある?」と聞いたら、みんなが赤字じゃなくなるように直してくるというところでした。自然と自律した組織になっているんですね。
山田:「どうしたらそういうカルチャーができるんですか?」と聞かれると、同じやり方でどの会社もそうなるかどうかはわからないんです。ただ、普通は自分の会社を赤字にしたい人なんていないじゃないですか。
赤字になったらお給料がもらえなくなるかもしれないし、会社が潰れるかもしれない。普通は、どうやったら黒字になるのかと考えますよね。
経営者や本社が作った予算が降りてくると思うと、分断が生まれて「そんな無理な予算を出してくるなよ」という会話になるかもしれないですけど。自分で予算を作っていたら「ホンマにこれでやるの?」と問われた時に、「いやいや、もうちょっとがんばって売上を上げます」とか。
サイボウズでは日々の粗めの売上も上がっていくので、みんなでそういう途中経過を見ていたら、「今週やばくない?」という感じになってくるし。月次を締めた時に「累計で予算に対してオーバーしてるから、後ろのほうで取ってる予算で削れるところがあったら、削っていかないといけないんじゃない?」とか。
逆に売上が上回って予算がプラスになってきたりすると、「もうちょっと予算を使ったほうが売上が上がるんじゃない?」というふうに、自分たちで年間の予算を意識しながら、使うか使わないかを判断していけるんです。
坪谷:「黒字にしたい」というのは、自分のいる会社だから当然だと思うんですけど、そうはならない時もけっこうあると思うんです。それはやっぱり、組織の中で何らかの分断や対立構造が生まれている時で。循環がなくて、関係性が切れている時ですよね。
人間として自然なことが起こらない組織では、「関係の質」が切れているんじゃないかと思いました。
山田:なるほど。目標は結果につながるので、経営者がどこまで「結果の質」にこだわるのかということかもしれないですね。
経営者が「うちもこういう『成長循環モデル』でやりたい」と思っても、「予算は必達やから」と言った瞬間に、もう「結果の質」にこだわってしまっている。だから、もし「関係の質」にこだわるなら、別に予算必達を目標にしなくてもいいんですよね。
みんなが主体的にがんばってくれて、「チャレンジしました。でも予算未達でした。目標の設定が高かったかもしれないし、工夫が足りなかったかもしれないので、次はこういうふうにして目標達成するように、課題設定します」というのが、最終的には「結果の質」だったり。
ひょっとしたら、目標管理において、経営者や意思決定者と現場の人の「関係の質」が一番大きいかもしれないですよね。
坪谷:本当にそう思います。離職率がすごく高かった時に「どうしたらいてくれる?」と聞いたというお話がありました。その問い自体は確かに「聞いたほうがいいな」と思うんですけど、多くの経営者は聞いていないのではないかと。
山田:(笑)。
坪谷:そこには聞けない何かがありそうだなと思います。「僕はこうだったらうちの会社にいますよ」と言った時に、「そうか。じゃあちょっと考えてみるわ」と言ってくれる経営者なら、組織の分断は起きない気がするんですよね。
やっぱり前提として、人を「労働者」ではなくて「人」として見ている感じがするんです。普通に人として「困ってるんだけど、どうしたらいてくれる?」と聞いて、相手も人として「こうだったらいいですね」というやりとりが成立する。
山田:ゲームで点数が増えるのは楽しいと思えるじゃないですか。本当は会社の目標も一緒ですけど、苦しくなりますよね。そこは目標の作り方や使い方がうまくない気がします。
業績で評価するというと、どうしても目標が低くなりがちですし、目標が決まった瞬間に達成しないといけないと思って苦しくなると思うんです。そこを「黙って100を112にしよう、一緒に最高得点出そうよ」と言って(笑)。
坪谷:そうですよね。
山田:目標と自分の給料が、そこまでひもづいてなければいいのかなと思ったりします。さっきのやる気のための目標は、予算を10パーセント、20パーセントオーバーすると、ボーナスがこれぐらいというふうにラダーになっているので、一応(評価として運用)できると。
業績が良ければチーム全員のボーナスになるので、何ヶ月分というふうに同じように月数で配分されて、できるだけ到達しやすい目標にするという部分もあります。いずれにせよ、そこは生活にあまり影響しない範囲です。「目標に行かなかったけどしゃあないか。次がんばろう」という程度にしておかないと、今度はボーナスが重荷になってしまう。
「ボーナスに期待してたのに、これが払えなくなる」となったら、また目標値に縛られてしまうので、そうならないようにしています。あとは、僕らは市場価格で給料を決めているので、市場価格は業績と連動しないんです。
坪谷:確かにそうですよね。市場価格は業績と連動しないし、業績を上げるために何ができたのかで決めるので、個人の評価や給与が業績に引っ張られない。
山田:市場価格自体も定量的でスタンダードなものだけではなくて、わりと定性的な面接を含めて見ています。過去の職務経歴書や面接などから、どんなことができたのかという定性・定量の両方を混ぜていますね。
よく面接で「僕は営業で売上ナンバーワンで、100パーセント、200パーセント達成しました」というのがあるじゃないですか。それは本人ががんばったのか、製品がすごく良かったのか、前の会社が良かったのか。定量だけじゃ評価しにくいですよね。
結局はいろんな定性的なものから、「この子は盛ってしゃべっているな」とか、「実際にこういうことができているから、だったらその実績は頷けるな」とか。
定性・定量を併せて判断して、給料を面接で決めています。実際、転職市場でもそうやって決めているので、社内でも同じようにしていれば、業績に囚われすぎずに済むのかなと思ったりするんですけどね。
坪谷:目標管理の歴史を辿ると、もともと日本でも目標と業績評価と賃金が、直結していたわけではなかったようです。バブルが崩壊した1990年代の賃金引き下げやリストラの時に、MBOや目標管理という言葉が都合よく使われたという負の歴史があるみたいです。
賃金を引き下げるために「目標を達成していないから」という理由を説明する必要があり、その方便が悪く作用して目標管理と賃金の結びつきが強くなりすぎているのじゃないかと思っています。ちょっとフラットに考えれば、目標と賃金を直結させるのは危ないとわかるはずなんですけど。
山田:なるほど。実際は、経営者に対する目標管理はザックリだし、ゆるかったりしますけど、現場に対する目標管理はきっちりしようとするじゃないですか。
バブル崩壊も社員のせいじゃないですよね。経営者が戦略をしくじったり、ビジネスモデルをアップデートしてないという大きなところで業績が下がったのに、「お前らががんばれ」と言って。どれだけがんばったところで、社員の時間や能力でビジネスモデルの失敗を穴埋めするなんて、無理に決まってますよね。
ビジネスモデルが合っているかどうかは経営戦略の話なので、そこは経営者が当てていくんですけど、それももちろん能力の限界はあるので。「これで当てへんかったら困んねんけどね」と言って、ちゃんとみんなの話も聞く。
サチってきて(成長が鈍化して)給料が上がりにくくなってきたら「こうやって改善していきましょう。こういうのやっていきましょう」と。現場からの声があるから、経営者も次のビジネスモデルへアップデートしたり、意思決定がしやすくなる。
山田:その経営戦略が当たると、また財布にお金が回ってくる。そうしたら、あまり業績に囚われない分配の仕方ができるようになる。僕らも最初は、ない袖は振れないというか。結局は、業績を足し上げたらみんなの給料になるという考え方が、基本的なロジックとしては正しい。でも、さっきの話だと人はそういうふうにはならないということなんですよね。
いったん業績を経営者の責任として置いて市場価格を足したら、マイナスになっちゃうかもしれない。その利益が減益になるかもしれないリスクは、いったん経営者が覚悟を決めちゃってやり始めてみる。
ヒーヒーハーハー言いながら「お金もありません」と言っている会社が、いきなりそれをやるのは難しいかもしれないです。でも、資金に余裕があるというか、減収減益したところで利益が出ているんだったら、お金は貯まるじゃないですか。
赤字になったら別ですけど、赤字にならない限りは別に(売上の)角度がどうなるかだけの話なので、チャレンジできる会社はぜんぜんあるんじゃないかなと思いますけどね。
坪谷:私も、ビジネスモデルや戦略といった企業全体の話を、従業員の責任に置き換えるのは誤りだと思います。歴史的に目標管理を賃下げの言い訳にして、それが根付いてしまったがゆえに、目標管理、MBOの本質をゆがめてしまっていると思います。その状況を変えたいのです。
山田:なるほどね。
坪谷:企業全体の目標の話として重要なのは「ハリネズミの概念※」ですよね。
(※注:『ビジョナリーカンパニー2』で紹介されている、「良い企業」から「偉大な企業」への変革に必須の概念。「偉大な企業」はシンプルに1つのことだけを行い、「良い企業」はさまざまな事業や戦略にエネルギーを分散させてしまって、どの事業もそこそこに留まるというもの。1つのことに絞り込むための3つの基準は「情熱を持って取り組める」「世界一になれる」「経済的原動力になる」)。
坪谷:「会社としてどこを目指すのか」という目標に向かって、みんなが高い熱意を持って走っていることが大事なことかなと思うんですが、サイボウズさんでは、そのあたりはどう進めているのでしょうか?
山田:新しい事業は社長の青野が決めていますけど、大きな施策的な感じだったり、今進んでいるプロダクトなら開発責任者が権限を持っていたりと、いろいろあります。
ただ、重要なことについては「助言プロセス」というものがあるんです。助言しない選択肢もあるんですけど、一応その人たちに「助言してくださいね」と言って、助言したものを誰々が決めるという感じでやっています。
これは決め方の話なんですが、僕らの言葉で言うと「やりたい」とか、リクルートで言う「やりたい(Will)」「できる(Can)」「やるべき(Must)」という3つのワードがありますよね。
「やるべき」というところは、「あなたにこれをやってほしい」とチームが求めているものです。チームや世の中やお客さまが求めているものは、結局「ありがとう」とあわせてお金が入ります。ここは経済的原動力となるので、ニーズに応えるのはやるべきだと思うんですね。
「やるべき」に対して、「自分が本当にやりたいのか」というところがあります。あとは、「できる」と言った時に「世界一」まで言うか。自分ができることをやるのが差別化なので、ほかの人にはできないことで自分ができること。チームの中で相対的に自分ができそうなこと。この3つくらいを個人のレベルでは意識してやっています。
山田:サイボウズの離職率が28パーセントだった頃に、人事制度や働き方をこれからどう変えていこうかという中で、まさに『ビジョナリー・カンパニー』を読みました。その時に、この3つ(「世界一になれること」「経済的原動力になること」「情熱を持って取り組めること」)はあるよねと。
当時は「グループウェア世界一」で、今は「チームワークあふれる社会を創る」ということが情熱をもって取り組めることです。自分たちが世界一になれそうなポイントは「新しいかたちのチームワーク」。
多様な個性を重視して、公明正大であるという理想に共感した人たちが自律している。そういうチームワークを広げていくためのグループウェアを作る。そうしたコンセプトは多くはないので、自分たちが世界一になれるかもとか。そこにはニーズもあるので、経済的な原動力にもなるという話をしました。
すごく大きな話なので、1回ハマったら、この輪を使いながら毎回話すことはそんなにないんですけど。よっぽどライバルが出てきて「これは世界一になれないね」となったら、ピボットするかもしれないですけど、今のところはそうでもないというか。
坪谷:組織の目標はハリネズミの概念で行って、一人ひとりに関してはWill-Can-Must的な「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」で考えていらっしゃる感じですかね。一人ひとりの目標はどう立てているんでしょうか?
山田:「自由にやって」という感じです。
坪谷:(笑)。
山田:やっぱり数字があったほうが燃える人もいるじゃないですか。業績に連動させるほうがワクワクする人もいれば、業績目標というよりはマイペースでやるほうが合っている人もいます。どちらかというと、(期末が)終わったあとに「こんなことをやる」と決めるじゃないですか。
「何をやるか」は決めると思うんですけど、「それをどこまでやるか」が目標管理じゃないですか。そのアウトプットは、ベストエフォート(努力目標)でやるのも、ぜんぜんありなんじゃないかなと思うんです。
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